どこを切れば「清潔」に抜ける?―抜糸の一手に隠れた感染予防の原則
第120回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
縫合した創部の断面図を下に示す。鑷子(せっし)で縫合糸を挙上している。 抜糸を行う際,剪刀(せんとう)で切離すべき場所はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
単結節縫合の抜糸では、鑷子で結び目付近を持ち上げて皮下に埋まっていた糸を刺出点から少し引き出し、その皮膚面直上を剪刀で切ってから結び目側を引き抜きます。目的は、外界にさらされて細菌が付着した表面の糸や結び目を、皮下の組織内に通さないことです。結び目やその両側の露出した糸を切ると、どちらに引いても汚染部分が皮下を通過するため適切ではありません。糸は創を開かない方向に引き、抜糸時期は顔面で約5日、体幹で7〜10日、四肢・関節部で10〜14日を目安に、患者の創傷治癒能力に応じて調整します。研修医が早くから任される基本手技だからこそ、なぜその位置で切るのかという清潔操作の原則まで理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はeです
図の読み取り
図は単結節縫合(1針ごとに結び目を作る縫合法)を行った創部の断面である。中央の点線が創(切開線)を、皮膚の中を半円状に通る破線が皮下に埋まっている縫合糸を表す。縫合糸は創の左側の刺入点から皮膚表面を横切って結び目(黒丸)に達し、結び目の右側から右側の刺出点を通って皮下へ入っている。鑷子(ピンセット)で結び目付近の糸をつまんで持ち上げると、右側の刺出点から、それまで皮下に埋まっていた糸がわずかに引き出される。 ①は左側の皮膚表面を走る糸、②は結び目のすぐ左の糸、③は結び目そのもの(およびその直上)、④は結び目のすぐ右で皮膚の外に出ている糸、⑤は右側の刺出点の皮膚面直上、すなわち鑷子で引き上げたことで皮下から新たに露出した部分を指している。
考え方
抜糸の際に考えるべきことは、「皮膚の外に出ていた糸(外界に露出していた部分)を、皮下の組織の中に通さない」ことである。皮膚表面に出ている糸は、縫合後数日〜2週間ほど外界にさらされ、皮膚常在菌などの細菌が付着している。一方、皮下に埋まっていた部分は外界に触れておらず比較的清潔である。 そこで、まず結び目付近を鑷子でつまんで糸を持ち上げ、皮下に埋まっていた糸を皮膚面からわずかに引き出す。そして、その引き出された清潔な部分(皮膚面のすぐ上)を剪刀(はさみ)で切り、結び目側を引っ張って糸を抜く。こうすると、皮下を通過するのはもともと皮下にあった清潔な部分だけになり、汚染された表面の糸が組織内を通ることを避けられる。 図では、この条件を満たす切離点は、引き出された糸の皮膚面直上である⑤である。
選択肢考察
- ×a. ①
①は創の左側で皮膚表面を横切っている糸であり、縫合後ずっと外界に露出していた汚染部分である。ここで切ると、結び目を持って引き抜く際に右側の糸(④を含む露出部分)が皮下を通り、また左側を引けば①の露出部分が皮下を通る。いずれにしても外に出ていた糸が組織内を通過するため適切でない。
- ×b. ②
②は結び目のすぐ左側の糸で、皮膚の外に出ていた部分である。ここで切断して糸を抜くと、結び目やその周囲の露出していた糸が皮下の糸の通り道を通過することになり、表面に付着した細菌を組織内に持ち込むおそれがある。
- ×c. ③
③は結び目そのものであり、結び目は硬く剪刀では切りにくいうえ、ここで切っても糸は抜けない(結び目を残したまま糸が切れるだけで、両側の露出部分が残る)。さらに、どちらかを引き抜けば汚染された表面の糸が皮下を通過する。結び目は鑷子でつまんで持ち上げるための部分であり、切る場所ではない。
- ×d. ④
④は結び目のすぐ右で皮膚の外に出ている糸であり、縫合後から外界にさらされていた部分である。ここで切ると、結び目を引いた際に④より皮膚側に残った露出部分の糸が皮下を通って引き抜かれることになり、汚染部分を組織内に通してしまう。
- ○e. ⑤
⑤は、鑷子で糸を持ち上げたことで刺出点から引き出された、それまで皮下に埋まっていた部分の糸(皮膚面のすぐ上)である。ここで切って結び目側を引けば、皮下を通過するのはもともと皮下にあった清潔な糸だけとなり、外界に露出していた糸や結び目は組織内を通らない。抜糸で切離すべき正しい位置である。
抜糸の基本手順
1. 創部と周囲を消毒する。 2. 鑷子で結び目(またはその近く)をつまみ、軽く持ち上げて、刺出点から皮下に埋まっていた糸を少し引き出す。 3. 引き出された部分を、皮膚面にできるだけ近い位置で剪刀(抜糸剪刀)を用いて切る。 4. 結び目側を、創を引き離さない方向(創をまたぐ方向)にゆっくり引いて糸を抜く。創と反対方向に引くと創が開くおそれがある。 5. 糸が残っていないことを確認し、必要に応じてテープで創を補強する。
汚染部分を皮下に通さない理由
皮膚表面に出ている糸には、外界や皮膚の常在菌が付着している。これを皮下の組織内に引き込むと、理論上は縫合糸跡の感染(ステッチアブセス)の原因となりうる。実際に感染リスクが明らかに高まるという強い根拠があるわけではないが、清潔操作の原則として、露出していた部分を組織内に通さない切り方が標準とされている。
抜糸の時期の目安
血流が豊富な部位ほど早く治癒するため、顔面・頸部は5日前後、頭部・体幹は7〜10日前後、四肢や関節部、張力のかかる部位は10〜14日前後が一般的な目安である。高齢者、糖尿病、ステロイド使用中など創傷治癒が遅れる要因があれば遅らせる。抜糸が遅れすぎると縫合糸痕(いわゆる「はしご状」の瘢痕)が残りやすい。
POINT
・抜糸では、鑷子で糸を持ち上げ、皮下に埋まっていた部分を引き出してから、その皮膚面直上を切る。 ・目的は、外界に露出して汚染された糸(表面の糸・結び目)を皮下の組織内に通さないことである。 ・結び目は持ち上げるための把持部であり、切る場所ではない。 ・糸は創を開かない方向(創をまたぐ方向)に引き抜く。
