かゆいのか、痛いのか―外陰部の訴えを「主症状」で仕分ける
第106回医師国家試験 I問題 第19問
国試問題にチャレンジ
外陰部の瘙痒感をきたしにくいのはどれか。
- a.萎縮性腟炎
- b.接触性皮膚炎
- c.外陰ヘルペス
- d.トリコモナス腟炎
- e.外陰腟カンジダ症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
外陰部の瘙痒感は婦人科でよくみられる訴えで、外陰腟カンジダ症(酒粕状白色帯下)、トリコモナス腟炎(泡沫状帯下・いちご状子宮腟部)、接触性皮膚炎、萎縮性腟炎(閉経後の乾燥感・性交痛)などがかゆみを主体とする代表的な疾患です。一方、単純ヘルペスウイルスによる外陰ヘルペスは多発小水疱と有痛性潰瘍を特徴とし、主症状は強い疼痛で、初発例では発熱や鼠径リンパ節腫脹、排尿・歩行困難を伴うことがあります。再発型では前駆症状として軽いかゆみを自覚することもありますが、疾患全体としては瘙痒感を最もきたしにくいといえます。長引く外陰部瘙痒では硬化性苔癬や外陰Paget病などの腫瘍性疾患も鑑別に挙げる必要があります。「かゆみか痛みか」という症状の質と帯下の性状を組み合わせる考え方は、外陰・腟疾患を効率よく鑑別する土台になります。
解答・解説
正解はcです
外陰部の瘙痒感(かゆみ)は婦人科外来で非常に多い訴えであり、その原因となる疾患を「かゆみが主体のもの」と「痛みが主体のもの」に分けて整理しておくことが本問の鍵である。 かゆみが前景に立つ代表は、真菌感染である外陰腟カンジダ症、原虫感染であるトリコモナス腟炎、アレルギー・刺激による接触性皮膚炎、そしてエストロゲン低下に伴う萎縮性腟炎(外陰の萎縮・炎症を伴う場合)である。いずれも帯下の性状や背景(妊娠・糖尿病・抗菌薬使用、性交渉、使用した外用薬や下着、閉経など)から鑑別していく。 一方、単純ヘルペスウイルス(HSV)による外陰ヘルペスは、外陰に多発する小水疱とそれが破れた浅い潰瘍を特徴とし、主症状は「強い疼痛」である。特に初感染による初発例では、排尿や歩行が困難になるほどの激しい痛みを生じ、発熱や鼠径リンパ節腫脹を伴うこともある。したがって、5つの選択肢の中で外陰部の瘙痒感を「きたしにくい」ものとしては外陰ヘルペスを選ぶのが最も妥当である。 なお、厳密にはいずれの疾患も瘙痒感をきたしうる。再発型の外陰ヘルペスでは、病変出現前の前駆症状としてムズムズ感・瘙痒感を自覚することがあり、また萎縮性腟炎も腟に限局していれば外陰のかゆみは目立たないこともある。しかし、疾患の「主症状」という観点で比較すると、疼痛が主体である外陰ヘルペスが最も瘙痒感と結びつきにくい。
選択肢考察
- ×a. 萎縮性腟炎
閉経後や卵巣摘出後などでエストロゲンが低下すると、腟・外陰の上皮が薄くなり、グリコーゲン減少による乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)の減少から腟内pHが上昇して細菌が増えやすくなる。その結果、腟の乾燥感、性交痛、少量の出血や黄色帯下とともに、外陰部の瘙痒感や灼熱感をきたす。腟だけの変化であれば外陰のかゆみは目立たないこともあるが、外陰の萎縮・炎症を伴えばかゆみを訴えることが多く、瘙痒感をきたしうる疾患に含まれる。
- ×b. 接触性皮膚炎
