StudyMed医師国家試験

光線過敏の若い女性に起きた片脚の腫れ―APTT延長が告げる「血栓のSLE」

第112回医師国家試験 A問題 第75問

国試問題にチャレンジ

第112回 A問題 第75問

24歳の女性。発熱と左下腿の浮腫とを主訴に来院した。1年前から海水浴やスキーに行った際に顔面の紅斑が出現した。1か月前から37℃台の発熱と顔面紅斑が持続し,1週間前から左下腿の浮腫を自覚したため受診した。体温37.5℃。脈拍80/分,整。血圧124/76mmHg。呼吸数12/分。SpO2 98%(room air)。頰部と爪周囲とに紅斑を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。両手関節と肘関節とに圧痛を認める。左下腿部の腫脹と把握痛とを認める。尿所見:蛋白(±),潜血1+,沈渣に赤血球5~10/1視野,白血球1~4/1視野,細胞円柱を認めない。血液所見:赤血球330万,Hb 10.5g/dL,Ht 32%,白血球3,200(桿状核好中球20%,分葉核好中球45%,好酸球2%,好塩基球1%,単球3%,リンパ球29%),血小板12万,PT-INR 1.1(基準0.9~1.1),APTT 44.5秒(基準対照32.2),Dダイマー6.5μg/mL(基準1.0以下)。血液生化学所見:総蛋白7.4g/dL,アルブミン4.0g/dL,CK 52U/L(基準30~140),尿素窒素16mg/dL,クレアチニン0.6 mg/dL。免疫血清学所見:CRP 0.2mg/dL,リウマトイド因子〈RF〉陰性,抗核抗体2,560倍(基準20以下),抗dsDNA抗体107IU/mL(基準12以下),CH50 17 U/mL(基準30~40),C3 32mg/dL(基準52~112),C4 7mg/dL(基準16~51)。心電図,胸部エックス線写真および心エコー検査で異常を認めない。  次に行うべき検査はどれか。2つ選べ。

