StudyMed医師国家試験

思春期に濃くなる顔の青いあざ―色が語る深さと太田母斑の治し方

第111回医師国家試験 I問題 第64問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第64問

20歳の男性。右顔面の青色の色素斑を主訴に来院した。3年前から色素斑が出現し,次第に濃くなってきたため受診した。顔面の写真を別に示す。  この疾患について正しいのはどれか。

第111回 I問題 第64問の問題画像
  1. a.表皮顆粒層のメラニン沈着による。
  2. b.レーザー治療が有効である。
  3. c.日本人では少ない。
  4. d.悪性化しやすい。
  5. e.遺伝性である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、顔面の青い色素斑から疾患を特定し、その特徴を問う問題だ。注目すべきは「青い」という色、片側の顔面という分布、そして思春期ころに出現して濃くなってきたという経過。まず、あざの色が何で決まるか考えてみよう。
医学生医学生
メラニンが多いと黒っぽく、少ないと薄くなる、という量の問題でしょうか。
ドクタードクター
量も関係するけれど、もっと大事なのは深さなんだ。表皮にあるメラニンは茶色から黒褐色に見える。一方、真皮の深いところにあるメラニンは、光が皮膚の中で散乱されるTyndall現象によって青く見える。だから「青いあざ」をみたら、真皮にメラノサイトがいると考えるのが基本だ。
医学生医学生
皮膚科の講義で、蒙古斑が青いのも同じ理由だと習いました。
ドクタードクター
その通り。真皮メラノサイトーシスと呼ばれるグループで、蒙古斑、異所性蒙古斑、青色母斑、太田母斑などがある。写真では片側の頬から眼の周りにかけて青灰色の斑が広がっていて、三叉神経の第1枝・第2枝領域に沿った分布だ。これに思春期発症で徐々に濃くなる経過を合わせると、太田母斑と考えられる。
医学生医学生
蒙古斑なら生まれつきで、お尻にあって自然に消えていくので違いますね。
ドクタードクター
よく整理できている。太田母斑は乳児期と思春期前後の二峰性に発症し、自然消退はほとんど期待できない。では選択肢を見ていこう。まず病態として、表皮顆粒層のメラニン沈着という記載はどうかな。
医学生医学生
青いなら真皮のはずなので違いますね。そもそもメラノサイトがいるのは基底層だったと思います。
ドクタードクター
その通り。太田母斑の本態は真皮の中〜上層での真皮メラノサイトの増殖だ。表皮基底層のメラニンが増えて褐色調が混じることはあるけれど、顆粒層は角化の途中の層で、色素斑の主座にはならない。次に、日本人では少ないという記載は?
医学生医学生
名前が日本人っぽいので、むしろ日本人に多いのではないかと思いました。
ドクタードクター
いい勘だね。太田正雄、文学者としては木下杢太郎の筆名で知られる皮膚科医が報告した疾患で、日本人を含む東アジアの人に多く、白人ではまれだ。女性に多いことも覚えておこう。では、悪性化しやすいというのは?
医学生医学生
母斑という名前なので、悪性黒色腫が心配になります。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、太田母斑は良性で、悪性化はきわめてまれだ。報告はあってもごく少数にとどまる。遺伝性かどうかについても、基本的には孤発性で遺伝性疾患とはみなされない。
医学生医学生
すると正しいのはレーザー治療が有効、ですね。形成外科を回ったとき、あざのレーザー外来を見学しました。
ドクタードクター
正解。第一選択はQスイッチレーザーで、ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAGなどが使われる。ナノ秒単位のきわめて短いパルスでメラニンに選択的に吸収される光を当て、周囲への熱損傷を抑えながらメラニンを含む細胞を壊す。これを選択的光熱融解という。数か月あけて複数回照射すると、多くの例で著明に改善する。保険診療で行えるのもポイントだ。
医学生医学生
照射後に何か副作用はありますか。
ドクタードクター
一時的な色素沈着や色素脱失が起こることがある。治療前にきちんと説明しておくことが大切だね。それから発展知識として、太田母斑は皮膚だけでなく、眼球結膜や強膜、口腔・鼻粘膜に青い色素沈着を伴うことがある。眼に色素沈着がある例では緑内障の合併に注意が必要で、眼科での評価も考えたい。
医学生医学生
成人女性の両頬にあるあざで、太田母斑と紛らわしいものはありますか。
ドクタードクター
後天性真皮メラノサイトーシス、ADMが代表だ。成人女性の両側の頬や額に褐色〜灰褐色の小さな斑が多発する。両側性で粘膜や眼の病変を伴わない点が太田母斑と違う。さらに表皮のメラニン増加による肝斑との区別も重要で、レーザーへの反応が異なるから、見誤ると治療でかえって悪化させることもあるんだ。
医学生医学生
色で深さを考えて、分布と発症時期で病名を絞る、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。色、深さ、分布、発症時期の4点セットで考えれば、色素斑の鑑別はぐっと整理しやすくなるよ。

まとめ

青色の色素斑は、真皮内のメラニンがTyndall現象で青く見えることによるもので、真皮メラノサイトの増殖を示唆します。片側顔面の三叉神経第1・2枝領域に、乳児期または思春期に出現して徐々に濃くなる青色斑は太田母斑の典型で、日本人を含む東アジア人や女性に多く、非遺伝性で悪性化はきわめてまれです。治療はQスイッチレーザー(ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAG)による選択的光熱融解が第一選択で、複数回照射で多くが改善します。眼球メラノーシスを伴う例の緑内障や、ADM・肝斑・蒙古斑との鑑別も臨床上重要です。色素斑を「色・深さ・分布・発症時期」で考える習慣は、皮膚科診療全般で役立つ視点です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・20歳男性。右顔面の青色の色素斑。3年前(思春期ころ)に出現し、徐々に色が濃くなっている。 ・顔面写真では、片側の頬から眼周囲にかけて、三叉神経第2枝(上顎神経)を中心とする領域に青褐色~灰青色の斑が広がっている。

