黄色いのはどこで詰まったから?―ビリルビン代謝の地図で読み解く溶血性黄疸
第111回医師国家試験 H問題 第16問
国試問題にチャレンジ
間接ビリルビン優位の黄疸を呈するのはどれか。
- a.肝硬変
- b.肝細胞癌
- c.急性肝炎
- d.膵頭部癌
- e.溶血性貧血
対話形式の解説
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ドクターまとめ
黄疸は、ビリルビンが肝臓で抱合される前の段階に異常があれば間接ビリルビン優位、抱合後の排泄以降に異常があれば直接ビリルビン優位となります。溶血性貧血では赤血球破壊の亢進により間接ビリルビンが過剰に産生され、肝臓の処理能を超えて間接優位の黄疸を呈し、尿中ビリルビンは陰性、尿中ウロビリノゲンは増加します。急性肝炎や肝硬変、肝細胞癌では律速段階である毛細胆管への排泄が障害され、膵頭部癌では胆管閉塞によって、いずれも直接ビリルビン優位となります。間接優位の原因としては、溶血のほかGilbert症候群、Crigler-Najjar症候群、新生児黄疸、無効造血も重要です。ビリルビン代謝の流れを地図として描けるようになると、黄疸の分画と尿所見から障害部位を論理的に推定できるようになります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
黄疸は血中ビリルビンが上昇し(目安として総ビリルビン 2〜3 mg/dL 以上)、皮膚や眼球結膜が黄染した状態である。ビリルビンには、肝臓でグルクロン酸抱合を受ける前の間接(非抱合型)ビリルビンと、抱合を受けた後の直接(抱合型)ビリルビンがあり、どちらが優位に上昇するかで障害部位を推定できる。
ビリルビン代謝の流れと黄疸の機序
① 老化赤血球が主に脾臓のマクロファージで処理され、ヘモグロビンのヘムから間接ビリルビンが産生される。 ② 間接ビリルビンは水に溶けにくいため、アルブミンと結合して肝臓へ運ばれる。 ③ 肝細胞に取り込まれ、UGT1A1(ウリジン二リン酸グルクロン酸転移酵素)によってグルクロン酸抱合を受け、水溶性の直接ビリルビンとなる。 ④ 直接ビリルビンは毛細胆管へ排泄され、胆汁として胆管から十二指腸へ流れる。 間接ビリルビン優位となるのは、①の産生過剰(溶血、無効造血)か、②③の取り込み・抱合の障害(Gilbert 症候群、Crigler-Najjar 症候群、新生児黄疸など)である。一方、④の排泄過程以降が障害される肝細胞障害や胆道閉塞では、抱合は行われたのに胆汁へ出ていけない直接ビリルビンが血中へ逆流し、直接ビリルビン優位となる。肝細胞障害でも直接ビリルビン優位となるのは、ビリルビン代謝の律速段階が抱合ではなく毛細胆管への排泄にあるためである。 選択肢のうち①〜③の段階の異常に当たるのは、赤血球破壊が亢進して間接ビリルビンが大量に作られる溶血性貧血だけである。
選択肢考察
- ×a. 肝硬変
肝硬変では肝細胞の減少と機能低下、線維化による小葉構造の改築によって、抱合後のビリルビンを毛細胆管へ排泄する能力が落ち、胆汁うっ滞も加わる。その結果、直接ビリルビンが血中へ逆流して直接ビリルビン優位の肝細胞性黄疸となる。末期の非代償期には抱合能も低下して間接ビリルビンの割合が増えることはあるが、典型的には直接ビリルビン優位であり、本問の答えにはならない。
- ×b. 肝細胞癌
