脂肪はどこから来てどこへ行くのか―2つの輸送経路でつかむ脂質代謝の基本
第112回医師国家試験 F問題 第1問
国試問題にチャレンジ
脂質の代謝について正しいのはどれか。
- a.トリグリセリドは肝臓で合成される。
- b.食事中の脂質の大部分はコレステロールである。
- c.リポ蛋白リパーゼはコレステロールを分解する。
- d.トリグリセリド1gのエネルギー量は4kcalである。
- e.小腸で消化吸収された脂質の多くは門脈内に流入する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脂質は水に溶けにくいためリポ蛋白として運ばれ、食事由来の外因性経路(小腸で作られるカイロミクロン)と肝臓由来の内因性経路(肝臓で作られるVLDL)に分けて理解すると整理しやすくなります。肝臓は糖質や脂肪酸からトリグリセリドを合成してVLDLとして分泌する臓器であり、食事脂質の大部分はコレステロールではなくトリグリセリドです。リポ蛋白リパーゼはアポC-IIで活性化されてカイロミクロンやVLDL中のトリグリセリドを分解する酵素でコレステロールは分解せず、脂質のエネルギー量は1gあたり約9kcalです。吸収された長鎖脂肪酸由来の脂質はカイロミクロンとして門脈ではなくリンパ管から胸管を経て静脈に入り、中鎖脂肪酸のみが門脈経由で肝臓へ運ばれます。この全体像は、I型高脂血症やスタチンの作用機序、乳び胸の栄養管理など臨床の理解にも直結します。
解答・解説
正解はaです
問われているテーマ
脂質の消化・吸収、体内での輸送、合成と分解、エネルギー量といった脂質代謝の基本事項を問う問題である。
正解を導く考え方
脂質(トリグリセリド〈TG、中性脂肪〉やコレステロール)は水に溶けにくいため、血液中ではアポ蛋白やリン脂質に包まれた粒子「リポ蛋白」として運ばれる。輸送経路は大きく2つに分けて整理するとよい。 ①外因性経路(食事由来):食事中の脂質は小腸で吸収され、小腸上皮細胞内でTGに再合成されてカイロミクロンとなり、リンパ管から胸管を経て静脈血に入る。 ②内因性経路(肝臓由来):肝臓は糖質や脂肪酸からTGを合成し、コレステロールとともにVLDL(超低比重リポ蛋白)として血中に分泌する。 どちらの経路でも、TGに富むリポ蛋白(カイロミクロン、VLDL)中のTGは、毛細血管内皮表面のリポ蛋白リパーゼ(LPL)によって脂肪酸とグリセロールに分解され、脂肪組織や筋肉に取り込まれる。 この全体像を押さえておけば、「肝臓はTGを合成する臓器である」ことが正しく、ほかの選択肢は「食事脂質の主成分」「LPLの基質」「エネルギー量」「吸収後の経路」のいずれかに誤りがあると判断できる。
選択肢考察
- ○a. トリグリセリドは肝臓で合成される。
肝臓は脂肪酸合成とTG合成の主要な臓器である。糖質を過剰に摂取すると、余ったグルコースからアセチルCoAを経て脂肪酸が合成され、これがグリセロール(グリセロール3-リン酸)とエステル結合してTGとなる。脂肪組織から放出されて肝臓に戻ってきた遊離脂肪酸もTGの材料になる。合成されたTGはコレステロールやアポB-100とともにVLDLに組み込まれて血中へ分泌され、末梢組織にエネルギー源として届けられる(内因性経路)。TGはこのほか、小腸上皮細胞(カイロミクロンとして)や脂肪組織でも合成される。
- ×b. 食事中の脂質の大部分はコレステロールである。
食事中の脂質の大部分(およそ9割以上)はTGであり、残りがリン脂質やコレステロールなどである。コレステロールの摂取量は通常1日数百mg程度で、1日数十gに及ぶTGに比べてごくわずかである。また、体内のコレステロールの多くは食事からではなく、肝臓などでの合成によってまかなわれている。食事由来の脂質を運ぶカイロミクロンも、その成分の約8〜9割をTGが占める。
- ×c. リポ蛋白リパーゼはコレステロールを分解する。
