StudyMed医師国家試験

産後の子宮が戻らない理由―「伸びすぎ」「邪魔もの」「傷」で読み解く子宮復古不全

第111回医師国家試験 E問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第111回 E問題 第16問

子宮復古不全のリスクファクターでないのはどれか。

  1. a.多産
  2. b.子宮筋腫
  3. c.羊水過少症
  4. d.子宮腺筋症
  5. e.帝王切開術

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、産後に子宮がもとの大きさへ戻る過程、つまり子宮復古がなぜ遅れるのかを問う問題だ。「リスクファクターでないもの」を選ぶ形式だから、子宮復古を妨げる仕組みを整理できているかがカギになる。まず、子宮復古は何によって進むと思う?
医学生医学生
分娩後に子宮筋が収縮して、だんだん小さくなっていくからでしょうか。
ドクタードクター
その通り。子宮復古の主役は子宮筋の収縮と退縮だ。だから子宮復古不全は、ほぼ「子宮筋がうまく縮まない状態」と言い換えられる。子宮が大きく柔らかいまま残り、赤色悪露が長引いたり、悪露が子宮内にたまったりするんだ。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、褥婦さんの子宮底の高さを毎日触って記録していました。日に日に下がっていくのが印象的でした。
ドクタードクター
いい経験だね。分娩直後は臍下2〜3横指で硬く触れ、半日ほどで一時的に臍の高さ近くまで上がり、その後は1日におよそ1横指ずつ下がっていく。10日前後で腹壁から触れにくくなり、産褥6〜8週でほぼ非妊時の大きさに戻るのが目安だ。では、子宮筋が縮みにくくなる原因を考えてみよう。
医学生医学生
弛緩出血のリスク因子と同じように考えればいいですか。CBTの勉強で多胎や巨大児、羊水過多を覚えました。
ドクタードクター
鋭いね。まさに同じ発想で、ひとつ目は「子宮筋の過伸展」。妊娠中に引き伸ばされすぎた筋は分娩後に十分に収縮しにくい。多胎、巨大児、羊水過多がそうだし、多産も同じ仲間だ。妊娠と分娩を繰り返すたびに子宮筋が伸ばされ、弾性や収縮力が落ちていく。
医学生医学生
多産婦さんで弛緩出血が多いのと同じ機序なんですね。では子宮筋腫はどうでしょう。
ドクタードクター
ふたつ目のグループ、「子宮筋そのものの病変」だ。筋層内に筋腫があると、子宮全体の均一で協調した収縮が妨げられる。筋腫の分だけ子宮が大きく、壁が伸展された状態にもなる。子宮腺筋症も同様で、内膜に似た組織が筋層内に入り込んで子宮壁がびまん性に厚くなるから、筋層の構造が変わって正常な収縮が障害されるんだ。
医学生医学生
病理の講義で、腺筋症は筋層の中に内膜腺と間質が島状に見えると習いました。あれでは筋がうまく縮まないのも納得です。帝王切開はどう関係しますか。
ドクタードクター
帝王切開は子宮筋層を切開して縫合するから、その部分の収縮が不十分になる。さらに経腟分娩より子宮内感染、つまり産褥子宮内膜炎を起こしやすく、術後の安静臥床も重なる。子宮壁の損傷や感染は3つ目のグループで、吸引分娩や鉗子分娩も同様にリスクになる。
医学生医学生
そうすると、残る羊水過少症が答えですね。最初は羊水の異常だからリスクかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだ。羊水過少症では子宮内容量が小さく、子宮筋が過度に伸ばされることはない。だから子宮復古を妨げる理由にはならない。リスクになるのは反対の羊水過多のほうだ。「過多」と「過少」の取り違えに注意しよう。
医学生医学生
伸びすぎ、筋の病変、傷や感染、という枠組みで考えれば、暗記に頼らなくても判断できますね。
ドクタードクター
その通り。加えて、子宮内に胎盤片や卵膜、凝血塊が残っていると収縮の邪魔になるし、授乳をしない、膀胱や直腸が充満している、産褥早期に安静にしすぎる、といった状況も復古を遅らせる。
医学生医学生
授乳が関係するのは、乳頭刺激でオキシトシンが出るからですか。
ドクタードクター
そう、下垂体後葉からのオキシトシンが子宮収縮を促す。だから治療や予防では、授乳の励行、早期離床、排尿・排便の管理が大切だ。薬物ではメチルエルゴメトリンなどの子宮収縮薬を使い、遺残物があれば除去し、感染があれば抗菌薬を加える。発熱や悪臭のある悪露、子宮の圧痛があれば感染の合併を疑ってほしい。
医学生医学生
病棟で悪露の色と量を毎日確認していた意味がよくわかりました。赤色悪露が長く続いたら要注意ですね。
ドクタードクター
そのとおり。悪露は赤色から褐色、黄色、白色へと変わり、4〜6週で消えるのが普通だ。その流れから外れていないかを見るのが、産褥管理の基本なんだ。

まとめ

子宮復古不全は、産褥期に子宮筋の収縮が不十分なため、子宮が大きく柔らかいまま残り、赤色悪露の遷延や悪露の停滞をきたす状態です。リスクファクターは、多胎・巨大児・羊水過多・多産による子宮筋の過伸展、子宮筋腫や子宮腺筋症などの筋層病変、胎盤片・卵膜の遺残、帝王切開や吸引・鉗子分娩による子宮壁の損傷と感染、非授乳や膀胱・直腸の充満などに整理できます。羊水過少症は子宮筋を過伸展させないためリスクとはならず、羊水過多との取り違えに注意が必要です。授乳によるオキシトシン分泌や早期離床は子宮復古を促し、治療には子宮収縮薬、遺残物除去、抗菌薬が用いられます。子宮底の高さと悪露の性状を日々追う観察は、弛緩出血の理解とも共通する産褥管理の基本です。

