造影CTの前に確認すべき一錠―メトホルミンと乳酸アシドーシスの落とし穴
第113回医師国家試験 D問題 第21問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。膵腫瘍の精査のため来院した。15年前から2型糖尿病で自宅近くの診療所で内服治療を受けている。3か月前から急激に血糖コントロールが悪化したため腹部超音波検査を受けたところ,膵腫瘍が認められ紹介受診となった。eGFR 48mL/分/1.73m2。 腹部造影CTを計画する際に検査前後数日間の休薬を検討すべき薬剤はどれか。
- a.DPP-4阻害薬
- b.SGLT2阻害薬
- c.ビグアナイド薬
- d.スルホニル尿素薬
- e.α-グルコシダーゼ阻害薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ヨード造影剤は、もともと腎機能が低下している患者で一過性の腎障害(造影剤腎症)を起こすことがあり、その際に問題となる経口血糖降下薬がビグアナイド薬(メトホルミン)です。メトホルミンは未変化体のまま腎排泄されるため、腎機能が急に低下すると蓄積し、糖新生抑制による乳酸処理の低下と相まって、まれながら致死的な乳酸アシドーシスを起こしえます。そのため造影検査の前または造影時に中止し、造影後48時間は再開せず、腎機能を確認してから再開します。SU薬・SGLT2阻害薬・DPP-4阻害薬・α-グルコシダーゼ阻害薬には造影剤特有の休薬は不要ですが、絶食時の低血糖や脱水への配慮は別に必要です。あわせて、安定していた糖尿病の急な悪化は膵癌を疑うサインであること、造影剤腎症予防の基本は補液であることも押さえておくと、検査を依頼する立場での安全管理に直結します。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・45歳男性。15年来の2型糖尿病で経口血糖降下薬を内服している。 ・3か月前から急に血糖コントロールが悪化し、その原因検索で膵腫瘍が見つかった。長く安定していた糖尿病が理由なく急に悪化した場合や、高齢で糖尿病を新たに発症した場合には膵癌を疑うのが原則であり、本例もその典型的な発見経緯である。腫瘍による膵実質の破壊でインスリン分泌が障害されたと考えられる。 ・eGFR(推算糸球体濾過量)48mL/分/1.73m2で、中等度の腎機能低下(CKD〈慢性腎臓病〉のG3a)がある。
設問の考え方
膵腫瘍の評価にはヨード造影剤を用いたダイナミックCTが欠かせない。ヨード造影剤は、もともと腎機能が低下している患者で一過性の腎機能悪化(造影剤腎症)を起こすことがある。そこで、腎機能が悪化したときに重い副作用が出る薬剤を服用していないかを確認しなければならない。 経口血糖降下薬の中でこれに当たるのがビグアナイド薬(代表薬はメトホルミン)である。メトホルミンは主に腎臓から未変化体で排泄されるため、造影剤によって腎機能が急に低下すると血中濃度が上がり、致死的となりうる乳酸アシドーシスを起こす危険がある。このため、本例のように腎機能が低下している患者では、造影検査の前後でビグアナイド薬を一時休薬することを検討する。
選択肢考察
- ×a. DPP-4阻害薬
DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)阻害薬は、インクレチン(GLP-1など、食後に腸から出てインスリン分泌を促すホルモン)の分解を抑え、血糖依存性にインスリン分泌を高める薬である。単独では低血糖を起こしにくい。腎排泄型の薬剤では腎機能に応じた用量調整が必要だが、ヨード造影剤との併用で重い有害事象が起こることは知られておらず、造影CTのために前後数日間休薬する必要はない。
- ×b. SGLT2阻害薬
SGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)阻害薬は、腎の近位尿細管でのブドウ糖再吸収を抑え、尿中にブドウ糖を排泄させて血糖を下げる。浸透圧利尿により脱水を起こしやすく、正常血糖でも起こりうるケトアシドーシスに注意が必要な薬である。造影検査の際には、脱水を避けるため水分補給や補液に留意する。ただし造影剤との相互作用で重篤な合併症を起こす薬剤としては位置づけられておらず、ビグアナイド薬のように造影検査の前後に休薬することは一般に求められていない(絶食を伴う手術前などでは別に休薬が推奨される)。
