最初に減るのは「貯金」から―フェリチンで読み解く鉄欠乏性貧血
第106回医師国家試験 I問題 第20問
国試問題にチャレンジ
鉄欠乏性貧血の検査所見として正しいのはどれか。
- a.網赤血球増加
- b.総鉄結合能低下
- c.血清フェリチン低下
- d.血清ヘプシジン上昇
- e.赤血球浸透圧抵抗減弱
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
鉄欠乏性貧血では、まず貯蔵鉄が減って血清フェリチンが低下し、続いて血清鉄低下とTIBC上昇(トランスフェリン飽和度低下)が起こり、最後に小球性低色素性貧血となります。フェリチンは最初に低下する最も鋭敏な指標ですが、急性期反応物質でもあるため炎症や肝障害の合併時には解釈に注意が必要です。鉄欠乏ではヘプシジンは低下し、網赤血球は増えず(鉄剤投与後に一過性増加)、薄い赤血球のため浸透圧抵抗は増強します。炎症でヘプシジンが上がる慢性疾患に伴う貧血との対比を機序から理解すると、小球性貧血の鑑別がスムーズになります。臨床では、特に成人男性や閉経後女性で消化管出血の検索を忘れず、フェリチン回復まで鉄剤を続けることが重要です。
解答・解説
正解はcです
鉄欠乏性貧血は、日常診療で最も頻度の高い貧血である。原因は、月経過多・子宮筋腫・消化管出血(胃癌、大腸癌、潰瘍など)による慢性的な失血、妊娠・成長期などの需要増大、胃切除後や萎縮性胃炎などによる吸収障害、偏食による摂取不足などである。 体内の鉄が不足していく過程は段階的に進む。まず肝臓・骨髄などの貯蔵鉄が減り(血清フェリチン低下)、次に血清鉄が低下して、鉄を運ぶトランスフェリンが代償的に増える(総鉄結合能〈TIBC〉上昇、トランスフェリン飽和度低下)。最後にヘモグロビン合成が障害されて、赤血球が小さく色の薄い小球性低色素性貧血(MCV低下、MCHC低下)となる。 この中で、貯蔵鉄量を最もよく反映し、他の検査より早期から低下するのが血清フェリチンである。本問ではこの点を押さえていれば正解を選べる。さらに、鉄代謝を調節するホルモンであるヘプシジン、赤血球の産生状態を表す網赤血球、赤血球の形態を反映する浸透圧抵抗試験についても、鉄欠乏時にどちら向きに変化するかを機序とともに理解しておきたい。
選択肢考察
- ×a. 網赤血球増加
網赤血球は骨髄から出たばかりの若い赤血球で、赤血球産生の活発さを表す。鉄欠乏性貧血はヘモグロビンの材料である鉄が足りないために赤血球を十分につくれない「産生低下型」の貧血であり、網赤血球は正常~低下を示す(貧血の程度に見合った増加がみられない)。網赤血球が増加するのは溶血性貧血や急性出血後の回復期である。なお、鉄剤投与を開始すると1週間前後で網赤血球が一過性に著増し(網赤血球クリーゼ)、治療反応の指標となる。
- ×b. 総鉄結合能低下
総鉄結合能(TIBC)は、血中のトランスフェリンが結合できる鉄の総量で、ほぼトランスフェリン量を反映する。鉄欠乏では鉄を少しでも多く運ぼうとしてトランスフェリンの産生が増えるため、TIBCは上昇する。同時に、使われていない結合能である不飽和鉄結合能(UIBC)も上昇し、トランスフェリン飽和度(血清鉄/TIBC)は低下する(多くは16%未満)。TIBCが低下するのは慢性炎症に伴う貧血(慢性疾患に伴う貧血)や低栄養、ネフローゼ症候群などであり、鉄欠乏性貧血との鑑別点となる。
