StudyMed医師国家試験

踵で歩けますか?―L5神経根障害は「足首を持ち上げる力」に出る

第106回医師国家試験 I問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第18問

腰椎椎間板ヘルニアでL5神経根が圧迫され,同側下肢の筋力低下がみられた。  障害されると考えられる動作はどれか。

  1. a.股関節屈曲
  2. b.股関節内転
  3. c.膝関節伸展
  4. d.足関節背屈
  5. e.足関節底屈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腰椎椎間板ヘルニアで圧迫された神経根の高さと、それによって弱くなる動作を結びつける問題だ。整形外科の外来では、筋力・感覚・腱反射の3つを組み合わせて「どの神経根がやられているか」を推定する。その中でも筋力の対応表を正しく覚えているかがポイントになるよ。
医学生医学生
下肢の髄節支配は解剖の講義で覚えたはずなんですが、L4とL5のあたりがいつも曖昧になってしまいます。
ドクタードクター
そこが一番混乱しやすいところだね。まずはヘルニアの基本から整理しよう。腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の中心にある髄核が線維輪を破って後方へ飛び出し、神経根を圧迫する病気だ。好発部位はどこだったかな。
医学生医学生
L4/5とL5/S1です。L4/5のヘルニアだと、L4神経根が圧迫されるんでしたっけ?
ドクタードクター
そこはよくある誤解だ。最も多い後外側型のヘルニアでは、その椎間板の高さを通過して一つ下の椎間孔から出る神経根が圧迫される。だからL4/5ならL5神経根、L5/S1ならS1神経根が障害されることが多いんだ。同じ高さのL4神経根が圧迫されるのは、椎間孔内や椎間孔外に飛び出す外側型の場合だね。
医学生医学生
なるほど、通り道で踏まれるのは一つ下の神経根なんですね。では、L5神経根が障害されると何が弱くなるんですか。
ドクタードクター
L5の代表筋は長母趾伸筋、つまり母趾を背屈させる筋だ。長趾伸筋とともに足趾を持ち上げ、前脛骨筋とあわせて足関節を背屈させる。これらはすべて深腓骨神経の支配で、前脛骨筋はL4〜L5、長母趾伸筋と長趾伸筋は主にL5の髄節に由来する。選択肢の中でL5が主に関与するのは足関節背屈なので、これが正解になる。
医学生医学生
臨床実習の整形外科で、先生が患者さんに「踵で立って歩いてみてください」と指示していたのを思い出しました。あれはL5を見ていたんですね。
ドクタードクター
その通り。L5障害では踵歩きが難しくなり、重症になると下垂足を呈する。つま先が垂れて引っかかるので、膝を高く上げて歩く鶏歩になるんだ。感覚障害は下腿外側から足背、母趾にかけて出るのも特徴だよ。では他の選択肢も確認しよう。足関節底屈はどうかな。
医学生医学生
底屈は下腿三頭筋なので、S1ですよね。アキレス腱反射が落ちるほうです。
ドクタードクター
正解。S1神経根障害は主にL5/S1ヘルニアで起こり、つま先立ちが困難になって、アキレス腱反射が低下する。感覚障害は下腿後面から足の外側縁にかけてだ。「背屈はL5、底屈はS1」と対にして覚えるとよい。
医学生医学生
膝関節伸展は大腿四頭筋だからL4あたりでしょうか。
ドクタードクター
そう、大腿四頭筋は大腿神経支配で主にL3〜L4。L4神経根障害では膝伸展の筋力低下と膝蓋腱反射の低下がみられ、感覚障害は下腿内側に出る。L3/4ヘルニアや、L4/5の外側型ヘルニアで起こりうる組み合わせだね。
医学生医学生
残りの股関節屈曲と内転は、もっと上の髄節ですか。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。股関節屈曲の主動作筋は腸腰筋で主にL2〜L3、股関節内転は閉鎖神経支配の内転筋群でL2〜L4が中心だ。どちらも上位腰椎の神経根障害を示す所見で、L5単独の障害で目立って弱くなることはない。
医学生医学生
まとめると、上から股関節、膝、足首の背屈、底屈の順に、L2〜3、L3〜4、L5、S1と下がっていくイメージですね。
ドクタードクター
いい整理だ。ちなみにL5には特徴的な腱反射の変化がないことも押さえておこう。だからL5障害の判断は、母趾背屈の筋力と足背の感覚障害が頼りになる。OSCEの神経診察で長母趾伸筋の徒手筋力テストを練習したのも、この意味があるんだ。
医学生医学生
誘発テストではSLRテストがL5やS1で陽性になるんでしたよね。
ドクタードクター
そう、SLRテストは下位腰椎神経根、大腿神経伸展テストは上位腰椎神経根の障害で陽性になる。治療は多くが保存療法で改善し、飛び出した髄核が自然に吸収されることも多い。ただし、膀胱直腸障害や会陰部の感覚障害を伴う馬尾症候群、進行する筋力低下があれば手術を考える。下垂足を見たら、腰椎だけでなく腓骨頭部での腓骨神経麻痺も鑑別に挙げるといいね。

