StudyMed医師国家試験

産科救急の「正しい一手」―病態から逆算する処置の組合せ

第111回医師国家試験 I問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第23問

産科異常と処置の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.横位 ―― 分娩誘発
  2. b.子宮破裂 ―― 開腹手術
  3. c.頸管裂傷 ―― 頸管縫縮術
  4. d.弛緩出血 ―― β2刺激薬投与
  5. e.絨毛膜羊膜炎 ―― 副腎皮質ステロイド投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代表的な産科異常とその処置を正しく結びつけられるかを問う問題だ。丸暗記で臨むと似た名前の手技や薬に引っかかりやすい。コツは「その病態で何が起きているか」をまず考え、そこから処置を逆算することだよ。
医学生医学生
組合せ問題は苦手です。頸管裂傷と頸管縫縮術みたいに、名前が似ているものが特に紛らわしくて。
ドクタードクター
まさにそこが作問者の狙いだね。一つずつ見ていこう。まず横位。胎児の長軸が母体の長軸と直交している状態だけど、これで経腟分娩はできると思う?
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、横位は帝王切開と聞きました。分娩誘発は…むしろ危ないですか。
ドクタードクター
その通り。横位では胎児が骨盤に進入できないから、正期の生児を経腟分娩させることはできない。そこで陣痛を起こすと、遷延分娩や子宮破裂、臍帯脱出や上肢脱出を招く。だから分娩誘発は禁忌で、選択的帝王切開を計画するんだ。
医学生医学生
では子宮破裂と開腹手術の組合せはどうでしょう。これはそのまま正しそうに見えます。
ドクタードクター
正解はそれだ。子宮破裂は子宮壁が裂けて腹腔内に大量出血し、胎児も急速に低酸素に陥る、最重症の産科救急だ。輸液・輸血でショックに対応しながら直ちに開腹し、胎児を娩出したうえで、破裂部を修復縫合するか、止血が難しければ子宮全摘出術を行う。手術以外に根本的な対処法はない。
医学生医学生
兆候も知っておきたいです。OSCEの産科ブースでは出なかったですが、国試では症状から問われそうで。
ドクタードクター
良い心構えだね。危険因子は帝王切開や筋腫核出術の既往による瘢痕子宮、子宮収縮薬の過剰投与、遷延分娩など。切迫破裂の段階では過強陣痛やBandl収縮輪の上昇、子宮下部の圧痛がみられる。破裂すると突然の激痛のあと陣痛が消失し、胎児心拍異常やショック、腹壁直下に胎児部分を触れるといった所見が出る。
医学生医学生
頸管裂傷のほうは、頸管縫縮術で裂けたところを縫う、という意味ではないんですか。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だ。頸管縫縮術はシロッカー手術やマクドナルド手術のことで、妊娠中に頸管が無痛性に開大して流早産を起こす頸管無力症に対し、頸管を糸で縛って閉じる予防的な手術なんだ。頸管裂傷には、腟鏡で裂傷部を確認し、裂傷の上端よりやや上から縫い始める頸管裂傷縫合術を行う。目的がまったく違う。
医学生医学生
なるほど、「縫縮」と「縫合」は別物なんですね。弛緩出血にβ2刺激薬はどうでしょう。β2刺激薬は平滑筋を緩める薬だった気がします。
ドクタードクター
薬理の講義の記憶がそのまま使えるね。リトドリンなどのβ2刺激薬は子宮収縮抑制薬で、切迫早産に使う。弛緩出血は胎盤娩出後に子宮筋が十分に収縮せず、胎盤付着部の血管が閉じないことによる出血だから、必要なのは逆に収縮させること。子宮底の輪状マッサージや双手圧迫とともに、オキシトシン、メチルエルゴメトリン、PGF2αなどの子宮収縮薬を使う。β2刺激薬を入れたら出血は悪化してしまう。
医学生医学生
最後の絨毛膜羊膜炎とステロイドは、早産のときに胎児の肺成熟目的でベタメタゾンを使う話と混同しそうです。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。絨毛膜羊膜炎は腟からの上行性細菌感染による卵膜・羊水の感染症だから、治療の基本は抗菌薬投与と、週数や母児の状態に応じた妊娠の終結だ。ステロイドには免疫抑制作用があり感染症の治療薬ではない。34週未満の早産が予想される場合の母体ステロイド投与は、あくまで胎児の肺成熟が目的で、絨毛膜羊膜炎を治すためのものではないんだ。
医学生医学生
まとめると、経腟分娩できない横位に誘発は禁忌、裂傷は縫合、収縮不全には収縮薬、感染には抗菌薬、そして子宮破裂には開腹手術ですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、分娩後異常出血の原因「4つのT」も覚えておこう。Toneは弛緩出血、Traumaは頸管裂傷・腟壁裂傷・子宮破裂・子宮内反症、Tissueは胎盤や卵膜の遺残・癒着胎盤、Thrombinは凝固異常やDICだ。最も多いのは弛緩出血だよ。
医学生医学生
頸管裂傷と弛緩出血は、出血の様子で見分けられますか。
ドクタードクター
手がかりはある。頸管裂傷では子宮収縮は良好なのに、胎児娩出直後から鮮紅色の出血が続く。一方、弛緩出血では子宮が柔らかく触れ、胎盤娩出後に暗赤色の出血が続くことが多い。臨床では子宮の硬さを触って確認し、収縮が良いのに出血が止まらなければ産道を診る、という順序で原因を探していくんだ。

