輸血1時間後のショック―「時計」で見抜く輸血副反応の鑑別
第113回医師国家試験 E問題 第21問
国試問題にチャレンジ
輸血開始1時間後に,発熱,悪寒および呼吸困難が出現し,血圧が低下した。 可能性が低いのはどれか。
- a.輸血関連急性肺障害
- b.異型輸血による溶血
- c.エンドトキシンショック
- d.アナフィラキシーショック
- e.輸血後移植片対宿主病〈GVHD〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
輸血副反応は症状が重なり合うため、「輸血開始からの時間」で即時型(24時間以内)と遅発型に分けて考えるのが鑑別の基本です。即時型にはABO不適合などによる急性溶血、アナフィラキシー、TRALI・TACO(6時間以内)、細菌汚染製剤によるエンドトキシンショック(4時間以内が目安)があり、いずれも輸血開始1時間後の発熱・呼吸困難・血圧低下を説明し得ます。一方、輸血後GVHDは供血者T細胞が受血者組織を攻撃する遅発型反応で、輸血後1〜2週間に発熱、紅斑、肝障害、下痢、汎血球減少をきたし、放射線照射製剤で予防します。重篤な副反応を疑ったら直ちに輸血を中止し、静脈路は確保したまま、血液バッグと輸血セットを保管して原因究明に備えます。時間軸で副反応を整理しておくことは、安全な輸血の実践に直結する知識です。
解答・解説
正解はeです
輸血中に起こる副反応(副作用)を、発症までの時間から絞り込む問題である。 本問の状況は「輸血開始から1時間後に、発熱・悪寒・呼吸困難が出現し、血圧が低下した」というものである。発熱、悪寒、呼吸困難、血圧低下はいずれも多くの重症輸血副反応に共通してみられる非特異的な症状であり、症状の組み合わせだけで原因を一つに決めることはできない。そこで手がかりになるのが「輸血開始から発症までの時間」である。 輸血副反応は、発症時期によって大きく二つに分けられる。 ・即時型(急性):輸血中〜輸血後24時間以内に起こる。アレルギー反応・アナフィラキシー、急性溶血性副反応(ABO不適合輸血など)、輸血関連急性肺障害(TRALI)、輸血関連循環過負荷(TACO)、細菌汚染血による敗血症・エンドトキシンショック、発熱性非溶血性副反応など。 ・遅発型:輸血後24時間以上たってから起こる。輸血後移植片対宿主病(GVHD)、遅発性溶血性副反応、輸血後紫斑病、輸血によるウイルス感染症など。 「1時間後」という時間経過に合うのは即時型であり、選択肢のうち遅発型に属するのは輸血後GVHDだけである。したがって可能性が最も低いのは輸血後GVHDとなる。 なお、実際の臨床でこのような症状が出た場合には、原因が何であれ、ただちに輸血を中止し、静脈路は確保したまま輸液セットを交換して生理食塩液などを流し、バイタルサインの確認と全身管理を行う。使用中の血液バッグと輸血セットは廃棄せず、原因究明のために保管する。
選択肢考察
- ×a. 輸血関連急性肺障害
輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury:TRALI)は、輸血中または輸血後6時間以内に起こる、心臓が原因ではない(非心原性)肺水腫である。多くは血液製剤中の抗白血球抗体(抗HLA抗体や抗HNA抗体)が受血者の好中球を活性化し、肺の毛細血管を傷害して起こる。急激な呼吸困難と低酸素血症に加え、発熱や血圧低下を伴うことがあり、胸部X線写真では両側性の浸潤影を示す。輸血開始1時間後の発症は時間経過として十分にあり得るため、可能性は低くない。
- ×b. 異型輸血による溶血
ABO血液型不適合輸血などの異型輸血では、受血者がもつ抗A・抗B抗体(IgM)が輸血された赤血球に結合して補体を活性化し、血管内で赤血球が壊れる(急性溶血性副反応)。輸血開始直後〜24時間以内、多くは開始から数分〜数十分で発症し、発熱、悪寒、血管痛、胸痛・腰背部痛、呼吸困難、血圧低下、ヘモグロビン尿などがみられる。重症例では播種性血管内凝固(DIC)や急性腎障害を起こし、死亡することもある。本問の時間経過・症状と矛盾しない。
- ×c. エンドトキシンショック