- ○c. ビグアナイド薬
正しい。ビグアナイド薬(メトホルミン)は主に肝臓での糖新生を抑えて血糖を下げる。代謝されずにそのまま腎臓から排泄されるため、腎機能が低下すると体内に蓄積する。糖新生の抑制は乳酸からのブドウ糖産生も抑えるため、蓄積すると乳酸が処理されずにたまり、乳酸アシドーシスを起こす。発症はまれだが、起こると致死率の高い重い副作用である。ヨード造影剤による急な腎機能低下はこの引き金となるため、腎機能が低下している患者(本例はeGFR 48)では、造影検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止し、造影後48時間は再開せず、腎機能が悪化していないことを確認してから再開する。
- ×d. スルホニル尿素薬
スルホニル尿素(SU)薬は膵β細胞のSU受容体に結合し、血糖値にかかわらずインスリン分泌を促す薬である。腎機能低下時には作用が遷延して重い低血糖を起こしやすいことに注意が必要だが、ヨード造影剤との併用で特有の重篤な合併症を起こすことは知られておらず、造影検査のための前後数日間の休薬は必要ない。なお、検査のために絶食とする当日は、低血糖を避けるためにその日の内服を見合わせることがある。
- ×e. α-グルコシダーゼ阻害薬
α-グルコシダーゼ阻害薬は小腸で二糖類を単糖に分解する酵素を阻害し、糖の吸収を遅らせて食後高血糖を抑える。副作用は腹部膨満や放屁増加などの消化器症状が中心で、腸管からほとんど吸収されないため腎機能への影響も小さい。ヨード造影剤との相互作用もなく、休薬の必要はない。
ヨード造影剤と腎機能
・ヨード造影剤投与後に起こる急性腎障害は、造影剤腎症(CIN)や造影後急性腎障害(PC-AKI)とよばれる。腎血管の収縮による腎髄質の虚血と、尿細管への直接毒性が機序と考えられている。多くは投与後2〜3日以内に血清クレアチニンが上昇し、1〜2週間で回復するが、一部は腎機能が戻らない。 ・最大の危険因子はもともとの腎機能低下である。日本の腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドラインでは、造影CTではeGFR 45mL/分/1.73m2未満を造影剤腎症のリスクとしており、予防として検査前後の生理食塩液などによる経静脈的補液が勧められる。そのほか、脱水、高齢、糖尿病、心不全、造影剤の多量投与、腎毒性のある薬剤(NSAIDsなど)の併用もリスクとなる。
メトホルミンと造影検査
・日本の「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」では、腎機能に応じて次のように扱う。 eGFR 30未満:メトホルミン自体が禁忌である。 eGFR 30〜45:投与の適否を慎重に判断し、投与する場合は減量を考慮する。 ヨード造影剤検査時:検査前あるいは造影時に中止し、造影後48時間は再開しない。再開時には腎機能を評価する。 ・乳酸アシドーシスの危険因子には、腎機能障害のほか、肝機能障害、脱水・過度のアルコール摂取、心不全・呼吸不全などの低酸素状態、高齢、手術前後・感染症などがある。
膵癌と糖尿病
・糖尿病は膵癌の危険因子であると同時に、膵癌によって糖尿病が新たに発症したり悪化したりすることもある。糖尿病の新規発症や急な増悪をみたら、膵癌を疑って腹部超音波、造影CTなどで評価する。
POINT
・ヨード造影剤投与の際に休薬を検討すべき経口血糖降下薬はビグアナイド薬(メトホルミン)である。 ・機序:造影剤による腎機能低下 → メトホルミン蓄積 → 乳酸アシドーシス。 ・検査前または造影時に中止し、造影後48時間は再開せず、腎機能を確認してから再開する。 ・造影剤腎症の最大の危険因子は既存の腎機能低下であり、予防の基本は補液である。 ・長く安定していた糖尿病が急に悪化したら膵癌を疑う。
