CTに写らない癌を探せ―喀痰のオレンジ色の細胞が導く気管支鏡
第113回医師国家試験 A問題 第40問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。血痰を主訴に来院した。1か月前から1日数回の血痰が出現したため受診した。発熱や咳嗽は自覚していない。6か月前の健診では特に異常を指摘されていない。喫煙歴は20本/日を58年間。体温36.7℃。脈拍64/分,整。血圧122/78mmHg。呼吸数16/分。SpO2 97%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。血液検査および胸部単純CTで異常を認めない。喀痰細胞診のPapanicolaou染色標本を別に示す。 次に行うべき検査はどれか。

- a.気管支内視鏡検査
- b.胸腔鏡検査
- c.縦隔鏡検査
- d.胸部MRI
- e.PET/CT
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
重喫煙者の血痰で、喀痰細胞診のPapanicolaou染色に細胞質がオレンジ色に染まる角化した異型細胞を認めれば、肺扁平上皮癌を疑います。扁平上皮癌は喫煙と関連が強く中枢の太い気管支に発生しやすいため、粘膜内にとどまる早期の肺門部癌は胸部CTやX線で異常を示さないことがあります。このような場合は気管支内視鏡検査で粘膜を直接観察し、自家蛍光気管支鏡などを併用して病変部位を特定し、生検で確定診断します。胸腔鏡は胸膜病変、縦隔鏡は縦隔リンパ節の評価、MRIは局所進展、PET/CTは転移検索に用いる検査で、いずれも原発巣と組織型を確定した後の段階で役立ちます。「存在診断→確定診断→病期診断」という肺癌診療の流れを理解しておくことが、検査を適切な順序で選ぶ判断の土台になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・78歳男性で、喫煙歴は20本/日×58年(ブリンクマン指数=1日本数×喫煙年数=1,160)と非常に多い。肺癌、特に扁平上皮癌の高危険群である。 ・1か月前から1日数回の血痰がある。発熱・咳嗽はなく、バイタルサインは正常。 ・血液検査と胸部単純CTに異常はない。感染症(肺炎・肺結核など)、気管支拡張症、末梢型の肺腫瘤、胸水、縦隔病変などを示す所見はないことになる。 ・喀痰細胞診(Papanicolaou染色)では、細胞質がオレンジG・エオジンで橙〜赤色に濃く染まり、核の形が不整でクロマチンが増量した異型細胞がみられる。Papanicolaou染色で細胞質が橙色に染まるのは角化(ケラチン産生)を示す所見であり、角化型扁平上皮癌を示唆する。
診断へのプロセス
重喫煙者の血痰と喀痰細胞診の陽性所見から、肺扁平上皮癌が強く疑われる。一方、胸部CTでは腫瘤影も無気肺もない。扁平上皮癌は喫煙との関連が強く、区域気管支より中枢の太い気管支に発生しやすい(肺門部型・中心型)。中枢気道の粘膜内にとどまる早期病変(肺門部早期肺癌)は、CTや胸部X線では写らないことが多い。こうした病変は喀痰細胞診で偶然見つかることがあり、本例はその典型である。
設問の考え方
「次に行うべき検査」は、画像に写らない気道内の病変がどこにあるかを特定し、組織を採って確定診断をつけるための検査である。気管・気管支の内腔を直接観察でき、生検もできる気管支内視鏡検査が最優先となる。病期診断(リンパ節転移・遠隔転移・周囲への浸潤の評価)は、病変部位と組織型が確定してから行う。
選択肢考察
- ○a. 気管支内視鏡検査
