StudyMed医師国家試験

「考えが筒抜けになる」―自我の境界が崩れる体験が統合失調症を語る

第113回医師国家試験 B問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第18問

統合失調症を強く示唆する患者の発言はどれか。

  1. a.「自分には霊がとりついている」
  2. b.「(天井のしみを指さして)虫が這っている」
  3. c.「自分は癌にかかっているので,明日には死ぬ」
  4. d.「自分の考えることがすべて周囲の人に伝わっている」
  5. e.「外に出ると通行人が自分を見るので,外出できない」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、患者さんの発言から精神症状を読み取り、その症状がどの疾患に特徴的かを判断する問題だ。ポイントは、それぞれの発言を「幻視」「心気妄想」のような症状名に置き換えること。そのうえで、統合失調症に特異性の高い症状はどれかを考えよう。
医学生医学生
妄想があれば統合失調症、というイメージがあるので、どれも当てはまりそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。妄想や幻覚は統合失調症以外の病気でもたくさん出てくる。大事なのは「何についての妄想か」「どんな種類の幻覚か」なんだ。まず、自分の考えていることが周囲の人に全部伝わっている、という発言はどう表現する?
医学生医学生
精神医学の講義で習った考想伝播だと思います。
ドクタードクター
正解。考想伝播は、声に出していない自分の考えが他人に筒抜けになっている、広まっていると体験する症状だ。本来、自分の思考は自分の頭の中だけにあるはずなのに、その自分と他者との境界が失われている。こうした「自分の思考や行為が自分のものだ」という感覚が障害される症状を自我障害と呼び、統合失調症に特徴的とされているんだ。
医学生医学生
Schneiderの一級症状に入っているものですね。CBTの勉強で語呂合わせを作った記憶があります。
ドクタードクター
そう。Schneiderは統合失調症の診断に重要な症状を一級症状としてまとめ、そこには考想伝播のほか、考えが抜き取られる考想奪取、自分の考えが声になって聞こえる考想化声、他者に操られて行動させられるさせられ体験などの自我障害が多く含まれている。だから、統合失調症を最も強く示唆するのはこの発言になる。では、他の発言も見ていこう。天井のしみを指さして虫が這っている、というのは?
医学生医学生
幻覚なので統合失調症も考えましたが、統合失調症の幻覚は幻聴が中心でしたよね。
ドクタードクター
その通り。統合失調症の幻覚は幻聴が主体で、幻視は相対的にまれだ。実在するしみが虫に見えているのは錯視やパレイドリア、あるいは小動物幻視と考えられ、せん妄、アルコール離脱せん妄、Lewy小体型認知症といった器質性・中毒性の病態を疑う手がかりになる。
医学生医学生
救急の実習で、アルコール離脱の患者さんが「壁に虫がいる」と訴えていたのを思い出しました。
ドクタードクター
典型的な場面だね。次に、自分は癌にかかっていて明日には死ぬ、という発言はどうかな。
医学生医学生
根拠なく重い病気だと確信しているので心気妄想です。うつ病で出るものでしょうか。
ドクタードクター
いいね。心気妄想は罪業妄想、貧困妄想とあわせて微小妄想と呼ばれ、自分を過小に評価する抑うつ気分を背景に生じる。精神病性の特徴を伴う重症うつ病に特徴的なんだ。では、霊がとりついているという発言と、通行人が自分を見るので外出できないという発言は?
医学生医学生
憑依妄想と注察妄想ですね。注察妄想は被害妄想の一種なので、統合失調症っぽい気もしますが……。
ドクタードクター
統合失調症でもみられるのは確かだ。ただ、注察妄想は妄想性障害でも生じるし、この発言だけでは、人の視線を過度に恐れる社交不安症や、外出を避ける広場恐怖症といった不安症の訴えである可能性も否定できない。憑依妄想も、妄想性障害や解離性障害でみられるほか、文化的・宗教的背景によっては病的とはいえない信念のこともある。どちらも「強く示唆する」とまでは言えないんだ。
医学生医学生
「統合失調症でも起こりうる」と「統合失調症を強く示唆する」は別物なんですね。特異性の高さで選ぶ、ということですか。
ドクタードクター
まさにそこが本問の核心だ。最後に臨床的な補足をしておこう。一級症状は統合失調症の理解に重要な概念だけれど、他の疾患でも生じうることが指摘されていて、現在のDSM-5やICD-11では一級症状を特別扱いしていない。だから実際の診断は、症状の組み合わせや持続期間、陰性症状の有無、器質的疾患や薬物の影響の除外を含めて総合的に行う。
医学生医学生
精神科の実習で、初診の患者さんにまず血液検査や頭部画像を確認していたのはそのためなんですね。
ドクタードクター
そう。特に幻視が目立つ場合や、急性に意識の変容を伴う場合は、せん妄や脳の器質的疾患を見逃さないことが最優先だ。妄想の内容で疾患の方向性をつかむコツも整理しておくといい。被害妄想は統合失調症や妄想性障害、微小妄想はうつ病、誇大妄想は躁病エピソードや統合失調症、と対応させて覚えよう。