まとめ

腰椎椎間板ヘルニアで最も多い後外側型では、一つ下の神経根が圧迫されるため、L4/5ヘルニアではL5神経根が障害されやすくなります。L5の代表筋は長母趾伸筋で、長趾伸筋・前脛骨筋とともに足趾と足関節の背屈を担うため、障害されると踵歩きが困難になり、重症では下垂足や鶏歩を呈します。これに対し、足関節底屈とアキレス腱反射はS1、膝関節伸展と膝蓋腱反射はL4、股関節屈曲・内転はL2〜L3中心の上位腰椎が担います。L5には特徴的な腱反射異常がないため、母趾背屈の筋力と下腿外側〜足背の感覚障害が高位診断の手がかりになります。筋力・感覚・反射を組み合わせた高位診断は、腰椎疾患の診察や手術適応の判断の基本となる重要な知識です。

解答・解説

正解はdです

腰椎椎間板ヘルニアで障害された神経根の高位と、それに対応する筋力低下(運動障害)の関係を問う問題である。 腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の中心にある髄核が外側の線維輪を破って後方へ飛び出し、神経根を圧迫する疾患である。好発部位はL4/5とL5/S1の椎間板である。通常の後外側型ヘルニアでは、その椎間板の高さを通って一つ下の椎間孔から出る神経根が圧迫される。したがって、L4/5ヘルニアではL5神経根、L5/S1ヘルニアではS1神経根が障害されることが多い。 神経根障害の高位は、筋力低下・感覚障害・腱反射の3点を組み合わせて判断する。下肢の運動については、次のように覚えるとよい。 ・L2〜L3:股関節屈曲(腸腰筋)、股関節内転(内転筋群) ・L3〜L4:膝関節伸展(大腿四頭筋) ・L4:足関節背屈・内反(前脛骨筋。L4〜L5支配) ・L5:母趾の背屈(長母趾伸筋)、足趾の背屈(長趾伸筋)、足関節背屈 ・S1:足関節底屈(腓腹筋・ヒラメ筋)、足趾の底屈 L5神経根が障害されると、足関節と足趾を背側へ持ち上げる力が弱まり、踵歩き(踵で立って歩くこと)が難しくなる。重症では下垂足となる。選択肢の中でL5神経根が主に関与する動作は足関節背屈である。

選択肢考察

  1. ×a.  股関節屈曲

    L5神経根障害で主に障害される動作ではない。股関節屈曲の主動作筋は腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)で、腰神経叢の枝と大腿神経を介して主にL1〜L3(特にL2〜L3)の支配を受ける。大腿四頭筋のうち大腿直筋も股関節屈曲を補助するが、その支配は大腿神経(L2〜L4)である。股関節屈曲の低下は上位腰椎の神経根障害を示す。

