手のひらの水疱を見たら「口」と「足」へ―3か所そろえて診断する手足口病
第112回医師国家試験 A問題 第69問
国試問題にチャレンジ
4歳の女児。手掌の発疹を主訴に父親に連れられて来院した。全身状態は良好である。保育園で同様の発疹を呈する児がいるという。来院時の手の写真を別に示す。 診断確定のため観察する必要がある部位はどれか。2つ選べ。

- a.咽頭
- b.足底
- c.外陰部
- d.前額部
- e.前胸部
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳幼児の集団発生、全身状態良好、手掌の紅暈を伴う楕円形の小水疱(痂皮なし)という組み合わせからは手足口病を考えます。手足口病は通常ウイルス検査を行わず、手・足・口の3か所に特徴的な病変がそろうことで臨床的に診断するため、手掌の水疱を見たら口腔・咽頭と足底を観察します。体幹中心で新旧の発疹が混在し痂皮をつくる水痘や、口腔内病変のみで手足に発疹のないヘルパンギーナとの鑑別も、この分布の確認が鍵になります。治療は対症療法で、口腔痛による脱水や、まれな無菌性髄膜炎・脳炎(特にエンテロウイルス71)に注意が必要です。「病名が示す部位を漏れなく診察する」という基本は、小児の発疹性疾患を見極める臨床力の土台になります。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・4歳の女児。主訴は手掌の発疹で、全身状態はよい。 ・通っている保育園に、同じような発疹の子がいる。集団の中で流行するウイルス感染症が考えられる。 ・手の写真:手掌から指にかけて、径数mmの楕円形の小水疱が散らばっている。水疱の周りには紅暈(赤い縁取り)があり、痂皮はついていない。
診断に至るプロセス
乳幼児に集団発生し、手掌に小さな水疱が出て、全身状態がよい。この組み合わせから、まず手足口病を考える。小児で水疱をつくる流行性の疾患には、ほかに水痘もある。ただし水痘の発疹は体幹や頭皮から始まり、紅斑、丘疹、水疱、痂皮と移り変わる。新旧の発疹が同時に混在するのも特徴である。手掌に限られ、形のそろった水疱が並ぶ本例の発疹とは異なる。
設問の考え方
手足口病には、診断を確定するための特異的な検査がふだん行われない。そのため、名前のとおり手・足・口の3か所に特徴的な発疹がそろうことを確認する臨床診断が基本となる。手掌の水疱はすでに確認できているので、残りの2か所を見ればよい。口腔内(頬粘膜、舌、口蓋、咽頭など)と足(足底、足背)である。したがって、観察すべき部位は咽頭と足底である。
選択肢考察
- ○a. 咽頭
手足口病では、口腔粘膜(頬粘膜、舌、歯肉、口蓋)から咽頭にかけて、小さな水疱やアフタ(浅い潰瘍)がよくみられる。口腔内の痛みのため、食事や水分がとりにくくなることもある。手足口病の3主徴の一つである「口」の病変を確認するため、口腔から咽頭を観察する必要がある。
- ○b. 足底
手足口病では、手掌や指と同じ性状の、径2〜5 mm程度の楕円形の水疱が足底や足背にも出る。手掌だけでなく足にも同じ発疹があり、口腔内にも病変があれば、臨床的に手足口病と診断できる。
- ×c. 外陰部
手足口病では、殿部や膝の周辺に発疹が出ることがある。コクサッキーウイルスA6型による非典型例では、さらに広い範囲に出ることもある。しかし、外陰部は手足口病の診断の決め手となる部位ではない。外陰部の水疱やびらんは、むしろ性器ヘルペスなどを考える所見である。
- ×d. 前額部
顔面(前額部)は手足口病の典型的な発疹部位ではなく、観察しても診断の確定にはつながらない。顔面に水疱が出る小児の疾患としては、水痘や伝染性膿痂疹などがある。
- ×e. 前胸部
体幹(前胸部)は、水痘で発疹が多く出る部位である。手足口病の典型的な発疹部位ではない。水痘との鑑別に体幹を観察する意味はある。しかし、手足口病の診断を確定するために見なければならない部位ではない。
手足口病の概要
・病原体:主にエンテロウイルス属で、コクサッキーウイルスA16、A6、A10などやエンテロウイルス71がある。 ・好発:主に5歳以下の乳幼児に多く、夏に流行する。 ・感染経路:飛沫感染、接触感染、糞口感染。症状が治まった後も、数週間にわたって便にウイルスが排出される。 ・潜伏期間:3〜5日程度。 ・症状:手掌、足底・足背、口腔粘膜に、径2〜5 mmの水疱性の発疹が出る。殿部や膝に出ることもある。発熱は約3分の1にみられ、多くは軽い。水疱は痂皮をつくらずに数日から1週間ほどで治る。 ・合併症:まれに無菌性髄膜炎や脳炎(特にエンテロウイルス71)、急性弛緩性麻痺がある。コクサッキーウイルスA6感染では、数週間後に爪甲脱落症がみられることがある。 ・治療:特効薬はなく、対症療法を行う。口腔内の痛みで水分がとれず、脱水になることに注意する。 ・登園:学校保健安全法では出席停止期間の規定がない。本人の全身状態がよければ登園してよい。
水疱・口腔病変をきたす主な小児感染症の鑑別
・水痘(水痘・帯状疱疹ウイルス):体幹を中心に全身に出る。紅斑、丘疹、水疱、痂皮の各段階が混在する。頭皮にも出る。 ・ヘルパンギーナ(主にコクサッキーA群):高熱が出て、軟口蓋から口蓋垂周辺に小水疱や潰瘍ができる。手足に発疹は出ない。 ・ヘルペス性歯肉口内炎(単純ヘルペスウイルス1型):高熱と、歯肉の腫脹・出血を伴う口内炎が起こる。 ・伝染性膿痂疹(黄色ブドウ球菌など):顔面や四肢に水疱やびらんができ、蜂蜜色の痂皮がつく。
POINT
・乳幼児の集団発生+手掌の小水疱(痂皮なし)→ 手足口病 ・診断は臨床的に行い、手・足・口の3か所の病変を確認する ・手掌の水疱を見たら、口腔・咽頭と足底を観察する ・水痘は体幹中心に出て新旧の発疹が混在し、痂皮をつくる点で区別する ・ヘルパンギーナは軟口蓋の病変だけで、手足に発疹は出ない