まとめ

患者の発言を症状名に置き換えると、自分の考えが周囲に伝わるという訴えは考想伝播であり、自他の境界が失われる自我障害としてSchneiderの一級症状に含まれ、統合失調症を強く示唆します。小動物幻視や錯視はせん妄・アルコール離脱・Lewy小体型認知症など器質性・中毒性の病態を、心気妄想は罪業妄想・貧困妄想とともに微小妄想としてうつ病を示唆します。憑依妄想や注察妄想は統合失調症でもみられますが、妄想性障害・解離性障害・不安症などでも生じうるため特異性は高くありません。現在の診断基準では一級症状を特別扱いしないものの、症状の種類と疾患の対応を理解することは、精神科の初期評価で鑑別の方向性をつかむ基礎になります。

解答・解説

正解はdです

本問は、患者の発言からどのような精神症状(幻覚・妄想の種類)が表れているかを読み取り、それがどの疾患に特徴的かを判断する問題である。 各発言を症状名に置き換えると、a は憑依妄想、b は幻視(または錯覚・パレイドリア)、c は心気妄想、d は考想伝播、e は注察妄想(あるいは対人場面での不安・恐怖)にあたる。 統合失調症の症状のなかでも、自分の思考や行為が「自分のものである」という感覚(自我意識、特に能動性・自他の境界)が障害される自我障害は、統合失調症に特徴的な症状とされる。ドイツの精神医学者 Schneider は、統合失調症の診断に重要と考えられる症状を「一級症状」としてまとめ、そこには考想伝播、考想奪取、考想化声、させられ体験(作為体験)などの自我障害が多く含まれている。考想伝播は自分の考えが他人に筒抜けになっている、広まっていると感じる体験であり、自他の境界が失われていることを示す典型的な自我障害である。 一方、憑依妄想や注察妄想は統合失調症でもみられるが、妄想性障害など他の精神疾患でも生じうるため特異性はそれほど高くない。幻視は器質性・中毒性の病態を、心気妄想はうつ病を示唆する。したがって、統合失調症を最も強く示唆するのは考想伝播を表す発言である。

選択肢考察

  1. ×a.  「自分には霊がとりついている」

    誤り。霊や動物、神などが自分に乗り移っていると確信する憑依妄想である。統合失調症で生じることはあるが、妄想性障害、解離性障害(憑依トランス)などでもみられ、また文化的・宗教的背景によっては病的とはいえない信念である場合もある。統合失調症を強く示唆する所見とはいえない。

  2. ×b.  「(天井のしみを指さして)虫が這っている」

    誤り。実際に存在する天井のしみが虫に見えている状態で、錯視やパレイドリア(模様などが人の顔や動物に見える現象)、あるいは虫などの小動物が見える小動物幻視と考えられる。こうした視覚性の症状は、Lewy小体型認知症、せん妄、アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)など器質性・中毒性の病態で特徴的にみられる。統合失調症の幻覚は幻聴が主体であり、幻視は相対的にまれである。

