光顕では「正常」なのに尿は泡だらけ―微小変化型ネフローゼ症候群の5点セット
第113回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
微小変化型ネフローゼ症候群について正しいのはどれか。
- a.副腎皮質ステロイドが著効する。
- b.再発することはまれである。
- c.尿蛋白の選択性は低い。
- d.低補体血症を認める。
- e.緩徐に発症する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
微小変化型ネフローゼ症候群は、光学顕微鏡で糸球体がほぼ正常で、電子顕微鏡でポドサイト足突起の広範な消失のみを認める疾患で、小児ネフローゼ症候群の約8割を占めます。免疫複合体の沈着がなくポドサイトの機能異常が主体であるため、急激な発症、高選択性蛋白尿、補体正常、ステロイド著効という特徴を示す一方、減量中や感染を契機に再発しやすい点が重要です。低選択性ならFSGSや膜性腎症、低補体血症ならMPGNやループス腎炎、緩徐な発症なら膜性腎症、ステロイド抵抗性ならFSGSを考えるのが鑑別の基本です。急性期には血管内脱水による急性腎障害、血栓症、感染症に注意し、頻回再発例では免疫抑制薬やリツキシマブを併用します。病理像と病態を結びつけて理解することが、ネフローゼ症候群全体の鑑別と診療の土台になります。
解答・解説
正解はaです
微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change disease:MCD)の臨床的特徴を問う問題である。 MCDは、光学顕微鏡では糸球体にほとんど異常がみられず、電子顕微鏡で糸球体上皮細胞(ポドサイト)の足突起が広範に消失(癒合)していることだけが目立つ疾患である。免疫蛍光染色でも免疫グロブリンや補体の沈着を認めないのが原則であり、免疫複合体による炎症ではなく、T細胞由来の液性因子やポドサイトを標的とする自己抗体(抗ネフリン抗体など)がポドサイトの機能を障害して蛋白尿を生じると考えられている。 この病態から、臨床像の特徴は次のように整理できる。 ・ポドサイトの機能異常が主体で構造破壊が軽いため、副腎皮質ステロイドへの反応性が高い。 ・糸球体の障害が軽く、主にアルブミンのような小さな蛋白が漏れるため、尿蛋白の選択性が高い。 ・補体が消費される免疫複合体型の腎炎ではないため、血清補体価は正常である。 ・大量の蛋白尿が突然出現するため、数日のうちに浮腫が出るような急激な発症をとる。 ・ステロイドによく反応する一方で、減量中や中止後に再発しやすい。 これらの特徴を押さえておけば、各選択肢の正誤は判断できる。
選択肢考察
- ○a. 副腎皮質ステロイドが著効する。
MCDは副腎皮質ステロイドへの感受性が非常に高い。小児ではおよそ9割、成人でも大部分の症例が初回のステロイド治療で完全寛解(尿蛋白がほぼ消失した状態)に至る。治療開始後、数週間以内に尿蛋白が急速に減り、それにつれて浮腫も改善する。ステロイドの効果が乏しい場合には、診断を見直し、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)など他の病型を疑う必要がある。
- ×b. 再発することはまれである。
MCDはステロイドがよく効く一方で、再発を起こしやすいことが大きな特徴である。ステロイドを漸減している途中や、寛解に入って中止した後に、感冒などの感染をきっかけとして再び蛋白尿が出ることが多く、患者の半数以上が再発を経験するとされる。再発を何度も繰り返す頻回再発型や、減量すると再燃するステロイド依存性になる例では、ステロイドの副作用を避けるため、シクロスポリンなどの免疫抑制薬やリツキシマブ(抗CD20抗体)を併用する。
- ×c. 尿蛋白の選択性は低い。
