StudyMed医師国家試験

不正出血に「まず妊娠反応」―CTを撮る前に立ち止まる理由

第113回医師国家試験 A問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第113回 A問題 第49問

24歳の女性。不正性器出血を主訴に来院した。月経終了2日後から少量の出血が始まり10日間持続したため来院した。月経周期40~90日,不整,持続5日間。身長162cm,体重74kg。体温36.5℃。脈拍72/分,整。血圧122/68mmHg。呼吸数18/分。内診で子宮は正常大で軟,圧痛を認めない。外子宮口に少量の血液を認める。両側付属器に異常を認めない。  この時点での検査として適切でないのはどれか。

  1. a.妊娠反応
  2. b.腹部造影CT
  3. c.経腟超音波検査
  4. d.性ホルモン検査
  5. e.子宮頸部細胞診

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い女性の不正性器出血に対して、最初にどんな検査を組むべきかを考える問題だ。問われているのは「適切でない」検査。着眼点は、この人に妊娠の可能性があるかどうか、そして月経周期の乱れと体格が何を示唆しているか、の2つだよ。
医学生医学生
月経が終わった後の出血なので、妊娠は関係なさそうに思えたんですが……。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。もともと周期が40〜90日と不規則な人は、どこまでが月経でどこからが不正出血か、本人にも区別しにくい。妊娠初期の出血を「月経後の出血」と思い込んでいることは珍しくないんだ。だから性成熟期の女性の不正出血では、例外なく妊娠の確認から入る。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で「女性を見たら妊娠を疑え」と何度も言われました。あれはこういう場面のためなんですね。
ドクタードクター
その通り。流産や異所性妊娠を見逃すと命に関わるし、妊娠の有無はその後の検査や薬の安全性を左右する前提条件でもある。では、妊娠反応の次はどう考える?
医学生医学生
出血の原因を探すために、子宮や卵巣の形を見たいです。CTで骨盤全体を見るのはどうでしょう。
ドクタードクター
ここが今回の正解のポイントだ。腹部造影CTは、この時点では適切でない。理由は2つある。1つは、妊娠が否定されていない段階で胎児被曝を伴う検査をすべきではないこと。もう1つは、内診で子宮は正常大、付属器に腫瘤も圧痛もなく、バイタルも安定していて、CTで評価すべき腫瘍や腹腔内出血を疑う所見がないことだ。
医学生医学生
必要性が乏しいうえにリスクもある、ということですね。では子宮や卵巣の評価はどうするんですか。
ドクタードクター
経腟超音波検査が第一選択だよ。被曝がなく外来ですぐできて、骨盤内の解像度もCTより優れている。妊娠反応が陽性なら子宮内に胎嚢があるかを見て異所性妊娠や流産を評価できるし、陰性なら子宮内膜の厚さ、筋腫や内膜ポリープ、卵巣の多数の小卵胞の並びなどを確認できる。さらに詳しく見たいときはMRIを使う。
医学生医学生
子宮頸部細胞診は、24歳でも必要なんでしょうか。がん検診のイメージだと、もう少し上の年代かと。
ドクタードクター
いい疑問だね。子宮頸癌はHPV感染を背景に20〜30歳代でも発生するし、外子宮口から出血があるのだから、頸癌や異形成、頸管ポリープといった頸部病変の除外は欠かせない。表面を擦るだけの低侵襲な検査で、妊娠中でも行えるのも利点だ。
医学生医学生
性ホルモン検査は、周期の乱れの原因を探るためですね。
ドクタードクター
そう。希発月経がある人の不正出血では卵巣機能の評価が役立つ。LH・FSH、エストロゲン、プロゲステロン、プロラクチン、必要に応じてテストステロンや甲状腺機能も見る。ここで体格にも注目してほしい。BMIはおよそ28で肥満傾向だね。
医学生医学生
希発月経と肥満……生理学の講義で習った多嚢胞性卵巣症候群が浮かびます。
ドクタードクター
よく結びつけたね。PCOSではLHが高くなりLH/FSH比が上がることが多く、男性ホルモン高値もみられる。無排卵だとエストロゲンだけが持続的に作用してプロゲステロンが出ないから、厚くなった内膜が不規則に剝がれて出血する。これが破綻出血だ。もちろん、この時点ではまだ診断名を決めつけず、鑑別の手順を踏むことが大切だよ。
医学生医学生
妊娠性の出血を除外して、次に器質的な病変を探して、最後にホルモン異常を考える、という順番ですね。
ドクタードクター
その流れで正しい。もう少し丁寧に言うと、妊娠性、器質性、それから出血傾向や薬剤性といった全身性の原因を除外して、初めて機能性出血と判断する。国際的にはPALM-COEINという異常子宮出血の分類もあって、構造的原因と非構造的原因に分けて整理するんだ。
医学生医学生
救急外来で、腹痛の若い女性にCTを撮る前に妊娠反応を確認していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが臨床の基本動作だ。診断用の放射線量で胎児奇形のリスクが明らかに上がるのはおおむね100mGy以上とされ、通常の腹部CT1回はそれより低い。だから「CTを撮ったら必ず奇形になる」と過度に恐れる必要はないけれど、不要な被曝は避けるべきだし、今回のように必要性も乏しい検査は行わない。もう1つ覚えておきたいのは、PCOSのように無排卵が続くとエストロゲンに長くさらされ、若くても子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが上がることだ。
医学生医学生
若いからといって体癌を除外しきれないこともある、ということですね。肝に銘じます。

