StudyMed医師国家試験

潰瘍が治っても終わりじゃない―ピロリ除菌後に続く「胃癌への見張り」

第111回医師国家試験 I問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第22問

Helicobacter pylori陽性の非出血性胃潰瘍の治療について正しいのはどれか。

  1. a.入院での加療が必要である。
  2. b.ヒスタミンH2受容体拮抗薬が第一選択である。
  3. c.除菌治療成功後も粘膜保護薬の投与が必要である。
  4. d.プロトンポンプ阻害薬と抗菌薬の静脈内投与で除菌を行う。
  5. e.除菌治療成功後も定期的な上部消化管内視鏡検査が必要である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ピロリ菌陽性で出血のない胃潰瘍をどう治療するか、その全体の流れを問う問題だ。入院の要否、酸分泌抑制薬の選び方、除菌の方法、そして除菌が終わった後のフォロー。治療を時系列で整理できているかがカギになるよ。
医学生医学生
消化性潰瘍の原因は、ピロリ菌とNSAIDsが二大成因でしたよね。
ドクタードクター
その通り。ピロリ陽性の潰瘍では、酸を抑えて潰瘍を治しても菌が残っている限り高率に再発する。だから除菌が治療の中心になるんだ。まず、この患者さんは入院が必要だと思う?
医学生医学生
潰瘍と聞くと、吐血して救急搬送される人のイメージが強くて、入院が必要な気がしてしまいます。
ドクタードクター
救急外来で出会う潰瘍は出血例が多いから、そう感じるのも無理はないね。でも、出血・穿孔・狭窄といった合併症がなければ外来での内服治療で十分対応できる。入院が必要なのは、内視鏡的止血や輸血が要る出血例、手術を考える穿孔例、幽門狭窄で食事がとれない例などだ。
医学生医学生
では酸分泌抑制薬は、H2受容体拮抗薬から始めるんでしょうか。薬理学の講義でファモチジンを習いました。
ドクタードクター
潰瘍治療の第一選択はプロトンポンプ阻害薬、最近はカリウムイオン競合型アシッドブロッカーのボノプラザンも含まれる。H2受容体拮抗薬はヒスタミン刺激の経路だけを遮断するのに対し、PPIは壁細胞のH+/K+-ATPase、つまり酸分泌の最終段階を止めるから、効果が強く治癒率も高い。H2受容体拮抗薬はPPIが使えないときの選択肢と考えよう。
医学生医学生
除菌は、点滴で抗菌薬を入れたほうが確実に効きそうに思えますが……。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。除菌はすべて経口で行う。一次除菌はPPIまたはボノプラザンにアモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた3剤を7日間内服する。菌は胃粘膜の表面にいるから、経口投与が理にかなっているんだ。静脈内投与の除菌レジメンは標準ではない。
医学生医学生
一次除菌に失敗したら、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに替えて二次除菌ですね。CBTの問題で出ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。クラリスロマイシン耐性菌が増えているから、酸分泌抑制が強く速やかなボノプラザンが除菌率の向上に役立っている。では、除菌に成功した後はどうする?粘膜保護薬を続ける必要はあるかな。
医学生医学生
念のため続けたほうが再発しにくいように思います。
ドクタードクター
実は、除菌に成功すれば潰瘍の再発は激減するから、粘膜保護薬や酸分泌抑制薬を維持投与する必要は原則ない。維持療法が問題になるのは、ピロリ陰性でNSAIDsも飲んでいないのに潰瘍を繰り返すようなケースだね。
医学生医学生
じゃあ除菌が成功したら、もう通院しなくていいんでしょうか。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心で、正解になる部分だ。除菌後も定期的な上部消化管内視鏡検査が必要になる。長年の感染でできた萎縮性胃炎や腸上皮化生は、除菌しても残る。除菌で胃癌の発生はある程度抑えられるけれど、もともと感染していない人よりリスクは高いままなんだ。実際、除菌後に見つかる胃癌、いわゆる除菌後胃癌も知られている。
医学生医学生
消化器内科の実習で、内視鏡の先生が「除菌したから安心、ではない」とおっしゃっていた意味がわかりました。
ドクタードクター
除菌後胃癌には平坦で境界がわかりにくいものもあるから、萎縮の程度を意識して丁寧に観察することが大切なんだ。もう一つ、除菌後の注意点として、胃酸分泌が回復して逆流性食道炎が出たり悪化したりすることがある。その場合は症状に応じて酸分泌抑制薬を使うこともあるよ。
医学生医学生
除菌が成功したかどうかは、どうやって確かめるんですか。
ドクタードクター
除菌治療が終わって4週以降に、尿素呼気試験や便中抗原測定で判定するのが一般的だ。PPIなどは菌の活性を抑えて偽陰性の原因になるから、検査前には休薬が必要になる。ちなみにピロリ菌は潰瘍だけでなく、胃MALTリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病とも関連があって、日本では内視鏡で胃炎が確認された感染者全般に除菌が保険適用になっている。
医学生医学生
合併症がなければ外来でPPIと経口除菌、成功したら維持療法は不要、でも内視鏡フォローは続ける、という流れですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。潰瘍を治すこと、再発を防ぐこと、そして胃癌を見逃さないこと。この3つの目標を分けて考えると、治療の各ステップの意味がはっきりするよ。

