押しても消えない赤紫の点―ガラス一枚で見抜くIgA血管炎の紫斑
第113回医師国家試験 B問題 第32問
国試問題にチャレンジ
11歳の男児。下腿の皮疹を主訴に母親に連れられて来院した。2日前から下腿に皮疹が出現し,昨日から腹痛および膝関節痛を訴えている。体重37kg。体温36.5℃。脈拍80/分,整。呼吸数20/分。両下腿に皮疹を認める。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。咽頭発赤なし。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦で臍周囲に軽度圧痛を認める。左下腿の写真を別に示す。 この患児で認められる皮膚所見はどれか。

- a.無疹部を加温すると皮疹が出現する。
- b.皮疹を摩擦すると容易にびらんを生じる。
- c.皮疹の上からガラス板で圧迫しても退色しない。
- d.皮疹を擦過すると擦過部に一致して膨疹が生じる。
- e.無疹部に紫外線を照射すると病変部と同じ皮疹が出現する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
小児で下肢の触知性紫斑に腹痛・関節痛を伴う場合は、IgA優位の免疫複合体が小血管に沈着するIgA血管炎を考えます。紫斑は血管外に漏れ出た赤血球による皮内出血であるため、硝子圧法でガラス板を押し当てても退色せず、血管内の充血である紅斑(圧迫で退色)と区別できます。摩擦でびらんを生じるNikolsky現象は天疱瘡・SSSS・TEN、擦過で膨疹を生じるDarier徴候は色素性蕁麻疹、加温による誘発は温熱蕁麻疹など、紫外線照射による誘発は光線過敏症の所見であり、誘発現象と疾患の対応は整理して覚えておく価値があります。IgA血管炎は血小板数・凝固能が正常で、腸重積や紫斑病性腎炎の合併に注意が必要なため、紫斑消退後も尿検査による経過観察が重要です。基本手技で皮疹の性質を見極めることが、全身疾患の診断と管理の出発点になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・11歳の男児。学童期の小児である。 ・2日前から下腿に皮疹が出現し、その翌日から腹痛と膝関節痛が加わった。 ・体温36.5℃で発熱はなく、脈拍・呼吸数も正常範囲である。 ・眼瞼結膜・眼球結膜に異常なし(貧血や結膜充血なし)、咽頭発赤なし、頸部リンパ節腫脹なし。 ・腹部は平坦で、臍周囲に軽い圧痛がある。 ・写真では、下腿に数mm大の赤紫色の小さな皮疹が多発・散在しており、一部はやや隆起して見える(触知性紫斑 palpable purpura)。
診断へのプロセス
小児で「下肢の紫斑+腹痛+関節痛」がそろえば、まずIgA血管炎(かつてのSchönlein-Henoch紫斑病、またはアレルギー性紫斑病)を考える。IgA血管炎は、IgAを主体とする免疫複合体が皮膚・消化管・関節・腎臓の細い血管(毛細血管や細静脈)の壁に沈着して起こる小血管炎である。古典的には、①下肢優位の触知性紫斑、②腹痛(消化管の粘膜下出血・浮腫による)、③関節痛・関節炎(膝・足関節に多い)、④腎炎(血尿・蛋白尿)の4つが主要症状とされ、本例は①〜③を満たす。 鑑別としては川崎病が挙がるが、5日以上続く発熱、眼球結膜充血、口唇・咽頭の発赤、頸部リンパ節腫脹がいずれもないため否定的である。また、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)でも紫斑は出るが、腹痛や関節痛は伴わず、紫斑は平坦で下肢に限局しない。発熱がなく全身状態も比較的保たれていることから、敗血症に伴う電撃性紫斑なども考えにくい。
設問の考え方
本問は診断名そのものではなく、「この患児の皮疹(紫斑)で確認される皮膚所見」を問うている。皮膚科の基本手技・誘発現象(硝子圧法、Nikolsky現象、Darier徴候、物理的誘発試験、光線誘発試験など)と、それぞれがどの皮疹・疾患で陽性になるかを対応づけて考える。紫斑の本質は「血管の外に漏れ出た赤血球」であるという点が鍵になる。
選択肢考察
- ×a. 無疹部を加温すると皮疹が出現する。
温めることで膨疹(蕁麻疹)が誘発される温熱蕁麻疹の所見である。体温上昇・発汗をきっかけに小さな膨疹が出るコリン性蕁麻疹も、加温や運動で誘発される蕁麻疹として知られる。これらは物理的刺激で誘発される蕁麻疹(刺激誘発型蕁麻疹)に分類され、紫斑を主徴とするIgA血管炎とは関係しない。血管炎による紫斑は温めても新たに生じることはない。
- ×b. 皮疹を摩擦すると容易にびらんを生じる。
