「2セット」に込められた2つの理由―血液培養を正しく採るための基本原則
第112回医師国家試験 B問題 第47問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,46と47の問いに答えよ。 66歳の男性。発熱,頭痛および嘔吐のため救急車で搬入された。 現病歴:2日前から38℃の発熱があった。昨日,頭部全体の頭痛が出現し徐々に増悪して,市販の鎮痛薬を内服しても改善しなかった。さらに嘔吐を繰り返すようになったため,同居する妻が救急車を要請した。 既往歴:58歳時から高血圧症のため内服治療中。 生活歴:妻と2人暮らし。長年,事務職をしていた。喫煙は20本/日を35年間。飲酒はビール350mL/日を30年間。 家族歴:父親が高血圧症。母親が大腸癌で死亡。 現症:意識レベルはJCSⅠ-1。身長173cm,体重52kg。体温38.7℃。心拍数90/分,整。血圧110/66mmHg。呼吸数22/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。瞳孔不同はなく,対光反射は両側正常。口腔粘膜に異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。
診断のために血液培養の検体を採取することにした。 採取にあたり適切なのはどれか。
- a.2セット採取する。
- b.抗菌薬投与後に採取する。
- c.採取後は検体容器を冷蔵する。
- d.手指消毒後,素手で採取する。
- e.動脈からの採取が優先される。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血液培養は、好気ボトルと嫌気ボトルの組を1セットとして、別々の部位から2セット以上採取するのが標準です。2セット採ることで採血量が増えて検出感度が上がり、さらに皮膚常在菌が1セットのみ陽性なら混入、両セット陽性なら真の菌血症と判断しやすくなります。採取は抗菌薬投与前に行い、手袋を着用して皮膚とボトルの栓を十分に消毒し、通常は末梢静脈から採ります。採取後は冷蔵せず室温で速やかに培養装置へ入れることも重要で、尿や喀痰の検体とは扱いが異なります。細菌性髄膜炎のような緊急疾患でも、血液培養を採ってから直ちに抗菌薬を開始するという流れを身につけておくことは、原因菌の同定と適切な治療選択を支える臨床の基本となります。
解答・解説
正解はaです
症例の整理
66歳男性で、2日前からの38℃台の発熱に続き、増悪する頭部全体の頭痛と反復する嘔吐がある。意識レベルはJCSⅠ-1と軽度の意識障害で、体温38.7℃、呼吸数22/分。瞳孔や対光反射に異常はなく、結膜・口腔・心肺・腹部にも感染巣を示す所見はない。急性に進行する発熱・頭痛・嘔吐で局所神経症状がないことから、最も考えるべきは髄膜炎、特に緊急性の高い細菌性髄膜炎である。
血液培養を採る意味
細菌性髄膜炎の多くは菌血症を伴い、血液培養で原因菌が分離されることが少なくない。髄液検査の前に抗菌薬を始めざるを得ない場合や、頭部CTの結果を待つ間にも、血液培養は原因菌の同定と薬剤感受性の判定に役立ち、その後の抗菌薬選択を大きく左右する。そのため、髄膜炎を疑ったら腰椎穿刺の有無にかかわらず、抗菌薬を投与する前に血液培養を採取するのが原則である。
設問の考え方
血液培養は、①原因菌を見逃さないこと(検出感度を上げる)と、②皮膚常在菌などの混入(コンタミネーション)を真の菌血症と取り違えないこと、の二つを両立させる採取法が求められる。具体的には、抗菌薬投与前に、手袋を着用し皮膚を十分に消毒したうえで、別々の部位から2セット以上を採取し、採取後は冷蔵せず速やかに培養装置へ入れる。この原則に照らして各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ○a. 2セット採取する。
血液培養は好気ボトルと嫌気ボトルの組を1セットとし、別々の穿刺部位から2セット以上採取するのが標準である。菌血症では血中の菌量が少なく、採取する血液量が多いほど検出率が上がるため、1セットだけでは原因菌を見逃しやすい。また、表皮ブドウ球菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)やCorynebacterium属、Bacillus属などの皮膚常在菌が検出されたとき、1セットのみ陽性なら採取時の混入の可能性が高く、2セットとも同じ菌が生えれば真の菌血症と判断しやすい。この感度の向上と汚染の判別という二つの理由から、2セット採取が適切である。