まとめ

ピロリ菌陽性の胃潰瘍は、出血・穿孔・狭窄などの合併症がなければ外来での内服治療が基本で、酸分泌抑制薬の第一選択はH2受容体拮抗薬ではなくPPI(またはボノプラザン)です。治療の中心は除菌で、一次除菌はPPIまたはボノプラザンにアモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた経口7日間投与、失敗時はメトロニダゾールに替えて二次除菌を行います。除菌に成功すれば潰瘍の再発は激減し、粘膜保護薬などの維持療法は原則不要になります。しかし萎縮性胃炎や腸上皮化生は除菌後も残り、胃癌リスクは未感染者より高いままのため、定期的な上部消化管内視鏡検査が欠かせません。「潰瘍の治癒」「再発予防」「胃癌の早期発見」という3つの目標を区別して理解することが、消化性潰瘍診療全体の見通しにつながります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

Helicobacter pylori(ピロリ菌)陽性で、出血を伴わない胃潰瘍に対する治療の基本方針を問う問題である。

考え方

消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)の二大成因はH. pylori感染と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である。H. pylori陽性潰瘍では、酸分泌抑制薬だけで潰瘍を治しても菌が残る限り高率に再発するため、除菌治療が治療の中心となる。 治療の流れは次のように整理できる。 1. 出血・穿孔・狭窄などの合併症がなければ、外来での内服治療で対応できる。 2. 潰瘍の治癒には強力な酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB:ボノプラザン)を用いる。 3. 除菌は酸分泌抑制薬と2種類の抗菌薬を「経口で」7日間内服する3剤併用療法で行う。 4. 除菌に成功すれば潰瘍の再発はまれとなり、維持療法(再発予防のための薬剤の長期継続)は原則不要となる。 5. ただし、除菌後も萎縮性胃炎などの粘膜変化は残り、胃癌リスクは未感染者よりも高いままであるため、定期的な上部消化管内視鏡検査で経過を追う必要がある。 この最後の点を述べた選択肢が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  入院での加療が必要である。

    誤り。出血・穿孔・狭窄といった合併症のない消化性潰瘍は、外来で内服薬により治療できる。入院が必要となるのは、吐血・下血などの出血を伴い内視鏡的止血や輸血を要する場合、穿孔で手術を考慮する場合、幽門狭窄で経口摂取できない場合などである。

  2. ×b.  ヒスタミンH2受容体拮抗薬が第一選択である。

    誤り。潰瘍治療に用いる酸分泌抑制薬の第一選択は、H2受容体拮抗薬よりも酸分泌抑制効果が強く潰瘍治癒率の高いPPI(近年はP-CABも含む)である。PPIは壁細胞のH+/K+-ATPase(プロトンポンプ)という酸分泌の最終段階を阻害するのに対し、H2受容体拮抗薬はヒスタミン刺激経路のみを遮断するため効果が劣る。H2受容体拮抗薬はPPIが使えない場合などの選択肢である。さらにH. pylori陽性例では、除菌治療そのものが最も重要な治療となる。

