StudyMed医師国家試験

労作中に倒れた68歳―「ダイヤモンド型」の雑音が告げる大動脈弁狭窄症

第113回医師国家試験 B問題 第49問(連問)

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第49問

連問の共通文

次の文を読み,48と49の問いに答えよ。 68歳の男性。一過性の意識消失を主訴に来院した。 現病歴:買い物中に突然目の前が真っ暗になり,意識を失って転倒した。居合わせた家族によると30秒後に速やかに意識を回復したとのことであった。そのまま家族に連れられて受診した。 既往歴:10年前から高血圧症で自宅近くの診療所に通院中。 生活歴:喫煙は10本/日を68歳まで40年間。飲酒は機会飲酒。 家族歴:父親は70歳時に大腸癌で死亡。

現症:意識は清明。身長168cm,体重64kg。体温36.1℃。脈拍88/分,整。血圧128/88mmHg。呼吸数16/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心臓の聴診で胸骨右縁第2肋間を最強点とするⅣ/Ⅵの駆出性雑音を認める。心音・心雑音の模式図を以下に示す。  この患者で予測されるのはどれか。

第113回 B問題 第49問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、失神をきっかけに見つかった心雑音から、その雑音の「形」を心音図で選ぶ問題だ。着眼点は、雑音の最強点の位置、強さ、そして駆出性という性質の3つ。これらが揃うと、どの弁で何が起きているかがかなり絞り込めるよ。まず、胸骨右縁第2肋間という場所から何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
大動脈弁領域ですね。OSCEの聴診で、右第2肋間が大動脈弁、左第2肋間が肺動脈弁と順番に当てていくように練習しました。
ドクタードクター
その通り。次に強さだ。Levine分類でⅣ度というのは、どんな雑音だったか覚えているかな。
医学生医学生
Ⅳ度からスリルを触れる、でしたっけ。ただ、高齢者だと貧血などで機能性雑音が出ることもあるので、それとの区別が気になります。
ドクタードクター
いい疑問だね。貧血や甲状腺機能亢進症で心拍出量が増えたときの機能性雑音は、ふつうⅡ度以下にとどまる。スリルを伴うほど強い雑音なら、器質的な弁の異常をまず考えるべきなんだ。しかも今回は結膜にも異常がなく、貧血を示す手がかりもない。
医学生医学生
大動脈弁領域の強い駆出性雑音で、しかも高齢の男性となると、加齢による石灰化の大動脈弁狭窄症でしょうか。
ドクタードクター
正解。そして労作中の失神は、大動脈弁狭窄症の三大症状の一つだ。狭い弁口のせいで、運動しても心拍出量を増やせず、脳への血流が足りなくなる。では本題の心音図に移ろう。Ⅰ音からⅡ音までが収縮期、Ⅱ音から次のⅠ音までが拡張期。駆出性雑音はどんな形になると思う?
医学生医学生
収縮期の雑音なので、Ⅰ音とⅡ音の間をずっと埋めるような形でしょうか。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだよ。Ⅰ音とⅡ音の間をほぼ一定の強さで埋め尽くすのは全収縮期雑音で、僧帽弁閉鎖不全症や心室中隔欠損症のように、収縮期を通して逆流や短絡が続く病態で聴かれるものだ。駆出性雑音は違う。左室が収縮を始めても、最初は等容性収縮期で大動脈弁はまだ開いていない。だから雑音はⅠ音から少し遅れて始まる。
医学生医学生
なるほど、弁が開いてから血液が流れ出すので、そこから雑音が始まるわけですね。
ドクタードクター
そう。そして駆出される血流は、最初は少なく、収縮中期に最大になり、また減っていく。それに合わせて雑音も漸増・漸減して、ひし形、いわゆるダイヤモンド型になる。最後は大動脈弁が閉じるⅡ音の手前で終わる。この3点を満たす図が正解だ。
医学生医学生
Ⅰ音から離れて始まり、中央でふくらみ、Ⅱ音の前で終わる形ですね。ほかの図はどう区別すればいいですか。
ドクタードクター
順に整理しよう。Ⅱ音の直後から始まってだんだん弱くなる拡張早期の漸減性雑音は、大動脈弁閉鎖不全症の灌水様雑音。Ⅱ音をまたいで収縮期から拡張期まで途切れずに続く連続性雑音は、動脈管開存症が代表だ。そしてⅡ音の後に開放音があり、Ⅰ音の直前で強まる前収縮期雑音を伴うのは僧帽弁狭窄症だよ。
医学生医学生
僧帽弁狭窄症の前収縮期の増強は、心房収縮で血流が増えるからでしたね。循環器内科の実習で、心房細動になるとそれが消えると教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。結局、雑音は「いつ始まり、どう変化し、いつ終わるか」を血行動態で説明できれば、丸暗記しなくても図を選べるんだ。
医学生医学生
大動脈弁狭窄症なら、雑音以外にどんな身体所見を確認すればいいでしょうか。
ドクタードクター
雑音は頸部へ放散するのが特徴で、頸動脈では立ち上がりが遅く弱い遅脈・小脈を触れる。Ⅱ音の大動脈成分が弱くなり、重症では奇異性分裂やⅣ音も聴かれる。さらに重症化すると駆出時間が延びて、雑音のピークが収縮後期へずれていく。雑音が大きいほど重症、とは限らない点も覚えておこう。
医学生医学生
確定診断と重症度評価は心エコーですか。
ドクタードクター
そう。弁の石灰化や開放制限を見て、最大血流速度、平均圧較差、弁口面積で重症度を判定する。臨床で大事なのは、狭心痛・失神・心不全といった症状が出たら予後が急に悪くなること。今回のように失神で受診した有症候性の重症例なら、外科的大動脈弁置換術や経カテーテル的大動脈弁留置術を検討する。それから高度狭窄の人に血管拡張薬を使いすぎると、血圧が下がって失神しやすいので注意が必要だよ。
医学生医学生
失神の精査で聴診を省かないことが、そのまま診断につながるんですね。
ドクタードクター
その通り。失神の原因として心血管性のものは見逃すと命に関わる。聴診器一本で大動脈弁狭窄症を拾い上げられるかどうかが、患者さんの予後を左右するんだ。

