C型からアルコールへ―塗り替わった日本の肝硬変地図
第111回医師国家試験 I問題 第10問
国試問題にチャレンジ
肝硬変の成因で最も多いのはどれか。
- a.自己免疫性肝炎
- b.B型肝炎
- c.C型肝炎
- d.アルコール性肝炎
- e.非アルコール性脂肪性肝炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝硬変は慢性肝障害の終末像で、日本ではかつてC型肝炎が成因の約6割を占めていましたが、DAAによる高率なウイルス排除の実現でC型肝炎は大きく減りました。B型肝炎も核酸アナログ製剤やワクチン定期接種・母子感染予防によって減少傾向にあります。一方、アルコール性は減っておらず、2024年公表の全国調査ではアルコール性が約35%で最多、C型肝炎が約23%、NASH(MASH)が約15%と、非ウイルス性の比重が高まっています。自己免疫性肝炎はステロイドがよく効き、成因としては少数です。疫学の問題は最新の統計で答える必要があり、断酒支援や代謝疾患の管理が肝疾患診療で重要になっていることを理解する意義は大きいといえます。
解答・解説
正解はdです
本問は、わが国の肝硬変がどのような原因で生じているかという「成因の内訳」を問う問題である。肝硬変は慢性的な肝障害が続いた結果、肝細胞の壊死と再生が繰り返され、線維化と再生結節によって肝小葉構造が改築された終末像である。原因となる慢性肝疾患には、肝炎ウイルス(B型・C型)、アルコール、代謝異常に伴う脂肪肝炎、自己免疫性疾患(自己免疫性肝炎・原発性胆汁性胆管炎など)、うっ血、代謝性疾患(Wilson病・ヘモクロマトーシスなど)がある。
成因の内訳は時代とともに変化している
出題当時(2017年)の全国調査では、C型肝炎ウイルス(HCV)による肝硬変が全体の約6割を占めて圧倒的に多く、B型肝炎ウイルス(HBV)とアルコールがそれぞれ1割台でこれに続いていた。このため出題時の正解はc(C型肝炎)であった。 しかしその後、C型肝炎に対して直接作用型抗ウイルス薬(DAA:direct-acting antivirals)と呼ばれる経口薬が普及し、インターフェロンを用いずに9割を大きく超える高率でウイルス排除(SVR:sustained virological response、治療終了後もウイルスが検出されない状態)が得られるようになった。さらに献血・輸血製剤のスクリーニングや医療現場の感染対策の徹底により新規感染も減少した。B型肝炎についても、核酸アナログ製剤によるウイルス増殖の抑制とワクチン(母子感染予防、2016年からの定期接種化)によって肝硬変への進展が抑えられている。 一方で、アルコール関連の肝硬変は減少しておらず、肥満・糖尿病などの生活習慣病を背景とする非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)による肝硬変も増加している。日本肝臓学会が監修し2024年に公表された全国調査(肝硬変の成因別実態2023)では、アルコール性が約35%で最多となり、C型肝炎は約23%まで減少し、NASHは約15%とそれまでの調査から倍増に近い伸びを示した。
正解を導く考え方
現在のデータに基づけば、わが国の肝硬変の成因として最も多いのはアルコールであり、正解はd(アルコール性肝炎)である。「ウイルス性肝炎が治せる時代になり、非ウイルス性(アルコール・脂肪肝炎)の比重が増した」という流れで理解しておくと覚えやすい。 本問は出題当時と現在とで正解が異なる。出題時はC型肝炎が最多であったためcが正解とされていたが、その後の疫学調査でアルコール性が最多となったことを受け、現在の知見に基づいてdを正解としている。
選択肢考察
- ×a. 自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎(AIH:autoimmune hepatitis)は、中年以降の女性に多く、自己抗体(抗核抗体、抗平滑筋抗体など)の陽性、IgG高値、組織学的な interface hepatitis(門脈域と肝実質の境界部の炎症)を特徴とする疾患である。副腎皮質ステロイドによく反応するため、適切に治療されれば肝硬変への進展は抑えられることが多い。肝硬変の成因としては数%程度にとどまり、出題当時・現在ともに最多ではない。
- ×b. B型肝炎
B型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染(キャリア)は、主に母子感染や乳幼児期の感染で成立し、一部が慢性肝炎から肝硬変・肝細胞癌へ進展する。わが国ではかつて肝硬変の成因の1割強を占めていたが、母子感染予防事業、2016年からの乳児へのワクチン定期接種、核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビルなど)による長期的なウイルス増殖抑制によって、その割合は減少傾向にある。最多の成因ではない。
