StudyMed医師国家試験

房室結節はどこから血をもらう?―下壁梗塞と心サルコイドーシスが完全房室ブロックを招く理由

第112回医師国家試験 F問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第40問

完全房室ブロックを合併しやすいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.WPW症候群
  2. b.肥大型心筋症
  3. c.大動脈弁狭窄症
  4. d.急性心筋梗塞(下壁)
  5. e.心サルコイドーシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は完全房室ブロックを合併しやすい病態を選ぶ問題だ。ポイントは、房室結節・His束・脚という房室伝導路が「どうすれば障害されるか」を考えること。血流が途絶えるか、伝導路そのものに病変が及ぶか、この2つの軸で整理してみよう。
医学生医学生
完全房室ブロックは、心房の興奮が心室にまったく伝わらない状態でしたよね。心電図でP波とQRS波がバラバラに出るやつです。
ドクタードクター
そう、房室解離だね。心室は補充調律で動くから心拍数は40/分前後かそれ以下になり、Adams-Stokes発作や心不全の原因になる。では1つ目の軸、血流から考えよう。房室結節を栄養する動脈はどこから出ているかな。
医学生医学生
解剖の講義で習った気がします……左冠動脈の回旋枝でしたっけ。
ドクタードクター
回旋枝から出る人もいるけれど、約90%の人では右冠動脈から房室結節枝が分岐する。右冠動脈は下壁も灌流しているから、右冠動脈閉塞による下壁梗塞では房室結節が虚血に陥り、房室ブロックが高頻度に起こるんだ。
医学生医学生
下壁梗塞で徐脈になるのはそのためなんですね。循環器内科の実習で、下壁梗塞の患者さんにアトロピンを使っていたのを見ました。
ドクタードクター
いいところを見ているね。下壁は迷走神経終末が豊富で、迷走神経反射も徐脈を助長する。房室結節レベルのブロックなので補充調律はQRS幅の狭い接合部調律が多く、アトロピンが効くことがある。多くは数日から2週間程度で回復する一過性で、血行動態が不安定なら一時的ペーシングで対応するんだ。
医学生医学生
前壁梗塞でも房室ブロックは起こりますか。
ドクタードクター
起こるけれど頻度は低い。ただし前壁梗塞の場合は心室中隔が広く壊死してHis束以下が障害されるので、予後不良で恒久的ペースメーカが必要になることが多い。頻度は下壁、重症度は前壁、と対比して覚えておこう。次に2つ目の軸、伝導路そのものに病変が及ぶ疾患だ。
医学生医学生
病理実習で非乾酪性肉芽腫を見たサルコイドーシスが、心臓にも出るんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。心サルコイドーシスでは肉芽腫が心室中隔基部に好発する。ここはHis束が通る場所だから、肉芽腫や炎症後の線維化で伝導が途絶え、完全房室ブロックが代表的な初発所見の一つになる。心室頻拍や心不全も起こし、突然死の原因にもなるんだ。
医学生医学生
若い人に原因不明の完全房室ブロックがあったら、サルコイドーシスを疑うということですね。
ドクタードクター
まさにそれが臨床で大事なポイント。FDG-PETや心臓MRIで精査し、治療は副腎皮質ステロイドが中心だ。では残りの選択肢も確認しよう。WPW症候群はどうかな。
医学生医学生
Kent束という副伝導路があってデルタ波が出る病気なので、むしろ伝導が速すぎるほうですよね。
ドクタードクター
正解。問題は房室回帰性頻拍や、心房細動が副伝導路を通って高頻度に心室へ伝わる偽性心室頻拍で、ブロックとは逆の病態だ。肥大型心筋症はどうだろう。
医学生医学生
肥大型心筋症は突然死のイメージがありますが、それは心室性不整脈が原因でしたよね。
ドクタードクター
そう。不整脈としては心房細動や心室頻拍・心室細動が重要で、房室伝導が自然経過で障害されることは少ない。ただし閉塞性肥大型心筋症の治療であるアルコール中隔焼灼術の合併症として房室ブロックが起こることはある。大動脈弁狭窄症も、弁輪石灰化の波及やTAVI後に伝導障害が起こることはあるけれど、疾患として合併しやすい代表とはいえないね。
医学生医学生
疾患そのものの特徴なのか、治療の合併症なのかを区別することが大事なんですね。
ドクタードクター
その視点はとても大切だ。完全房室ブロックの原因としてはほかに、心アミロイドーシスや心筋炎、刺激伝導系の特発性線維化、抗SS-A抗体陽性の母体から生まれた児の先天性完全房室ブロック、β遮断薬やCa拮抗薬などの薬剤、高カリウム血症も押さえておこう。薬剤や電解質は是正すれば戻ることがあるから、ペースメーカを考える前に必ず確認したいポイントだよ。

