脾臓で壊れる赤血球―温式AIHAを「抗体・場所・検査」で読み解く
第112回医師国家試験 F問題 第39問
国試問題にチャレンジ
温式自己免疫性溶血性貧血で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.血管内溶血である。
- b.IgM型抗体が原因である。
- c.ハプトグロビンが高値を示す。
- d.間接ビリルビンが高値を示す。
- e.直接Coombs試験が陽性である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
温式自己免疫性溶血性貧血は、37℃付近で反応するIgG型自己抗体が赤血球に結合し、主に脾臓のマクロファージに貪食される血管外溶血を主体とする疾患です。溶血に共通して網赤血球増加、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下がみられ、赤血球結合抗体を証明する直接Coombs試験陽性が診断の決め手となります。IgM型の寒冷凝集素による寒冷凝集素症や、IgG型Donath-Landsteiner抗体で血管内溶血を起こす発作性寒冷ヘモグロビン尿症との区別が重要です。治療の第一選択は副腎皮質ステロイドで、SLEやリンパ増殖性疾患などの続発性の検索も欠かせません。「抗体のクラス・溶血の場・検査所見」の3軸で整理する考え方は、溶血性貧血全般の鑑別に応用できます。
解答・解説
正解はd, eです
自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は、自分の赤血球に対する自己抗体ができ、それが結合した赤血球が破壊されて起こる溶血性貧血である。自己抗体が最もよく反応する温度によって、温式(体温37℃付近で反応)と冷式(低温で反応)に分けられ、温式AIHAが大部分を占める。 本問は温式AIHAの病態を、次の3つの視点から整理できるかを問うている。 (1) 抗体の種類:温式抗体は主にIgGである。IgMは五量体で大きく、低温で赤血球を凝集させる寒冷凝集素として冷式に関与する。 (2) 溶血の場:IgGが結合した赤血球は、主に脾臓のマクロファージがFc受容体(抗体の根元部分を認識する受容体)を介して捕捉・貪食する。すなわち血管の外(網内系)で壊される血管外溶血が主体である。膜の一部だけかじり取られた赤血球は球状赤血球となり、さらに脾臓で壊されやすくなる。 (3) 溶血に共通する検査所見:赤血球が壊れるとヘモグロビンが放出され、ヘムが分解されて間接(非抱合型)ビリルビンが増える。LDも上昇し、ハプトグロビンは遊離ヘモグロビンと結合して消費されるため低下する。骨髄は貧血を補うため赤血球産生を高め、網赤血球が増加する。 これらに加え、赤血球に抗体が結合していることを証明する直接Coombs試験が陽性となることが、免疫性の溶血であることの決め手になる。
選択肢考察
- ×a. 血管内溶血である。
温式AIHAでは、IgG自己抗体(ときに補体C3も)が結合した赤血球が、主に脾臓のマクロファージのFc受容体に認識されて貪食される。赤血球が血管の中ではなく網内系で処理されるため、血管外溶血が主体である。IgGは補体を強く活性化しにくく、血管内で膜攻撃複合体が形成されて赤血球が直接壊れることは通常少ない。そのため、血管内溶血の特徴であるヘモグロビン尿は通常みられない(重症例の例外はある)。血管内溶血が主体になる代表は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、ABO不適合輸血、赤血球破砕症候群などである。
- ×b. IgM型抗体が原因である。
温式AIHAの自己抗体は、37℃付近で最もよく赤血球に結合するIgG型抗体である。IgM型の自己抗体は寒冷凝集素症の原因となる冷式抗体で、低温下で赤血球を凝集させ、補体を活性化して溶血を起こす。なお冷式でも、発作性寒冷ヘモグロビン尿症の原因であるDonath-Landsteiner抗体(寒冷溶血素)はIgG型である。抗体のクラスと反応温度の組合せを整理して覚えておく必要がある。
- ×c. ハプトグロビンが高値を示す。
