StudyMed医師国家試験

近点だけ見ると間違える―遠点50cmの眼に隠れた近視と調節力の計算

第112回医師国家試験 A問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第112回 A問題 第10問

遠点が50cm,近点が25cmの成人の眼の調節力はどれか。

  1. a.1.0 D
  2. b.2.0 D
  3. c.4.0 D
  4. d.6.0 D
  5. e.8.0 D

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、遠点と近点から眼の調節力を求める計算問題だ。ポイントは「調節力は近点と遠点の屈折力の差」ということと、「遠点が有限距離にある眼は何を意味するか」の2つ。まず、調節力とは何かを確認しよう。
医学生医学生
近くを見るときに水晶体を厚くして、ピントを手前に寄せる力ですよね。単位はジオプトリーでした。
ドクタードクター
その通り。ジオプトリーは焦点距離をメートルで表したときの逆数。100を距離のセンチメートルで割ると暗算しやすい。100cmなら1 D、50cmなら2 D、25cmなら4 Dだ。では、遠点と近点の定義は覚えているかな。
医学生医学生
遠点は調節を完全に休めたときにピントが合う一番遠い点、近点は目いっぱい調節したときにピントが合う一番近い点です。
ドクタードクター
完璧だ。遠点を見ているときと近点を見ているときで、眼の屈折力がどれだけ増えたか。その増加分こそが調節力になる。式にすると、調節力=1/近点(m)-1/遠点(m)だ。
医学生医学生
近点25cmで4 Dだから、答えは4.0 Dかなと最初思いました。
ドクタードクター
多くの人がそこでつまずく。4.0 Dになるのは、遠点が無限遠、つまり正視眼の場合だけなんだ。正視なら遠点の屈折は0 Dだから、近点の値がそのまま調節力になる。でも今回は遠点が50cmにある。これは何を意味するだろう。
医学生医学生
調節を休めているのに50cmにピントが合う……つまり、もともと近くにピントが合っている近視ということですか。
ドクタードクター
その通り。遠点50cmは、-2.0 Dの近視眼にあたる。この眼は何もしなくても、すでに2 D分「余分に」屈折している状態なんだ。25cmを見るには合計4 Dの屈折が必要だけれど、そのうち2 Dは近視がまかなっているから、調節で補うのは残りの2 Dで足りる。
医学生医学生
式に当てはめると、4.0から2.0を引いて2.0 Dですね。
ドクタードクター
正解。2.0 Dが答えだ。ほかの値がどこから出てくるかも見ておくと、ミスのパターンがよくわかる。6.0 Dはどうして出てくると思う?
医学生医学生
近点の4 Dと遠点の2 Dを足してしまった場合ですね。差を取るべきところを足し算にした間違いだと思います。
ドクタードクター
そう。1.0 Dは焦点距離1mに相当する値で、今回の条件からは出てこない。8.0 Dは近点12.5cmの正視眼のような値で、これも本問の数字とは結びつかない。結局、近点だけで計算するか、差ではなく和を取るか、この2つが典型的な落とし穴だね。
医学生医学生
眼科の講義では計算問題が苦手だったんですが、近視の分を差し引くと考えると納得できました。
ドクタードクター
イメージで理解できれば計算は怖くないよ。ここで発展知識も押さえよう。調節力は年齢とともに落ちていく。おおよそ20歳で約10 D、40歳で4〜5 D、50歳で2〜3 D、60歳を超えると1 D前後になる。水晶体の弾性が低下するからだ。
医学生医学生
今回の眼は調節力2 Dなので、年齢的にはもう老視が始まっている人かもしれませんね。
ドクタードクター
いい読みだね。おもしろいのは、近視の人は眼鏡を外せば近くが見えるので、老視を自覚しにくいことがある点だ。外来で「近視の人は老眼にならない」と言われることがあるけれど、実際は調節力の低下自体は同じように起きている。
医学生医学生
調節の仕組みも確認させてください。近くを見るときは毛様体筋が収縮して、チン小帯がゆるむんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。毛様体筋は動眼神経を経由する副交感神経の支配で、収縮するとチン小帯が弛緩し、水晶体が自らの弾性で厚くなる。同時に縮瞳と輻湊も起こり、これを近見反応と呼ぶ。OSCEの神経診察で輻湊や対光反射を確認するときも、この仕組みを思い出すと理解が深まるよ。
医学生医学生
調節麻痺薬で検査するときに屈折値が変わるのも、毛様体筋の働きを止めているからですね。
ドクタードクター
そう、小児の屈折検査でアトロピンやシクロペントラートを使うのはそのためだ。調節が強い子どもでは、調節を止めないと本当の屈折が測れない。調節と屈折を分けて考えられれば、遠視・近視・老視の理解が一本につながるよ。

