帝王切開後2日目、見逃してはいけない「足のむくみ」―産褥の正常と異常を見分ける
第111回医師国家試験 G問題 第47問
国試問題にチャレンジ
28歳の初産婦。産褥2日で入院中である。妊娠39週2日に陣痛発来したが,分娩停止のため緊急帝王切開が行われた。 この患者の身体所見で直ちに精密検査が必要なのはどれか。
- a.乳房腫脹
- b.子宮の圧痛
- c.赤色悪露の排出
- d.子宮底臍下3cm
- e.下腿の腫脹と疼痛
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
産褥2日の乳房腫脹、後陣痛や創部痛による子宮の圧痛、赤色悪露、子宮底臍下1〜2横指(約3cm)は、いずれも正常な産褥経過として説明できる所見です。一方、帝王切開後の下腿の腫脹と疼痛は深部静脈血栓症を強く疑う所見であり、肺血栓塞栓症による突然死を防ぐため、Dダイマー測定と下肢静脈の圧迫法超音波検査で直ちに精査します。妊娠・産褥期の凝固亢進、子宮による静脈圧迫、手術による内皮障害、術後の安静臥床が重なり、Virchowの3徴がそろうことが背景にあります。妊娠・産褥期はDダイマーの特異度が低いため画像での確認が重要で、予防には早期離床・弾性ストッキング・間欠的空気圧迫法、高リスク例では抗凝固療法が用いられます。日数ごとの正常経過を把握してこそ危険なサインに気づけるという視点は、産褥管理の基本です。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
・28歳の初産婦で、妊娠39週2日に陣痛が来たものの分娩が進まず(分娩停止)、緊急帝王切開で出産した。現在は産褥2日目である。 ・問題文には異常所見の記載がなく、選択肢に挙がった身体所見が「産褥2日の正常な変化」か「放置できない異常のサイン」かを見分けることが問われている。
考え方
産褥期には、子宮が妊娠前の状態に戻っていく子宮復古、悪露(子宮内からの分泌物)の排出、乳汁分泌の開始などの生理的変化が日ごとに進む。これらの正常経過(子宮底の高さ、悪露の色、乳房の変化)を日数ごとに把握しておくことが前提になる。 一方、帝王切開後の褥婦で特に警戒すべき合併症が静脈血栓塞栓症(VTE:深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症の総称)である。妊娠・産褥期は凝固因子の増加と線溶系の抑制による凝固亢進状態にあり、増大した子宮による骨盤内静脈の圧迫で下肢の静脈血がうっ滞しやすい。そこに手術による血管内皮の損傷と術後の安静臥床が加わり、Virchowの3徴(血流のうっ滞・血管内皮障害・血液凝固能の亢進)がそろう。緊急帝王切開は選択的帝王切開よりもさらにリスクが高い。 下肢の深部静脈にできた血栓が遊離して肺動脈を閉塞すると、肺血栓塞栓症として突然死を来しうる。したがって、帝王切開後に片側の下腿の腫脹と疼痛がみられたら深部静脈血栓症を疑い、直ちに検査を進める必要がある。
選択肢考察
- ×a. 乳房腫脹
分娩で胎盤が娩出されるとエストロゲンとプロゲステロンが急に低下し、プロラクチンの作用が発揮されて乳汁分泌が本格化する。初産婦では産褥2〜3日ごろから乳房が張って硬くなり、熱感を伴うこともある。産褥2日の乳房腫脹は生理的変化であり、直ちに精密検査を要する所見ではない。ただし、片側の限局した発赤・硬結・圧痛に高熱を伴う場合は乳腺炎を考える。
- ×b. 子宮の圧痛
産褥早期には子宮が収縮して元の大きさに戻ろうとするため、後陣痛と呼ばれる収縮痛があり、子宮を押すと痛みを感じることがある。授乳時にはオキシトシンが分泌されて収縮が強まり、痛みが増すこともある。帝王切開後は創部痛も加わる。これらはよくみられる経過であり、単独で直ちに精密検査を要する所見ではない。38℃以上の発熱、悪臭のある悪露、強い圧痛が続く場合は子宮内膜炎などの産褥感染を疑う。