ハプトグロビンは肝臓でつくられる血漿蛋白で、赤血球から漏れ出た遊離ヘモグロビンと結合し、その複合体はマクロファージに取り込まれて速やかに処理される。溶血が起こるとハプトグロビンは消費されて低値(ときに測定感度以下)となる。血管内溶血で特に著明に低下するが、血管外溶血である温式AIHAでも低下する。したがって高値は誤りである。ハプトグロビン低値は、LD上昇・間接ビリルビン上昇・網赤血球増加とともに溶血の存在を示す重要な所見である。
- ○d. 間接ビリルビンが高値を示す。
破壊された赤血球のヘモグロビンは、マクロファージ内でヘムとグロビンに分かれ、ヘムは鉄が外されたのちビリベルジンを経てビリルビンとなる。これは肝臓でグルクロン酸抱合を受ける前の間接(非抱合型)ビリルビンである。溶血でビリルビンの産生量が肝臓の抱合・排泄能力を上回ると、血中の間接ビリルビンが上昇し、黄疸の原因となる。温式AIHAは溶血性貧血であるため、間接ビリルビンは高値を示す。間接ビリルビンは水に溶けにくくアルブミンと結合して運ばれるため尿中には出ず、尿ビリルビンは陰性である(尿ウロビリノゲンは増加する)。
- ○e. 直接Coombs試験が陽性である。
直接Coombs試験(直接抗グロブリン試験)は、患者の赤血球に抗ヒトグロブリン血清を加え、赤血球表面にすでに結合しているIgGや補体C3が架け橋となって赤血球が凝集するかをみる検査である。温式AIHAでは赤血球膜にIgG自己抗体(ときに補体も)が結合しているため陽性となり、診断の中核となる所見である。また、血清中の自己抗体が赤血球に吸着しきれないほど多量に存在する場合には、血清中の遊離抗体を検出する間接Coombs試験も陽性となることがある。なお、ごく少数ながら直接Coombs試験陰性のAIHAも存在する。
自己免疫性溶血性貧血の分類
・温式AIHA:IgG(ときに補体C3も)。37℃で反応。血管外溶血(主に脾臓)が主体。特発性のほか、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病、慢性リンパ性白血病などのリンパ増殖性疾患、薬剤に続発する。免疫性血小板減少症を合併したものはEvans症候群と呼ぶ。末梢血塗抹では球状赤血球を認める。 ・寒冷凝集素症:IgM型の寒冷凝集素。低温で赤血球凝集・補体活性化。マイコプラズマ肺炎やEBウイルス感染(伝染性単核球症)後、リンパ増殖性疾患に伴う。寒冷曝露で四肢末端や耳介・鼻尖のチアノーゼ、Raynaud現象様の循環障害を起こす。 ・発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH):IgG型のDonath-Landsteiner抗体(寒冷溶血素)。低温で赤血球に結合し、温まると補体により血管内溶血を起こす二相性溶血素。小児のウイルス感染後に多く、かつては梅毒に伴うものが知られた。寒冷曝露後のヘモグロビン尿が特徴。
血管内溶血と血管外溶血
・血管内溶血:血管内で赤血球が破れ、遊離ヘモグロビンが血中に出る。ハプトグロビン著減、ヘモグロビン血症・ヘモグロビン尿、慢性化するとヘモジデリン尿。PNH、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、ABO不適合輸血、赤血球破砕症候群(TTP、溶血性尿毒症症候群、人工弁など)、行軍ヘモグロビン尿症など。 ・血管外溶血:脾臓・肝臓のマクロファージが赤血球を捕捉・処理する。脾腫を伴いやすく、ヘモグロビン尿はみられない。温式AIHA、遺伝性球状赤血球症など。
溶血性貧血に共通する検査所見
網赤血球増加、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、尿ウロビリノゲン増加。
温式AIHAの治療
第一選択は副腎皮質ステロイドである。効果不十分や再発例では、抗CD20抗体のリツキシマブ、摘脾、免疫抑制薬などが検討される。続発性であれば原疾患の治療も行う。輸血を要する場合は、自己抗体の影響で交差適合試験が難しいことがあり注意を要する。
POINT
・温式AIHA:IgG自己抗体、37℃で反応、脾臓での血管外溶血、球状赤血球、直接Coombs試験陽性。 ・冷式:寒冷凝集素症はIgM、発作性寒冷ヘモグロビン尿症はIgG(Donath-Landsteiner抗体)で血管内溶血。 ・溶血の共通所見:網赤血球増加、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下。 ・ヘモグロビン尿は血管内溶血の所見で、温式AIHAでは通常みられない。 ・治療の第一選択は副腎皮質ステロイド。