まとめ

調節力は、水晶体が厚くなることで増やせる屈折力の幅で、「1/近点(m)-1/遠点(m)」で求められます。遠点50cmは-2.0 Dの近視眼を意味するため、近点25cm(4.0 D)から遠点分の2.0 Dを差し引き、調節力は2.0 Dとなります。近点の値だけを答えたり、近点と遠点を足したりするのが典型的な誤りで、遠点が無限遠の正視眼のときに限り近点の値が調節力と一致します。調節力は水晶体の弾性低下により加齢とともに減少し、これが老視の本態です。ジオプトリーの換算と遠点・近点の意味を押さえておくことは、屈折異常や老視の理解、眼鏡処方や屈折検査の考え方の基礎になります。

解答・解説

正解はbです

考え方

調節力とは、水晶体が厚みを増して屈折力を高めることで、遠方から近方へピントを移動させる能力である。単位はジオプトリー(D:diopter、焦点距離をメートルで表したときの逆数)で表す。 調節を完全に休ませた状態でピントが合う最も遠い点を遠点、最大限に調節したときにピントが合う最も近い点を近点という。眼が遠点を見ているときと近点を見ているときの屈折力の差が、その眼の調節力にあたる。したがって次の式で求められる。 調節力(D)=1/近点距離(m)-1/遠点距離(m)

計算

遠点 50cm=0.5m → 1/0.5=2.0 D 近点 25cm=0.25m → 1/0.25=4.0 D 調節力=4.0-2.0=2.0 D

補足的な理解

遠点が眼前50cmにあるということは、調節を休めた状態で50cmにピントが合う、すなわち-2.0 Dの近視眼である。この眼で25cmにピントを合わせるには4.0 D分の屈折力が必要だが、近視によってすでに2.0 D分は「余分に」屈折しているので、残りの2.0 Dを調節でまかなえばよい。よって調節力は2.0 Dとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  1.0 D

    1.0 Dは焦点距離1m(100cm)に相当する値である。本問の遠点(2.0 D)と近点(4.0 D)の差は2.0 Dであり、1.0 Dにはならない。

  2. ○b.  2.0 D

    1/0.25m-1/0.5m=4.0 D-2.0 D=2.0 Dとなり、これが本問の眼の調節力である。遠点で-2.0 Dの近視があるため、25cmを見るのに必要な4.0 Dのうち調節で補う分は2.0 Dで足りる。

  3. ×c.  4.0 D

    4.0 Dは近点25cmだけから求めた値(1/0.25m)である。遠点が無限遠にある正視眼であれば調節力は4.0 Dとなるが、本問の眼は遠点が50cmにある近視眼なので、遠点の屈折分2.0 Dを差し引く必要がある。

  4. ×d.  6.0 D

    6.0 Dは近点(4.0 D)と遠点(2.0 D)を足し合わせた値である。調節力は両者の差で求めるため、加算するのは誤りである。

  5. ×e.  8.0 D

    8.0 Dは近点12.5cmの正視眼に相当するような値で、本問の条件からは導かれない。

屈折とジオプトリー

レンズや眼の屈折力は、焦点距離f(m)の逆数1/fで表し、単位をジオプトリー(D)とする。100cm÷距離(cm)と考えると暗算しやすい(100cm→1 D、50cm→2 D、33cm→3 D、25cm→4 D、20cm→5 D、10cm→10 D)。

遠点・近点と屈折異常

・正視:遠点は無限遠(0 D)。 ・近視:遠点は眼前の有限距離にある。遠点が50cmなら-2 D、33cmなら-3 Dの近視である。 ・遠視:遠点は眼の後方(虚の点)にあり、無限遠を見るにも調節が必要となる。

調節力と年齢

調節力は水晶体の弾性低下によって加齢とともに減少する。おおよそ10歳で10 D以上、20歳で約10 D、40歳で約4〜5 D、50歳で約2〜3 D、60歳以降は1 D前後となる。調節力が低下して近方視に支障を来した状態が老視(老眼)である。

調節の機序

近くを見るとき、毛様体筋(動眼神経由来の副交感神経支配)が収縮してチン小帯が弛緩し、水晶体が自らの弾性で厚くなって屈折力が増す。調節には縮瞳・輻湊が同時に起こり、これを近見反応(近見三徴)という。

POINT

・調節力(D)=1/近点(m)-1/遠点(m) ・距離(cm)からDへの換算は「100÷距離(cm)」 ・遠点が有限距離にある眼は近視であり、その分を差し引いて調節力を計算する ・本問:4.0 D-2.0 D=2.0 D

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。