  3. ×c.  除菌治療成功後も粘膜保護薬の投与が必要である。

    誤り。除菌に成功すると潰瘍の再発率は大きく低下するため、潰瘍治癒後に粘膜保護薬(防御因子増強薬)や酸分泌抑制薬を維持投与する必要は通常ない。また、潰瘍治療中もPPIが使用できる状況であれば粘膜保護薬を併用する意義は乏しい。なお、除菌後に胃酸分泌が回復して胃食道逆流症などの症状が新たに出現した場合には、その症状に対して酸分泌抑制薬などを用いることがある。

  4. ×d.  プロトンポンプ阻害薬と抗菌薬の静脈内投与で除菌を行う。

    誤り。除菌治療はすべて経口投与で行う。わが国の一次除菌は、PPIまたはP-CAB(ボノプラザン)にアモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた3剤を1週間内服する方法が標準であり、失敗した場合の二次除菌ではクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替える。抗菌薬が胃粘膜表面の菌に作用するためには経口投与が適しており、静脈内投与の除菌レジメンは標準ではない。

  5. ○e.  除菌治療成功後も定期的な上部消化管内視鏡検査が必要である。

    正しい。除菌により潰瘍の再発は激減し、胃癌の発生もある程度抑えられる。しかし、長期感染によって生じた萎縮性胃炎や腸上皮化生は除菌後も残存し、もともとH. pylori未感染の人と比べると胃癌のリスクは依然として高い。実際に除菌後に発見される胃癌(除菌後胃癌)も知られている。したがって、除菌に成功した後も定期的な上部消化管内視鏡検査による経過観察が必要である。

H. pylori感染と上部消化管疾患

H. pyloriはウレアーゼでアンモニアを産生して胃酸を中和し、胃粘膜に長期間定着するらせん状のグラム陰性桿菌である。感染は主に乳幼児期に成立し、慢性活動性胃炎を起こす。これを背景に胃潰瘍・十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープ、特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病などが生じうる。わが国では2013年から、内視鏡で胃炎が確認されたH. pylori感染者全般に除菌治療が保険適用となっている。

感染診断

内視鏡を用いる方法:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法。 内視鏡を用いない方法:尿素呼気試験、便中抗原測定、血清・尿中抗体測定。 除菌判定は除菌治療終了後4週以降に行い、尿素呼気試験や便中抗原測定が適している。PPIなどの酸分泌抑制薬は菌の活性を抑えて偽陰性の原因となるため、検査前には休薬が必要である。

除菌レジメン(わが国の標準)

一次除菌:PPIまたはボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシン、7日間内服。 二次除菌:PPIまたはボノプラザン+アモキシシリン+メトロニダゾール、7日間内服。 ボノプラザンは酸分泌抑制が強く速やかであり、クラリスロマイシン耐性菌が増えている現状で一次除菌率の向上に寄与している。 副作用として下痢・軟便、味覚異常、皮疹などがある。

消化性潰瘍治療の全体像

出血性潰瘍:まず内視鏡的止血を行い、酸分泌抑制薬を投与する。 H. pylori陽性潰瘍:除菌治療を行う。 NSAIDs潰瘍:可能ならNSAIDsを中止し、PPIで治療する。継続せざるを得ない場合はPPIの併用で予防する。 H. pylori陰性かつNSAIDs非服用の潰瘍:酸分泌抑制薬で治療し、必要に応じ維持療法を行う。また、ガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)などのまれな原因も念頭に置く。

除菌後の注意点

除菌後は胃酸分泌が回復し、逆流性食道炎が出現・増悪することがある。また、除菌後も胃癌のリスクは未感染者より高いため、内視鏡による定期的な観察を続ける。

POINT

・合併症(出血・穿孔・狭窄)のない消化性潰瘍は外来での内服治療が基本である。 ・潰瘍治療に用いる酸分泌抑制薬の第一選択はPPI(またはP-CAB)であり、H2受容体拮抗薬ではない。 ・H. pylori陽性潰瘍では除菌治療が中心となる。一次除菌はPPI/P-CAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの経口7日間投与である。 ・除菌に成功すれば潰瘍再発は激減し、維持療法は原則不要である。 ・除菌後も胃癌リスクは残るため、定期的な内視鏡検査が必要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。