石けん・洗浄剤、生理用ナプキン、下着の素材、外用薬(抗真菌薬や消毒薬を含む)などの刺激物質やアレルゲンが外陰の皮膚に接触して生じる湿疹性の炎症である。発赤、腫脹、丘疹、びらんとともに強い瘙痒感を伴うのが典型であり、外陰部瘙痒症の原因として重要である。原因物質の除去とステロイド外用が治療の基本となる。
- ○c. 外陰ヘルペス
単純ヘルペスウイルス(主にHSV-2、近年はHSV-1も増加)による性感染症で、外陰に多発する小水疱と、それが破れてできる浅い有痛性潰瘍が特徴である。主症状は強い疼痛で、初発例では排尿痛や歩行困難をきたすほどの痛みに加え、発熱、倦怠感、両側鼠径リンパ節の有痛性腫脹を伴うことがある。再発例では前駆症状として軽いかゆみやムズムズ感を感じることはあるが、疾患全体としては疼痛が前景に立つため、選択肢の中で瘙痒感を最もきたしにくいのはこれである。
- ×d. トリコモナス腟炎
腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)という原虫による感染症で、主に性行為で感染する。黄緑色~灰色の悪臭を伴う泡沫状帯下が典型で、外陰炎を合併しやすく、外陰部の瘙痒感や灼熱感を伴う。腟壁や子宮腟部に点状出血(いちご状子宮腟部)がみられることがある。診断は帯下の生鮮標本(鏡検)で運動する虫体を確認することで行い、治療はメトロニダゾールなどのニトロイミダゾール系薬で、パートナーの同時治療が必要である。
- ×e. 外陰腟カンジダ症
主にCandida albicansによる真菌感染で、外陰部の強い瘙痒感が最も特徴的な症状である。帯下は酒粕状・カッテージチーズ様の白色帯下で、外陰の発赤・腫脹を伴う。妊娠、糖尿病、抗菌薬投与、ステロイドや免疫抑制薬の使用などが誘因となる。性感染症というより常在真菌の増殖による内因性感染が主体である。治療は抗真菌薬(アゾール系)の腟錠・外用薬である。
外陰・腟の主な疾患と症状の整理
・外陰腟カンジダ症:強い瘙痒感、酒粕状(カッテージチーズ様)白色帯下。誘因は妊娠、糖尿病、抗菌薬、免疫抑制。 ・トリコモナス腟炎:泡沫状の黄緑色帯下、悪臭、瘙痒感、いちご状子宮腟部。性感染症でパートナー治療が必要。 ・細菌性腟症:灰白色で均一な帯下、魚臭(アミン臭)が特徴。瘙痒感は乏しいことが多い。 ・萎縮性腟炎:閉経後、腟乾燥感・性交痛・瘙痒感・少量出血。エストロゲン補充(腟錠など)が有効。 ・接触性皮膚炎:原因物質への接触後の発赤・丘疹と強い瘙痒感。 ・外陰ヘルペス:多発小水疱と有痛性潰瘍、強い疼痛、鼠径リンパ節腫脹。治療は抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビルなど)。
性器ヘルペスの初発と再発
初感染による初発型は症状が強く、発熱、排尿困難、歩行困難、ときに髄膜炎や尿閉をきたす。神経節に潜伏したウイルスが再活性化する再発型は症状が軽く、病変出現の数時間~1日前にピリピリ感・瘙痒感などの前駆症状を自覚することがある。
外陰部瘙痒感のその他の原因
硬化性苔癬、外陰の湿疹、疥癬・毛じらみ(ケジラミ症)、糖尿病、外陰上皮内腫瘍・外陰Paget病なども外陰部瘙痒の原因となる。長引く瘙痒では悪性疾患の除外も考える。
POINT
・外陰ヘルペスの主症状は瘙痒ではなく疼痛(多発小水疱・有痛性潰瘍)。 ・強い瘙痒+酒粕状白色帯下 → 外陰腟カンジダ症。 ・瘙痒+泡沫状帯下+いちご状子宮腟部 → トリコモナス腟炎。 ・閉経後の瘙痒・乾燥感・性交痛 → 萎縮性腟炎。 ・再発型ヘルペスでは前駆症状として瘙痒感をきたすことがあるが、主症状は疼痛である。
