肛門を失ったら便はどこから出す?―Miles手術の人工肛門が「左下腹部」に決まる理由
第111回医師国家試験 I問題 第11問
国試問題にチャレンジ
腹壁の模式図を別に示す。 腹会陰式直腸切断術を行う際に人工肛門を造設する部位はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腹会陰式直腸切断術(Miles手術)は直腸と肛門を括約筋ごと一塊に切除する術式で、肛門機能を再建できないため永久人工肛門が必要になります。口側腸管は主にS状結腸で切離され、その断端を腸間膜に緊張をかけず血流を保って引き出せる左下腹部に、単孔式のS状結腸ストーマを造設します。回腸ストーマは右下腹部、横行結腸ストーマは上腹部と、腸管の解剖学的位置から造設部位を整理でき、上腹部は肋骨弓に近く装具が不安定、正中は手術創や白線と重なるため不適です。ストーマは腹直筋を貫く位置に、しわ・瘢痕・骨突起を避け患者自身が見える場所に造るのが原則で、術前のマーキングが生活の質を左右します。正面から見た模式図では向かって右が患者の左であることも、画像問題全般で意識しておきたいポイントです。
解答・解説
正解はdです
図の読み方
模式図は患者を正面から見た腹壁である。したがって図の向かって右側が患者の左側、向かって左側が患者の右側にあたる。臍を中心に見ると、①は右下腹部(右腸骨窩付近)、②は右上腹部(右季肋部)、③は左上腹部(左季肋部)、④は左下腹部(左腸骨窩付近)、⑤は下腹部正中(恥骨上部)に相当する。
腹会陰式直腸切断術とは
腹会陰式直腸切断術(abdominoperineal resection:APR、Miles手術)は、腹部側と会陰側の両方から操作を行い、直腸と肛門(肛門括約筋を含む)を一塊として切除する術式である。肛門そのものを失うため、肛門機能の再建はできず、残った結腸の断端を腹壁に引き出して永久的な人工肛門(ストーマ)を造設する必要がある。主な適応は、肛門縁に近い下部直腸(Rb)の癌で肛門括約筋に浸潤しているもの、肛門側の切離断端を十分に確保できないもの、肛門管癌などである。
人工肛門の部位を決める考え方
この術式では、直腸とともに下行結腸から続くS状結腸の遠位側が切除され、口側腸管は多くの場合S状結腸で切離される。S状結腸は左下腹部に位置し、その断端を最も無理なく(腸間膜に緊張をかけず、血流を保ったまま)腹壁に引き出せるのは左下腹部である。このため永久S状結腸ストーマ(単孔式)は左下腹部に造設するのが標準であり、正解は④となる。
選択肢考察
- ×a. ①
①は患者の右下腹部である。右下腹部は回腸ストーマ(イレオストミー)を造設する代表的な部位であり、たとえば低位前方切除術後の縫合不全予防のための一時的回腸ストーマ(diverting ileostomy)や、大腸全摘術後の回腸ストーマがここに置かれる。腹会陰式直腸切断術で断端となるS状結腸は左側にあるため、右下腹部まで引き出すのは不自然であり、通常の造設部位ではない。
- ×b. ②
②は患者の右上腹部(右季肋部)である。上腹部は肋骨弓に近く、体位によって皮膚のしわや変形が生じやすいため、ストーマ装具の貼付が安定しにくい。横行結腸ストーマを造設する場合には上腹部が選ばれることもあるが、S状結腸を断端とする腹会陰式直腸切断術の人工肛門の部位としては適さない。
- ×c. ③
③は患者の左上腹部(左季肋部)である。左側ではあるが、S状結腸の断端をここまで引き上げると腸間膜に強い緊張がかかり、血流障害やストーマの陥没の原因となる。また肋骨弓に近く装具の管理にも不利である。腹会陰式直腸切断術の人工肛門の造設部位ではない。
- ○d. ④
④は患者の左下腹部である。腹会陰式直腸切断術では口側腸管を主にS状結腸で切離し、その断端を腹壁に引き出して単孔式の永久人工肛門とする。S状結腸は左下腹部にあるため、腸管に緊張をかけず血流を保ったまま最短距離で引き出せるのがこの部位である。臍と左上前腸骨棘を結ぶ線上付近で腹直筋を貫く位置に造設することが多く、腹直筋を通すことで傍ストーマヘルニアや脱出を起こしにくくなる。
- ×e. ⑤
⑤は下腹部正中(恥骨上部)である。正中は開腹時の手術創(正中切開)と重なるため、創感染や創とストーマの干渉が問題となる。また腹直筋を貫く位置ではなく(正中は白線にあたる)、恥骨に近く体位による皮膚のしわも生じやすいため、装具の密着が得にくい。人工肛門の造設部位としては避けるべき場所である。
直腸癌の占居部位と主な術式
直腸は、直腸S状部(Rs)、上部直腸(Ra)、下部直腸(Rb)に区分され、その下に肛門管(P)が続く。 ・高位前方切除術:Rs〜Raの癌。腹膜反転部より口側で吻合する。 ・低位前方切除術:Ra〜Rbの癌。腹膜反転部より肛門側で吻合し、肛門を温存する。縫合不全予防に一時的な回腸ストーマを置くことがある。 ・括約筋間直腸切除術(ISR):肛門に近いRbの癌で、内肛門括約筋の一部または全部を切除して肛門を温存する術式。 ・腹会陰式直腸切断術(Miles手術):外肛門括約筋・肛門挙筋への浸潤があるRbの癌や肛門管癌など、肛門温存が困難な場合。永久S状結腸ストーマを左下腹部に造設する。 ・Hartmann手術:直腸を切除した後に肛門側断端を閉鎖し、口側断端で人工肛門を造設する(肛門は残るが吻合しない)。高齢者や全身状態不良例、穿孔・閉塞などの緊急手術で選ばれる。
ストーマの種類と一般的な造設部位
・S状結腸ストーマ:左下腹部(Miles手術、Hartmann手術など) ・回腸ストーマ:右下腹部(大腸全摘、一時的ストーマなど) ・横行結腸ストーマ:上腹部(姑息的・一時的な減圧など)
ストーマサイトマーキングの原則
術前に皮膚・排泄ケア認定看護師などと部位を決めておくことが重要である。一般に以下の条件を満たす部位を選ぶ。 ・腹直筋を貫く位置である(ヘルニアや脱出の予防) ・臍より低い位置で、腹部脂肪の最も高い位置付近 ・患者自身が見える位置である(セルフケアのため) ・皮膚のしわ、瘢痕、骨突起(肋骨弓・上前腸骨棘)、臍、ベルトラインから離れている ・座位・前屈位など体位を変えても平坦な面が保たれる
POINT
・腹会陰式直腸切断術(Miles手術)は直腸・肛門を合併切除するため、永久人工肛門が必要となる。 ・口側腸管は主にS状結腸で切離されるため、人工肛門は左下腹部に造設する。 ・回腸ストーマは右下腹部、S状結腸ストーマは左下腹部と整理する。 ・ストーマは腹直筋を貫く位置に、しわ・瘢痕・骨突起を避け、患者自身が見える場所に造る。 ・正面図では向かって右が患者の左であることに注意する。