MCDの尿蛋白は選択性が高い。尿蛋白の選択性とは、糸球体が分子の大きさによって蛋白の漏れ方をどれだけ区別しているかを示す指標であり、IgG(分子量約15万)とトランスフェリン(約8万)のクリアランス比で評価する(selectivity index:SI)。SIが0.10以下を高選択性、0.20を超えるものを低選択性とし、その中間を中等度とする。MCDでは主にアルブミンなど比較的小さな蛋白が漏れ、IgGのような大きな蛋白はあまり漏れないため高選択性となる。これは、糸球体基底膜の構造破綻よりも、ポドサイトの障害や陰性荷電(チャージバリア)の消失が主体であるためと説明されている。選択性が低い(大きな蛋白まで漏れる)場合は、膜性腎症やFSGSなど糸球体の障害が強い病型を考える。
- ×d. 低補体血症を認める。
MCDは免疫複合体の沈着を伴わず補体が消費されないため、血清補体価(CH50、C3、C4)は正常である。ネフローゼ症候群で低補体血症を伴う場合には、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、C3腎症、ループス腎炎、溶連菌感染後急性糸球体腎炎など、MCD以外の疾患を考える。なお、MCDではアレルギー素因を背景に血清IgEが高値となることがある。
- ×e. 緩徐に発症する。
MCDは急激に発症するのが典型である。大量の蛋白尿が突然始まり、数日のうちにまぶたや下腿の浮腫、体重増加、尿量減少が出現して気づかれる。これに対し、膜性腎症は高齢者に多く、浮腫が週〜月単位で徐々に進む緩徐な発症をとることが多い。発症様式は病型を推定するうえで重要な手がかりとなる。
ネフローゼ症候群の診断基準(成人)
・尿蛋白3.5g/日以上が持続する(随時尿の尿蛋白/クレアチニン比3.5g/gCr以上でも代用可)。 ・低アルブミン血症:血清アルブミン3.0g/dL以下(血清総蛋白6.0g/dL以下も参考になる)。 上記2項目が必須条件であり、浮腫と脂質異常症(高LDLコレステロール血症)は必須ではない。
微小変化型ネフローゼ症候群の概要
・小児のネフローゼ症候群で最も多い病型であり、小児例の約8割を占める。成人でも若年者を中心に一次性ネフローゼ症候群の約4割を占める。 ・病理:光学顕微鏡でほぼ正常、免疫蛍光で沈着なし、電子顕微鏡で足突起の広範な消失。尿細管上皮に脂肪が沈着することから、かつてはリポイドネフローゼ(lipoid nephrosis)と呼ばれていた。 ・臨床像:急激な発症、高度の浮腫、高選択性蛋白尿、血尿は通常ない〜軽度、補体正常、血清IgE高値のことがある。 ・治療と経過:ステロイドが著効するが再発が多い。腎機能の予後は一般に良好で、末期腎不全に進むことはまれである。 ・合併症:高度の低アルブミン血症に伴う血管内脱水による急性腎障害、凝固能亢進による血栓症(腎静脈血栓症など)、免疫グロブリン喪失による感染症に注意する。 ・続発性の原因:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ホジキンリンパ腫などがMCDを引き起こすことがある。
主な一次性ネフローゼ症候群の比較
・微小変化型:若年者に多い、急激な発症、高選択性、ステロイド著効、再発が多い。 ・巣状分節性糸球体硬化症:ステロイド抵抗性のことが多い、低選択性、腎機能が低下しやすい。 ・膜性腎症:中高年に多い、緩徐な発症、悪性腫瘍の合併に注意、抗PLA2R抗体が陽性になりやすい。 ・膜性増殖性糸球体腎炎:低補体血症を伴う。
POINT
・微小変化型ネフローゼ症候群は「急激な発症」「高選択性蛋白尿」「補体正常」「ステロイド著効」「再発が多い」が5点セット。 ・小児ネフローゼ症候群の約8割を占める。 ・光学顕微鏡で異常なし、電子顕微鏡で足突起の消失。 ・低補体血症があればMPGN、ループス腎炎など他疾患を考える。 ・ステロイド抵抗性ならFSGSを疑う。
