StudyMed医師国家試験

つわりにお腹の痛みはない―症状から読み解く産科疾患の病態

第105回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第105回 C問題 第2問

疾患と症状の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.子癇 ―― けいれん
  2. b.前期破水 ―― 水様帯下
  3. c.前置胎盤 ―― 血性帯下
  4. d.妊娠悪阻 ―― 下腹部痛
  5. e.胎児機能不全 ―― 胎動減少

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、産科の代表的な疾患とその症状の組合せから、誤っているものを選ぶ問題だ。丸暗記で対応しようとすると迷いやすいけれど、それぞれの疾患で「体の中で何が起きているか」から症状を考えれば、自然に答えが見えてくるよ。
医学生医学生
五つとも聞いたことのある疾患ですが、全部それらしく見えてしまいます。
ドクタードクター
だからこそ病態から一つずつ確認しよう。まず子癇とけいれんの組合せはどうかな。
医学生医学生
子癇は妊娠高血圧症候群に関連したけいれん発作ですよね。これは正しい組合せだと思います。
ドクタードクター
その通り。子癇は妊娠20週以降に初めて起こるけいれん発作で、てんかんなど他の原因が否定されるものを指す。背景には脳血管の攣縮や血管透過性の亢進による脳浮腫があると考えられている。分娩後の産褥期にも起こりうること、頭痛や目のちらつき、上腹部痛といった前駆症状がみられることがある点も大事だ。
医学生医学生
前期破水の水様帯下も、羊水が流れ出るなら納得です。
ドクタードクター
そうだね。陣痛が始まる前に卵膜が破れて羊水が流れ出るから、妊婦さんは「水っぽいおりもの」や「下着が濡れる」と訴える。羊水はアルカリ性なので、腟内のpHを調べて確認する。破水後は上行性感染による絨毛膜羊膜炎や臍帯脱出に注意が必要だ。
医学生医学生
前置胎盤の血性帯下も正しいですよね。産婦人科の講義で「痛みのない出血」と強調されていました。
ドクタードクター
よく覚えているね。胎盤が内子宮口を覆っているので、妊娠後期に子宮下部が伸びたり子宮が収縮したりすると胎盤の一部がはがれて出血する。最初は少量の警告出血で、繰り返しながら大量出血に至ることがある。腹痛を伴う出血なら常位胎盤早期剝離を考える、というのが重要な鑑別点だ。
医学生医学生
胎児機能不全で胎動が減るのは、赤ちゃんが元気をなくしているから、という理解でいいですか。
ドクタードクター
イメージとしてはそれでいい。低酸素状態に陥った胎児は、酸素消費を抑えるために体の動きを減らす。だから妊婦さんが自覚する胎動の減少は、胎児の状態悪化を疑うきっかけになるんだ。訴えがあれば胎児心拍数モニタリングや超音波検査で評価する。
医学生医学生
そうすると残るのは妊娠悪阻と下腹部痛ですね。つわりがひどくなった状態なので、吐き気や嘔吐が中心で、お腹の痛みは違う気がします。
ドクタードクター
正解。妊娠悪阻はつわりが重症化して食事がとれなくなり、体重減少、脱水、尿中ケトン体陽性、電解質異常をきたした状態だ。主な症状は悪心、頻回の嘔吐、食欲低下、体重減少、全身倦怠感で、下腹部痛は特徴的な症状ではない。これが誤った組合せだね。
医学生医学生
でも、妊娠初期に下腹部痛を訴える人がいたら、何を考えればいいのでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。妊娠初期の下腹部痛では、むしろ異所性妊娠や流産を考えるべきだ。特に異所性妊娠は破裂すると腹腔内出血でショックになりうるから、つわりだと決めつけずに超音波で子宮内に胎嚢があるかを確認することが大切になる。
医学生医学生
臨床実習の産婦人科で、妊娠反応陽性の腹痛ではまず子宮内妊娠かどうかを確認する、と教わりました。
ドクタードクター
まさにその姿勢だ。最後に発展知識をまとめておこう。妊娠悪阻の重症例では、ビタミンB1欠乏によるWernicke脳症に注意が必要で、意識障害、眼球運動障害、歩行失調が出る。だから輸液にはビタミンB1を加える。子癇の治療では、けいれんの抑制と再発予防に硫酸マグネシウムを使い、降圧を行い、母体が安定したら分娩を考える。
医学生医学生
前置胎盤では内診をしてはいけない、というのもCBTの問題で見ました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。内診で大出血を誘発するおそれがあるから、診断は経腟超音波で慎重に行う。症状と病態をセットで理解しておけば、組合せ問題だけでなく、実際の救急外来で妊婦さんを診るときにも役立つよ。

