血小板が減ると「どこから」出血する?―ITPで学ぶ一次止血と二次止血の見分け方
第112回医師国家試験 A問題 第11問
国試問題にチャレンジ
免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉〈ITP〉について正しいのはどれか。
- a.先天性疾患である。
- b.骨髄の巨核球が減少する。
- c.皮下出血を起こしやすい。
- d.関節内出血を起こしやすい。
- e.筋肉内出血を起こしやすい。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板膜糖蛋白に対する自己抗体により血小板が主に脾臓で破壊される後天性の自己免疫疾患です。末梢での破壊が主体のため骨髄巨核球は正常〜増加し、産生低下による再生不良性貧血や白血病との重要な鑑別点になります。血小板は一次止血を担うため、その減少では点状出血・紫斑などの皮下出血や鼻出血・歯肉出血といった表在性出血が起こり、関節内出血や筋肉内血腫といった深部出血は凝固因子異常(血友病など)に特徴的です。検査ではPT・APTTは正常で出血時間が延長し、診断は偽性血小板減少や薬剤性、膠原病などを除外して行います。「どこで血球が減るのか」「どの止血段階が障害されるのか」という視点は、出血性疾患全般を整理する土台となります。
解答・解説
正解はcです
疾患の要点
免疫性血小板減少性紫斑病(ITP:immune thrombocytopenia)は、血小板膜糖蛋白(主にGPIIb/IIIaやGPIb/IX)に対する自己抗体(IgG)が産生される後天性の自己免疫疾患である。抗体が結合した血小板は、主に脾臓のマクロファージにFc受容体を介して捕捉・貪食され、血小板寿命が著しく短くなる。さらに自己抗体は骨髄巨核球にも作用し、血小板産生を障害することも知られている。
出血症状の考え方
出血傾向は、どの止血機構が障害されているかで症状の出方が異なる。 ・一次止血(血小板)の異常:皮膚・粘膜の表在性出血が中心。点状出血、紫斑、鼻出血、歯肉出血、月経過多など。 ・二次止血(凝固因子)の異常:関節内出血、筋肉内血腫などの深部出血が中心(例:血友病)。 ITPは血小板数のみが減少し凝固因子は正常であるため、典型的には皮下出血(点状出血・紫斑)や粘膜出血をきたす。
骨髄所見
血小板は末梢で破壊されているため、骨髄の巨核球数は正常〜増加する。この点が、骨髄での産生自体が低下する再生不良性貧血や白血病などとの重要な鑑別点である。 これらを踏まえ、各選択肢の正誤を判断する。
選択肢考察
- ×a. 先天性疾患である。
ITPは血小板に対する自己抗体によって起こる後天性の自己免疫疾患である。小児ではウイルス感染やワクチン接種の後に急性発症し、多くは数か月以内に自然寛解する。成人では緩徐に発症し慢性化しやすく、若年〜中年女性と高齢者に多い。先天性の血小板減少症(Bernard-Soulier症候群、Wiskott-Aldrich症候群など)とは区別される。
- ×b. 骨髄の巨核球が減少する。
ITPの主病態は末梢での血小板破壊亢進であり、骨髄の巨核球数は正常ないし増加する。巨核球が減少するのは、再生不良性貧血、白血病などによる骨髄占拠、抗癌薬による骨髄抑制など、産生そのものが低下する病態である。骨髄検査はITPの診断に必須ではないが、高齢者や非典型例では他疾患除外のために行われる。
- ○c. 皮下出血を起こしやすい。
血小板は一次止血(血小板血栓の形成)を担うため、その減少では皮膚・粘膜の毛細血管レベルの出血が起こりやすい。ITPでは点状出血や斑状出血(紫斑)といった皮下出血、鼻出血・歯肉出血・口腔内血腫、月経過多などがみられる。一般に血小板数が5万/μL未満で出血症状が出やすくなり、1万/μL未満では消化管出血や頭蓋内出血など重篤な出血の危険が高まる。
- ×d. 関節内出血を起こしやすい。
関節内出血は凝固因子の異常(二次止血障害)に特徴的な深部出血であり、代表は血友病A(第VIII因子欠乏)・血友病B(第IX因子欠乏)である。凝固因子が正常なITPでは関節内出血は起こりにくい。
- ×e. 筋肉内出血を起こしやすい。
筋肉内血腫も関節内出血と同様に凝固因子異常に典型的な深部出血である(血友病、後天性血友病など)。血小板のみが減少するITPでは起こりにくい。
ITPの病態の整理
・抗血小板自己抗体(PAIgG:血小板関連IgG)が血小板に結合→脾臓などでマクロファージにより貪食→血小板寿命短縮。 ・自己抗体は巨核球からの血小板産生も抑制する。 ・トロンボポエチン(TPO)は肝臓でほぼ一定量産生され、血小板・巨核球に結合して消費されることで血中濃度が決まる。ITPでは巨核球量が保たれるため、血中TPO濃度は正常〜軽度上昇にとどまり、著明に上昇する再生不良性貧血とは対照的である。このことがTPO受容体作動薬が有効である理由の一つである。
検査所見
・血小板数減少(10万/μL未満)、赤血球・白血球は原則正常。 ・PT、APTTなど凝固検査は正常、出血時間は延長。 ・骨髄巨核球は正常〜増加。 ・ITPは除外診断であり、偽性血小板減少(EDTA依存性)、薬剤性、SLEなどの膠原病、肝硬変による脾機能亢進、白血病・骨髄異形成症候群などを除外する。
治療(成人)の概要
・Helicobacter pylori陽性なら除菌療法(日本で有効例が多い)。 ・第一選択:副腎皮質ステロイド。 ・二次治療:TPO受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)、リツキシマブ、摘脾など。 ・緊急時(重篤な出血、手術前など):免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)、血小板輸血。
関連疾患
赤血球に対する自己抗体による自己免疫性溶血性貧血(AIHA)も同様の機序で血球が破壊される。ITPとAIHAが合併したものをEvans症候群という。
出血症状と障害部位の対応
・血小板・血管の異常:点状出血、紫斑、粘膜出血(表在性) ・凝固因子の異常:関節内出血、筋肉内血腫(深部)、外傷後の遅発性出血
POINT
・ITPは後天性の自己免疫疾患(抗血小板自己抗体による末梢での血小板破壊) ・骨髄巨核球は正常〜増加(産生低下ではない) ・血小板異常→皮下・粘膜の表在性出血(点状出血、紫斑、鼻出血) ・凝固因子異常(血友病など)→関節内・筋肉内の深部出血 ・PT・APTTは正常、出血時間は延長
