出血は「どこから外へ出るか」で決まる―不正性器出血しにくい子宮内膜症の理由
第112回医師国家試験 F問題 第31問
国試問題にチャレンジ
不正性器出血をきたす可能性が低いのはどれか。
- a.子宮頸癌
- b.萎縮性腟炎
- c.子宮内膜癌
- d.子宮内膜症
- e.子宮粘膜下筋腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
不正性器出血は、腟・子宮頸部・子宮内腔の表面に病変がある疾患で起こりやすく、子宮頸癌(浸潤癌での接触出血)、萎縮性腟炎(エストロゲン低下による粘膜の菲薄化)、子宮内膜癌(閉経後出血が最多の症状)、子宮粘膜下筋腫(過多月経や月経期以外の出血)がその代表です。一方、子宮内膜症の病変は主に骨盤腹膜や卵巣など子宮の外にあり、出血は腹腔内や卵巣内(チョコレート嚢胞)にとどまるため、主症状は月経困難症・慢性骨盤痛・性交痛・不妊であり、不正性器出血は主症状ではありません。過多月経を起こす子宮腺筋症とは区別して理解することも重要です。実臨床では、生殖年齢ではまず妊娠関連の出血を除外し、閉経後では子宮内膜癌を必ず除外するという順序で考えます。「病変の部位」と「出血の出口」を意識することが、不正出血の鑑別を整理する近道になります。
解答・解説
正解はdです
不正性器出血とは、正常な月経以外に生じる性器(外陰・腟・子宮頸部・子宮体部など)からの出血をいう。原因を考えるときは、出血の起こる部位と機序を意識すると整理しやすい。 ・腟・子宮頸部の表面が傷つきやすくなる病態:萎縮性腟炎、子宮頸癌、子宮頸管ポリープ、子宮腟部びらんなど。性交や内診などで擦れたときの接触出血として現れやすい。 ・子宮内腔(内膜)の病変:子宮内膜癌、子宮内膜増殖症、子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫など。内膜が破綻したり、内腔に突出した病変の表面がもろくなったりして出血する。 ・ホルモン異常による出血(機能性出血):排卵障害などによる。 ・妊娠関連:流産、異所性妊娠など。 このように、不正性器出血を起こしやすいのは「腟・子宮頸部・子宮内腔の表面に病変がある疾患」である。一方、子宮内膜症の病変は主に骨盤腹膜や卵巣など子宮の外(腹腔内)に存在し、そこで生じる出血は体外に排出されず腹腔内にとどまる。このため、子宮内膜症の主症状は月経困難症や慢性骨盤痛、不妊などであり、不正性器出血は主症状ではない。選択肢を比較すると、不正性器出血をきたす可能性が最も低いのは子宮内膜症である。
選択肢考察
- ×a. 子宮頸癌
子宮頸癌は不正性器出血の代表的な原因である。上皮内癌(CIN3を含む前癌病変)の段階では無症状のことが多く、検診の細胞診で発見されるが、浸潤癌になると腫瘍表面がもろく易出血性となり、性交時などの接触出血として発症することが多い。進行すると持続的な出血や悪臭を伴う帯下もみられる。
- ×b. 萎縮性腟炎
閉経後などエストロゲンが低下すると、腟の上皮が薄くなり、腟内の乳酸桿菌が減って腟内のpHが上昇し、細菌感染も起こりやすくなる。こうして生じる萎縮性腟炎(老人性腟炎)では粘膜がもろく、性交時の接触出血や少量の出血、帯下の増加、腟の乾燥感・性交痛がみられる。閉経後の不正性器出血の原因として頻度が高い。近年は閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)の一部として扱われることが多い。
- ×c. 子宮内膜癌
子宮内膜癌(子宮体癌)の最も多い症状は不正性器出血であり、患者の大部分にみられる。好発年齢は閉経前後から閉経後の50〜60歳代で、閉経後の出血をみたら必ず内膜癌を念頭に置き、経腟超音波での内膜厚の評価や子宮内膜細胞診・組織診を行う。
