笑顔が消えた8か月児―「お辞儀の連発」と発達の退行が告げるWest症候群
第113回医師国家試験 A問題 第37問
国試問題にチャレンジ
8か月の男児。最近笑わなくなったことを心配した両親に連れられて来院した。在胎39週3日,出生体重3,240g,Apgarスコア8点(1分),10点(5分)で出生した。あやし笑いを2か月で,定頸を3か月で,お坐りを7か月で獲得した。1か月前から笑うことが少なく表情が乏しくなり,次第に坐位が不安定になってきた。2週間前から頭部を前屈するとともに四肢を一瞬屈曲する動作を10秒程度の間隔で20回ほど繰り返すことが,毎日見られるようになった。この動作の後には泣くことが多い。 可能性が高いのはどれか。
- a.West症候群
- b.欠神てんかん
- c.憤怒けいれん
- d.Lennox-Gastaut症候群
- e.中心・側頭部に棘波を持つ良性小児てんかん
対話形式の解説
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医学生まとめ
乳児期に、頭部前屈と四肢屈曲を伴う短いてんかん性スパズムが数秒〜十数秒間隔で連続して起こり(シリーズ形成)、笑わなくなる・坐位が保てないといった発達の退行を伴う場合は、West症候群を強く疑います。脳波ではヒプスアリスミアを認め、原因として結節性硬化症、低酸素性虚血性脳症、脳形成異常などを検索し、ACTH療法やビガバトリンで早期に治療を始めることが発達予後の改善につながります。鑑別では、学童期の3Hz棘徐波を示す欠神てんかん、幼児期発症で遅棘徐波を示すLennox-Gastaut症候群、学童期の入眠時顔面発作を示すローランドてんかん、啼泣が誘因となる非てんかん性の憤怒けいれんを、発症年齢と発作の出かたで区別します。小児てんかんを年齢軸で整理しておくことは、外来で保護者の訴えから重大な疾患を拾い上げる力の土台になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・周産期歴:在胎39週3日の正期産、出生体重3,240gと正常範囲で、Apgarスコアは1分8点・5分10点と新生児仮死はない。周産期に明らかな脳障害の原因は見当たらない。 ・発達歴:あやし笑い2か月、定頸3か月、お坐り7か月と、いずれも標準的な時期に獲得しており、7か月ころまでの発達は正常である。 ・1か月前から:笑いが減って表情が乏しくなり(精神面の退行)、いったんできていた坐位が不安定になった(運動面の退行)。乳児期に獲得済みの能力が失われる「発達の退行」が起きている。 ・2週間前から:頭部を前屈すると同時に四肢を一瞬屈曲させる動作が出現している。これはてんかん性スパズム(攣縮)と呼ばれる発作で、1回は1〜2秒程度と短く、Moro反射やお辞儀に似た姿勢をとる。日本ではかつて「点頭発作」と呼ばれた。 ・この発作が10秒程度の間隔で20回ほど連続して起こっている。このように短い発作が一定間隔で反復するのを「シリーズ形成」と呼び、スパズムの大きな特徴である。発作後に泣くことが多い点も典型的である。
診断へのプロセス
乳児期(多くは生後3〜11か月)に、①シリーズ形成するてんかん性スパズム、②脳波上のヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)、③精神運動発達の停止・退行、の3つがそろうのがWest症候群である。本例は脳波の記載はないが、発症年齢、シリーズ形成するスパズム、発達の退行がそろっており、West症候群の可能性が最も高い。 鑑別として、同じくスパズムを示す大田原症候群は新生児期〜生後3か月ころまでに発症し、脳波でサプレッション・バースト(suppression-burst)を示す点で異なる。また、乳児の良性の生理的反応(Moro反射、驚愕反応)や憤怒けいれんは、シリーズ形成や発達の退行を伴わない。 確定には脳波でヒプスアリスミアを確認し、あわせて頭部MRIや遺伝子・代謝検査などで原因(結節性硬化症、低酸素性虚血性脳症、脳形成異常など)を検索する。
選択肢考察
- ○a. West症候群
生後8か月という発症年齢、頭部前屈と四肢屈曲を伴う短いてんかん性スパズムが10秒前後の間隔で反復するシリーズ形成、そして笑わなくなる・坐位が保てなくなるといった精神運動発達の退行がそろっており、West症候群に典型的である。脳波では、高振幅の不規則な徐波に多焦点性の棘波が混じり合い、背景活動が無秩序となるヒプスアリスミアがみられる。年齢依存性のてんかん性脳症(発達性てんかん性脳症)の代表であり、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法やビガバトリンなどで早期に治療を開始することが発達予後の改善につながる。
