痛くない潰瘍こそ危ない―高齢女性の外陰部腫瘤が語るもの
第113回医師国家試験 A問題 第50問
国試問題にチャレンジ
75歳の女性。外陰部の違和感と不正性器出血を主訴に来院した。発熱はなく痒みや痛みもない。52歳で閉経。左大陰唇外側に辺縁が隆起し中央に潰瘍を形成した腫瘤を認める。左外側に鼠径リンパ節を触知する。外陰部の写真を別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.外陰癌
- b.外陰ヘルペス
- c.カンジダ外陰炎
- d.尖圭コンジローマ
- e.バルトリン腺嚢胞
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢女性の外陰部に、痛みや痒みを伴わず、辺縁が隆起して中央に潰瘍を形成する腫瘤を認めた場合は、外陰癌を第一に考えます。外陰癌は70歳前後に多く、大陰唇が好発部位で、組織型の大部分は扁平上皮癌です。所属リンパ節は鼠径リンパ節であり、同側の腫大は転移を示唆し、確定診断には生検による組織診断が必要です。有痛性の多発水疱・浅い潰瘍なら外陰ヘルペス、強い瘙痒と白色帯下ならカンジダ外陰炎、鶏冠状の多発疣贅なら尖圭コンジローマ、腟前庭後方の波動性腫瘤ならバルトリン腺嚢胞と、病変の形と症状で鑑別できます。閉経後の不正出血では外陰から子宮体部まで出血源を系統的に確認し、「痛くない」病変ほど悪性を警戒する視点が早期発見につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・75歳、閉経後23年の高齢女性。主訴は外陰部の違和感と不正性器出血。 ・発熱、瘙痒(痒み)、疼痛がない→急性の感染症・炎症は考えにくい。 ・左大陰唇外側に、辺縁が堤防状に隆起し中央に潰瘍を形成した腫瘤がある。・同側(左)の鼠径リンパ節を触知する。
診断へのプロセス
閉経後女性の不正性器出血は、妊娠や月経に関連しない出血であり、萎縮性腟炎や、外陰・腟・子宮頸部・子宮体部の悪性腫瘍など器質的疾患をまず考える。本例では出血源となりうる外陰部腫瘤が視診で明らかである。 「辺縁が隆起し中央が潰瘍化した腫瘤」は、腫瘍が増殖しながら中心部が壊死・脱落した形態で、悪性腫瘍(特に扁平上皮癌)に典型的である。痛みや痒みを伴わない慢性の経過も、ヘルペスやカンジダなどの感染症とは合わない。さらに外陰部の所属リンパ節である鼠径リンパ節が、病変と同じ側で腫大しており、リンパ節転移が示唆される。 以上より、高齢女性に好発する外陰癌が最も考えられる。確定診断には腫瘤からの生検による組織診断が必要である。
選択肢考察
- ○a. 外陰癌
外陰癌は70歳前後の高齢女性に多く、大陰唇に最も好発する。初期は外陰部の違和感・瘙痒・腫瘤として気付かれ、進行すると潰瘍形成、出血、帯下、疼痛を伴う。本例の、辺縁が隆起し中央に潰瘍をもつ無痛性の腫瘤は、浸潤性の扁平上皮癌の典型像である。外陰部のリンパは主に浅鼠径リンパ節→深鼠径(大腿)リンパ節→骨盤リンパ節へ流れるため、同側鼠径リンパ節の触知は転移を示唆する所見であり、診断を支持する。
- ×b. 外陰ヘルペス
単純ヘルペスウイルス(主にHSV-2、近年はHSV-1も多い)による性感染症で、外陰部に多発する小水疱とそれが破れた浅い潰瘍(びらん)が特徴である。初感染では強い疼痛、排尿痛、発熱や両側の有痛性鼠径リンパ節腫脹を伴う。本例は疼痛も発熱もなく、病変は単発の隆起性腫瘤で辺縁が盛り上がっており、ヘルペスの浅く多発する潰瘍とは形態が異なる。
- ×c. カンジダ外陰炎
Candida albicansなどの真菌による外陰腟炎で、強い瘙痒と、酒粕状・ヨーグルト状の白色帯下、外陰部の発赤・腫脹が特徴である。腫瘤や潰瘍をつくる疾患ではない。本例は瘙痒がなく、隆起性の潰瘍性腫瘤とリンパ節腫大を伴っており合致しない。