  1. a.腎生検
  2. b.下肢の筋生検
  3. c.抗Jo-1抗体測定
  4. d.下肢静脈超音波検査
  5. e.抗カルジオリピン抗体測定

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、SLEと考えられる若い女性に新たに起きた症状をどう解釈し、次に何を調べるかを問う問題だ。着眼点は2つ。まず背景にある膠原病を確定させること、そして「左下腿だけの腫れ」と「APTTだけの延長」という一見ばらばらな所見をどう結びつけるか、だよ。まず、背景の病気は何だと思う?
医学生医学生
紫外線の後の頰部紅斑、関節痛、血球減少、抗核抗体と抗dsDNA抗体の高値、低補体血症がそろっているので、全身性エリテマトーデスだと思います。
ドクタードクター
その通り。光線過敏、頰部紅斑、関節炎、白血球やリンパ球の減少という臨床所見に、免疫学的所見がそろっている。抗dsDNA抗体が高く補体が下がっていることは、病気の活動性が高いことも示しているね。発熱の割にCRPが低いのも、SLE自体の活動性による発熱でよく見られる特徴なんだ。
医学生医学生
膠原病内科の実習で「SLEの熱でCRPが高ければ感染症を疑え」と教わりました。
ドクタードクター
いい教えだね。では本題。片側の下腿の腫脹と把握痛を見たら、何を考える?
医学生医学生
SLEならループス腎炎でネフローゼになって浮腫が出たのかと思いましたが……。
ドクタードクター
そこは一度立ち止まってほしいところ。低アルブミン血症や心不全による浮腫は、全身性の原因だから基本的に両側に出る。今回は片側だけで、しかも把握痛がある。アルブミンも正常で尿蛋白も軽微だから、ネフローゼは考えにくい。Dダイマーの上昇を合わせると?
医学生医学生
片側性で痛みがあってDダイマーが高いので、深部静脈血栓症ですね。
ドクタードクター
正解。Dダイマーは血栓ができて線溶が働いたことを反映する。では、24歳と若く、手術や長期臥床などの誘因もない人に、なぜ血栓ができたのか。ここでAPTTに注目しよう。
医学生医学生
APTTが延長しているなら、むしろ出血しやすいはずでは?血栓と逆の方向に思えます。
ドクタードクター
多くの学生がそこでつまずく。抗リン脂質抗体の一つであるループスアンチコアグラントは、試験管の中ではリン脂質に依存する凝固反応を邪魔してAPTTを延長させる。でも生体内では血栓を作りやすくするんだ。この逆説的な性質こそが、抗リン脂質抗体症候群を疑う決め手になる。
医学生医学生
CBTの勉強で「APTT延長なのに血栓」と丸暗記したのを思い出しました。理屈がつながりました。
ドクタードクター
よかった。つまり次の検査は、深部静脈血栓症を画像で確認する下肢静脈超音波検査と、抗リン脂質抗体症候群を証明する抗カルジオリピン抗体の測定の2つになる。超音波は非侵襲的でベッドサイドでもでき、プローブで押しても静脈がつぶれないこと、内腔の血栓エコーや血流欠損で診断する。血栓が膝窩静脈より中枢に及んでいるかは、肺塞栓のリスク評価にも役立つよ。
医学生医学生
抗カルジオリピン抗体はカルジオリピンそのものに対する抗体なんですか。
ドクタードクター
病的意義をもつものは、血漿蛋白のβ2グリコプロテインIがカルジオリピンに結合してできた構造を認識する、β2GPI依存性の抗体なんだ。検査としてはループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体の3つを使う。では残りの選択肢。SLEなら腎生検も必要では、と思わなかった?
医学生医学生
少し迷いました。でも尿所見は軽い血尿程度で、円柱もなく腎機能も正常ですね。
ドクタードクター
そう。腎生検は持続する蛋白尿や活動性の尿沈渣、腎機能低下があるときにループス腎炎の組織型を決めるために行う。今は優先度が低いし、血栓症を疑って抗凝固療法を考える状況で、出血リスクのある侵襲的検査を先にするのは適切ではない。筋生検や抗Jo-1抗体はどうかな。
医学生医学生
どちらも多発性筋炎・皮膚筋炎の検査ですよね。CKが正常なので、ふくらはぎの痛みは筋炎ではなく血栓で説明できると思います。
ドクタードクター
その通り。抗Jo-1抗体は抗ARS抗体の代表で、間質性肺炎や機械工の手を伴うタイプで重要だけど、今回は筋炎も間質性肺炎も示唆されない。最後に発展知識だ。抗リン脂質抗体は感染症などで一過性に陽性になることがあるので、12週以上あけて2回以上の陽性を確認する。混合試験で正常血漿を混ぜてもAPTTが補正されないのも特徴で、梅毒の脂質抗原法が生物学的偽陽性になることもある。
医学生医学生
治療はDOACでもいいのでしょうか。
ドクタードクター
急性期はヘパリン、長期にはワルファリンが基本だ。DOACは特に3種の抗体がすべて陽性の高リスク例で血栓再発が多く、推奨されない。妊娠中はワルファリンが催奇形性をもつので、ヘパリンと低用量アスピリンを使う。習慣流産や若年性脳梗塞の背景にも抗リン脂質抗体症候群が隠れていることがあるから、産婦人科や神経内科でも思い出してほしい。
医学生医学生
浮腫は片側か両側かで考え、SLEの血栓とAPTT延長を見たら抗リン脂質抗体症候群、と覚えておきます。

まとめ

光線過敏症、頰部紅斑、関節炎、血球減少に抗核抗体・抗dsDNA抗体陽性と低補体血症がそろえば活動性の全身性エリテマトーデス(SLE)を考えます。片側性の下腿腫脹・把握痛とDダイマー上昇は深部静脈血栓症を示唆し、非侵襲的な下肢静脈超音波検査で確認します。SLE患者の血栓症とAPTT単独延長からは抗リン脂質抗体症候群の合併を疑い、抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、抗β2GPI抗体を12週以上あけて評価します。尿所見が軽微で腎機能が正常なら腎生検は急がず、CK正常なら筋炎関連の検査も不要です。「試験管内では凝固延長、生体内では血栓」という逆説を理解しておくことは、若年者の血栓症や不育症の原因検索など、診療科を越えて役立ちます。