細菌が混入した血液製剤を輸血すると、細菌そのものやグラム陰性桿菌の産生するエンドトキシンにより、輸血中から輸血後数時間以内(目安として4時間以内)に高熱、悪寒戦慄、血圧低下などのショック症状が起こる。特に室温(20〜24℃)で振とうしながら保存する血小板製剤は細菌が増殖しやすく、原因となりやすい。採血時の初流血除去などの対策がとられているが、現在でも死亡例を含む報告があり、使用前に製剤の外観(色調の変化、凝集塊など)を確認することが大切である。本問の経過と矛盾しない。
- ×d. アナフィラキシーショック
アナフィラキシーは、血漿蛋白などに対する即時型(I型)アレルギー反応、あるいはそれに類似した反応である。多くは輸血開始後数分〜30分以内に起こり、遅くともおおむね数時間以内に発症する。蕁麻疹などの皮膚症状に加え、喉頭浮腫や気管支攣縮による呼吸困難、血圧低下を生じる。IgA欠損症の患者が抗IgA抗体をもつ場合などに重症化しやすい。輸血開始1時間後の発症もあり得るため、可能性は低くない。
- ○e. 輸血後移植片対宿主病〈GVHD〉
輸血後GVHDは、血液製剤に含まれる供血者のリンパ球(T細胞)が受血者の体内で排除されずに生き残って増え、受血者の組織(HLA抗原)を異物として攻撃する反応である。発症は輸血後およそ1〜2週間(1〜6週間程度の幅がある)であり、発熱、紅斑、肝機能障害、下痢に続いて汎血球減少(骨髄無形成)をきたし、致死率はきわめて高い。輸血開始1時間後に起こる反応ではないため、本問の状況で可能性が最も低い。予防として、赤血球製剤や血小板製剤には放射線照射(15〜50Gy)を行ってリンパ球の増殖能を失わせる。日本では放射線照射製剤が普及したことで、2000年以降、確定診断された症例は報告されていない。
主な輸血副反応と発症時期の目安
・アレルギー反応・アナフィラキシー:輸血中〜24時間以内(多くは開始後30分以内)。 ・急性溶血性副反応(ABO不適合など):輸血開始直後〜24時間以内。 ・TRALI(輸血関連急性肺障害):輸血中〜6時間以内。非心原性肺水腫。 ・TACO(輸血関連循環過負荷):輸血中〜6時間以内。輸血量・速度が過剰なために起こる心原性肺水腫であり、高血圧を伴うことが多い点がTRALIとの鑑別点となる。 ・細菌感染症(敗血症・エンドトキシンショック):輸血中〜4時間以内が目安。血小板製剤に多い。 ・発熱性非溶血性副反応:輸血中〜数時間以内。保存前白血球除去の導入で減少した。 ・遅発性溶血性副反応:輸血後1日〜4週間程度。過去の輸血や妊娠で生じた不規則抗体(Kidd、Rhなど)による血管外溶血。 ・輸血後紫斑病:輸血後5〜12日程度。血小板特異抗原に対する抗体による血小板減少。 ・輸血後GVHD:輸血後1〜6週間(典型的には1〜2週間)。 ・輸血後感染症(肝炎ウイルス、HIVなど):数週〜数か月後。
輸血後GVHDのリスクと予防
・供血者と受血者のHLAが一方向に適合している場合(例:受血者がヘテロ、供血者が同じHLAのホモ接合体)、受血者側が供血者リンパ球を異物と認識できず排除できないため発症しやすい。近親者からの輸血はこの状況を起こしやすく危険である。免疫不全患者や新鮮な血液の輸血もリスクとなる。 ・予防は放射線照射であり、白血球除去だけでは不十分とされる。新鮮凍結血漿は凍結・融解でリンパ球が失活するため照射不要とされる。
血液製剤の安全対策
献血前の問診、海外渡航歴による献血制限、初流血除去(皮膚常在菌の混入防止)、保存前白血球除去、各種血清学的検査、個別検体での核酸増幅検査(NAT)、新鮮凍結血漿の貯留保管、放射線照射、遡及調査などが行われている。
POINT
・輸血副反応は、症状よりも「発症までの時間」で鑑別を絞る。 ・即時型(24時間以内):アナフィラキシー、急性溶血(ABO不適合)、TRALI・TACO(6時間以内)、細菌汚染(4時間以内)。 ・遅発型:輸血後GVHD(1〜2週)、遅発性溶血、輸血後紫斑病、感染症。 ・輸血後GVHDは致死率がきわめて高く、放射線照射製剤で予防する。 ・重篤な副反応を疑ったら直ちに輸血を中止し、静脈路は確保したまま、バッグとセットは保管する。