診断へのプロセス

色素斑の色調は、メラニンが皮膚のどの深さにあるかで決まる。表皮内のメラニンは茶色~黒褐色に見えるが、真皮の深い位置にあるメラニンは、光が皮膚の中で散乱される(Tyndall現象)ため青く見える。したがって「青色の色素斑」は真皮内のメラノサイト(メラニン産生細胞)の増殖を示唆する。 真皮にメラノサイトが存在する疾患(真皮メラノサイトーシス)には、蒙古斑、異所性蒙古斑、青色母斑、太田母斑、後天性真皮メラノサイトーシスなどがある。そのうち、顔面の片側で三叉神経第1・2枝領域に沿って分布し、乳幼児期または思春期に出現して徐々に濃くなるものは太田母斑である。本例は思春期発症・片側性・顔面の三叉神経領域という特徴がそろっており、太田母斑と診断できる。

設問の考え方

太田母斑の病態(真皮メラノサイトの増殖)、疫学(日本人を含む黄色人種に多い、非遺伝性)、予後(自然消退しにくいが悪性化はまれ)、治療(Qスイッチレーザーが有効)の基本事項を押さえていれば解ける。

選択肢考察

  1. ×a.  表皮顆粒層のメラニン沈着による。

    誤り。太田母斑の本態は、真皮の中~上層にメラニンを産生する真皮メラノサイトが増殖していることであり、表皮顆粒層へのメラニン沈着によるものではない。真皮内のメラニンであるため青く見える。表皮基底層のメラニンが増加していることもあり、その場合は褐色調が混じる。なお、正常の表皮でメラノサイトが存在しメラニンを供給するのは基底層であり、顆粒層は角化の過程にある層で、メラニン沈着を主座とする色素斑の病変部位とはならない。

  2. ○b.  レーザー治療が有効である。

    正しい。太田母斑の第一選択はQスイッチレーザー(ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、Nd:YAGレーザーなど)による治療である。これらはナノ秒単位のきわめて短いパルスでメラニンに選択的に吸収される光を照射し、周囲の組織への熱損傷を抑えながらメラニンを含む真皮メラノサイトを破壊する(選択的光熱融解)。数か月の間隔をあけて複数回照射することで、多くの例で色素斑が著明に改善する。保険診療で行うことができ、小児期からの治療も可能である。

  3. ×c.  日本人では少ない。

    誤り。太田母斑は太田正雄(筆名:木下杢太郎)によって報告された疾患で、日本人を含む東アジアの黄色人種に多く、白人ではまれである。日本人での頻度は数百人に1人程度とされる。また女性に多い。

  4. ×d.  悪性化しやすい。

    誤り。太田母斑は良性の病変であり、悪性化はきわめてまれである。悪性黒色腫の発生報告はあるがごく少数にとどまる。むしろ臨床上問題となるのは、自然消退しにくいことによる整容面の問題と、眼球のメラノサイトーシスを伴う例での緑内障などの眼合併症である。

  5. ×e.  遺伝性である。

    誤り。太田母斑は基本的に孤発性で、遺伝性は認められない。家族内発生の報告はごくまれにあるが、遺伝性疾患とはみなされない。

太田母斑の概要

・真皮メラノサイトーシスの一つで、片側の顔面、主に三叉神経第1枝(眼神経)・第2枝(上顎神経)領域に生じる青色~褐青色の色素斑。まれに両側性のこともある。 ・発症時期は二峰性で、生後まもなく(乳児期)に出現するものと、思春期前後に出現するものがある。 ・皮膚だけでなく、眼球結膜・強膜(青色調の色素沈着)、口腔粘膜、鼻粘膜などに色素沈着を伴うことがある。眼に色素沈着を伴う例では緑内障の合併に注意し、眼科的な評価も行う。 ・自然消退はほとんど期待できない。

色素斑の色と深さ

・表皮内メラニン:褐色~黒褐色(例:雀卵斑、肝斑、扁平母斑、カフェオレ斑) ・真皮内メラニン:青色~灰青色(例:蒙古斑、太田母斑、青色母斑)

真皮メラノサイトーシスの鑑別

・蒙古斑:出生時から仙骨部・殿部にみられ、多くは学童期までに自然消退する。仙骨部以外に生じたものを異所性蒙古斑と呼び、消退しにくいものはレーザー治療の対象となる。 ・青色母斑:真皮メラノサイトが集まった青色~青黒色の小さな結節。手背・足背・顔面などに生じる。 ・後天性真皮メラノサイトーシス(ADM:acquired dermal melanocytosis):成人女性の両側頬部・額などに褐色~灰褐色の小斑が多発する。両側性で、粘膜や眼の病変を伴わない点で太田母斑と異なる。肝斑(表皮内メラニン増加による褐色斑)との鑑別が重要で、レーザー治療の反応が異なる。

治療

・Qスイッチレーザー(ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAG)やピコ秒レーザーによる複数回照射が有効。照射後に一時的な色素沈着・色素脱失を生じることがある。 ・治療しない場合や治療中は、化粧(カバーマーク)で整容的に対処することもできる。

POINT

・青色の色素斑=真皮内のメラニン(真皮メラノサイトの増殖)。 ・太田母斑:片側顔面の三叉神経第1・2枝領域、乳児期または思春期に発症、日本人など黄色人種・女性に多い。 ・非遺伝性で、悪性化はきわめてまれ。眼球メラノーシスを伴えば緑内障に注意。 ・治療はQスイッチレーザー(ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAG)が第一選択。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。