まとめ

産科異常の処置は、病態で何が起きているかを考えれば導けます。子宮破裂は大量出血と胎児低酸素が急速に進む最重症の産科救急であり、ショック対応と同時に緊急開腹手術を行い、修復縫合または子宮全摘出術で対処します。横位は経腟分娩が不可能なため分娩誘発は禁忌で帝王切開とし、頸管裂傷には裂傷縫合術(頸管縫縮術は頸管無力症の手術)、弛緩出血には子宮マッサージと子宮収縮薬(β2刺激薬は切迫早産に用いる収縮抑制薬)、絨毛膜羊膜炎には抗菌薬投与と妊娠の終結を行います。分娩後異常出血を「4つのT」で整理しておくと、分娩室での原因検索と迅速な初期対応に役立ちます。

解答・解説

正解はbです

問われていること

代表的な産科異常それぞれに対して、標準的な処置(治療)を正しく対応させられるかを問う問題である。

考え方

各選択肢を「その病態で何が起きているか」から考えると、適切な処置が導ける。 ・横位:胎児の長軸が母体の長軸と直交しており、正期産の生児を経腟分娩させることはできない。 ・子宮破裂:子宮壁が裂け、大量の腹腔内出血と胎児の急速な低酸素状態を招く。母児ともに生命が危険な最重症の産科救急である。 ・頸管裂傷:分娩時に子宮頸部が裂けて出血する、産道の損傷である。 ・弛緩出血:胎盤娩出後に子宮筋の収縮が不十分なため、胎盤付着部の血管が閉じずに出血が続く状態である。 ・絨毛膜羊膜炎:主に腟からの上行性細菌感染による卵膜・羊水の感染症である。 このうち、手術でしか根本的に対処できず、開腹手術が必須となるのは子宮破裂である。

選択肢考察

  1. ×a.  横位 ―― 分娩誘発

    誤り。横位(および斜位)では胎児が骨盤に進入できず、生存可能な成熟児の経腟分娩は不可能である。経腟分娩ができない状態で陣痛を誘発すると、遷延分娩や子宮破裂、臍帯脱出・上肢脱出などを招くため、分娩誘発は禁忌である。妊娠末期まで横位が続く場合は選択的帝王切開を計画する。なお、骨盤位を含め、頭位以外の胎位は現在では帝王切開で分娩させることが多い。

  2. ○b.  子宮破裂 ―― 開腹手術

    正しい。子宮破裂では大量出血による出血性ショックと胎児機能不全が急速に進行するため、輸液・輸血などでショックに対応しながら直ちに開腹手術を行う。手術では胎児を娩出し、破裂部の状態や出血の程度に応じて子宮の修復縫合、あるいは止血困難な場合には子宮全摘出術を行う。

  3. ×c.  頸管裂傷 ―― 頸管縫縮術

    誤り。頸管裂傷に対しては、腟鏡で裂傷部位を確認し、裂傷の上端(頂点)よりやや上から縫合して止血する頸管裂傷縫合術を行う。頸管縫縮術(シロッカー手術、マクドナルド手術)は、妊娠中に子宮頸管が無痛性に開大して流早産を起こす頸管無力症に対して、頸管を糸で縛って閉じる手術であり、目的がまったく異なる。