解答・解説

正解はd, eです

所見の整理

・24歳女性。海水浴やスキー(強い紫外線曝露)の後に顔面紅斑が出現:光線過敏症 ・1か月前からの微熱と頰部紅斑、爪周囲紅斑 ・両手関節・肘関節の圧痛:多関節炎 ・血液:白血球3,200/μLと減少、リンパ球は3,200×0.29≒930/μLと1,000未満、Hb 10.5g/dLの貧血、血小板12万/μLとやや減少(2系統以上の血球減少) ・抗核抗体2,560倍、抗dsDNA抗体高値、CH50・C3・C4の低下(低補体血症) ・CRP 0.2mg/dLと発熱の割に低い(SLEの活動性による発熱でみられやすい特徴) ・左下腿の片側性の腫脹と把握痛、Dダイマー6.5μg/mLと上昇 ・PT-INRは正常だがAPTTが44.5秒(対照32.2秒)と延長 ・尿:蛋白(±)、潜血1+、赤血球5〜10/1視野で細胞円柱なし。尿素窒素・クレアチニンは正常 ・CK正常、心電図・胸部エックス線・心エコー正常

診断へのプロセス

①全身性エリテマトーデス(SLE) 若年女性で、光線過敏症・頰部紅斑・関節炎・血球減少という臨床所見に、抗核抗体強陽性、抗dsDNA抗体陽性、低補体血症という免疫学的所見がそろい、SLEと診断できる。抗dsDNA抗体高値と低補体血症は疾患活動性が高いことを示す。 ②深部静脈血栓症(DVT)の疑い 浮腫が両側であれば、ネフローゼ症候群(ループス腎炎による低アルブミン血症)や心不全など全身性の原因を考えるが、本例は片側(左)のみで、把握痛を伴う。アルブミン4.0g/dLと正常で尿蛋白も軽微なため、低蛋白血症による浮腫ではない。発赤の記載がなく蜂巣炎(蜂窩織炎)も考えにくい。Dダイマー上昇(血栓形成と、それに続く線溶亢進を示す)を合わせると、左下肢のDVTが最も疑われる。 ③抗リン脂質抗体症候群(APS)の疑い 若年者に誘因の乏しい血栓症が生じた背景として、SLEに合併するAPSを考える。さらに、出血症状がないのにAPTTのみが延長している点は、リン脂質依存性の凝固検査を試験管内で阻害するループスアンチコアグラントの存在を示唆する。抗リン脂質抗体は試験管内では凝固時間を延長させるが、生体内では血栓傾向をもたらすという、一見逆説的な性質をもつ。

設問の考え方

「次に行うべき検査」は、疑われているDVTを画像で確認する検査と、その原因としてのAPSを証明するための抗リン脂質抗体の測定である。

選択肢考察

  1. ×a.  腎生検

    腎生検はループス腎炎の組織型(ISN/RPS分類)を確定し、治療方針を決めるために行う。適応となるのは、持続する蛋白尿(目安として0.5g/日以上)、細胞性円柱を伴う活動性尿沈渣、腎機能低下などがみられる場合である。本例の尿所見は蛋白(±)、軽度の血尿のみで円柱を認めず、腎機能も正常であり、現時点で優先度は低い。加えて、APTT延長と血栓症の疑いがある状態で、出血リスクのある侵襲的検査を先行させるのは適切ではない。

  2. ×b.  下肢の筋生検

    筋生検は多発性筋炎・皮膚筋炎などの炎症性筋疾患の診断に用いる。本例はCKが52U/Lと正常で、筋力低下の記載もなく、筋炎を示唆する所見はない。下腿の腫脹と把握痛は、Dダイマー上昇と合わせて深部静脈血栓症によるものと考えるのが妥当であり、筋生検の必要はない。

  3. ×c.  抗Jo-1抗体測定

    抗Jo-1抗体は抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体の代表で、多発性筋炎・皮膚筋炎(特に間質性肺炎や機械工の手を伴う抗ARS抗体症候群)の診断に用いる。本例はCK正常で筋炎の所見がなく、胸部エックス線写真でも間質性肺炎を疑う異常がない。顔面紅斑はSLEで説明でき、測定の意義は乏しい。

  4. ○d.  下肢静脈超音波検査

    片側性の下腿腫脹・把握痛とDダイマー上昇から深部静脈血栓症が疑われ、その確認には下肢静脈超音波検査を行う。プローブで静脈を圧迫してもつぶれない(圧迫法による非圧縮性)、内腔の血栓エコー、血流の欠損などで診断する。非侵襲的でベッドサイドでも施行でき、造影剤や被曝を伴わないため、DVTの第一選択の画像検査である。血栓の範囲(下腿限局か、膝窩・大腿静脈以上に及ぶ中枢型か)の評価は、肺血栓塞栓症のリスク判断や治療方針の決定にも役立つ。