まとめ

産科疾患の症状は、病態から考えると整理しやすくなります。子癇は妊娠高血圧症候群を背景としたけいれん、前期破水は陣痛前の羊水流出による水様帯下、前置胎盤は内子宮口付近の胎盤剝離による無痛性の性器出血、胎児機能不全は低酸素の胎児が動きを減らすことによる胎動減少として現れます。一方、妊娠悪阻はつわりが重症化して悪心・嘔吐、体重減少、脱水、尿中ケトン体陽性をきたす状態であり、下腹部痛は伴いません。妊娠初期の下腹部痛ではむしろ異所性妊娠や流産を考え、妊娠悪阻の重症例ではビタミンB1欠乏によるWernicke脳症に注意します。症状と病態を結び付けて理解することは、試験だけでなく妊婦の救急対応における見逃し防止にも直結します。

解答・解説

正解はdです

産科の代表的な疾患について、それぞれの主症状を正しく結び付けられるかを問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、疾患の典型像と合わない症状を探す。 疾患ごとに、何が起きているのか(病態)から症状を考えると整理しやすい。 ・子癇:妊娠高血圧症候群を背景に脳の血管が障害され、けいれん発作を起こす。 ・前期破水:陣痛が始まる前に卵膜が破れ、羊水が腟から流れ出る。 ・前置胎盤:胎盤が子宮の出口(内子宮口)を覆う位置にあり、子宮下部が伸びる時期に胎盤がはがれて出血する。 ・妊娠悪阻:妊娠初期のつわりが重症化し、嘔吐による脱水・栄養障害をきたす。 ・胎児機能不全:子宮内の胎児が低酸素などで健康を損なっている状態で、胎動が減る。 このうち妊娠悪阻は消化器症状と全身の代謝異常が中心であり、下腹部痛は特徴的な症状ではない。妊娠初期に下腹部痛がある場合は、むしろ異所性妊娠(子宮外妊娠)や流産などを考えるべきである。

選択肢考察

  1. ×a.  子癇 ―― けいれん

    正しい組合せである。子癇は、妊娠20週以降に初めてけいれん発作を起こし、てんかんなど他の原因による(二次性の)けいれんが否定されるものと定義される。多くは妊娠高血圧症候群を背景とし、脳血管の攣縮や血管透過性の亢進による脳浮腫が原因と考えられている。発症時期により妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇に分けられ、分娩後にも起こりうる。発作前に頭痛、目のちらつきや視覚障害、上腹部痛などの前駆症状がみられることがあり、注意を要する。

  2. ×b.  前期破水 ―― 水様帯下

    正しい組合せである。前期破水は陣痛が始まる前に卵膜が破れ、羊水が流出する状態をいう。妊婦は「水のようなおりものが出る」「下着が濡れる」と訴え、これが水様帯下である。羊水はアルカリ性であるため、腟内のpHを調べる検査(BTB試験紙など)や、羊水中の成分を検出する検査で確認する。破水の後は上行性の感染(絨毛膜羊膜炎)や臍帯脱出に注意が必要である。