解答・解説

正解はcです

子宮復古不全とは、分娩後の産褥期に子宮が非妊時の大きさ・状態へ戻っていく過程(子宮復古)が、正常よりも遅れている状態をいう。子宮収縮が不十分なために子宮が大きく柔らかいままで、赤色悪露が長引いたり、悪露が子宮内にとどまったりする。 子宮復古は主に子宮筋の収縮と退縮によって進む。したがって、リスクファクターは次のように整理できる。 1)子宮筋が妊娠中に過度に引き伸ばされた状態:多胎妊娠、巨大児、羊水過多、多産(経産回数が多い)など。引き伸ばされた筋は分娩後に十分に収縮しにくい。 2)子宮筋そのものの収縮を妨げる病変:子宮筋腫、子宮腺筋症など。 3)子宮内に収縮を妨げるものが残っている:胎盤片・卵膜の遺残、凝血塊。 4)子宮壁の損傷や感染:帝王切開術・吸引分娩・鉗子分娩などの産科手術、子宮内感染(産褥子宮内膜炎)。 5)その他の助長因子:授乳をしない(乳頭刺激によるオキシトシン分泌がない)、膀胱・直腸の充満、産褥早期の安静過多など。 本問は「リスクファクターでないもの」を選ぶ問題である。羊水過少症は羊水量が少ない状態であり、子宮筋を過度に伸展させる方向には働かないため、子宮復古不全のリスクとはならない。過伸展をきたす「羊水過多」との取り違えに注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  多産

    リスクファクターである。妊娠・分娩を何度も繰り返すと、そのたびに子宮筋が伸展されるため筋の弾性や収縮力が低下し、分娩後の子宮収縮が不良になりやすい。多産婦では弛緩出血も起こりやすく、同じ機序である。

  2. ×b.  子宮筋腫

    リスクファクターである。子宮筋層内に筋腫が存在すると、子宮筋全体の均一で協調した収縮が妨げられる。また子宮が筋腫の分だけ大きくなり子宮壁が伸展された状態にもなるため、子宮復古が遅れやすい。

  3. ○c.  羊水過少症

    リスクファクターではない。羊水過少症では子宮内容量が小さく、妊娠中に子宮筋が過度に引き伸ばされることがないため、分娩後の子宮収縮が妨げられる理由にはならない。子宮復古不全のリスクとなるのは、反対に子宮を過伸展させる羊水過多である。

  4. ×d.  子宮腺筋症

    リスクファクターである。子宮腺筋症は子宮内膜類似組織が子宮筋層内に入り込んで増殖する疾患で、子宮壁がびまん性に肥厚する。筋層の構造が変化するため正常な収縮が障害され、子宮筋腫と同様に子宮復古が遅れやすい。

  5. ×e.  帝王切開術

    リスクファクターである。帝王切開では子宮筋層を切開・縫合するため、その部分の収縮が不十分になる。さらに経腟分娩に比べて子宮内感染(子宮内膜炎)を起こしやすく、術後の安静臥床も加わって子宮復古が遅れやすい。吸引分娩・鉗子分娩などの産科手術も同様にリスクとなる。

正常の子宮復古の目安

・分娩直後:子宮底は臍下2〜3横指程度で、硬く収縮している。 ・分娩後12時間ごろ:一時的に臍の高さ付近まで上昇する。 ・その後は1日におよそ1横指ずつ下降し、産褥10日前後で腹壁上から触れにくくなる。 ・産褥6〜8週(産褥期の終わり)でほぼ非妊時の大きさに戻る。

悪露の変化

赤色悪露(産褥数日、血液が主体)→褐色悪露(1週前後〜)→黄色悪露(2〜3週ごろ〜)→白色悪露と変化し、4〜6週で消失する。赤色悪露が長く続く場合は子宮復古不全を疑う。

子宮復古不全の症状・所見

子宮底が高く子宮が柔らかい、赤色悪露の持続や悪露の増量、悪露の停滞(悪露滞留症)など。感染を伴えば発熱や悪臭のある悪露、子宮の圧痛がみられる。

原因・誘因

・胎盤片・卵膜の遺残、胎盤ポリープ ・子宮内感染 ・子宮筋腫・子宮腺筋症の合併 ・子宮筋の過伸展(多胎、巨大児、羊水過多、多産) ・産科手術(帝王切開、吸引・鉗子分娩) ・非授乳、膀胱・直腸の充満、産褥早期の安静過多

治療

子宮収縮薬(メチルエルゴメトリンなど)の投与、遺残物があれば除去、感染があれば抗菌薬を用いる。授乳の励行や早期離床、排尿・排便の管理も子宮復古を促す。授乳による乳頭刺激で下垂体後葉からオキシトシンが分泌され、子宮収縮が促進されるためである。

POINT

・子宮復古不全の主因は子宮収縮不良:子宮筋の過伸展(多胎・巨大児・羊水過多・多産)、子宮筋腫・子宮腺筋症、胎盤・卵膜遺残、感染、産科手術、非授乳 ・羊水「過多」はリスク、羊水「過少」はリスクではない ・授乳(オキシトシン分泌)と早期離床、膀胱・直腸を空にすることは子宮復古を促す ・赤色悪露の遷延、子宮底が高く軟らかい子宮は子宮復古不全を疑う所見

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。