まとめ

胸骨右縁第2肋間を最強点とするLevine Ⅳ/Ⅵの収縮期駆出性雑音は、高齢者では加齢に伴う石灰化による大動脈弁狭窄症を強く示唆し、労作時の失神はその三大症状(狭心痛・失神・心不全)の一つです。駆出性雑音は等容性収縮期の後に弁が開いてから始まるためⅠ音から離れて始まり、駆出血流の増減に合わせて漸増・漸減するダイヤモンド型を描いて、Ⅱ音の前で終わります。これに対し、全収縮期雑音は僧帽弁閉鎖不全症や心室中隔欠損症、拡張早期の漸減性雑音は大動脈弁閉鎖不全症、連続性雑音は動脈管開存症、開放音と前収縮期雑音は僧帽弁狭窄症を示します。大動脈弁狭窄症は頸部への放散や遅脈・小脈も手がかりとなり、心エコーで重症度を評価し、有症候性の重症例では弁置換術やTAVIを検討します。雑音の形を血行動態から説明できるようになることが、聴診所見を確実に診断へ結びつける力になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・68歳男性。立位・活動中の突然の意識消失で、約30秒で自然かつ完全に回復しており、失神と考えられる。 ・来院時は意識清明。脈拍88/分・整、血圧128/88mmHg、SpO2 98%とバイタルサインに大きな異常はない。眼瞼結膜に異常がなく、明らかな貧血は示唆されない。 ・心臓聴診で、胸骨右縁第2肋間(大動脈弁領域)を最強点とするLevine Ⅳ/Ⅵの駆出性雑音を聴取する。

診断へのプロセス

胸骨右縁第2肋間は大動脈弁の聴診部位である。Levine分類Ⅳ度はスリル(胸壁上で触れる振動)を伴う強い雑音であり、貧血や甲状腺機能亢進症などで心拍出量が増えたときに生じる機能性(無害性)雑音はふつうⅡ度以下にとどまるため、器質的な弁疾患が強く疑われる。駆出性雑音は、心室から大動脈・肺動脈へ血液が駆出される際に半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)部分で生じる収縮期雑音である。以上から、高齢者に多い動脈硬化性(加齢性・石灰化)の大動脈弁狭窄症が最も考えられ、労作中の失神はその典型的な症状の一つである。

設問の考え方

心音図の模式図では、Ⅰ音からⅡ音までが収縮期、Ⅱ音から次のⅠ音までが拡張期である。駆出性雑音の特徴は、 ①Ⅰ音から少し遅れて始まる(等容性収縮期の後、半月弁が開いてから駆出が始まるため) ②駆出血流の増減に合わせて漸増・漸減(クレッシェンド・デクレッシェンド)するダイヤモンド型を呈する ③Ⅱ音(半月弁の閉鎖)の手前で終わる の3点である。これを満たす模式図は②である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    Ⅱ音の直後から始まり次第に弱くなる、拡張早期の漸減性雑音(灌水様雑音)である。拡張期に大動脈から左室へ(あるいは肺動脈から右室へ)血液が逆流することで生じ、大動脈弁閉鎖不全症や肺動脈弁閉鎖不全症で聴取される。大動脈弁閉鎖不全症では胸骨左縁第3肋間(Erb領域)で最もよく聴こえることが多い。収縮期の雑音ではないため本例の所見とは合わない。

  2. ○b.  ②

    Ⅰ音から間隔をおいて始まり、収縮中期にピークをもつ漸増・漸減性(ダイヤモンド型)の雑音で、Ⅱ音の前で終わっている。これは収縮期駆出性雑音の典型像である。大動脈弁狭窄症では、狭窄した弁口を左室から駆出される血液が高速で通過して乱流を生じ、この雑音が胸骨右縁第2肋間を最強点として聴取され、頸部(頸動脈)へ放散する。本例の聴診所見に一致する。

