肝転移でも「切って治す」―大腸癌だけが持つ例外的な予後
第112回医師国家試験 F問題 第2問
国試問題にチャレンジ
原発巣切除後に再発した転移性肝腫瘍について,最も良好な予後が期待できるのはどれか。
- a.食道癌
- b.胃癌
- c.胆嚢癌
- d.膵癌
- e.大腸癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
消化器からの静脈血は門脈を経て肝臓に流入するため、肝臓は消化器癌の血行性転移の最多部位であり、肝転移は一般に全身病として化学療法の対象となります。その中で大腸癌の肝転移は例外的で、肝臓に限局していることが比較的多く、遺残なく切除でき残肝機能が保てれば肝切除が標準治療となり、切除後の5年生存率はおおむね40〜50%前後と良好です。切除の可否は個数ではなく、取りきれるか・残肝機能・肝外病変の有無・耐術能で判断し、化学療法による縮小後のコンバージョン手術や再肝切除も行われます。一方、食道癌・胃癌・胆嚢癌・膵癌の肝転移は微小転移が広がっていることが多く、化学療法中心で予後不良です。原発巣ごとの転移様式と治療方針の違いを理解することは、術後フォローアップの意義を考えるうえでも重要です。
解答・解説
正解はeです
問われているテーマ
消化器癌が原発巣の切除後に肝臓へ転移・再発した場合、どの癌であれば治療によって良好な予後が見込めるかを問う問題である。
正解を導く考え方
消化管(食道の大部分を除く)や膵臓・脾臓からの静脈血は門脈に集まって肝臓へ流れ込むため、肝臓は消化器癌の血行性転移が最も起こりやすい臓器である。肝転移は一般に「全身に癌が広がった状態(遠隔転移、StageⅣ相当)」を意味し、多くの癌では手術による根治は望めず、薬物療法などが中心となる。 その中で大腸癌は例外的である。大腸癌の肝転移は、肺や腹膜などの他の部位に病変がない、あるいは制御できる状況で、肝臓内に限局した転移として見つかることが比較的多い。このため、転移巣を取り残しなく切除でき、かつ術後に十分な肝機能が残せる場合には肝切除が標準治療となり、切除後の5年生存率はおおむね40〜50%前後と報告されている。これに対し、食道癌・胃癌・胆嚢癌・膵癌の肝転移は、画像上は単発に見えても、すでに微小な転移が肝内や全身に広がっていることが多く、肝切除の効果は限られ予後は不良である。 したがって、選択肢の中で最も良好な予後が期待できるのは大腸癌の肝転移である。
選択肢考察
- ×a. 食道癌
食道癌は悪性度が高く、早期からリンパ節転移や血行性転移をきたしやすい。肝転移は全身性の病態とみなされ、原則として肝切除の適応はなく、化学療法(免疫チェックポイント阻害薬を含む)などの全身治療が中心となる。生存期間は限られ、予後は不良である。
- ×b. 胃癌
胃癌の肝転移は、多発性であったり、腹膜播種やリンパ節転移を伴ったりすることが多く、原則として化学療法が治療の中心である。転移が少数で他に非治癒因子がない場合などに限り、肝切除が選択肢として検討されることもあるが、その対象はごく一部で、根治できる例は少ない。全体としての予後は大腸癌の肝転移に比べて明らかに不良である。
- ×c. 胆嚢癌
胆嚢癌は胆嚢壁が薄く、すぐそばに肝臓があるため、肝臓への直接浸潤やリンパ節転移、腹膜播種をきたしやすく、もともと予後の悪い癌である。術後の肝転移再発は全身に病変が広がっていることを示し、肝切除の適応はなく、化学療法などが行われるが、予後はきわめて不良である。
- ×d. 膵癌
膵癌は消化器癌の中でも最も予後が悪い癌の一つで、切除できた例でも高い頻度で再発する。肝転移再発は全身病として扱われ、肝切除の適応はなく、FOLFIRINOX療法やゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法などの化学療法が中心となる。それでも生存期間は短く、予後は不良である。
- ○e. 大腸癌
大腸癌の肝転移は、切除可能であれば肝切除が第一選択とされ、根治が期待できる数少ない遠隔転移である。切除の可否は転移の個数だけで決まるのではなく、①転移巣をすべて取りきれること、②残った肝臓で十分な肝機能が保てること、③肝臓以外の転移がないか制御可能であること、④患者が手術に耐えられることなどから判断する。肝切除後の5年生存率はおおむね40〜50%前後と、他の消化器癌の肝転移に比べて明らかに良好である。初回に切除できない場合でも、化学療法(分子標的薬を含む)で転移巣が縮小して切除可能となれば手術を行うことがあり(コンバージョン手術)、切除後の肝内再発に対しても再肝切除が行われることがある。手術以外に、ラジオ波焼灼療法などの局所療法が組み合わされることもある。
なぜ肝臓は消化器癌の転移が多いのか
胃・小腸・大腸(下部直腸を除く)・膵臓・脾臓などからの静脈血は門脈を経て肝臓に入る。血流に乗った癌細胞は最初に通過する毛細血管床である肝臓の類洞にとどまりやすく、肝臓が最初の転移先となる。下部直腸の静脈血は一部が内腸骨静脈から下大静脈へ流れるため、下部直腸癌では肺転移も起こりやすい。
大腸癌の血行性転移の特徴
大腸癌は門脈→肝臓→肺という順に、段階的に転移が広がることが比較的多いとされる。このため、肝臓や肺に限局した転移の段階で切除すれば根治が期待できる場合がある。肺転移についても、切除可能であれば肺切除が考慮される。
肝切除の適応が検討される転移性肝腫瘍
大腸癌のほか、神経内分泌腫瘍(NET)の肝転移、消化管間質腫瘍(GIST)の肝転移などでも、条件が整えば切除が検討される。一方、食道癌・胃癌・胆道癌・膵癌などの肝転移は全身病として扱われ、化学療法が基本となる。
大腸癌の再発・転移の評価
術後は腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)、造影CT、腹部超音波などで定期的に経過観察を行う。肝転移の検出にはEOB・プリモビスト造影MRIが感度に優れ、全身の転移検索にPET-CTが用いられることもある。
POINT
・肝臓は門脈血流を受けるため、消化器癌の血行性転移の最多部位である。 ・大腸癌の肝転移は、切除可能なら肝切除が第一選択で、切除後の5年生存率はおおむね40〜50%前後と良好。 ・切除の可否は個数だけでなく、取りきれること・残肝機能・肝外病変の有無で判断する。 ・切除不能でも化学療法で縮小すればコンバージョン手術の対象となりうる。 ・食道癌・胃癌・胆嚢癌・膵癌の肝転移は全身病として扱い、化学療法が中心で予後不良。
