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「とりあえずバルーン」はなぜダメか―尿道カテーテルの本当の適応を考える

第113回医師国家試験 B問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第22問

尿道カテーテル留置の目的で最も適切なのはどれか。

  1. a.尿路感染の予防
  2. b.介護負担の軽減
  3. c.尿蛋白量の測定
  4. d.患者の長期安静保持
  5. e.水腎症を伴う慢性尿閉の治療

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、尿道カテーテルを何のために入れるのか、その適応を問う問題だ。病棟ではごく日常的な処置だけれど、「入れることで得られる利益」と「入れることで生じる害」を天秤にかける視点が問われている。まず、尿道カテーテルを入れっぱなしにすると何が一番困るか、考えてみてくれるかな。
医学生医学生
臨床実習の病棟でよく見かけましたが、やはり感染でしょうか。尿がきちんと流れるなら、むしろ感染を防げそうな気もしてしまうのですが。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。カテーテルは体にとって異物で、その表面に細菌がバイオフィルムをつくり、カテーテルの外側や内腔を伝って膀胱内に入り込む。留置日数が延びるほど細菌尿の頻度は上がり、長期留置ではほぼ必発とされる。カテーテル関連尿路感染症、CAUTIと呼ばれるものだ。だから感染予防のために留置するのは本末転倒なんだよ。
医学生医学生
感染を防ぐどころか、カテーテル自体が尿路感染症の最大の危険因子なんですね。
ドクタードクター
その通り。ほかにも尿道損傷や尿道狭窄、膀胱結石、管につながれることでの行動制限、高齢者ではせん妄や自己抜去の誘因にもなる。だから原則は「明確な医学的適応があるときだけ入れて、不要になったらすぐ抜く」。では、その明確な適応とは何だと思う?
医学生医学生
出したくても尿が出ない、尿閉のときでしょうか。泌尿器科を回ったとき、前立腺肥大症の患者さんに導尿していました。
ドクタードクター
いいね。まさに今回の正解は、水腎症を伴う慢性尿閉の治療だ。前立腺肥大症や神経因性膀胱などで膀胱に尿がたまり続けると、膀胱内圧の上昇が尿管・腎盂まで及んで両側の水腎症になり、放置すれば腎後性腎不全に進む。カテーテルで膀胱を持続的に減圧すれば上部尿路の圧が下がり、腎機能の悪化を食い止めて回復を図れる。カテーテル留置の最も明確な適応の一つだね。
医学生医学生
慢性尿閉だと、本人は「尿が出ない」と訴えないこともあるんですか。
ドクタードクター
鋭い質問だ。慢性尿閉では尿意が乏しく、むしろ膀胱からあふれた尿が少しずつ漏れる溢流性尿失禁として見つかることがある。「漏れている」のに実は「出せていない」という逆説的な状態なんだ。だから高齢男性の失禁を見たら、残尿測定や腹部エコーで膀胱の張りや水腎症を確認する習慣をつけておきたい。
医学生医学生
なるほど。では介護負担の軽減はどうでしょう。おむつ交換が減れば、患者さんにとっても楽そうに思えますが。
ドクタードクター
介護者や医療者の手間は確かに減るかもしれない。でも、その代償を払うのは患者本人だ。感染、尿道損傷、活動性の低下といった不利益を負わせることになる。医療者側の都合による留置は医学的適応にはあたらない。
医学生医学生
尿蛋白量の測定はどうですか。腎臓内科の講義で、24時間蓄尿が大事だと習いました。
ドクタードクター
1日尿蛋白量は24時間蓄尿で測れるし、随時尿の尿蛋白/尿クレアチニン比からも推定できる。自力で排尿できる人に、蛋白を測るためだけに管を入れる必要はないんだ。ちなみに尿量測定が適応になるのは、ショックなど重症患者で時間尿量を正確に追う必要がある場合で、目的がまったく違う点に注意しよう。
医学生医学生
長期の安静保持も、術後に入っている患者さんをよく見たので、適応かと思っていました。
ドクタードクター
周術期や重症管理で短期的に入れることはあるね。でも長期の安静を保たせる目的で入れるのは適切ではない。管があると離床が遅れ、廃用やせん妄の一因にもなる。脊椎の不安定性などで体位を厳密に制限する必要があるごく限られた状況で、一時的に考慮される程度だ。
医学生医学生
整理すると、尿閉、重症患者の正確な尿量測定、周術期、それ以外は限られた特殊な状況、ということですね。
ドクタードクター
そう。加えて、仙骨部や会陰部の褥瘡・創部を尿失禁による汚染から守る必要がある場合や、終末期の苦痛緩和も適応になりうる。どれも「患者自身の利益」が明確なのが共通点だ。
医学生医学生
水腎症の患者さんにカテーテルを入れたあと、気をつけることはありますか。
ドクタードクター
大事なのが閉塞後利尿だ。閉塞が解除されると、尿細管の濃縮力障害などで一時的に大量の尿が出ることがある。脱水や低ナトリウム・低カリウムなどの電解質異常をきたしうるので、尿量と電解質をこまめに確認して輸液を調整する。そして腎機能の回復を確かめたら、原因疾患の治療や清潔間欠導尿への移行を検討する。
医学生医学生
入れて終わりではなく、入れたあとも抜くことを考え続けるんですね。
ドクタードクター
その通り。留置中は毎日必要性を見直す、閉鎖式ドレナージを保つ、採尿バッグは膀胱より低い位置に置いて逆流を防ぐ。男性ならコンドーム型集尿器という代替手段もある。「とりあえずバルーン」ではなく、「なぜ入れるのか、いつ抜くのか」を常に言えるようにしておこう。