- ×b. 欠神てんかん
小児欠神てんかんは主に4〜10歳ころ(学童期前後)に発症し、数秒〜十数秒程度の突然の意識減損(動作が止まり一点を凝視する)を1日に何回も繰り返す。過呼吸で誘発され、発作時脳波では3Hzの全般性棘徐波複合がみられる。乳児期発症ではなく、頭部前屈・四肢屈曲のシリーズ形成発作や発達の退行も伴わないため合わない。
- ×c. 憤怒けいれん
憤怒けいれん(泣き入りひきつけ)は、激しく泣いたり痛みや恐怖を感じたりしたことをきっかけに、呼気の状態で呼吸が止まり、チアノーゼや顔面蒼白、短い意識消失、時に全身のけいれん・脱力を起こすものである。てんかんではなく、生後6か月〜1歳半ころに始まることが多く、家族歴を伴いやすい。鉄欠乏性貧血との関連も指摘される。成長とともに自然に消失し、予後は良好である。本例では発作が啼泣に「先行」して自発的に起こり(泣くのは発作の後)、シリーズ形成や発達の退行を伴う点で異なる。
- ×d. Lennox-Gastaut症候群
Lennox-Gastaut症候群も年齢依存性のてんかん性脳症であるが、発症は主に幼児期(1〜8歳、とくに3〜5歳)である。強直発作(とくに睡眠中)、非定型欠神発作、脱力発作など多彩な発作を示し、脳波では遅棘徐波複合(1.5〜2.5Hz程度の全般性棘徐波)や睡眠中の速律動(rapid rhythm)がみられる。知的障害を伴い、難治である。West症候群から移行することがあるが、生後8か月での発症やシリーズ形成するスパズムは本症候群の特徴ではない。
- ×e. 中心・側頭部に棘波を持つ良性小児てんかん
ローランドてんかんとも呼ばれ、小児の焦点てんかんで最も頻度が高い。3〜13歳(とくに学童期)に発症し、入眠時や覚醒直前に、一側の顔面・口周囲のけいれん、流涎、構音障害などの焦点発作を起こし、ときに全身けいれんへ進展する。脳波では中心・側頭部の棘波が睡眠時に増加する。発達は正常で、思春期までに自然寛解する予後良好なてんかんである。乳児期発症ではなく、発達の退行もないため合わない。なお近年の国際分類では「中心・側頭部棘波を示す自然終息性てんかん」と呼ばれる。
West症候群の要点
・発症:乳児期(生後3〜11か月、ピークは4〜7か月ころ)。2022年の国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類では「乳児てんかん性スパズム症候群(IESS)」という枠組みで扱われ、3徴がそろうものを従来どおりWest症候群と呼ぶ。 ・3徴:シリーズ形成するてんかん性スパズム、ヒプスアリスミア、精神運動発達の停止・退行。 ・スパズムは屈曲型(頭部前屈・四肢屈曲)が多いが、伸展型や混合型もある。覚醒直後や入眠時に起こりやすい。 ・原因:結節性硬化症、低酸素性虚血性脳症、脳形成異常、脳室周囲白質軟化症、先天代謝異常、染色体異常(Down症候群など)、遺伝子異常など多岐にわたる。原因が特定できない例もある。 ・治療:ACTH療法、ビガバトリン(とくに結節性硬化症が原因の場合に有効)、副腎皮質ステロイドなど。ビガバトリンは視野障害の副作用に注意する。原因によってはケトン食療法や外科治療も検討される。 ・予後:多くで知的障害が残り、一部はLennox-Gastaut症候群など他のてんかんへ移行する。治療開始までの期間が短いほど発達予後がよいとされるため、早期診断が重要である。
年齢依存性てんかん性脳症の流れ
大田原症候群(新生児期〜早期乳児期、サプレッション・バースト)→ West症候群(乳児期、ヒプスアリスミア)→ Lennox-Gastaut症候群(幼児期、遅棘徐波複合)と、年齢に応じて移行することがある。
小児てんかんの発症年齢の目安
・新生児〜早期乳児期:大田原症候群 ・乳児期:West症候群、Dravet症候群(発熱で誘発される長いけいれん) ・幼児期:Lennox-Gastaut症候群 ・学童期:小児欠神てんかん、中心・側頭部棘波を示す自然終息性てんかん(ローランドてんかん) ・思春期:若年ミオクロニーてんかん
POINT
・乳児期+シリーズ形成する頭部前屈・四肢屈曲発作(てんかん性スパズム)+発達の退行 → West症候群。 ・脳波はヒプスアリスミア。治療はACTH療法やビガバトリン。 ・原因として結節性硬化症などの基礎疾患を検索する。 ・Lennox-Gastaut症候群は幼児期発症で遅棘徐波複合、欠神てんかんは学童期で3Hz棘徐波、ローランドてんかんは学童期の入眠時の顔面発作。 ・憤怒けいれんは啼泣が誘因となる非てんかん性の発作で、予後良好。