  3. ×c.  「自分は癌にかかっているので,明日には死ぬ」

    誤り。根拠なく重い病気にかかっていると確信する心気妄想である。心気妄想は、罪業妄想(取り返しのつかない罪を犯した)・貧困妄想(お金がなく破産する)とともに微小妄想に分類され、自己を過小に評価する抑うつ気分を背景とすることから、うつ病(特に精神病性の特徴を伴う重症うつ病)に特徴的である。

  4. ○d.  「自分の考えることがすべて周囲の人に伝わっている」

    正しい。自分の考えが声に出さなくても周囲に伝わってしまう、広まってしまうと体験する考想伝播(思考伝播)である。自分と他者との境界があいまいになる自我障害の一つで、Schneider の一級症状に含まれ、統合失調症に特徴的な症状とされる。類似の自我障害として、考えが抜き取られる考想奪取、他人の考えが入り込んでくる考想吹入、自分の考えが声になって聞こえる考想化声、他者に操られて行動させられるさせられ体験(作為体験)がある。

  5. ×e.  「外に出ると通行人が自分を見るので,外出できない」

    誤り。見知らぬ人に見張られている、見られていると確信している場合は注察妄想であり、統合失調症でもみられるが、妄想性障害などでも生じ、統合失調症に特異的とはいえない。またこの発言だけでは、他者からの注目や評価を過度に恐れる社交不安症や、外出・人混みを避ける広場恐怖症などの不安症による訴えの可能性も否定できない。統合失調症を強く示唆するとはいえない。

Schneider の一級症状

統合失調症の診断上重要とされた症状群で、自我障害や特徴的な幻聴が中心である。 ・考想化声(思考化声):自分の考えが声になって聞こえる ・対話形式の幻聴:複数の声が患者について会話している ・自己の行為に注釈を加える幻聴:自分の行動にいちいち口出しする声が聞こえる ・身体的被影響体験:外部の力によって身体に影響を与えられていると感じる ・考想奪取およびその他の思考への影響体験:考えが抜き取られる、考えを吹き込まれる ・考想伝播(思考伝播):自分の考えが他人に伝わる ・妄想知覚:実際の知覚に、了解不能な特別な意味づけがなされる(例:犬が吠えたのを見て、自分が選ばれた者だと確信する) ・感情・衝動・意志の領域におけるさせられ体験(作為体験) なお、これらの症状は他の疾患でも生じうることが指摘されており、現在の診断基準(DSM-5、ICD-11)では一級症状を特別扱いしていないが、統合失調症の症状を理解するうえで重要な概念である。

妄想の内容による分類と関連疾患

・被害妄想(迫害妄想、注察妄想、関係妄想、被毒妄想など):統合失調症、妄想性障害など ・微小妄想(罪業妄想、貧困妄想、心気妄想):うつ病 ・誇大妄想(血統妄想、発明妄想、宗教妄想など):双極性障害の躁病エピソード、統合失調症など ・Cotard 症候群(否定妄想:自分の内臓がない、自分はすでに死んでいる等):重症うつ病など

幻覚の種類と疾患

・幻聴(特に対話性・注釈性):統合失調症に多い ・幻視(小動物幻視、人物の幻視):Lewy小体型認知症、せん妄、アルコール離脱せん妄 ・体感幻覚:統合失調症など

POINT

・考想伝播は自我障害の一つで、Schneider の一級症状に含まれ、統合失調症を強く示唆する。 ・幻視(特に小動物幻視)はせん妄・アルコール離脱・Lewy小体型認知症を考える。 ・心気妄想・罪業妄想・貧困妄想は微小妄想であり、うつ病に特徴的である。 ・憑依妄想や注察妄想は統合失調症でもみられるが、他疾患でも生じ特異性は低い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。