鼻づまりの犯人は誰か―ヒスタミンだけでは説明できないアレルギー性鼻炎の鼻閉
第111回医師国家試験 I問題 第21問
国試問題にチャレンジ
アレルギー性鼻炎における鼻閉の発症に関与するのはどれか。
- a.血清IgG4
- b.アドレナリン
- c.ロイコトリエン
- d.C1インヒビター
- e.プロスタグランディン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アレルギー性鼻炎はIgEを介したⅠ型アレルギーで、抗原によって活性化した肥満細胞からさまざまな化学伝達物質が放出されます。くしゃみと水様性鼻漏は主にヒスタミンによる神経反射で生じるのに対し、鼻閉は容積血管の拡張と血漿漏出による粘膜腫脹で起こり、その中心はロイコトリエン(システイニルロイコトリエン)で、遅発相反応でも重要な役割を担います。プロスタグランジンD2も鼻閉に一部関与しますが寄与は小さく、アドレナリンは血管収縮で鼻閉を改善する側、IgG4は免疫療法で増える遮断抗体、C1インヒビター欠損は遺伝性血管性浮腫の原因です。鼻閉が目立つ例にはロイコトリエン受容体拮抗薬、くしゃみ・鼻漏には抗ヒスタミン薬、全症状には鼻噴霧用ステロイド薬が有効です。症状ごとに担当するメディエーターを理解しておくことが、病態に即した薬剤選択の土台になります。
解答・解説
正解はcです
アレルギー性鼻炎は、花粉やハウスダスト(ダニ)などの抗原に対するIgE依存性のⅠ型アレルギーである。抗原に感作されるとIgE抗体が産生され、鼻粘膜の肥満細胞の表面に結合する。再び抗原が侵入するとIgEが架橋されて肥満細胞が活性化し、さまざまな化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が放出される。 三大症状のくしゃみ・水様性鼻漏・鼻閉は、それぞれ主に関わる伝達物質と機序が異なる。くしゃみはヒスタミンが知覚神経(三叉神経)を刺激して起こる反射であり、鼻漏はその反射を介した副交感神経の刺激による鼻腺からの分泌が中心で、いずれもヒスタミンが主役である。これに対し鼻閉は、鼻粘膜の容積血管(静脈洞)の拡張によるうっ血と、血管透過性の亢進による血漿成分の漏出(間質の浮腫)で粘膜が腫れることで生じる。この血管系への作用ではロイコトリエン(特にシステイニルロイコトリエン)の寄与が最も大きく、ほかにヒスタミン、プロスタグランジンD2、トロンボキサンA2、血小板活性化因子(PAF)、キニンなども関与する。また鼻閉は、抗原曝露から数時間後に好酸球などの炎症細胞が浸潤して起こる遅発相反応でも目立つ症状であり、ここでも好酸球などから産生されるロイコトリエンが重要な役割を担う。 本問は鼻閉の発症に関わる物質を問うており、選択肢の中で鼻閉への関与が最も大きく、治療標的にもなっているのはロイコトリエンである。
選択肢考察
- ×a. 血清IgG4
IgG4はIgGの4つのサブクラスの一つである。アレルギー性鼻炎の発症に中心的に関わる抗体はIgEであり、IgG4は鼻閉を引き起こす物質ではない。むしろ抗原と結合してIgEとの結合を妨げる遮断抗体として働くと考えられており、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法など)が効果を示す際には抗原特異的IgG4が増加することが知られている。なお、血清IgG4の高値はIgG4関連疾患(自己免疫性膵炎、Mikulicz病など)の診断で重要な所見である。
- ×b. アドレナリン
アドレナリンは副腎髄質から分泌されるカテコールアミンで、α受容体刺激により鼻粘膜の血管を収縮させ、うっ血を解消して鼻の通りをよくする。つまり鼻閉を引き起こす方向ではなく、改善させる方向に働く物質である。実際、α刺激作用をもつ薬剤(ナファゾリンなどの血管収縮点鼻薬)が鼻閉の対症療法に使われ、手術時には粘膜の収縮・止血のためアドレナリン含有ガーゼが用いられる。ただし血管収縮点鼻薬の連用は反跳性の血管拡張による薬剤性鼻炎(点鼻薬性鼻炎)を招くので、短期使用にとどめる。