  4. ×d.  弛緩出血 ―― β2刺激薬投与

    誤り。弛緩出血は子宮収縮不全による出血であるから、子宮底の輪状マッサージや双手圧迫とともに、オキシトシンやメチルエルゴメトリン、プロスタグランジンF2αなどの子宮収縮薬を投与する。β2刺激薬(リトドリン塩酸塩など)は子宮平滑筋を弛緩させる子宮収縮抑制薬であり、切迫早産の治療に用いる。弛緩出血に投与すると子宮の弛緩を助長し、出血を悪化させる。

  5. ×e.  絨毛膜羊膜炎 ―― 副腎皮質ステロイド投与

    誤り。絨毛膜羊膜炎は細菌感染症であり、治療の基本は抗菌薬の投与と、母体・胎児の状態や妊娠週数に応じた妊娠の終結(分娩)である。副腎皮質ステロイドには免疫抑制作用があり、感染症そのものの治療薬ではなく、感染を悪化させるおそれがある。なお、早産が予想される妊娠34週未満では胎児の肺成熟を目的にベタメタゾンを母体に投与することがあるが、これは絨毛膜羊膜炎の治療ではない。

分娩誘発の主な禁忌

経腟分娩が不可能または危険な状態では分娩誘発を行わない。具体的には、横位・斜位、児頭骨盤不均衡(CPD)、全前置胎盤、子宮体部の縦切開による帝王切開既往や子宮筋腫核出術などで子宮破裂のリスクが高い場合、臍帯下垂・臍帯前置、胎児機能不全で急速遂娩が必要な場合などである。

子宮破裂

危険因子:帝王切開や子宮筋腫核出術の既往(瘢痕子宮)、子宮収縮薬の過剰投与、遷延分娩・CPD、多産婦など。 前兆(切迫子宮破裂):過強陣痛、収縮輪(Bandl収縮輪)の上昇、子宮下部の圧痛など。 破裂時の症状:突然の激しい下腹痛、陣痛の消失、胎児心拍異常、胎児部分を腹壁直下に触れる、ショック症状。 対応:輸血を含むショック対応と緊急開腹手術。

分娩後異常出血の原因(4つのT)

Tone(子宮収縮不全=弛緩出血)、Trauma(頸管裂傷・腟壁裂傷・子宮破裂・子宮内反症)、Tissue(胎盤・卵膜遺残、癒着胎盤)、Thrombin(凝固異常、DIC)。弛緩出血が最も多い。 弛緩出血の治療:子宮マッサージ・双手圧迫、子宮収縮薬(オキシトシン、メチルエルゴメトリン、PGF2α)、子宮内バルーンタンポナーデ、子宮動脈塞栓術、圧迫縫合や子宮全摘出術。 頸管裂傷の特徴:子宮収縮は良好なのに、胎児娩出直後から鮮紅色の出血が持続する。

子宮収縮薬と子宮収縮抑制薬

収縮薬:オキシトシン、PGF2α、PGE2、メチルエルゴメトリン(麦角アルカロイド。胎児娩出前は禁忌)。 抑制薬:β2刺激薬(リトドリン塩酸塩)、硫酸マグネシウム。

絨毛膜羊膜炎

前期破水などを契機とした上行性感染が多く、早産の重要な原因である。母体発熱、母体頻脈、胎児頻脈、子宮圧痛、悪臭のある羊水・帯下、母体白血球数増加やCRP上昇などで診断する。治療は抗菌薬投与と分娩の時期の判断である。

POINT

・横位・斜位は経腟分娩不可能であり、分娩誘発は禁忌である(帝王切開の適応)。 ・子宮破裂はショック対応と緊急開腹手術(修復または子宮全摘出術)を行う。 ・頸管裂傷には裂傷縫合術を行う。頸管縫縮術は頸管無力症に対する手術である。 ・弛緩出血には子宮収縮薬を用いる。β2刺激薬は子宮収縮抑制薬で切迫早産に用いる。 ・絨毛膜羊膜炎の治療は抗菌薬投与と妊娠の終結である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。