まとめ

完全房室ブロックはP波とQRS波が無関係に出現する房室解離の状態で、房室伝導路の血流途絶か、伝導路そのものへの病変波及によって生じます。房室結節枝の多くは右冠動脈から分岐するため、下壁梗塞では房室ブロックを合併しやすく、多くは接合部補充調律を示す一過性のものでアトロピンや一時的ペーシングで対応します。心サルコイドーシスは肉芽腫が心室中隔基部のHis束を侵すため完全房室ブロックの代表的原因で、原因不明の房室ブロックをみたら本症を疑って精査します。WPW症候群は伝導が過剰になる病態であり、肥大型心筋症や大動脈弁狭窄症は治療に伴う房室ブロックはあっても疾患そのものの代表的原因ではありません。「血流」と「伝導路への病変」という2つの軸で原因を整理すると、徐脈性不整脈の診療に役立ちます。

解答・解説

正解はd, eです

完全房室ブロック(III度房室ブロック)は、心房からの興奮が心室へまったく伝わらなくなった状態である。心電図ではP波とQRS波がそれぞれ独自の一定リズムで出現し、両者の間に関連がなくなる(房室解離)。心室は房室接合部や心室の補充調律で動くため、心拍数は通常40/分前後かそれ以下となり、めまいや失神(Adams-Stokes発作)、心不全の原因になる。 本問は「どの病態が房室伝導路(房室結節・His束・脚)を障害しやすいか」を問うている。考え方の軸は次の二つである。 ①房室伝導路の血流が途絶える病態:房室結節を栄養する房室結節枝は約90%の人で右冠動脈から分岐する。右冠動脈は下壁も灌流するため、下壁梗塞では房室結節の虚血が起こりやすい。 ②刺激伝導系そのものに病変が及ぶ病態:心室中隔基部には His束が走行しており、ここに肉芽腫・線維化・アミロイド沈着などが生じると伝導が途絶える。代表が心サルコイドーシスである。 一方、副伝導路による頻拍性不整脈(WPW症候群)や、心筋肥大を主体とする疾患(肥大型心筋症)、弁膜症(大動脈弁狭窄症)は、完全房室ブロックの「代表的な原因」としては挙げられない。この整理で正解は d と e となる。

選択肢考察

  1. ×a.  WPW症候群

    WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群は、心房と心室を房室結節以外で直接つなぐ副伝導路(Kent束)をもつ疾患である。心電図ではPQ短縮、デルタ波、QRS幅拡大を示す。問題になるのは伝導が「過剰」になることで、房室回帰性頻拍(副伝導路と房室結節を回路とするリエントリー)や、心房細動が副伝導路を通って心室に高頻度で伝わる偽性心室頻拍(ときに心室細動へ移行)が起こる。伝導が途絶える房室ブロックとは逆の病態であり、完全房室ブロックを合併しやすい疾患ではない。

  2. ×b.  肥大型心筋症

    肥大型心筋症は、主にサルコメア蛋白の遺伝子変異により左室(ときに右室)心筋が不均一に肥大し、拡張障害を主体とする疾患である。心電図では左室高電位、異常Q波、陰性T波(心尖部肥大型では巨大陰性T波)など多彩な変化を示し、不整脈としては心房細動や心室頻拍・心室細動(突然死の原因)が重要である。房室伝導が自然経過で障害されることは少なく、完全房室ブロックの代表的原因とはいえない。なお、閉塞性肥大型心筋症の治療である経皮的中隔心筋焼灼術(アルコールで中隔枝を閉塞させる治療)や中隔心筋切除術の合併症として房室ブロックが起こることはあるが、疾患そのものの特徴ではない。

  3. ×c.  大動脈弁狭窄症

    大動脈弁狭窄症は、加齢による弁の変性・石灰化、二尖弁、リウマチ性などにより大動脈弁口が狭くなり、左室に圧負荷がかかって求心性肥大をきたす疾患である。症状は狭心痛・失神・心不全が三徴とされ、心電図では左室肥大所見がみられる。弁輪の石灰化が心室中隔上部に及ぶと伝導障害(脚ブロックなど)を生じることはあり、また経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI)や外科的弁置換術の後には房室ブロックが一定頻度で起こる。しかし疾患そのものとして完全房室ブロックを「合併しやすい」代表例とはいえず、本問の選択肢の中では下壁梗塞や心サルコイドーシスに比べて頻度・重要度が明らかに低い。