まとめ

尿道カテーテルは異物であり、留置日数に比例してカテーテル関連尿路感染症のリスクが高まるため、明確な医学的適応がある場合に限って留置し、不要になれば速やかに抜去するのが原則です。代表的な適応は、前立腺肥大症などによる尿閉、特に水腎症を伴う慢性尿閉で、膀胱を減圧して腎後性腎不全への進行を防ぎます。感染予防、介護負担の軽減、自排尿可能な患者の検査目的、漫然とした安静保持は適応になりません。閉塞解除後は閉塞後利尿による脱水・電解質異常に注意し、原因疾患の治療や清潔間欠導尿への移行を検討します。日常的な処置だからこそ利益と害を意識し、「なぜ入れるか・いつ抜くか」を説明できることが、安全な病棟診療の基本となります。

解答・解説

正解はeです

尿道カテーテル(膀胱留置カテーテル、Foleyカテーテル)は、尿道から膀胱内に挿入し、先端のバルーンを膨らませて固定し、尿を持続的に体外へ排出させる器具である。便利な反面、留置期間が長くなるほどカテーテル関連尿路感染症(CAUTI:catheter-associated urinary tract infection)の危険が高まり、ほかにも尿道損傷、膀胱結石、患者の行動制限やせん妄の誘発などの弊害がある。したがって、明確な医学的適応がある場合に限って留置し、不要になれば速やかに抜去するのが原則である。 適切な適応の代表は、①急性尿閉や下部尿路閉塞(前立腺肥大症など)による排尿障害で、間欠導尿などで対応できない場合、②重症患者で正確な時間尿量の測定が必要な場合、③周術期(長時間手術、泌尿生殖器の手術など)、④仙骨部・会陰部の褥瘡や創部の汚染防止が必要な尿失禁患者、⑤終末期の苦痛緩和、⑥脊椎不安定などで厳密な体位保持が必要な場合、などである。 本問では、下部尿路の閉塞により膀胱に尿が長期間たまり(慢性尿閉)、その圧が上部尿路に及んで水腎症をきたした状態に対する治療が、最も適切な留置目的である。看護・介護の手間を省くためや、本来自力で排尿できる患者に対する便宜的な留置は不適切とされる。