- ○c. 血清フェリチン低下
フェリチンは細胞内で鉄を貯蔵する蛋白で、血清中のフェリチン値は体内の貯蔵鉄量をよく反映する。鉄欠乏では貧血が現れる前の段階(潜在性鉄欠乏)から最初に低下するため、鉄欠乏の診断に最も有用な指標である。一般に12 ng/mL未満であれば貯蔵鉄の枯渇と判断できる。ただし、フェリチンは急性期反応物質でもあり、炎症、肝障害、悪性腫瘍が併存すると見かけ上高くなるため、そのような場合は解釈に注意が必要である。
- ×d. 血清ヘプシジン上昇
ヘプシジンは肝臓で産生されるペプチドホルモンで、鉄を細胞外へ汲み出す膜蛋白フェロポルチンに結合してこれを分解させる。その結果、十二指腸での鉄吸収とマクロファージからの鉄放出が抑えられ、血清鉄が低下する。鉄欠乏や低酸素、造血亢進の状態ではヘプシジンの産生が抑制され、鉄の吸収と再利用が促進される。したがって鉄欠乏性貧血ではヘプシジンは低下する。反対に、炎症時にはIL-6(インターロイキン6)を介してヘプシジンが増加し、鉄が網内系に閉じ込められることで慢性疾患に伴う貧血が生じる。
- ×e. 赤血球浸透圧抵抗減弱
赤血球浸透圧抵抗試験は、濃度を下げた食塩水中で赤血球がどの程度溶血しにくいかを調べる検査である。鉄欠乏性貧血の赤血球は、ヘモグロビン量が少なく薄く扁平な形(菲薄赤血球、標的赤血球)となり、細胞容積に対して膜の表面積が相対的に大きい。そのため低張液中で水を取り込んで膨らんでも破れにくく、浸透圧抵抗は増強(浸透圧脆弱性は低下)する。浸透圧抵抗が減弱するのは、表面積に対して容積が大きい球状赤血球をもつ遺伝性球状赤血球症などである。
鉄欠乏の進行段階と検査所見
1. 貯蔵鉄欠乏(前潜在性鉄欠乏):血清フェリチン低下のみ。 2. 潜在性鉄欠乏:血清鉄低下、TIBC上昇、トランスフェリン飽和度低下。ヘモグロビンはまだ正常。 3. 鉄欠乏性貧血:ヘモグロビン低下、小球性低色素性(MCV・MCH・MCHC低下)。
小球性貧血の鑑別
・鉄欠乏性貧血:血清鉄↓、TIBC↑、フェリチン↓。 ・慢性疾患に伴う貧血(炎症、感染症、膠原病、悪性腫瘍など):血清鉄↓、TIBC正常~↓、フェリチン正常~↑、ヘプシジン↑。 ・鉄芽球性貧血:血清鉄↑、フェリチン↑、骨髄に環状鉄芽球。 ・サラセミア:血清鉄・フェリチンは正常~↑、標的赤血球が目立つ。
鉄欠乏性貧血の臨床像
貧血症状(動悸、息切れ、易疲労感)に加え、さじ状爪(スプーンネイル)、舌炎・口角炎、嚥下障害(Plummer-Vinson症候群)、異食症(氷を好んで食べるなど)がみられることがある。成人男性や閉経後女性では消化管出血の検索が必須である。
治療
原因疾患の治療と経口鉄剤が基本である。ヘモグロビンが正常化した後も、貯蔵鉄を補充するためフェリチンが回復するまで(目安として数か月)投与を続ける。経口剤が使えない場合は静注鉄剤を用いる。
POINT
・鉄欠乏性貧血:血清フェリチン↓(最初に低下、最も鋭敏)、血清鉄↓、TIBC・UIBC↑、トランスフェリン飽和度↓。 ・小球性低色素性貧血(MCV↓、MCHC↓)。 ・ヘプシジンは鉄欠乏で↓、炎症で↑(慢性疾患に伴う貧血の主因)。 ・網赤血球は増えない(鉄剤投与後に一過性に増加)。 ・赤血球浸透圧抵抗は増強(減弱は遺伝性球状赤血球症)。