まとめ

性成熟期女性の不正性器出血では、まず妊娠反応で妊娠の有無を確認するのが鉄則であり、月経周期が不規則な人ほど妊娠に気付きにくい点に注意が必要です。そのうえで経腟超音波検査と子宮頸部細胞診で器質的病変を探し、性ホルモン検査で卵巣機能を評価します。妊娠が否定されていない段階で、しかも内診所見から必要性も乏しい腹部造影CTは、胎児被曝の観点から適切ではありません。希発月経と肥満の組み合わせではPCOSによる無排卵性出血が鑑別に挙がり、持続的なエストロゲン曝露による子宮内膜増殖症・体癌のリスクにも目を配ります。妊娠性→器質性→全身性・薬剤性→機能性という順序で考える習慣は、婦人科に限らず女性患者を診るすべての場面で役立ちます。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・24歳、性成熟期の女性。月経が終わって2日後から少量の出血が始まり、10日間続いている。通常の月経(持続5日間)とは異なる不正性器出血である。 ・月経周期は40〜90日と延長・不整(希発月経)で、排卵が不規則な卵巣機能障害が背景にある可能性がある。 ・身長162cm、体重74kgでBMI=74÷1.62²≒28.2と肥満傾向。希発月経と肥満の組み合わせからは、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)などによる無排卵性の出血も考えられる。 ・バイタルサインは安定しており、出血量は少なく緊急性は高くない。 ・内診:子宮は正常大で軟、圧痛なし。外子宮口に少量の血液があり、出血源は子宮腔内(または頸部)と考えられる。付属器に異常を触れない。

考え方

性成熟期女性の不正性器出血では、まず妊娠に関連する出血(流産、異所性妊娠、胞状奇胎など)かどうかを確認する。本例のように月経周期がもともと不規則だと、本人が妊娠に気付かず、妊娠初期の出血を「月経後の出血」と認識していることがある。次に器質性出血(子宮頸癌・子宮頸管ポリープ・子宮内膜ポリープ・子宮筋腫・子宮内膜増殖症/子宮体癌など)を検索し、さらに出血傾向や薬剤性出血を除外したうえで、ホルモン異常による機能性出血と判断する。 したがって、この時点では妊娠反応、経腟超音波検査、子宮頸部細胞診、性ホルモン検査がいずれも妥当な初期検査となる。一方、妊娠の可能性が否定されていない段階で、放射線被曝を伴い、かつ造影剤を用いる腹部造影CTを行うことは不適切である。さらに本例は内診で腫瘤も圧痛もなく、CTで評価すべき病態を示唆する所見もない。

選択肢考察

  1. ×a.  妊娠反応

    適切な検査である。性成熟期女性の不正性器出血では、最初に妊娠の有無を確認するのが原則である。尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)による妊娠反応は簡便で迅速に結果が得られる。月経不順の女性は妊娠に気付きにくく、流産や異所性妊娠による出血を見逃すと重大な結果を招くため必須である。また、妊娠の可能性がないことを確認しておくことは、放射線検査や薬物投与を安全に行う前提にもなる。

  2. ○b.  腹部造影CT

    適切でない検査である。妊娠の可能性が否定されていない段階で、胎児被曝を伴う腹部・骨盤部のCTを行うべきではない。妊娠初期は器官形成期を含み、被曝や造影剤投与の影響を避けるため、検査前に妊娠の有無を確認するのが原則である。加えて、本例はバイタルが安定し、内診で子宮・付属器に腫大や圧痛がなく、CTが必要となる腫瘍や腹腔内出血を疑う所見もない。子宮・卵巣の形態評価は、被曝がなく骨盤内の解像度にも優れる経腟超音波検査(必要ならMRI)で行うのが適切である。

