片耳の詰まりと首のしこり―その中耳炎、上咽頭からのサインかもしれない
第113回医師国家試験 D問題 第30問
国試問題にチャレンジ
66歳の女性。左耳閉感を主訴に来院した。2週間前から左耳閉感を自覚するようになったため受診した。耳痛やめまいはない。鼻腔内および口腔内に異常を認めない。左上頸部に硬い腫瘤を複数触知する。左耳の鼓膜写真を別に示す。 病変の有無を確認すべき部位はどれか。

- a.耳下腺
- b.上咽頭
- c.中咽頭
- d.下咽頭
- e.喉頭
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人・高齢者の片側性滲出性中耳炎で、明らかな上気道炎や鼻副鼻腔疾患がない場合は、上咽頭側壁の耳管咽頭口を腫瘍が塞いでいる可能性、すなわち上咽頭癌を必ず除外します。上咽頭癌はRosenmüller窩に好発し、原発巣の症状に乏しいまま早期から上頸部リンパ節に転移するため、頸部腫瘤が初発症状となることが多いです。上咽頭は前鼻鏡や口腔の視診では観察できないので、鼻咽腔ファイバースコープで確認し、病変があれば生検で診断します。EBウイルスとの関連、未分化型が多く放射線感受性が高いこと、治療が(化学)放射線療法であることも合わせて押さえましょう。耳の症状と頸部の症状を解剖でつなげて考える力は、頭頸部腫瘍の見逃しを防ぐ臨床判断の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・66歳の女性、2週間前からの片側(左)の耳閉感。耳痛やめまいはない。 ・鼻腔内・口腔内には異常を認めない(前鼻鏡検査や口腔の視診で見える範囲には病変がない)。 ・左上頸部に硬い腫瘤を複数触知する:硬く多発する頸部腫瘤は、悪性腫瘍のリンパ節転移を強く疑わせる所見である。 ・左鼓膜写真:鼓膜の奥の鼓室内に液体の貯留と気泡がみられ、滲出性中耳炎の所見である。急性中耳炎のような鼓膜の発赤・膨隆や耳痛はない。
診断へのプロセス
耳閉感の原因には、耳垢栓塞、滲出性中耳炎、耳管狭窄症・耳管開放症、低音障害型感音難聴、Ménière病などがあるが、本例は鼓膜所見から滲出性中耳炎と分かる。 滲出性中耳炎は、鼓室の換気を担う耳管の機能が障害され、中耳腔が陰圧となって滲出液がたまる病態である。小児ではアデノイド増殖症や上気道炎に伴うことが多く、高齢者では上気道炎・副鼻腔炎のほか加齢による耳管機能低下でも起こる。しかし成人・高齢者が片側性の滲出性中耳炎を呈し、明らかな上気道炎や鼻副鼻腔疾患がない場合には、耳管の咽頭側の出口(耳管咽頭口)を腫瘍が塞いでいる可能性、すなわち上咽頭癌を必ず除外しなければならない。 耳管咽頭口は上咽頭の側壁に開口しており、そのすぐ後方のRosenmüller窩(咽頭陥凹)は上咽頭癌の好発部位である。上咽頭癌は早期から上頸部(上内深頸部や副神経領域)のリンパ節へ転移しやすく、原発巣の症状に乏しいまま頸部腫瘤で見つかることも多い。本例の「片側の滲出性中耳炎+同側上頸部の多発する硬いリンパ節腫大」は上咽頭癌に典型的な組み合わせである。 上咽頭は前鼻鏡や口腔からの視診では観察できないため、「鼻腔・口腔に異常なし」でも否定できない。内視鏡(鼻咽腔ファイバースコープ)で観察し、病変があれば生検で確定する。
設問の考え方
滲出性中耳炎と頸部リンパ節腫大を一元的に説明できる原発部位はどこかを問う問題である。耳管が開口する部位である上咽頭が答えとなる。
選択肢考察
- ×a. 耳下腺
確認すべき部位ではない。耳下腺は耳の前下方の皮下にある唾液腺で、耳管の開口部とは関係がない。耳下腺腫瘍は耳前部〜耳下部の腫瘤として触知され、悪性であれば顔面神経麻痺を伴うことがあるが、通常は滲出性中耳炎の原因とはならない。本例の病態を一元的に説明できない。