- ×d. 尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルス(HPV)6型・11型などの低リスク型による性感染症で、外陰部・腟・肛門周囲に、先の尖った乳頭状〜鶏冠状(カリフラワー状)の疣贅が多発する。通常は無痛性で、中央に潰瘍を形成する腫瘤とはならない。性的活動期の若年者に多い点も本例と異なる。
- ×e. バルトリン腺嚢胞
腟前庭の後方両側(4時・8時方向)に開口するバルトリン腺の導管が閉塞し、分泌物が貯留してできる嚢胞である。小陰唇〜大陰唇の後下方に、表面平滑で波動を触れる柔らかい腫瘤として触れ、潰瘍は形成しない。感染するとバルトリン腺膿瘍となり、強い疼痛・発赤を伴う。本例の大陰唇外側の潰瘍形成性腫瘤とは異なる。
外陰癌の概要
・頻度:婦人科悪性腫瘍の数%程度とまれ。好発年齢は70歳前後の高齢女性。 ・組織型:扁平上皮癌が大部分(80〜90%)。ほかに悪性黒色腫、基底細胞癌、バルトリン腺癌、腺癌、外陰Paget病(浸潤性)など。 ・発生経路:①HPV(高リスク型、主に16型)関連:比較的若年に多く、前癌病変として外陰の高度扁平上皮内病変(HSIL、通常型VIN)を経る。喫煙・免疫抑制もリスク。②HPV非関連:高齢者に多く、硬化性苔癬などの慢性炎症性皮膚疾患を背景に、分化型VINを経て発生する。 ・好発部位:大陰唇が最多で、小陰唇、陰核、会陰と続く。 ・症状:長期の瘙痒、違和感、腫瘤、潰瘍、出血、疼痛。高齢者では受診が遅れやすい。 ・診断:視診・触診(病変の大きさ、周囲臓器への浸潤、鼠径リンパ節)、生検による組織診断。病変の広がりの把握にはMRI・CT、PET-CTなど。 ・進行期(FIGO分類の概略):国家試験で扱われてきたFIGO 2008(2009年公表)分類では、Ⅰ期=外陰・会陰に限局しリンパ節転移なし、Ⅱ期=下部1/3の尿道・腟・肛門に進展しリンパ節転移なし、Ⅲ期=隣接構造への進展の有無を問わず鼠径・大腿リンパ節転移あり(転移リンパ節の大きさ・個数、被膜外浸潤の有無でⅢA〜ⅢCに細分)、ⅣA期=上部2/3の尿道・腟、膀胱粘膜、直腸粘膜への浸潤、骨盤骨への固定、または固定・潰瘍化した鼠径・大腿リンパ節転移、ⅣB期=骨盤リンパ節を含む遠隔転移、である。なお2021年のFIGO改訂では、上部2/3の尿道・腟、膀胱粘膜・直腸粘膜への進展がⅢA期に移され(5mm以下の小さなリンパ節転移もⅢA期)、ⅣA期は骨盤骨への固定または固定・潰瘍化した所属リンパ節転移となった。いずれの分類でも、本例のように鼠径リンパ節転移が疑われる場合は少なくともⅢ期相当が考えられる。 ・治療:手術(腫瘍の広汎局所切除または外陰切除術+鼠径リンパ節郭清、早期例ではセンチネルリンパ節生検)が基本。切除困難例や進行例では放射線療法・同時化学放射線療法。
外陰部の主な病変の鑑別
・外陰ヘルペス:有痛性の多発小水疱・浅い潰瘍、発熱、有痛性鼠径リンパ節腫脹。 ・梅毒(第1期):硬性下疳(無痛性の硬い潰瘍)と無痛性の鼠径リンパ節腫脹。若年の性的活動期に多く、高齢者の外陰部潰瘍でも鑑別に挙がる。 ・カンジダ外陰腟炎:強い瘙痒、白色酒粕状帯下。 ・尖圭コンジローマ:HPV6・11型、鶏冠状の多発疣贅。 ・バルトリン腺嚢胞・膿瘍:腟前庭後方の嚢胞性腫瘤、膿瘍では疼痛。 ・硬化性苔癬:高齢女性の外陰部の白色・萎縮性病変、強い瘙痒。外陰癌の発生母地となるため経過観察が必要。 ・外陰Paget病:高齢者の湿疹様の紅斑・びらん、瘙痒。
POINT
・高齢女性の外陰部に、無痛性で辺縁が隆起し中央に潰瘍をもつ腫瘤→外陰癌(主に扁平上皮癌)。 ・外陰癌の所属リンパ節は鼠径リンパ節であり、その腫大は転移を示唆する。 ・閉経後の不正性器出血では、外陰・腟・子宮頸部・子宮体部の悪性腫瘍と萎縮性腟炎を鑑別する。 ・確定診断は生検による組織診断。 ・外陰ヘルペス=有痛性多発水疱・潰瘍、カンジダ=瘙痒と白色帯下、尖圭コンジローマ=鶏冠状疣贅、バルトリン腺嚢胞=腟前庭後方の波動性腫瘤。