リポ蛋白リパーゼ(LPL)は、脂肪組織・骨格筋・心筋などの毛細血管内皮の表面に存在し、カイロミクロンやVLDLに含まれるTGを加水分解して脂肪酸とグリセロールを遊離させる酵素である。コレステロールは分解しない。LPLはカイロミクロンやVLDL表面のアポC-Ⅱによって活性化され、インスリンによって発現が高まる。TGが抜けたカイロミクロンはカイロミクロンレムナントとして肝臓に取り込まれ、VLDLはIDLを経てLDLとなる。なお、コレステロールは体内で分解されてエネルギーになることはなく、主に肝臓で胆汁酸に変換されて胆汁中に排泄される。LPLやアポC-Ⅱの欠損では高カイロミクロン血症(Ⅰ型高脂血症)を生じる。
- ×d. トリグリセリド1gのエネルギー量は4kcalである。
TG(脂質)1gのエネルギー量は約9kcalである。糖質と蛋白質は1gあたり約4kcal、アルコールは約7kcalである(Atwaterの係数)。脂質は分子中の炭素が還元型(水素に富む)で酸化される余地が大きいため、同じ重さでも糖質の2倍以上のエネルギーを生む。さらに疎水性で水を含まずに貯蔵できるため、脂肪組織のTGは効率のよいエネルギー貯蔵形態となっている。
- ×e. 小腸で消化吸収された脂質の多くは門脈内に流入する。
食事中のTGは膵リパーゼで2-モノグリセリドと脂肪酸に分解され、胆汁酸とともにミセルを形成して小腸上皮細胞に取り込まれる。長鎖脂肪酸は細胞内でTGに再合成され、コレステロール、リン脂質、アポB-48などとともにカイロミクロンとして組み立てられる。カイロミクロンは粒子が大きく毛細血管の壁を通れないため、腸のリンパ管(乳び管)に入り、胸管を経て左静脈角(左鎖骨下静脈と左内頸静脈の合流部)から静脈血に合流する。したがって吸収された脂質の多くは門脈ではなくリンパ系を通る。一方、炭素数がおおむね8〜12の中鎖脂肪酸は水に比較的溶けやすく、ミセル形成やカイロミクロンへの組み込みを必要とせずに門脈から直接肝臓へ運ばれる。この性質を利用して、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は脂肪吸収障害や乳び胸の栄養管理に用いられる。
主なリポ蛋白の特徴
・カイロミクロン:小腸で合成。食事由来のTGを運ぶ。最も大きく比重が最も小さい。主要アポ蛋白はB-48。 ・VLDL:肝臓で合成。肝臓で作られたTGを運ぶ。主要アポ蛋白はB-100。 ・IDL:VLDLからTGが除かれた中間体。 ・LDL:IDLからさらにTGが除かれ、コレステロールに富む。肝臓や末梢組織のLDL受容体(アポB-100を認識)を介してコレステロールを供給する。 ・HDL:肝臓や小腸で作られ、末梢組織の余剰コレステロールを引き抜いて肝臓へ戻す(コレステロール逆転送系)。主要アポ蛋白はA-Ⅰ。比重が最も大きく、粒子は最も小さい。
脂質の消化・吸収の流れ
①十二指腸で胆汁酸により乳化される。 ②膵リパーゼがTGを2-モノグリセリドと脂肪酸に分解する。 ③胆汁酸とミセルを形成し、主に空腸で吸収される。胆汁酸自体は回腸末端で再吸収され、肝臓に戻る(腸肝循環)。 ④小腸上皮細胞でTGに再合成され、カイロミクロンとしてリンパ管へ放出される。
肝臓での脂質代謝
・脂肪酸合成とTG合成、VLDL分泌を行う。 ・コレステロールを合成する。律速酵素はHMG-CoA還元酵素で、スタチンはこの酵素を阻害する。 ・コレステロールを胆汁酸に変換する(律速酵素は7α-ヒドロキシラーゼ)。 ・空腹時には脂肪酸のβ酸化でケトン体を産生する。
LPLと肝性リパーゼ
LPLは毛細血管内皮上でカイロミクロンやVLDLのTGを分解する。肝性リパーゼは肝臓の類洞内皮に存在し、IDLやHDLのTG・リン脂質を分解する。ヘパリンを静注するとこれらの酵素が血中に遊離するため、活性測定に利用される。
POINT
・肝臓はTGを合成し、VLDLとして分泌する(内因性経路)。 ・食事中の脂質の大部分はTGであり、コレステロールはごく一部。 ・LPLはカイロミクロンやVLDL中のTGを分解する。活性化因子はアポC-Ⅱ。コレステロールは分解しない。 ・1gあたりのエネルギー:脂質9kcal、糖質・蛋白質4kcal、アルコール7kcal。 ・吸収された長鎖脂肪酸由来の脂質はカイロミクロンとしてリンパ管→胸管→左静脈角へ。中鎖脂肪酸は門脈から肝臓へ。