  3. ×c.  経腟超音波検査

    適切な検査である。被曝がなく非侵襲的で、外来ですぐに施行できる。妊娠反応陽性の場合は子宮内の胎嚢の有無を確認し、子宮内妊娠か異所性妊娠かの鑑別や流産の評価に用いる。妊娠でない場合は、子宮内膜の厚さ、子宮筋腫・内膜ポリープなどの器質的病変、卵巣の腫大や多数の小卵胞の配列(PCOSでみられる多囊胞卵巣所見)などを評価できる。

  4. ×d.  性ホルモン検査

    適切な検査である。希発月経を伴う不正出血では、卵巣機能の評価が原因検索に役立つ。エストロゲン(エストラジオール)・プロゲステロンに加え、LH(黄体形成ホルモン)・FSH(卵胞刺激ホルモン)などのゴナドトロピンやプロラクチン、必要に応じてテストステロンや甲状腺機能を測定する。例えばPCOSではLH高値(LH/FSH比上昇)や男性ホルモン高値がみられ、無排卵の状態ではエストロゲンが持続的に作用する一方でプロゲステロンが分泌されないため、増殖した内膜が不規則に剝がれて出血(破綻出血)が起こる。

  5. ×e.  子宮頸部細胞診

    適切な検査である。外子宮口から出血があり、子宮頸部の病変(子宮頸癌、異形成、頸管ポリープなど)は不正出血の重要な器質的原因である。子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(HPV)感染を背景に20〜30歳代でも発症するため、24歳でも除外が必要である。細胞診は頸部表面を擦過するだけの低侵襲な検査で、妊娠中でも施行可能である。

不正性器出血の原因の整理

・妊娠性出血:流産、異所性妊娠、胞状奇胎、絨毛癌など ・器質性出血:子宮頸癌、子宮頸管ポリープ、子宮腟部びらん、子宮内膜ポリープ、子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)、子宮腺筋症、子宮内膜増殖症・子宮体癌、腟炎・萎縮性腟炎、外傷 ・全身性・薬剤性:出血性素因(血液疾患、抗凝固薬)、ホルモン剤、甲状腺機能異常など ・機能性出血:上記を除外したうえで、視床下部-下垂体-卵巣系のホルモン異常による出血。思春期・更年期に多く、性成熟期ではPCOSや肥満・ストレスに伴う無排卵が背景となることが多い。 ※国際的には、FIGO(国際産婦人科連合)の異常子宮出血の分類(PALM-COEIN:構造的原因であるポリープ・腺筋症・筋腫・悪性/前癌病変と、非構造的原因である凝固異常・排卵障害・内膜因子・医原性・その他)が用いられる。

性成熟期の不正出血の診療手順

1. 妊娠反応で妊娠の有無を確認(陽性なら超音波で妊娠部位・状態を評価、hCG定量) 2. 視診・内診・腟鏡診で出血部位(外陰・腟・頸部・子宮腔)を確認 3. 子宮頸部細胞診(必要に応じてHPV検査、コルポスコピー)、経腟超音波検査 4. 必要に応じて子宮内膜細胞診・組織診、血液検査(血算、凝固能)、ホルモン検査 5. 器質的疾患・妊娠を除外できれば機能性出血として治療(ホルモン療法など)

妊娠可能年齢女性への放射線検査

妊娠の可能性がある女性に放射線検査を行う前には、最終月経や妊娠反応を確認する。診断用放射線量で胎児奇形のリスクが明らかに増えるのはおおむね100mGy以上とされ、通常の腹部CT1回はそれより低いが、不要な被曝は避けるべきであり、本例のように必要性も乏しい場合は行うべきではない。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)

月経異常(希発月経・無月経・無排卵)、多囊胞卵巣、男性ホルモン高値またはLH高値を特徴とする。肥満・インスリン抵抗性を伴うことが多く、無排卵によりエストロゲンへの持続的曝露が続くため、子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクとなる。

POINT

・性成熟期女性の不正性器出血では、まず妊娠反応で妊娠を確認する(月経不順の人ほど妊娠に気付きにくい)。 ・妊娠が否定されるまで、腹部・骨盤部のCTなど胎児被曝を伴う検査は避ける。 ・器質的疾患の検索は経腟超音波検査と子宮頸部細胞診、卵巣機能の評価は性ホルモン(LH・FSH・エストロゲン・プロゲステロン・プロラクチンなど)測定で行う。 ・妊娠性→器質性→全身性・薬剤性を除外して初めて機能性出血と判断する。 ・希発月経+肥満ではPCOSによる無排卵性出血を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。