- ○d. 子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮の外(骨盤腹膜、卵巣、ダグラス窩など)で増殖・出血を繰り返す疾患である。病変からの出血は腹腔内や卵巣内(チョコレート嚢胞)にたまるため、性器からの出血としては現れにくい。主症状は月経困難症(月経痛)、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、不妊であり、本選択肢の中では不正性器出血をきたす可能性が最も低い。なお、子宮筋層内に内膜様組織が生じる子宮腺筋症では過多月経がみられるが、これは子宮内膜症とは区別される病態である。
- ×e. 子宮粘膜下筋腫
子宮筋腫は発生部位により粘膜下・筋層内・漿膜下に分けられる。粘膜下筋腫は子宮内腔に向かって発育するため内膜の表面積が増え、内膜の剥離・止血が障害されて、過多月経・過長月経や月経期以外の出血を起こしやすい。筋腫の中で最も出血症状が強く、小さくても鉄欠乏性貧血をきたしやすい。有茎性の粘膜下筋腫が子宮口から腟内に脱出する筋腫分娩では、表面の壊死や感染による出血もみられる。
不正性器出血の主な原因
・妊娠関連:流産、異所性妊娠、絨毛性疾患など(生殖年齢では最初に妊娠の可能性を否定する) ・炎症:腟炎(萎縮性腟炎、トリコモナス腟炎など)、子宮頸管炎、子宮内膜炎 ・良性病変:子宮頸管ポリープ、子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫、子宮内膜増殖症、子宮腟部びらん ・悪性腫瘍:子宮頸癌、子宮内膜癌、子宮肉腫、腟癌、外陰癌、一部の卵巣腫瘍(エストロゲン産生性の顆粒膜細胞腫など) ・機能性出血:排卵障害などのホルモン異常による出血。中間期出血(排卵期出血)は排卵期のエストロゲン一過性低下による生理的な少量出血である ・その他:外傷、異物、薬剤(抗凝固薬、ホルモン剤など)、血液凝固異常
子宮内膜症の要点
・好発:生殖年齢女性。エストロゲン依存性で、閉経後には軽快する ・発生機序:月経血の逆流により内膜組織が腹腔内に生着するという移植説が有力 ・好発部位:卵巣(チョコレート嚢胞)、ダグラス窩、仙骨子宮靱帯、骨盤腹膜 ・症状:月経困難症(進行性に増悪)、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、不妊 ・所見:内診でダグラス窩の硬結・圧痛、子宮の可動性制限。血清CA125が上昇することがある ・合併症:卵巣チョコレート嚢胞の破裂、まれに癌化(明細胞癌・類内膜癌) ・治療:鎮痛薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、黄体ホルモン製剤(ジエノゲストなど)、GnRHアゴニスト・アンタゴニスト、腹腔鏡下手術など
年齢層ごとの考え方
・生殖年齢:まず妊娠関連の出血を除外し、次に器質的疾患と機能性出血を鑑別する ・閉経後:子宮内膜癌を必ず除外する。頻度としては萎縮性腟炎も多い
POINT
・不正性器出血の原因となりやすいのは、腟・子宮頸部・子宮内腔の表面に病変がある疾患(子宮頸癌、萎縮性腟炎、子宮内膜癌、粘膜下筋腫など) ・子宮頸癌:浸潤癌で接触出血が典型的(上皮内癌は無症状が多い) ・子宮内膜癌:閉経後の不正出血が最多の症状 ・萎縮性腟炎:エストロゲン低下による粘膜の菲薄化で接触出血 ・粘膜下筋腫:筋腫の中で最も過多月経・不正出血をきたしやすい ・子宮内膜症:病変は主に腹腔内。主症状は月経困難症・慢性骨盤痛・不妊で、不正性器出血は主症状ではない
