写真を待つな、空気を抜け―緊張性気胸で「まず」やるべきこと
第113回医師国家試験 B問題 第21問
国試問題にチャレンジ
緊張性気胸に対してまず行うべき治療はどれか。
- a.鎮痛薬投与
- b.抗不安薬投与
- c.人工呼吸器装着
- d.緊急胸腔鏡下手術
- e.胸腔ドレーン挿入
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
緊張性気胸は、損傷部がチェックバルブとなって胸腔内圧が陽圧化し、縦隔偏位と静脈還流障害から閉塞性ショックに陥る致死的病態です。画像検査を待たず、呼吸困難・頻脈・血圧低下・頸静脈怒張・患側呼吸音減弱・気管偏位などの臨床所見で診断し、直ちに脱気して減圧することが原則で、選択肢の中では胸腔ドレーン挿入が該当します。現場ではドレーン準備までの間に緊急穿刺脱気を先行させることも多く、減圧前の陽圧換気は病態を悪化させうるため避けるべきです。鎮痛薬や抗不安薬は原因を解決せず呼吸抑制の危険もあり、胸腔鏡下手術はドレナージ後もエアリークが続く場合などに考慮します。閉塞性ショックは「原因の解除」が唯一の治療であるという考え方は、心タンポナーデなど他の救急病態にも共通する重要な原則です。
解答・解説
正解はeです
緊張性気胸とは、肺や胸壁の損傷部が一方向弁(チェックバルブ)として働き、吸気時に胸腔内へ入った空気が呼気時に抜けられなくなって、胸腔内圧が進行性に陽圧となった状態である。患側肺は完全に虚脱し、縦隔が健側へ偏位して健側肺も圧迫される。さらに胸腔内圧上昇により上・下大静脈からの静脈還流が妨げられ、心拍出量が急激に低下して閉塞性ショックに陥る。放置すれば短時間で心停止に至る致死的病態である。 臨床的には、急激な呼吸困難、頻呼吸、低酸素血症、頻脈、血圧低下、頸静脈怒張、患側の呼吸音減弱・消失、患側胸郭の膨隆と打診での鼓音、気管の健側偏位などを示す。救命のためには一刻を争うので、画像検査による確認を待たず臨床所見に基づいて診断し、直ちに胸腔内の空気を体外へ逃がして胸腔内圧を下げる(脱気・減圧する)ことが治療の原則である。 本問の選択肢のなかでこれを実現するのは胸腔ドレーン挿入(胸腔ドレナージ)である。なお実際の救急現場では、ドレーン挿入の準備が整うまでの間に、太い留置針を胸腔に刺して一時的に脱気する緊急穿刺脱気(針脱気)を先行させることも多いが、その後は胸腔ドレーンを留置して持続的に脱気する。
選択肢考察
- ×a. 鎮痛薬投与
胸痛を和らげる対症療法にすぎず、胸腔内の陽圧という病態そのものは改善しない。さらにオピオイドなどは呼吸抑制や血圧低下をきたしうるため、ショック状態の患者でまず行うべき治療ではない。
- ×b. 抗不安薬投与
呼吸困難に伴う不安・興奮は低酸素とショックの結果であり、抗不安薬で原因は解決しない。ベンゾジアゼピン系薬などは呼吸抑制を起こす危険もあり、緊張性気胸の初期治療として不適切である。
- ×c. 人工呼吸器装着
胸腔の減圧を行わないまま気管挿管して陽圧換気を行うと、損傷部から胸腔内へ押し込まれる空気が増え、胸腔内圧がさらに上昇して静脈還流が一層低下し、循環虚脱が急速に悪化する危険がある。呼吸管理が必要な場合でも、まず脱気・ドレナージを優先する(陽圧換気中の患者では、ドレーン留置が気胸増悪の予防にもなる)。
- ×d. 緊急胸腔鏡下手術
手術の準備・麻酔導入には時間を要し、さらに全身麻酔下の陽圧換気が病態を悪化させうるため、ショック状態の緊張性気胸に対して最初に行う治療ではない。胸腔ドレナージで減圧した後、空気漏れ(エアリーク)が持続する場合、再発例、両側例、血胸を伴う場合などに、胸腔鏡下手術(ブラ・ブレブ切除など)が検討される。
- ○e. 胸腔ドレーン挿入
胸腔内に貯留した空気を体外へ排出し、胸腔内圧を下げることで、縦隔偏位と静脈還流障害を解除し、虚脱した肺を再膨張させる根本的な処置である。ドレーンは水封式の持続吸引装置などに接続し、空気の逆流を防ぎながら持続的に脱気する。緊張性気胸では救命のため、まず行うべき治療である。
気胸の分類
・自然気胸:原発性(やせ型・長身の若年男性に多く、肺尖部のブラ・ブレブの破裂による)、続発性(COPD、間質性肺炎、肺癌、月経随伴性気胸などの基礎疾患を伴う) ・外傷性気胸:肋骨骨折や穿通性外傷などによる ・医原性気胸:中心静脈カテーテル挿入、経気管支肺生検、陽圧換気などに伴う いずれの気胸も、チェックバルブ機構がはたらけば緊張性気胸へ進展しうる。人工呼吸管理中の患者は陽圧のため緊張性気胸になりやすい。
緊張性気胸の診断と処置の要点
・臨床診断:呼吸困難、頻脈、低血圧、頸静脈怒張、患側呼吸音消失、鼓音、気管の健側偏位。胸部X線撮影の結果を待たずに処置を開始する。 ・緊急穿刺脱気:ドレーン挿入の準備ができるまでの一時的な救命処置として、患側胸腔に太い留置針を刺入して脱気する。刺入部位としては、鎖骨中線上の第2肋間、あるいは中腋窩線より前方の第4〜5肋間が用いられる。 ・胸腔ドレナージ:通常は中腋窩線付近の第4〜5肋間(乳頭の高さ付近、腋窩の安全三角)から挿入し、肋間動静脈・神経の損傷を避けるため肋骨の上縁に沿って胸腔に入る。 ・ドレナージ後もエアリークが持続する場合や再発例では、胸腔鏡下手術(VATS:video-assisted thoracoscopic surgery)を考慮する。
ショックの分類との関係
緊張性気胸は、心タンポナーデ、肺血栓塞栓症と並ぶ閉塞性ショックの代表的原因である。輸液や昇圧薬では根本的に改善せず、原因の解除(脱気)が必要である。
POINT
・緊張性気胸はチェックバルブ機構で胸腔内圧が陽圧化し、静脈還流障害による閉塞性ショックをきたす致死的病態。 ・画像を待たず臨床所見で診断し、直ちに脱気(緊急穿刺脱気→胸腔ドレーン挿入)を行う。 ・減圧前の陽圧換気は病態を悪化させうる。手術はドレナージ後もエアリークが続く場合などに考慮する。 ・鎮痛薬・抗不安薬は対症療法で、呼吸抑制の危険もあり初期治療ではない。