- ○c. ロイコトリエン
ロイコトリエンは、細胞膜のリン脂質から遊離したアラキドン酸が5-リポキシゲナーゼ経路で代謝されて生じる脂質メディエーターで、肥満細胞や好酸球から産生される。中でもシステイニルロイコトリエン(LTC4、LTD4、LTE4)は鼻粘膜の容積血管を拡張させ、血管透過性を高めて間質浮腫を起こすため、粘膜が強く腫脹して鼻閉をもたらす。この作用はヒスタミンより強力かつ持続的で、遅発相反応による鼻閉にも深く関わる。このため、鼻閉が目立つタイプのアレルギー性鼻炎では、ロイコトリエン受容体拮抗薬(モンテルカスト、プランルカスト)が有効である。
- ×d. C1インヒビター
C1インヒビター(C1-INH)は補体の古典経路の最初の因子C1の活性化を抑えるほか、カリクレイン-キニン系も抑制するタンパクである。これが先天的に欠損・機能低下すると、ブラジキニンが過剰に産生されて遺伝性血管性浮腫(HAE)を起こし、顔面・口唇・喉頭・腸管などに発作性の浮腫が生じる。アレルギー性鼻炎の鼻閉はIgEと肥満細胞を介した反応であり、C1インヒビターは関与しない。また、C1インヒビターは浮腫を抑える側の分子であり、それ自体が症状を起こす物質ではない。
- ×e. プロスタグランディン
プロスタグランジンはアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)経路で産生される脂質メディエーターの総称である。肥満細胞から放出されるプロスタグランジンD2には血管拡張・透過性亢進作用があり、鼻閉にもある程度関わるため、PGD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬が鼻閉の改善を目的に使われることもある。しかし、アレルギー性鼻炎の鼻閉に対する寄与はロイコトリエンほど大きくなく、プロスタグランジン全体としてはむしろ発熱・疼痛・炎症の伝達物質としての役割が中心である。選択肢の中で鼻閉への関与が最も大きい物質を一つ選ぶ本問では正解とならない。
アレルギー性鼻炎の三大症状と主な伝達物質・治療薬
・くしゃみ:ヒスタミン → 知覚神経(三叉神経)刺激による反射。第2世代抗ヒスタミン薬が有効。 ・水様性鼻漏:ヒスタミン → 神経反射を介した副交感神経刺激による鼻腺分泌。抗ヒスタミン薬が有効。 ・鼻閉:ロイコトリエンを中心に、PGD2、トロンボキサンA2、PAF、ヒスタミンなど → 容積血管の拡張と血漿漏出による粘膜腫脹。ロイコトリエン受容体拮抗薬、PGD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬が有効。 ・鼻噴霧用ステロイド薬は三症状すべてに有効で、中等症以上で中心的な薬剤である。
即時相反応と遅発相反応
・即時相(抗原曝露後数分〜30分程度):肥満細胞から既に蓄えられていたヒスタミンなどが放出され、くしゃみ・鼻漏が急速に出現する。 ・遅発相(数時間後):好酸球などの炎症細胞が鼻粘膜に浸潤し、ロイコトリエンなどを産生して鼻閉が持続する。慢性化すると鼻粘膜の過敏性も高まる。
その他の治療
・抗原の回避・除去(ダニ対策、花粉の回避) ・アレルゲン免疫療法(スギ花粉・ダニの舌下免疫療法):体質改善を期待できる唯一の治療で、遮断抗体IgG4の産生や制御性T細胞の誘導が機序と考えられている。 ・重症のスギ花粉症には抗IgE抗体(オマリズマブ)が用いられることがある。 ・保存治療で改善しない鼻閉には、下鼻甲介粘膜のレーザー焼灼術や粘膜下下鼻甲介骨切除術などの手術が行われる。
POINT
・アレルギー性鼻炎はIgEを介したⅠ型アレルギー。 ・くしゃみ・鼻漏は主にヒスタミン、鼻閉は主にロイコトリエン(容積血管拡張と血漿漏出による粘膜腫脹)。 ・鼻閉には抗ロイコトリエン薬(モンテルカスト、プランルカスト)が有効。 ・アドレナリンは血管収縮により鼻閉を改善する側。IgG4は遮断抗体、C1インヒビター欠損は遺伝性血管性浮腫。