肝細胞癌は腫瘍自体が黄疸を起こすことは少なく、早期には黄疸を伴わないことが多い。黄疸が出る場合は、背景にある肝硬変・慢性肝炎による肝機能低下、腫瘍の増大による正常肝容積の減少、あるいは腫瘍の胆管浸潤や胆管内腫瘍栓による閉塞が原因であり、いずれも直接ビリルビン優位となる。
- ×c. 急性肝炎
急性肝炎ではウイルスなどによって肝細胞が広範に障害され、AST・ALT が著明に上昇する。障害された肝細胞は抱合済みのビリルビンを毛細胆管へ十分に排泄できず、直接ビリルビンが血中へ戻るため、直接ビリルビン優位の肝細胞性黄疸を呈する。尿中にビリルビンが出て褐色尿となるのも、水溶性で尿に排泄される直接ビリルビンが増えているためである。
- ×d. 膵頭部癌
膵頭部は総胆管の下部(膵内胆管)を取り囲んでいるため、膵頭部癌は胆管を圧排・浸潤して閉塞させ、閉塞性(肝後性)黄疸を起こす。肝細胞で抱合された直接ビリルビンが胆汁として排出されずに血中へ逆流するため、直接ビリルビン優位となる。胆道系酵素(ALP、γ-GTP)の上昇、無痛性の腫大胆嚢を触れる Courvoisier 徴候、灰白色便、褐色尿を伴うことがある。
- ○e. 溶血性貧血
溶血性貧血では赤血球が通常より速く破壊されるため、ヘモグロビン由来の間接ビリルビンが大量に産生される。肝臓の取り込み・抱合能力を超える量が供給されるため、処理しきれない間接ビリルビンが血中にたまり、間接ビリルビン優位の溶血性(肝前性)黄疸となる。間接ビリルビンはアルブミンと結合していて腎から排泄されないため、尿中ビリルビンは陰性である(無胆汁色素尿性黄疸)。一方、肝で抱合・排泄されるビリルビンも増えるため、腸内で生じたウロビリノゲンが増え、尿中ウロビリノゲンは増加する。ほかに LDH 上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加を伴う。
黄疸の分類と主な原因
・間接ビリルビン優位 - 産生過剰(肝前性):溶血性貧血、無効造血(巨赤芽球性貧血、サラセミアなど)、大きな血腫の吸収 - 取り込み・抱合障害:Gilbert 症候群(UGT1A1 活性の軽度低下。空腹やストレスで軽度上昇)、Crigler-Najjar 症候群(UGT1A1 の欠損・著明な低下)、新生児黄疸(生理的な UGT 活性未熟と赤血球寿命の短さ) ・直接ビリルビン優位 - 排泄障害(体質性):Dubin-Johnson 症候群(MRP2 の異常。肝に黒色色素沈着)、Rotor 症候群 - 肝細胞性:急性肝炎、肝硬変、薬剤性肝障害、アルコール性肝炎など - 肝内胆汁うっ滞:原発性胆汁性胆管炎、薬剤性胆汁うっ滞など - 閉塞性(肝後性):総胆管結石、膵頭部癌、胆管癌、乳頭部癌など
尿所見による鑑別
・尿中ビリルビン:直接ビリルビン(水溶性)が増えると陽性。溶血性黄疸では陰性。 ・尿中ウロビリノゲン:溶血で増加、肝細胞障害でも増加しうる。完全な胆道閉塞では腸にビリルビンが届かないため陰性(減少)となる。
溶血の検査所見
間接ビリルビン上昇、LDH 上昇(特に LDH1・2)、ハプトグロビン低下、網赤血球増加。血管内溶血ではヘモグロビン尿もみられる。
POINT
・間接ビリルビン優位の黄疸=ビリルビン産生過剰(溶血・無効造血)または肝での取り込み・抱合障害(Gilbert、Crigler-Najjar、新生児黄疸)。 ・肝細胞障害(急性肝炎、肝硬変)と胆道閉塞(膵頭部癌、総胆管結石)は直接ビリルビン優位。 ・溶血性黄疸では尿中ビリルビン陰性、尿中ウロビリノゲン増加。