  3. ×c.  前置胎盤 ―― 血性帯下

    正しい組合せである。前置胎盤では、妊娠後期に子宮下部が引き伸ばされたり子宮収縮が起きたりすると、内子宮口付近の胎盤の一部がはがれ、痛みを伴わない性器出血が起こる。最初は少量の出血(警告出血)であることが多く、繰り返しながら次第に大量出血に至ることがある。したがって血性の帯下・出血は前置胎盤を疑う重要な症状である。なお、腹痛を伴う出血は常位胎盤早期剝離との鑑別点となる。

  4. ○d.  妊娠悪阻 ―― 下腹部痛

    誤った組合せであり、これが正解である。妊娠悪阻はつわり(悪心・嘔吐)が重症化して、食事がとれず体重が減少し、脱水や飢餓によるケトン体の増加(尿中ケトン体陽性)、電解質異常をきたした状態である。主な症状は悪心、頻回の嘔吐、食欲低下、体重減少、全身倦怠感などで、下腹部痛は伴わない。重症例ではビタミンB1欠乏によるWernicke脳症(意識障害、眼球運動障害、歩行失調)に注意する。

  5. ×e.  胎児機能不全 ―― 胎動減少

    正しい組合せである。胎児機能不全は、妊娠中や分娩中に胎児の状態を評価した結果、胎児が健康でない(あるいは健康であると言い切れない)と判断される状態をいう。低酸素状態に陥った胎児は酸素消費を抑えるために体の動きを減らすため、妊婦が自覚する胎動の減少は胎児の状態悪化を疑うきっかけとなる。胎動減少を訴えた場合は、胎児心拍数モニタリング(NST)や超音波検査で評価する。

子癇の要点

妊娠高血圧症候群の重症化に伴って起こる。前駆症状として頭痛、視覚異常(閃輝暗点など)、上腹部痛がみられることがある。治療はけいれん抑制と再発予防に硫酸マグネシウムを用い、降圧を行い、母体の状態が安定したら妊娠の終結(分娩)を考える。頭部画像では後頭葉を中心とした可逆性の浮腫(可逆性後頭葉白質脳症、PRES)がみられることがある。

破水の分類

前期破水:陣痛開始前の破水。 適時破水:子宮口が全開大したころの破水(本来のタイミング)。 早期破水:陣痛が始まった後、子宮口が全開大する前の破水。 妊娠37週未満の前期破水は、早産や感染のリスクが高く、特に管理が難しい。

妊娠後期の性器出血の鑑別

前置胎盤:無痛性の出血、子宮は軟らかい。診断は経腟超音波で行い、内診は大出血を誘発するおそれがあるため行わない。 常位胎盤早期剝離:腹痛を伴い、子宮が板のように硬くなる。外出血は少なくても胎盤の後ろに血腫ができ、胎児機能不全や播種性血管内凝固(DIC)をきたしやすい。

妊娠悪阻

妊娠5〜6週ごろから始まり、多くは妊娠16週ごろまでに軽快する。体重が妊娠前より5%以上減少するなど、脱水・代謝異常を伴うものを妊娠悪阻という。治療は安静、少量頻回の食事、輸液による水分・電解質の補正であり、輸液にはビタミンB1を加えてWernicke脳症を予防する。

胎児の健康状態の評価

胎動の自覚、胎児心拍数モニタリング(NST、CST)、超音波検査によるBPS(biophysical profile score:胎児呼吸様運動・胎動・筋緊張・羊水量とNSTを点数化)、臍帯動脈などの血流計測が用いられる。かつては尿中エストリオール(E3)やヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)の測定も胎盤機能の指標とされたが、現在ではこれらの生理学的評価が中心である。

POINT

・子癇=妊娠20週以降に初発する、他の原因によらないけいれん。分娩後(産褥期)にも起こる。 ・前期破水=陣痛開始前の破水で、水様帯下として自覚される。 ・前置胎盤=無痛性の性器出血(警告出血)。腹痛を伴えば常位胎盤早期剝離を考える。 ・妊娠悪阻=悪心・嘔吐・体重減少・尿中ケトン体陽性。下腹部痛は伴わない。ビタミンB1欠乏によるWernicke脳症に注意。 ・胎動減少は胎児機能不全を疑う重要な徴候。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。