- ×c. C型肝炎
出題当時は、C型肝炎ウイルス(HCV)による肝硬変が全体の約6割を占め、最も多い成因であった(出題時の正解)。HCVは主に血液を介して感染し、過去の輸血・血液製剤、注射器の使い回しなどが主な感染経路であった。その後、経口の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場で、ほとんどの患者でウイルス排除が可能となり、最新の全国調査ではC型肝炎の割合は約23%に低下して、アルコール性に首位を譲った。したがって現在の知見では最多とはいえない。
- ○d. アルコール性肝炎
日本肝臓学会監修の最新の全国調査(2024年公表)で、アルコールによる肝硬変は約35%を占め、成因の第1位となった。ウイルス性肝炎が治療・予防によって減少したのに対し、飲酒に起因する肝障害は減っておらず、相対的・絶対的に比重が高まったためである。アルコールはアセトアルデヒドの毒性、酸化ストレス、脂肪沈着などを介して肝障害を起こし、常習飲酒の継続により脂肪肝→アルコール性肝炎→肝線維症→肝硬変へと進展する。断酒が治療の基本であり、断酒によって予後は改善しうる。
- ×e. 非アルコール性脂肪性肝炎
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:nonalcoholic steatohepatitis)は、明らかな飲酒歴がないにもかかわらず、肥満・2型糖尿病・脂質異常症などのメタボリックシンドロームを背景に、肝細胞の脂肪化に炎症と線維化を伴う病態である。近年急増しており、最新の調査では肝硬変の成因の約15%を占め、以前の調査からほぼ倍増した。今後さらに増えると予想されているが、現時点ではアルコール性やC型肝炎より少なく、最多ではない。なお2023年以降、国際的には代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)という名称への移行が進んでいる。
肝硬変とは
慢性肝障害の終末像で、びまん性の線維化と再生結節形成により肝小葉構造が改築された状態である。代償期には無症状のことも多いが、非代償期になると肝機能低下(低アルブミン血症、凝固因子低下によるPT延長、黄疸、肝性脳症)と門脈圧亢進症(食道・胃静脈瘤、脾腫と血小板減少、腹水)の症状が現れる。重症度評価にはChild-Pugh分類(血清ビリルビン、アルブミン、PT、腹水、肝性脳症の5項目)が用いられる。肝細胞癌の発生母地としても重要である。
わが国の肝硬変の成因の変遷
・出題当時:C型肝炎が約6割で最多。B型肝炎とアルコールが1割台で続いた。 ・最新調査(2024年公表):アルコール性約35%(最多)、C型肝炎約23%、NASH約15%。ウイルス性が減り、非ウイルス性(アルコール・NASH)が増加した。
変化の背景
・C型肝炎:DAA(直接作用型抗ウイルス薬)による経口治療で高率にウイルス排除が可能となった。献血スクリーニング等で新規感染も減少した。 ・B型肝炎:母子感染予防、ユニバーサルワクチン(2016年から定期接種)、核酸アナログ製剤による増殖抑制。 ・アルコール:飲酒習慣に由来し、減少していない。 ・NASH:肥満・糖尿病の増加とともに増えている。
脂肪性肝疾患の新しい名称
2023年に国際的な名称変更が提案され、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)はMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)、NASHはMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)と呼ばれるようになりつつある。
肝細胞癌の背景肝疾患
肝細胞癌でも同様の傾向があり、かつてはC型肝炎が大半を占めていたが、非B非C型(アルコール、脂肪肝炎など)の割合が年々増加している。
POINT
・わが国の肝硬変の成因は、現在はアルコール性が最多(約35%)、次いでC型肝炎(約23%)、NASH(約15%)。 ・出題当時(2017年頃)はC型肝炎が約6割で最多であった。 ・DAAによるC型肝炎治療の普及とB型肝炎の予防・治療の進歩により、ウイルス性肝硬変は減少している。 ・アルコールとNASH(MASH)という非ウイルス性の成因が増加傾向にある。 ・疫学の問題は、最新の統計に基づいて答える必要がある。