  5. ○e.  抗カルジオリピン抗体測定

    SLE患者に血栓症が生じ、APTTが延長していることから、抗リン脂質抗体症候群の合併を疑う。APSの検査所見として、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体(IgG・IgM)、抗β2グリコプロテインI抗体の3種類が用いられ、抗カルジオリピン抗体はその中核となる。APSで病的意義をもつ抗カルジオリピン抗体は、カルジオリピン単独ではなく、血漿蛋白であるβ2グリコプロテインIがカルジオリピンに結合して生じる立体構造を認識する(β2GPI依存性)。陽性であればAPSの診断を支持し、抗凝固療法の強度・期間の決定にも直結するため、測定すべき検査である。

抗リン脂質抗体症候群(APS)

抗リン脂質抗体が持続的に陽性で、動静脈血栓症や妊娠合併症(習慣流産、子宮内胎児死亡、妊娠高血圧症候群・胎盤機能不全による早産など)を起こす自己免疫疾患である。基礎疾患のない原発性APSと、SLEなどに続発する二次性APSがある。SLE患者では抗リン脂質抗体陽性例が少なくない。 ・臨床所見:静脈血栓(下肢DVT、肺塞栓が多い)、動脈血栓(若年性脳梗塞など)、妊娠合併症。ほかに血小板減少、網状皮斑、心弁膜病変などを伴うことがある。 ・検査所見:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体(IgG・IgMの中等度以上の力価)、抗β2GPI抗体。一過性の陽性(感染症などでもみられる)を除くため、12週以上の間隔をあけて2回以上陽性であることを確認する(改訂札幌基準〈シドニー基準〉)。2023年にはACR/EULARから、臨床・検査項目を点数化した新しい分類基準も示されている。 ・凝固検査の特徴:ループスアンチコアグラントによりAPTTが延長する。患者血漿に正常血漿を混ぜてもAPTTが補正されない(混合試験でインヒビター型のパターン)点が、凝固因子欠乏との鑑別になる。梅毒血清反応の脂質抗原法(RPR法など)が生物学的偽陽性となることもある。 ・治療:急性期の血栓にはヘパリン、その後はワルファリンによる長期の抗凝固療法が基本である。直接経口抗凝固薬(DOAC)は、特に3種の抗体がすべて陽性の高リスク例でワルファリンより血栓再発が多く、推奨されない。妊娠中は低用量アスピリンとヘパリンを用いる(ワルファリンは催奇形性のため使用しない)。 ・劇症型(catastrophic)APS:短期間に多臓器に微小血栓が多発する重篤な病型である。

SLEの分類基準

本例は、光線過敏症・頰部紅斑・関節炎・白血球(リンパ球)減少といった臨床項目に加え、抗核抗体、抗dsDNA抗体、低補体血症という免疫学的項目を満たす。1997年ACR改訂基準、2012年SLICC基準のいずれでも分類可能である。現在は、抗核抗体陽性(80倍以上)を入口とし、臨床・免疫学的項目を重み付けして合計10点以上で分類する2019年EULAR/ACR基準が用いられる。なお、抗リン脂質抗体陽性はSLICC基準・2019年基準でSLEの免疫学的項目にも含まれる。

深部静脈血栓症(DVT)

危険因子はVirchowの3要素(血流のうっ滞、血管内皮障害、血液凝固能の亢進)で整理する。臨床的にDVTの可能性を見積もったうえでDダイマーを測定し、陰性であれば除外に役立つ(陰性的中率が高い)。陽性あるいは臨床的に可能性が高ければ下肢静脈超音波検査で確認する。肺血栓塞栓症の合併が疑われる場合は造影CTを行う。

POINT

・光線過敏症、頰部紅斑、関節炎、血球減少、抗核抗体・抗dsDNA抗体陽性、低補体血症:活動性SLE。 ・片側性の下腿腫脹・把握痛とDダイマー上昇はDVTを示唆し、下肢静脈超音波検査で確認する。 ・SLE患者の血栓症とAPTT単独延長では、抗リン脂質抗体症候群の合併を疑う。 ・APSの検査:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体。12週以上あけて2回以上陽性。 ・APSの長期抗凝固療法はワルファリンが基本(妊娠時はヘパリン+低用量アスピリン)。 ・浮腫が片側か両側かで局所の原因か全身性の原因かを区別する。尿所見が軽微で腎機能正常なら腎生検は急がない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。