- ×c. 赤色悪露の排出
悪露は分娩後に子宮内から排出される血液・脱落膜・分泌物の混合物で、色調は日数とともに変化する。産褥3日ごろまでは血液成分が多い赤色悪露、その後1週前後までは褐色悪露、2〜3週ごろには黄色悪露、4〜6週ごろには白色悪露となり消失する。産褥2日の赤色悪露は正常である。赤色悪露が長く続く場合は子宮復古不全や胎盤遺残を疑う。
- ×d. 子宮底臍下3cm
子宮底の高さは、胎盤娩出直後に臍下2〜3横指、その後半日ほどでいったん臍の高さ付近まで上がり、産褥1〜2日で臍下1〜2横指、産褥3日で臍下2〜3横指、産褥5日ごろに臍と恥骨結合の中間、産褥10日〜2週ごろには腹壁上から触れにくくなる。1横指はおよそ1.5〜2cmなので、臍下3cmは約2横指に相当し、産褥2日として正常範囲である。帝王切開後は子宮復古がやや遅れることもあるが、それを考えても異常とはいえない。
- ○e. 下腿の腫脹と疼痛
帝王切開術後早期の下腿の腫脹と疼痛は、深部静脈血栓症を最も疑うべき所見である。片側性の腫脹、把握痛、足関節背屈時の腓腹部痛(Homans徴候)、皮膚の発赤や熱感などがみられる。血栓が肺へ飛ぶと肺血栓塞栓症を起こし、呼吸困難・胸痛・低酸素血症、時に突然死に至るため、直ちに精査する。まずDダイマー測定と下肢静脈の圧迫法超音波検査(静脈を押しても潰れない、内部に血栓がみえるなど)を行い、肺血栓塞栓症が疑われれば造影CTで評価する。なお妊娠・産褥期はDダイマーが生理的に上昇しやすく、陽性でも特異度は低いため、画像検査で確認することが重要である。
産褥期の正常経過(目安)
・子宮底の高さ:分娩直後 臍下2〜3横指 → 半日後 臍高付近 → 産褥1〜2日 臍下1〜2横指 → 産褥3日 臍下2〜3横指 → 産褥5日 臍と恥骨結合の中間 → 産褥10日〜2週 腹壁上から触知しにくい。子宮が妊娠前の大きさに戻るのはおよそ6週である。 ・悪露:赤色(〜3日ごろ)→ 褐色(〜1週前後)→ 黄色(2〜3週)→ 白色(4〜6週)。総量は約500〜1,000mL程度とされる。 ・乳房:産褥2〜3日ごろから乳汁分泌が本格化し、乳房が緊満する。 ・体温:分娩直後に37℃台の一過性上昇はありうるが、38℃以上が続く場合は産褥熱を考える。
産褥期・帝王切開後の静脈血栓塞栓症
・リスク因子:帝王切開(特に緊急)、高年妊娠、肥満、多産、血栓症の既往・家族歴、血栓性素因(アンチトロンビン欠乏症、プロテインC・S欠乏症、抗リン脂質抗体症候群など)、妊娠高血圧症候群、長期安静臥床、脱水、感染など。 ・予防:術後の早期離床と下肢の運動、弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫法、リスクが高い場合は抗凝固療法(未分画ヘパリン、低分子量ヘパリンなど)を行う。 ・治療:抗凝固療法が中心で、授乳中でもヘパリンやワルファリンは使用できる。 ・肺血栓塞栓症は、術後の初回歩行・排尿・排便など体を動かした直後に発症しやすい。
POINT
・帝王切開後の褥婦の「片側の下腿腫脹・疼痛」は深部静脈血栓症を疑い、Dダイマーと下肢静脈超音波で直ちに精査する。肺血栓塞栓症への進展を防ぐことが目的である。 ・妊娠・産褥期は凝固亢進状態で、帝王切開・安静臥床が加わるとVTEのリスクがさらに上がる。 ・産褥2日の乳房腫脹、後陣痛による子宮の圧痛、赤色悪露、子宮底臍下1〜2横指はいずれも正常経過である。 ・予防は早期離床・弾性ストッキング・間欠的空気圧迫法、高リスクでは抗凝固療法。
