締めつけられるのは腸だけじゃない―鼠径ヘルニア嵌頓から学ぶ絞扼性イレウス
第111回医師国家試験 H問題 第15問
国試問題にチャレンジ
絞扼性イレウスの原因となりうるのはどれか。
- a.急性膵炎
- b.急性虫垂炎
- c.潰瘍性大腸炎
- d.鼠径ヘルニア
- e.下腸間膜動脈血栓症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
絞扼性イレウスは、腸管内腔の機械的閉塞に加えて腸間膜血管も締めつけられ、血流障害を伴う病態です。代表的な原因は鼠径・大腿・閉鎖孔ヘルニアの嵌頓、癒着や索状物による絞扼、腸軸捻転、腸重積などで、鼠径ヘルニア嵌頓では腸管と腸間膜がヘルニア門で同時に圧迫されます。一方、急性膵炎や虫垂炎穿孔による腹膜炎は麻痺性イレウス、下腸間膜動脈血栓症は機械的閉塞を伴わない腸間膜虚血、潰瘍性大腸炎の狭窄は起きても単純性であり、いずれも絞扼性イレウスの原因ではありません。持続痛、腹膜刺激症状、アシドーシス、造影CTでの腸管壁造影不良やwhirl signは絞扼を疑う所見で、腸管壊死に至る前の緊急手術が原則です。「機械的閉塞か」「血流障害を伴うか」の2段階で整理する考え方は、急性腹症の初期対応全般に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
絞扼性イレウスとは、腸管が物理的に閉塞する「機械的イレウス」のうち、腸管だけでなくその腸間膜(血管を含む)も締め付けられて血流障害を伴うものを指す。したがって原因となるのは「腸管とその血管が同時に締め付けられる状況」をつくる病態であり、代表はヘルニア嵌頓、癒着や索状物(バンド)による腸管の絞扼、腸軸捻転、腸重積などである。
考え方
選択肢を「機械的な閉塞を起こすか」「その閉塞に血流障害を伴うか」の2段階でふるい分けるとよい。 ・急性膵炎、急性虫垂炎(穿孔による腹膜炎)は、炎症が腸管に波及して蠕動が止まる麻痺性(機能的)イレウスの原因であり、機械的閉塞ではない。 ・潰瘍性大腸炎は慢性炎症による狭窄を起こしうるが、生じても血流障害を伴わない単純性(閉塞性)イレウスであり、まれである。重症例で注意すべき合併症は中毒性巨大結腸症である。 ・下腸間膜動脈血栓症は血流障害そのものが主病態(腸間膜虚血)で、機械的閉塞はない。腸管が虚血に陥ると蠕動が低下し麻痺性イレウスの像を呈する。 ・鼠径ヘルニアでは、狭いヘルニア門から脱出した腸管が還納できなくなる(嵌頓)と、腸管内腔の閉塞と同時にヘルニア門で腸間膜血管が締め付けられ、絞扼性イレウスとなる。 よって正解は d である。
選択肢考察
- ×a. 急性膵炎
急性膵炎は心窩部〜上腹部痛で発症することが多く、膵周囲の炎症や滲出液が腸管や腸間膜に波及すると腸管の蠕動が低下し、麻痺性イレウスを生じる。腹部X線で膵近傍の小腸が限局的に拡張する sentinel loop sign(見張りループ徴候)や、横行結腸の拡張が脾弯曲部で途絶える colon cut-off sign がみられることがある。いずれも機能的イレウスであり、腸管が物理的に締め付けられる絞扼性イレウスの原因ではない。
- ×b. 急性虫垂炎
急性虫垂炎は、初期に心窩部〜臍周囲の痛みとして始まり、その後右下腹部に限局していく経過が典型的である。進行して穿孔し汎発性腹膜炎を起こすと、腹膜の炎症により腸管全体の蠕動が止まって麻痺性イレウスを生じる。虫垂周囲膿瘍や炎症後の癒着が後に機械的閉塞の原因となることはありうるが、急性虫垂炎そのものが腸管と腸間膜を締め付ける病態ではなく、絞扼性イレウスの原因として挙げるべきものではない。
