「150」の正体を知れば怖くない―A-aDO2計算で読み解く低酸素の原因
第112回医師国家試験 C問題 第66問
国試問題にチャレンジ
ある患者の動脈血ガス分析(room air)のデータを示す。 pH 7.40,PaCO2 36Torr,PaO2 79Torr。 肺胞気-動脈血酸素分圧較差〈A-aDO2〉を求めよ。 ただし,小数点以下の数値が得られた場合には,小数第1位を四捨五入すること。 解答:①② Torr
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
A-aDO2は肺胞気酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差で、肺胞から血液への酸素移行の効率を示します。room airでは吸入気酸素分圧が(760−47)×0.21≒150 Torrとなり、呼吸商0.8を用いて A-aDO2 = 150 − PaCO2/0.8 − PaO2 で計算でき、本問では 150 − 45 − 79 = 26 Torr です。基準値は若年者でおおむね10 Torr以下、加齢で増大しますが、26 Torrは開大しており、PaCO2が正常であることから低換気ではなく換気血流比不均衡・拡散障害・シャントといったガス交換障害が示唆されます。肺胞低換気や吸入気酸素分圧低下ではA-aDO2は正常に保たれるため、この指標は低酸素血症の原因を切り分ける強力な手がかりになります。なお150はroom air・海面レベル前提の値であり、酸素投与中は吸入酸素濃度に応じて計算し直す必要がある点も、臨床で血液ガスを読むうえで欠かせない知識です。
解答・解説
正解は26 Torrです
A-aDO2とは
肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は、肺胞気の酸素分圧(PAO2)と動脈血の酸素分圧(PaO2)の差であり、肺胞に届いた酸素がどれだけ効率よく血液に移っているか(ガス交換の効率)を表す指標である。 A-aDO2 = PAO2 − PaO2 PaO2は血液ガス分析で直接測定できるが、PAO2は直接測れないため、肺胞気式(肺胞気方程式)を用いて計算で求める。
手順1:吸入気酸素分圧(PIO2)を求める
気道に吸い込まれた空気は、肺胞に達するまでに体温(37℃)で水蒸気に飽和される。そのため、大気圧から飽和水蒸気圧を差し引いた残りに吸入酸素濃度(FIO2)を掛ける。 PIO2 = (大気圧 − 飽和水蒸気圧) × FIO2 room air(室内気)ではFIO2 = 0.21、大気圧760 Torr、37℃の飽和水蒸気圧47 Torrなので、 PIO2 = (760 − 47) × 0.21 = 713 × 0.21 = 149.73 ≒ 150 Torr
手順2:肺胞気酸素分圧(PAO2)を求める
肺胞では酸素が血液に取り込まれ、代わりに二酸化炭素が出てくる。その比が呼吸商(R、通常0.8と仮定)であり、肺胞気式は次のようになる。 PAO2 = PIO2 − PACO2 / R 二酸化炭素は拡散が非常に速く、肺胞気と動脈血の分圧がほぼ等しくなるので、肺胞気CO2分圧(PACO2)の代わりに測定値のPaCO2を用いる。 PAO2 = 150 − 36 / 0.8 = 150 − 45 = 105 Torr
手順3:A-aDO2を求める
A-aDO2 = PAO2 − PaO2 = 105 − 79 = 26 Torr まとめると、room airでは A-aDO2 = 150 − PaCO2 / 0.8 − PaO2 という簡略式で計算でき、本問では 150 − 36/0.8 − 79 = 26 となる。PIO2を四捨五入せず149.73のまま計算しても 149.73 − 45 − 79 = 25.73 となり、小数第1位を四捨五入すれば同じく26である。 【答】26 Torr
結果の解釈
room airでのA-aDO2の基準値は、若年者でおおむね10 Torr以下であり、加齢とともに大きくなる(高齢者でも20 Torr程度まで)。本例の26 Torrは開大しており、肺胞から血液への酸素の移行が障害されていることを示す。PaCO2は36 Torrと基準範囲(35〜45 Torr)にあり肺胞低換気はないので、PaO2 79 Torrと軽度に低い原因は、低換気ではなく肺内のガス交換障害(換気血流比不均衡、拡散障害、シャントのいずれか)にあると考えられる。
低酸素血症の原因とA-aDO2
・肺胞低換気:PaCO2が上昇し、それに伴いPAO2が低下するためPaO2も低下する。ガス交換自体は正常なのでA-aDO2は正常である(例:薬物による呼吸抑制、神経筋疾患、肥満低換気症候群)。 ・吸入気酸素分圧の低下:高地など。A-aDO2は正常である。 ・換気血流比(V/Q)不均衡:換気に比べ血流の多い領域、あるいは血流に比べ換気の多い領域が混在する状態で、臨床で最も多い原因。A-aDO2は開大し、酸素投与で改善しやすい(例:COPD、肺炎、肺血栓塞栓症)。 ・拡散障害:肺胞と毛細血管の間の間質が厚くなる、あるいはガス交換面積が減る状態。A-aDO2は開大し、運動時に低酸素血症が目立つ(例:間質性肺炎)。 ・シャント:酸素化されないまま動脈側へ流れ込む血流がある状態。A-aDO2は開大し、100%酸素を吸入してもPaO2が十分に上がらないのが特徴である(例:無気肺、ARDS、肺動静脈瘻)。
式を使うときの注意
・150という数値はroom air(FIO2 0.21)・海面レベルを前提とする。酸素投与中はPIO2 = 713 × FIO2 で計算し直す必要があり、FIO2が高いほどA-aDO2は大きくなりやすいため、異なる酸素濃度下の値を単純に比較できない。 ・呼吸商0.8は標準的な仮定値である。 ・PaCO2を0.8で割る(1.25倍する)ことを忘れないようにする。
POINT
・A-aDO2 = PAO2 − PaO2。room airでは A-aDO2 = 150 − PaCO2/0.8 − PaO2。 ・150は (760 − 47) × 0.21 に由来する吸入気酸素分圧である。 ・A-aDO2の基準は若年者でおおむね10 Torr以下、加齢で増大する。 ・A-aDO2が正常な低酸素血症は肺胞低換気(または吸入気酸素分圧低下)、開大していればV/Q不均衡・拡散障害・シャントを考える。 ・本問:150 − 36/0.8 − 79 = 26 Torr。