選択肢考察

  1. ×a.  尿路感染の予防

    尿道カテーテルは異物であり、カテーテル表面に細菌がバイオフィルムを形成して膀胱内へ侵入するため、留置自体が尿路感染症の最大の危険因子となる。感染予防を目的とした留置は本末転倒である。ただし、排尿障害による多量の残尿が原因で尿路感染症を繰り返している患者では、残尿を排出させる(ドレナージする)目的で留置することはありうる。この場合も、可能であれば清潔間欠導尿が優先される。

  2. ×b.  介護負担の軽減

    おむつ交換の手間が減るなど介護者にとっては楽になるかもしれないが、患者には尿路感染症、尿道損傷、活動性の低下などの不利益をもたらす。医療者・介護者の都合による留置は医学的適応にはあたらず、行うべきではない。

  3. ×c.  尿蛋白量の測定

    1日尿蛋白量は24時間蓄尿で測定できるほか、随時尿の尿蛋白/尿クレアチニン比(g/gCr)からも推定できる。自力で排尿できる患者に、尿蛋白測定のためだけにカテーテルを留置する必要はない。

  4. ×d.  患者の長期安静保持

    術後や重症管理などで短期的に留置することはあるが、安静を長期間保たせる目的で留置するのは適切でない。カテーテル留置はむしろ離床を妨げ、廃用やせん妄の一因にもなる。脊椎・骨盤骨折で体位変換が制限されるなど、厳密な安静が必要なごく限られた状況でのみ一時的に考慮される。

  5. ○e.  水腎症を伴う慢性尿閉の治療

    前立腺肥大症や神経因性膀胱などにより膀胱内に尿が貯留し続けると、膀胱内圧上昇が尿管・腎盂に及んで水腎症となり、放置すれば腎後性腎不全に進行する。尿道カテーテルで膀胱を持続的に減圧すれば上部尿路の閉塞が解除され、腎機能の悪化を防ぎ回復を図ることができる。尿道カテーテル留置の最も明確な適応の一つである。なお閉塞解除後には、尿細管の濃縮力障害などにより一時的に多量の尿が出る閉塞後利尿がみられることがあり、脱水や電解質異常に注意して輸液量を調整する。

尿道カテーテルの合併症

・カテーテル関連尿路感染症:留置日数とともに細菌尿の頻度が増加し、長期留置例ではほぼ必発となる。無症候性細菌尿は原則として治療対象にならないが、発熱などの症状があれば腎盂腎炎・敗血症を考える。 ・尿道損傷・尿道狭窄:特に挿入時のバルーン誤拡張(尿道内でバルーンを膨らませる)に注意。男性で前立腺肥大がある場合は挿入困難になりやすい。 ・膀胱結石、膀胱萎縮、カテーテル閉塞、尿道皮膚瘻 ・行動制限による廃用、せん妄、転倒時の自己抜去

CAUTI予防の原則

・適応を厳密に判断し、不要な留置を避ける。 ・留置中は毎日必要性を見直し、早期に抜去する。 ・閉鎖式ドレナージシステムを維持し、採尿バッグは膀胱より低い位置に置く(逆流防止)。 ・代替手段として清潔間欠導尿、男性ではコンドーム型集尿器などを検討する。

慢性尿閉と水腎症

下部尿路閉塞による慢性尿閉では、尿意が乏しく、溢流性尿失禁(膀胱から尿があふれ出る)として発見されることもある。両側性水腎症と腎機能障害がみられれば、まずカテーテルで膀胱を減圧し、腎機能の回復を確認したうえで、原因疾患(前立腺肥大症など)の治療や、清潔間欠導尿への移行を検討する。減圧後の閉塞後利尿に注意する。

POINT

・尿道カテーテル留置は尿路感染症の最大の危険因子であり、明確な医学的適応がある場合のみ行い、不要になれば速やかに抜去する。 ・適応:尿閉(特に水腎症を伴う慢性尿閉)、重症患者の正確な尿量測定、周術期、褥瘡・創部汚染防止、終末期の苦痛緩和など。 ・感染予防、介護負担軽減、自排尿可能な患者の検査目的、安易な安静保持は適応にならない。 ・閉塞解除後の閉塞後利尿による脱水・電解質異常に注意。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。