- ×c. 潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は直腸から連続性に広がる大腸粘膜のびまん性炎症で、寛解と再燃を繰り返す。炎症が長期に続くと線維化による腸管狭窄を生じ、ごくまれに血流障害を伴わない単純性(閉塞性)イレウスとなることがあるが、絞扼は起こさない。なお、狭窄を認めた場合は大腸癌(colitic cancer)の合併を疑って精査する必要がある。重症例で警戒すべき腸管合併症は、結腸が著明に拡張し全身中毒症状を伴う中毒性巨大結腸症や、穿孔、大量出血である。
- ○d. 鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアでは腹腔内臓器(小腸や大網など)が鼠径部のヘルニア門から脱出する。脱出した腸管が狭いヘルニア門で締め付けられて腹腔内に戻らなくなった状態を嵌頓という。嵌頓すると腸管内腔が閉塞すると同時に、ヘルニア門で腸間膜の静脈・動脈が圧迫されて血流障害が起こるため、典型的な絞扼性イレウスとなる。放置すれば腸管壊死・穿孔に至るため、用手的還納が困難な場合や壊死が疑われる場合は緊急手術の適応である。鼠径部ヘルニアのなかでも、ヘルニア門が狭く硬い大腿ヘルニアや、高齢のやせた女性に多い閉鎖孔ヘルニアは特に嵌頓しやすい。
- ×e. 下腸間膜動脈血栓症
下腸間膜動脈血栓症は、動脈の閉塞によって支配域の腸管(主に左側結腸〜S状結腸)が虚血に陥る腸間膜血管閉塞症である。腸管の血流障害は存在するが、腸管を物理的に閉塞・締め付ける機転はないため、機械的イレウスの一型である絞扼性イレウスには該当しない。虚血により腸管の蠕動が低下すると、麻痺性イレウスの像を呈しうる。なお、下腸間膜動脈は側副血行路が比較的豊富なため、上腸間膜動脈の閉塞に比べると広範な腸管壊死には至りにくい。
イレウスの分類(従来の分類)
・機械的イレウス:腸管内腔が物理的に閉塞するもの - 単純性(閉塞性)イレウス:血流障害を伴わない。原因は術後癒着、腫瘍(大腸癌など)、炎症性狭窄、糞便・胆石・異物など。 - 複雑性(絞扼性)イレウス:血流障害を伴う。原因はヘルニア嵌頓(鼠径・大腿・閉鎖孔ヘルニア、内ヘルニア)、癒着や索状物(バンド)による絞扼、腸軸捻転(S状結腸軸捻転など)、腸重積(小児に多い)、Meckel憩室に伴う索状物など。 ・機能的イレウス:閉塞はなく腸管運動の異常によるもの - 麻痺性イレウス:腹膜炎、急性膵炎、開腹術後、腸間膜血管閉塞症、低カリウム血症、薬剤(オピオイドなど)など。 - 痙攣性イレウス:鉛中毒、ヒステリーなど(まれ)。
用語について
2015年の急性腹症診療ガイドライン以降、わが国では機械的閉塞を「腸閉塞」、閉塞を伴わない腸管麻痺を「イレウス」と区別して呼ぶことが推奨されている。この用語法では絞扼性イレウスは「絞扼性腸閉塞」と呼ばれるが、国家試験では従来の名称も用いられる。
絞扼性イレウスを疑う所見
・急激に発症する持続性の激しい腹痛(間欠的な痛みではない) ・腹膜刺激症状、ショックバイタル、発熱 ・血液検査で白血球増多、CK・LDH上昇、代謝性アシドーシス(乳酸上昇) ・造影CTで腸管壁の造影不良、腸間膜の浮腫・液体貯留、closed loop、whirl sign(腸間膜の渦巻き像)、腹水 絞扼が疑われれば、腸管壊死に至る前の緊急手術が原則である。
POINT
・絞扼性イレウス=機械的イレウス+腸管の血流障害。 ・代表的原因はヘルニア嵌頓(鼠径・大腿・閉鎖孔ヘルニア)、索状物・癒着による絞扼、腸軸捻転、腸重積。 ・急性膵炎、虫垂炎穿孔による腹膜炎、腸間膜血管閉塞症は麻痺性(機能的)イレウスの原因。 ・腸間膜動脈閉塞症は血流障害があっても機械的閉塞がないため絞扼性イレウスではない。 ・絞扼性イレウスは緊急手術の適応。