Nikolsky現象(ニコルスキー現象)の記述である。一見正常な皮膚や水疱周囲を指でこすると表皮が剝がれ、びらんや水疱ができる現象で、表皮細胞同士の接着が障害されていることを示す。尋常性天疱瘡などの天疱瘡群、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、中毒性表皮壊死症(TEN)で陽性となる。IgA血管炎の病変の主座は真皮の小血管であり、表皮の接着は保たれているため、摩擦でびらんは生じない。
- ○c. 皮疹の上からガラス板で圧迫しても退色しない。
透明なガラス板(またはプラスチック板)で皮疹を押さえて色の変化をみる検査を硝子圧法(ガラス圧診)という。紅斑は真皮の血管が拡張・充血して赤く見えているだけで、赤血球は血管内にあるため、圧迫して血管内の血液を押し出すと色が消える(退色する)。これに対し紫斑は、血管壁の破綻により赤血球が血管外(真皮内)に漏れ出たもの、すなわち皮内出血であり、圧迫しても血液を押しのけられないため退色しない。IgA血管炎では血管炎により小血管から赤血球が漏出して紫斑が生じるので、硝子圧法で退色しないことが確認できる。これが紅斑と紫斑を見分ける最も基本的な方法である。
- ×d. 皮疹を擦過すると擦過部に一致して膨疹が生じる。
Darier徴候(ダリエ徴候)の記述である。皮疹をこすると、そこに集まっている肥満細胞(マスト細胞)からヒスタミンなどが放出され、こすった部分に一致して膨疹・発赤が生じる。皮膚に肥満細胞が増える色素性蕁麻疹(皮膚肥満細胞症、肥満細胞腫)に特徴的である。なお、皮疹のない正常皮膚をこすって線状に膨疹が出るものは皮膚描記症(機械性蕁麻疹)であり、区別して覚える。紫斑をこすっても膨疹は生じない。
- ×e. 無疹部に紫外線を照射すると病変部と同じ皮疹が出現する。
紫外線照射で皮疹が誘発されるのは光線過敏症の所見であり、多形日光疹、全身性エリテマトーデス(SLE)などの光線過敏を伴う疾患、薬剤性光線過敏症などで、診断のために光線照射試験(光線誘発試験)が行われる。また、外傷や日焼けなどの刺激を受けた健常皮膚に、もとの病変と同じ皮疹が生じる現象はKöbner現象(ケブネル現象、同形反応)とよばれ、乾癬や扁平苔癬、尋常性白斑などでみられる。IgA血管炎の紫斑は紫外線で誘発されるものではない。
IgA血管炎(Schönlein-Henoch紫斑病)の概要
・2012年のChapel Hill分類で、IgA優位の免疫複合体が小血管に沈着する小血管炎として「IgA血管炎」と命名された。旧称はSchönlein-Henoch紫斑病、アレルギー性紫斑病である。 ・小児に最も多い血管炎で、好発年齢は3〜10歳前後。上気道感染(溶連菌感染など)の後に発症することが多い。 ・皮膚:下肢伸側・殿部に左右対称に出る、軽く隆起した触知性紫斑。病理では白血球破砕性血管炎がみられ、蛍光抗体法で血管壁にIgA沈着を認める。 ・消化器:腹痛、嘔吐、下血。腸管壁の浮腫・出血により腸重積を合併することがある。紫斑より先に腹痛が出る例もあり、急性腹症と紛らわしい。 ・関節:膝・足関節の疼痛・腫脹。関節の破壊は残さない。 ・腎:紫斑病性腎炎(IgA腎症と同様の組織像)。長期予後を左右するため、紫斑消退後もしばらく尿検査で経過をみる。 ・検査:血小板数・凝固能は正常である(血小板減少による紫斑と区別する点)。第XIII因子活性が低下することがあり、腹痛が強い例で補充療法が行われることがある。 ・治療:多くは安静と対症療法で自然軽快する。強い腹痛や消化管出血には副腎皮質ステロイドを用いる。
皮膚科の主な誘発現象・検査の整理
・硝子圧法:紅斑は退色、紫斑は退色しない。 ・Nikolsky現象:天疱瘡、SSSS、TEN。 ・Darier徴候:色素性蕁麻疹(肥満細胞症)。 ・皮膚描記症:機械性蕁麻疹。 ・Köbner現象:乾癬、扁平苔癬、尋常性白斑など。 ・Auspitz現象:乾癬の鱗屑を剝がすと点状出血がみられる。 ・針反応:Behçet病。 ・光線照射試験:光線過敏症(多形日光疹、SLE、薬剤性など)。 ・物理的誘発試験:温熱蕁麻疹、寒冷蕁麻疹など。
POINT
・小児の「下肢の触知性紫斑+腹痛+関節痛(+腎炎)」はIgA血管炎を考える。 ・紫斑は赤血球が血管外に漏れた皮内出血であり、硝子圧法で退色しない。紅斑は血管内の充血なので退色する。 ・IgA血管炎では血小板数・凝固能は正常である。 ・誘発現象と疾患の対応(Nikolsky現象=天疱瘡・SSSS・TEN、Darier徴候=色素性蕁麻疹、Köbner現象=乾癬・扁平苔癬)は頻出である。