  2. ×b.  股関節内転

    L5神経根障害で主に障害される動作ではない。股関節内転は長内転筋・短内転筋・大内転筋・薄筋などの内転筋群が行い、主に閉鎖神経(L2〜L4)の支配を受ける。

  3. ×c.  膝関節伸展

    L5神経根障害で主に障害される動作ではない。膝関節伸展は大腿四頭筋が行い、大腿神経(L2〜L4、主にL3〜L4)の支配を受ける。L4神経根が障害されると(L3/4ヘルニアや、L4/5の外側型ヘルニアなど)、膝関節伸展の筋力低下と膝蓋腱反射の低下がみられる。

  4. ○d.  足関節背屈

    L5神経根障害で障害される動作である。足関節背屈は前脛骨筋が主動作筋で、長母趾伸筋と長趾伸筋がこれを助ける。これらはいずれも深腓骨神経の支配を受け、髄節ではL4〜L5(前脛骨筋はL4の関与も大きい)、長母趾伸筋と長趾伸筋は主にL5である。L5神経根が障害されると、母趾・足趾の背屈力が低下し、足関節背屈も弱くなって踵歩きが困難になる。重症例では下垂足(drop foot)を呈し、つま先を引きずらないよう膝を高く上げて歩く鶏歩がみられる。感覚障害は下腿外側から足背・母趾にかけて出る。

  5. ×e.  足関節底屈

    L5神経根障害で主に障害される動作ではない。足関節底屈の主動作筋は下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)で、脛骨神経の支配を受け、主にS1(〜S2)の神経根が関与する。S1神経根障害(主にL5/S1ヘルニア)では、つま先立ち(爪先歩き)が困難になり、アキレス腱反射が低下する。感覚障害は下腿後面から足の外側縁・足底外側に出る。

腰椎の神経根障害の高位診断(主なもの)

・L4神経根:筋力低下は大腿四頭筋(膝伸展)・前脛骨筋、感覚障害は下腿内側、腱反射は膝蓋腱反射の低下 ・L5神経根:筋力低下は長母趾伸筋・長趾伸筋(母趾・足趾背屈)、足関節背屈、感覚障害は下腿外側〜足背・母趾、腱反射には特徴的な変化がない ・S1神経根:筋力低下は下腿三頭筋(足関節底屈)・長母趾屈筋、感覚障害は下腿後面〜足外側縁・足底、腱反射はアキレス腱反射の低下

ヘルニアの位置と障害される神経根

・後外側型(最も多い):L4/5ではL5、L5/S1ではS1神経根が圧迫される ・外側型(椎間孔内・椎間孔外):同じ高さで出る神経根が圧迫される(L4/5ではL4) ・正中型の大きなヘルニア:馬尾症候群(両下肢の麻痺、膀胱直腸障害、会陰部の感覚障害)を起こし、緊急手術の適応となる

誘発テスト

・下肢伸展挙上テスト(SLRテスト、Lasègue徴候):L4〜S1の下位腰椎神経根の障害で陽性となる ・大腿神経伸展テスト(FNSテスト):L2〜L4の上位腰椎神経根の障害で陽性となる

治療

多くは安静、薬物療法(非ステロイド性抗炎症薬など)、神経根ブロックなどの保存療法で改善する。飛び出した髄核は自然に吸収されて小さくなることが多い。馬尾症候群、進行する筋力低下、保存療法で改善しない強い痛みがあれば手術を考える。

POINT

・L4/5ヘルニアではL5神経根が障害され、足関節・母趾の背屈力が低下する(踵歩き困難、下垂足) ・L4は膝伸展と膝蓋腱反射、S1は足関節底屈とアキレス腱反射 ・股関節屈曲・内転はL2〜L3中心の上位腰椎の支配

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。