  4. ○d.  急性心筋梗塞(下壁)

    下壁梗塞の多くは右冠動脈の閉塞で起こる。房室結節を栄養する房室結節枝は大部分(約90%)が右冠動脈から分岐するため、下壁梗塞では房室結節が虚血に陥り、I度からIII度までの房室ブロックが高頻度に生じる。加えて下壁は迷走神経終末が豊富で、Bezold-Jarisch反射などの迷走神経緊張も徐脈・房室ブロックを助長する。房室結節レベルのブロックであるため補充調律はQRS幅の狭い接合部調律となることが多く、アトロピンが有効なことがあり、多くは数日〜2週間程度で回復する一過性のものである。血行動態が不安定なら一時的ペーシングを行う。対照的に前壁梗塞に伴う房室ブロックは、中隔の広範な壊死によりHis束以下が障害されるもので、頻度は低いが予後不良で恒久的ペースメーカを要することが多い。

  5. ○e.  心サルコイドーシス

    サルコイドーシスは、全身の臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する原因不明の疾患である。心臓に病変が及ぶと、肉芽腫は心室中隔基部に好発し、そこを走行するHis束や脚を直接侵したり、炎症後の線維化(瘢痕)や微小血管障害を介して伝導を障害したりする。その結果、完全房室ブロックが心サルコイドーシスの最も代表的な初発所見の一つとなる。さらに心室頻拍などの心室性不整脈、心室中隔基部の菲薄化、左室収縮能低下(心不全)も生じ、突然死の原因になる。比較的若い〜中年の患者で原因不明の完全房室ブロックをみたら、本症を疑ってFDG-PETや心臓MRIなどで精査することが重要である。治療は副腎皮質ステロイドが中心で、房室ブロックにはペースメーカ(心室性不整脈のリスクが高ければ植込み型除細動器機能付きのもの)を考慮する。

房室ブロックの分類

・I度:PQ時間の延長(0.20秒を超える)のみで、すべてのP波の後にQRSが続く。 ・II度 Wenckebach型(MobitzI型):PQ時間が徐々に延長し、やがてQRSが1拍脱落する。多くは房室結節レベルで予後良好。 ・II度 MobitzII型:PQ時間は一定のまま突然QRSが脱落する。His束以下の障害が多く、完全房室ブロックへ移行しやすい。 ・高度房室ブロック:2拍以上連続してQRSが脱落する。 ・III度(完全)房室ブロック:P波とQRS波が完全に無関係に出現する(房室解離)。

完全房室ブロックの主な原因

・虚血:急性心筋梗塞(特に下壁梗塞。前壁梗塞の場合は重症) ・浸潤性・炎症性心疾患:心サルコイドーシス、心アミロイドーシス、心筋炎(ウイルス性、ジフテリアなど)、ライム病 ・変性:刺激伝導系の特発性線維化(Lenègre病、Lev病) ・先天性:抗SS-A抗体陽性母体から生まれた児の先天性完全房室ブロック、修正大血管転位症 ・医原性:心臓手術、TAVI、カテーテルアブレーション、アルコール中隔焼灼術 ・薬剤・電解質:β遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ジギタリス、高カリウム血症

ペースメーカ植込みの適応

症状(失神・めまい・心不全)を伴う徐脈性不整脈、MobitzII型II度・高度・III度房室ブロックなど、His束以下の障害が疑われるものが主な適応となる。急性下壁梗塞に伴う一過性のブロックはまず一時的ペーシングで対応する。

POINT

・房室結節枝の多くは右冠動脈から分岐するため、右冠動脈閉塞による下壁梗塞は房室ブロックを合併しやすい(多くは一過性で、接合部補充調律・アトロピン有効)。 ・前壁梗塞に伴う房室ブロックは頻度は低いがHis束以下の障害で予後不良。 ・心サルコイドーシスは心室中隔基部を侵し、完全房室ブロックや心室頻拍、突然死をきたす。原因不明の房室ブロックでは本症を疑う。 ・WPW症候群は伝導が「速すぎる」病態で、房室ブロックとは逆。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。