- ×b. 抗菌薬投与後に採取する。
抗菌薬を投与すると血中の菌は速やかに減少・発育抑制され、培養が偽陰性となりやすい。そのため血液培養は抗菌薬投与前に採取するのが原則である。細菌性髄膜炎では抗菌薬の開始を遅らせてはならないが、血液培養の採取は数分で済むため、採取してから直ちに抗菌薬を投与する。やむを得ず抗菌薬投与中に採取する場合は、次回投与直前(血中濃度が最も低い時点)に行う。
- ×c. 採取後は検体容器を冷蔵する。
血液培養ボトルは菌を増やすための培地であり、冷蔵すると菌の発育が抑えられ、髄膜炎菌やインフルエンザ菌など低温に弱い菌は死滅して検出できなくなるおそれがある。採取後は室温で保管し、できるだけ早く自動培養装置(約35℃)に入れる。尿や喀痰などの検体を搬送まで冷蔵保存するのとは扱いが異なる点に注意する。
- ×d. 手指消毒後,素手で採取する。
採血者の手指からの汚染を防ぎ、血液曝露から自身を守る(標準予防策)ため、手指衛生の後に手袋を着用して採取する。穿刺部位はアルコールやクロルヘキシジンアルコール、ポビドンヨードなどで十分に消毒し、消毒後は穿刺部位に触れない。ボトルのゴム栓もアルコールで消毒してから血液を注入する。素手での採取は汚染(コンタミネーション)の原因となるため不適切である。
- ×e. 動脈からの採取が優先される。
動脈血と静脈血とで原因菌の検出率に意味のある差はないとされ、通常は安全かつ容易な末梢静脈から採取する。動脈穿刺は痛みや出血などの合併症が多く、優先する理由はない。なお、留置されているカテーテルからの採血は汚染が起こりやすいため、カテーテル関連血流感染を評価する目的を除き、原則として新たに末梢静脈を穿刺して採取する。
血液培養の基本手技
・適応:発熱・悪寒戦慄、原因不明の意識障害や低体温、敗血症が疑われるとき、髄膜炎・感染性心内膜炎・肺炎などの重症感染症を疑うとき。 ・セット数:好気ボトル+嫌気ボトルを1セットとし、成人では2セット以上を別々の部位から採取する。感染性心内膜炎を疑う場合は、時間をあけて3セット以上を採取する。 ・採血量:成人では1ボトルあたり8〜10mL程度(1セット約20mL)が目安で、量が少ないと感度が下がる。 ・消毒:穿刺部位をアルコールやクロルヘキシジンアルコール、ポビドンヨードで消毒し、乾燥を待ってから穿刺する(ポビドンヨードは効果発現に時間がかかる)。ボトルのゴム栓も消毒する。 ・タイミング:抗菌薬投与前。発熱のピークを待つ必要はなく、疑った時点で速やかに採取する。 ・保管・搬送:冷蔵せず室温で速やかに培養装置へ。
コンタミネーションの考え方
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Corynebacterium属、Bacillus属(B. anthracisを除く)、Cutibacterium(旧Propionibacterium)属などの皮膚常在菌が複数セットのうち1セットのみから検出された場合は、混入を疑う。一方、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、大腸菌などは1セットのみの陽性でも原則として真の菌血症として扱う。
細菌性髄膜炎の初期対応
血液培養を採取 → 必要に応じて頭部CT(意識障害、局所神経症状、乳頭浮腫、けいれん、免疫不全などがあるとき)→ 腰椎穿刺。腰椎穿刺やCTで抗菌薬の開始が遅れる場合は、血液培養採取後ただちに副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン)と経験的抗菌薬を投与する。成人の経験的治療は、肺炎球菌などを想定した第三世代セフェム(セフトリアキソンなど)とバンコマイシンを基本とし、50歳以上や免疫不全などListeriaを考慮すべき場合はアンピシリンを加える。
POINT
・血液培養は別々の部位から2セット以上(好気+嫌気で1セット)採取する。感度が上がり、皮膚常在菌による汚染と真の菌血症を区別しやすくなる。 ・採取は抗菌薬投与前に行う。細菌性髄膜炎でも血液培養を採ってから直ちに抗菌薬を投与する。 ・手袋を着用し、皮膚とボトルの栓を十分に消毒して採取する。 ・採取後は冷蔵せず、室温で速やかに培養装置へ入れる。 ・動脈血と静脈血に検出率の差はなく、通常は末梢静脈から採取する。