正しい。CTで捉えられない中枢気道の病変が疑われるため、気管支鏡で気管・気管支の粘膜を直接観察して病変部位を特定し、生検や擦過細胞診で組織学的に確定診断する。早期病変は粘膜のわずかな変化しかないことがある。その場合は自家蛍光気管支鏡(腫瘍部では正常粘膜の緑色の自家蛍光が弱まる)や狭帯域光観察(NBI)を併用すると検出しやすい。
- ×b. 胸腔鏡検査
誤り。胸腔鏡検査は胸腔内に内視鏡を入れ、胸膜病変(悪性中皮腫、癌性胸膜炎、結核性胸膜炎など)の観察や生検、末梢肺病変の切除生検などに用いる。本例は胸部CTで胸水も胸膜病変も末梢肺の腫瘤もなく、気道内の病変が疑われるため適応がない。侵襲も大きい。
- ×c. 縦隔鏡検査
誤り。縦隔鏡検査は頸部の小切開から縦隔に内視鏡を入れ、縦隔リンパ節や縦隔腫瘤を生検する検査で、肺癌では縦隔リンパ節転移の評価(病期診断)に用いられる。本例はCTで縦隔リンパ節腫大や縦隔腫瘤がなく、原発巣の確定もまだであるため、現時点で行う意義はない。
- ×d. 胸部MRI
誤り。胸部MRIは軟部組織のコントラストに優れ、肺尖部胸壁浸潤癌(Pancoast腫瘍)の腕神経叢・胸壁への浸潤や、縦隔・心大血管への浸潤の評価など、局所進展の判定に補助的に用いる。しかし、CTで写らない気管支粘膜の早期病変を描出する能力はなく、組織も得られないため、病変の特定と確定診断には役立たない。
- ×e. PET/CT
誤り。FDG-PET/CTはブドウ糖代謝が亢進した部位を描出する検査で、肺癌ではリンパ節転移や遠隔転移の検索(病期診断)に有用である。しかし、粘膜内にとどまる小さな早期病変は集積が乏しく、描出できないことが多い。組織診断もできない。病変の部位と組織型を気管支鏡で確定した後に、病期診断として行う検査である。
Papanicolaou染色と肺癌の組織型
・Papanicolaou染色は、核をヘマトキシリンで青紫に、細胞質をオレンジG・エオジン・ライトグリーンで染め分ける細胞診の標準染色である。 ・角化した扁平上皮癌細胞は細胞質がオレンジ〜赤色に濃染し、オタマジャクシ型・線維型などの奇妙な形をとり、核は濃染して不整となる。 ・腺癌細胞は細胞質がライトグリーンでやや淡く染まり、核小体が目立つ。乳頭状・腺腔状の集塊をつくる。 ・小細胞癌は小型で細胞質に乏しく、核が互いに押し合うように並ぶ(木目込み細工様配列)。
肺門部(中心型)肺癌と末梢型肺癌
・中心型: 扁平上皮癌・小細胞癌に多く、喫煙と強く関連する。血痰・咳嗽が出やすく、喀痰細胞診の陽性率が高い。無気肺・閉塞性肺炎をきたしうる。早期にはX線・CTで異常がないことがある。 ・末梢型: 腺癌に多く、検診のX線・CTで結節影として見つかることが多い。
肺癌の診断の流れ
1. 存在診断: 胸部X線、胸部CT、喀痰細胞診 2. 確定診断(組織型): 気管支鏡下生検・擦過細胞診、超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)、CTガイド下経皮肺生検、胸腔鏡下生検など 3. 病期診断: 造影CT、FDG-PET/CT、頭部MRI、骨シンチグラフィ、必要に応じてEBUS-TBNAや縦隔鏡による縦隔リンパ節評価 4. 治療方針の決定(腺癌などではドライバー遺伝子・PD-L1発現も検索)
肺癌検診での喀痰細胞診
50歳以上でブリンクマン指数600以上の高危険群には、胸部X線に加えて喀痰細胞診が行われる。胸部X線で写りにくい肺門部の扁平上皮癌を拾い上げることが目的である。
POINT
・重喫煙者の血痰で、喀痰細胞診でPapanicolaou染色でオレンジ色に染まる異型細胞があれば扁平上皮癌を考える。 ・扁平上皮癌は中枢気道に発生しやすく、早期の肺門部癌はCTで写らないことがある。 ・画像で異常がなく喀痰細胞診が陽性→気管支鏡(自家蛍光気管支鏡などを併用)で部位を特定し生検する。 ・PET/CT・MRI・縦隔鏡は確定診断後の病期診断・局所進展評価に用いる。