  3. ×c.  ③

    Ⅰ音の直後からⅡ音まで、収縮期全体にわたってほぼ一定の強さで続く全収縮期雑音(汎収縮期雑音)である。収縮期を通して高圧系から低圧系へ血液が逆流・短絡する病態、すなわち僧帽弁閉鎖不全症(心尖部で聴取し腋窩へ放散)、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症(胸骨左縁第3〜4肋間)などで聴取される逆流性雑音である。Ⅰ音から離れて始まる駆出性雑音とは形が異なる。

  4. ×d.  ④

    収縮期に始まり、Ⅱ音付近でピークとなって、Ⅱ音を越えて拡張期まで途切れずに続く連続性雑音である。心周期を通して一方向の血流(大動脈など高圧側から肺動脈など低圧側への短絡)が持続する病態で生じ、動脈管開存症(胸骨左縁第2肋間・左鎖骨下)が代表である。ほかにバルサルバ洞動脈瘤破裂、冠動静脈瘻、動静脈瘻などでも聴取される。本例の駆出性雑音とは異なる。

  5. ×e.  ⑤

    Ⅰ音の直前で漸増する前収縮期雑音と、Ⅱ音の直後の僧帽弁開放音(opening snap)が描かれている。僧帽弁狭窄症では、拡張期に狭い僧帽弁口を血液が通過して心尖部で低調な拡張期ランブルが生じ、洞調律であれば心房収縮で血流が増える拡張末期(前収縮期)に雑音が増強する。心房細動を合併すると心房収縮が失われるため、前収縮期の増強は消失する。本例の所見とは合わない。

心雑音の分類と代表疾患

・収縮期駆出性雑音(ダイヤモンド型):大動脈弁狭窄症(胸骨右縁第2肋間、頸部へ放散)、肺動脈弁狭窄症(胸骨左縁第2肋間)、肥大型閉塞性心筋症(胸骨左縁下部〜心尖部。立位やValsalva法で増強、蹲踞で減弱)、心房中隔欠損症(肺動脈弁口の相対的狭窄による)、機能性雑音。 ・全収縮期雑音:僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症(吸気で増強:Rivero-Carvallo徴候)、心室中隔欠損症。 ・拡張早期雑音(漸減性):大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症(肺高血圧に伴うものはGraham Steell雑音)。 ・拡張中期ランブル・前収縮期雑音:僧帽弁狭窄症(開放音を伴う)。高度の大動脈弁閉鎖不全症で聴かれるAustin Flint雑音も拡張期ランブルである。 ・連続性雑音:動脈管開存症、バルサルバ洞動脈瘤破裂、冠動静脈瘻など。

Levine分類(心雑音の強さ)

Ⅰ度:注意深く聴いてようやく聴こえる。Ⅱ度:聴診器を当てるとすぐ聴こえる弱い雑音。Ⅲ度:中等度の雑音。Ⅳ度:スリルを伴う強い雑音。Ⅴ度:聴診器の縁を胸壁に当てただけで聴こえる。Ⅵ度:聴診器を胸壁から離しても聴こえる。

大動脈弁狭窄症の要点

・原因:高齢者では加齢に伴う動脈硬化性(石灰化)変性が最多。ほかに先天性二尖弁(比較的若年〜中年で顕在化)、リウマチ性。 ・身体所見:胸骨右縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(頸部へ放散)、スリル、Ⅱ音大動脈成分(ⅡA)の減弱、重症例ではⅡ音の奇異性分裂、Ⅳ音、遅脈・小脈(頸動脈の立ち上がりが遅く弱い)、脈圧の縮小。重症化すると左室の駆出時間が延長し、雑音のピークが収縮後期へずれる。 ・検査:心電図で左室肥大・ストレイン型ST-T変化。心エコーで弁の石灰化・開放制限を認め、重症度は大動脈弁通過最大血流速度、平均圧較差、弁口面積で評価する(重症の目安:最大血流速度4.0m/秒以上、平均圧較差40mmHg以上、弁口面積1.0cm²未満)。 ・症状と予後:三大症状は狭心痛・失神・心不全。症状出現後の予後は不良で、古典的には平均余命が狭心痛で約5年、失神で約3年、心不全で約2年とされる。 ・治療:有症候性の重症例は外科的大動脈弁置換術(SAVR)または経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)の適応。高度狭窄例では過度の後負荷軽減(血管拡張薬の過量投与など)で血圧低下・失神を来しやすく注意を要する。

POINT

・胸骨右縁第2肋間を最強点とする収縮期駆出性雑音は大動脈弁狭窄症を示唆する。 ・駆出性雑音はⅠ音から離れて始まり、漸増・漸減(ダイヤモンド型)してⅡ音の前で終わる。 ・全収縮期雑音は僧帽弁閉鎖不全症・心室中隔欠損症、拡張早期漸減性雑音は大動脈弁閉鎖不全症、連続性雑音は動脈管開存症、前収縮期雑音+開放音は僧帽弁狭窄症。 ・Levine Ⅳ/Ⅵ以上はスリルを伴い、器質的心疾患を強く疑う。 ・大動脈弁狭窄症の三大症状は狭心痛・失神・心不全で、症状出現後は予後不良のため弁置換(SAVR/TAVI)を検討する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。