- ○b. 上咽頭
確認すべき部位である。上咽頭の側壁には耳管咽頭口が開口しており、その近傍に生じた腫瘍は耳管を閉塞・圧迫して片側の滲出性中耳炎を起こす。上咽頭癌は早期から上頸部リンパ節へ転移しやすく、本例の同側上頸部の多発する硬い腫瘤も説明できる。上咽頭は通常の視診では見えないため、鼻咽腔ファイバースコープで観察し、必要に応じて生検、造影MRIなどの画像検査を行う。
- ×c. 中咽頭
確認すべき部位ではない。中咽頭(口蓋扁桃、舌根、軟口蓋、咽頭後壁)の癌も上頸部リンパ節へ転移しやすく、頸部腫瘤だけでは区別できない。しかし中咽頭には耳管の開口部がなく、滲出性中耳炎は説明できない。中咽頭癌の症状は咽頭痛、嚥下時痛、咽頭異物感などであり、口腔からの視診で病変が見えることが多い。本例は口腔内に異常を認めない。
- ×d. 下咽頭
確認すべき部位ではない。下咽頭(梨状陥凹、輪状後部、咽頭後壁)は喉頭の後方に位置し、耳管とは離れているため滲出性中耳炎の原因とはならない。下咽頭癌は高齢男性、飲酒・喫煙者に多く、咽頭の違和感、嚥下時痛、嚥下障害などで発症し、進行すると嗄声も生じる。耳への放散痛はありうるが、耳管閉塞による耳閉感は起こさない。
- ×e. 喉頭
確認すべき部位ではない。喉頭は耳管と解剖学的に離れており、滲出性中耳炎の原因とならない。喉頭癌は喫煙との関係が強く、声門癌では早期から嗄声を生じる。本例には嗄声などの喉頭症状の記載もない。
咽頭の区分
・上咽頭:頭蓋底から軟口蓋の高さまで。前方は後鼻孔で鼻腔に通じ、側壁に耳管咽頭口とRosenmüller窩、後上壁にアデノイド(咽頭扁桃)がある。 ・中咽頭:軟口蓋から喉頭蓋谷(舌骨)の高さまで。口蓋扁桃、舌根、軟口蓋、咽頭後壁を含む。 ・下咽頭:喉頭蓋谷の高さから輪状軟骨下縁まで。梨状陥凹、輪状後部、咽頭後壁を含む。
上咽頭癌の特徴
・EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)との関連が強く、中国南部・台湾・東南アジアに多い。男性に多いが、本例のように女性にも生じる。 ・組織型は扁平上皮癌が多く、特に未分化型の非角化癌が多い。 ・症状は部位ごとに整理するとよい。耳症状(片側の滲出性中耳炎による耳閉感・難聴)、鼻症状(鼻閉、鼻出血、血性鼻汁)、頸部リンパ節腫大(初発症状として最も多い)、脳神経症状(頭蓋底浸潤による外転神経麻痺での複視、三叉神経障害による顔面痛・しびれなど)。 ・診断は鼻咽腔ファイバースコープによる観察と生検で確定し、MRI・CT・PET-CTで進展範囲や転移を評価する。血中のEBウイルス関連抗体やEBウイルスDNAが補助診断や経過観察に用いられる。 ・解剖学的に手術での切除が難しく、放射線感受性が高いため、治療の中心は放射線治療であり、進行例では化学療法を併用した化学放射線療法を行う。
臨床上の教訓
成人の片側性滲出性中耳炎では、鼓膜切開や換気チューブ留置で症状をとるだけで終わらせず、必ず上咽頭を内視鏡で観察する。
POINT
・成人・高齢者の片側性滲出性中耳炎 → 上咽頭癌を必ず除外する(耳管咽頭口の閉塞)。 ・上咽頭癌は早期から上頸部リンパ節転移をきたし、頸部腫瘤が初発症状となりやすい。 ・上咽頭は通常の視診では見えず、鼻咽腔ファイバースコープで観察し生検する。 ・上咽頭癌:EBウイルス関連、未分化型が多く放射線感受性が高い、治療は(化学)放射線療法。 ・下咽頭癌は咽頭違和感・嚥下障害、喉頭癌は嗄声で発症しやすい。
