「どこに溜まっているか」で決まる―胸腔ドレナージの適応を見極める
第111回医師国家試験 G問題 第39問
国試問題にチャレンジ
胸腔ドレナージが行われるのはどれか。3つ選べ。
- a.膿胸
- b.血胸
- c.肺気腫
- d.乳び胸
- e.心タンポナーデ
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
胸腔ドレナージは、臓側胸膜と壁側胸膜の間にある胸腔に病的に溜まった気体や液体を排出し、肺を再膨張させる処置です。膿胸(膿)、血胸(血液)、乳び胸(リンパ液)はいずれも胸腔内の貯留であり適応となり、ほかに気胸や大量の悪性胸水なども対象です。肺気腫は肺実質の病変で胸腔に貯留物はないため適応外ですが、合併した続発性気胸には胸腔ドレナージを行います。心タンポナーデは心膜腔の貯留であり、心嚢穿刺・心嚢ドレナージで治療します。「どの空間に何が溜まっているか」を考える習慣は、処置の選択を誤らないための基本であり、安全三角や肋骨上縁からの刺入、再膨張性肺水腫といった手技上の注意点とあわせて臨床で役立ちます。
解答・解説
正解はa, b, dです
問われていること
胸腔ドレナージ(胸腔にチューブを留置して内容物を体外へ排出する処置)の適応を問う問題である。
考え方
胸腔(胸膜腔)とは、肺を覆う臓側胸膜と胸壁の内側を覆う壁側胸膜の間にある、本来はごく少量の胸水しか存在しない空間である。ここに空気や液体が病的にたまると、肺が圧迫されて膨らめなくなり、呼吸困難や低酸素血症を生じる。胸腔ドレナージは、この「胸腔内に病的にたまった気体・液体」を排出して肺の再膨張を得るための処置である。 したがって、各選択肢について「どこに何がたまる病態か」を考えれば判断できる。 ・膿胸:胸腔に膿 → 胸腔ドレナージの適応 ・血胸:胸腔に血液 → 胸腔ドレナージの適応 ・乳び胸:胸腔にリンパ液(乳び) → 胸腔ドレナージの適応 ・肺気腫:肺実質そのものの病変で、胸腔には貯留物がない → 適応なし ・心タンポナーデ:心膜腔(心嚢)に液体 → 胸腔ではなく心嚢穿刺・心嚢ドレナージ 以上より、胸腔ドレナージが行われるのは膿胸、血胸、乳び胸である。
選択肢考察
- ○a. 膿胸
正しい。膿胸は胸腔内に膿が貯留した状態で、肺炎に続発するもの(肺炎随伴性胸水の進行)が多い。治療の柱は抗菌薬の全身投与と、胸腔ドレナージによる膿の排出である。膿が粘稠で隔壁(フィブリンによる仕切り)を形成している場合は、ドレーンからの線維素溶解療法や胸腔鏡下の掻爬・剥皮術を追加することがある。胸水が膿性、pH 7.2未満、グルコース低値、グラム染色・培養陽性などの所見はドレナージを要する目安となる。
- ○b. 血胸
正しい。血胸は胸腔内に血液が貯留した状態で、胸部外傷による肋間動脈や肺の損傷が主な原因である。胸腔ドレナージで血液を排出して肺を再膨張させるとともに、排液量から出血の程度を評価できる。ドレナージ直後に1,000~1,500 mL 以上の血液が出る場合や、200 mL/時程度の出血が持続する場合は、開胸止血術が考慮される。血液を残すと凝血塊が器質化して肺の膨張を妨げる(線維胸)ため、十分な排出が重要である。
- ×c. 肺気腫
誤り。肺気腫は終末細気管支より末梢の気腔が拡大し、肺胞壁が破壊される肺実質の病変で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主要な病型である。胸腔内に空気や液体がたまる病態ではないため、それ自体は胸腔ドレナージの適応にならない。治療は禁煙、気管支拡張薬、呼吸リハビリテーション、在宅酸素療法などである。ただし、肺気腫の患者に続発性気胸が起これば、その気胸に対して胸腔ドレナージを行う。
- ○d. 乳び胸
正しい。乳び胸は胸管やその分枝の損傷・閉塞により、脂肪を多く含むリンパ液(乳び)が胸腔内に漏れ出して貯留した状態である。原因として、食道癌・肺癌などの胸部手術、外傷、悪性リンパ腫などの腫瘍による胸管閉塞がある。胸水は乳白色で、トリグリセリド高値(一般に110 mg/dL超)が診断の目安となる。肺の圧迫を解除するため胸腔ドレナージを行い、あわせて絶食・中鎖脂肪酸食・中心静脈栄養などで乳びの産生を減らす。改善しない場合は胸管結紮術などを考慮する。
- ×e. 心タンポナーデ
誤り。心タンポナーデは心膜腔(心嚢)に液体や血液が貯留して心膜腔内圧が上昇し、心臓が十分に拡張できなくなって心拍出量が低下した状態である。血圧低下、頸静脈怒張、心音減弱(Beckの三徴)や奇脈を呈する。貯留部位は胸腔ではなく心膜腔であるため、治療は心嚢穿刺(心膜穿刺)または心嚢ドレナージであり、胸腔ドレナージではない。
胸腔ドレナージの主な適応
・気胸(特に中等度以上、緊張性気胸の脱気後、両側性など) ・血胸、血気胸 ・膿胸、ドレナージを要する肺炎随伴性胸水 ・乳び胸 ・大量の悪性胸水(排液後に胸膜癒着術を行うことがある) ・開胸手術後の管理
手技の要点
・挿入部位は、通常、中腋窩線~前腋窩線の第4~5肋間付近(安全三角:大胸筋外縁、広背筋前縁、乳頭の高さを結ぶ範囲)である。 ・肋間動静脈・神経は肋骨下縁を走行するため、肋骨上縁に沿って刺入する。 ・空気の排出を目的とする場合はチューブ先端を肺尖部方向へ、液体の排出を目的とする場合は背側下方へ向ける。 ・水封式の排液バッグ(チェストドレーンバッグ)に接続し、必要に応じて持続吸引を行う。 ・大量の液体や長期間虚脱していた肺を急速に再膨張させると、再膨張性肺水腫を起こすことがあるため注意する。
胸腔と心膜腔の区別
胸腔は臓側胸膜と壁側胸膜の間、心膜腔は臓側心膜(心外膜)と壁側心膜の間の空間であり、貯留部位により必要な処置が異なる。心膜腔の貯留には、剣状突起下または心尖部から行う心嚢穿刺が用いられる。
POINT
・胸腔ドレナージは胸腔内に病的に貯留した気体・液体(気胸、血胸、膿胸、乳び胸、大量胸水)を排出する処置である。 ・肺気腫は肺実質の病変で胸腔に貯留物はない(合併した気胸は適応)。 ・心タンポナーデは心膜腔の貯留であり、心嚢穿刺・心嚢ドレナージで治療する。
