放置した採血管で上がるカリウム―「偽性高カリウム血症」を見抜く検査前誤差の基本
第111回医師国家試験 G問題 第13問
国試問題にチャレンジ
血液検体を遠心分離せずに長時間放置した場合,本来の値より高値を示す項目はどれか。
- a.Ca
- b.Cl
- c.K
- d.Na
- e.P
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血液検体を遠心分離せずに放置すると、ATP枯渇や低温によるNa⁺/K⁺-ATPaseの停止と溶血によって、赤血球内に高濃度に存在するKが血清中に移り、偽性高カリウム血症を生じます。一方でNaは赤血球内へ移動して低下傾向となり、細胞内濃度の低いCaやClは上昇せず、無機リンの変化も軽度にとどまります。同じ理屈でLDやASTも溶血で上昇し、血糖は解糖によって低下するため、フッ化ナトリウム入り採血管が用いられます。予想外の高K値をみたら、心電図変化の有無、溶血・放置時間・採血手技を確認し、必要に応じて再採血することが重要です。検体の取り扱いが結果を左右するという検査前誤差の理解は、検査値を正しく解釈し不要な治療を避けるための基本となります。
解答・解説
正解はcです
採血後の検体の取り扱いが検査値に与える影響(検査前誤差)に関する問題である。 採血した血液を遠心分離せずに全血のまま長く置いておくと、血球(主に赤血球)と血清・血漿が接したままの状態が続く。このとき検査値を変化させる主な仕組みは二つある。 1)Na+/K+-ATPase(ナトリウム-カリウムポンプ)の停止:赤血球は解糖系で得たATPを使い、このポンプで細胞内にK+を取り込み、Na+を汲み出して、細胞内外の大きな濃度差を維持している。体外に出た検体ではブドウ糖の消費やATPの枯渇、特に冷蔵による低温でポンプが働かなくなり、K+は濃度勾配に従って細胞外(血清)へ漏れ出し、Na+は細胞内へ移動する。 2)溶血:時間がたつと赤血球の一部が壊れ、細胞内の成分がそのまま血清中に放出される。 いずれの仕組みでも、血清中で値が上がるのは「赤血球内の濃度が血漿中よりはるかに高い成分」である。代表がK+で、赤血球内濃度は約100mEq/L前後と、血漿濃度(約3.5〜5.0mEq/L)の20倍以上にもなる。わずかな漏出や溶血でも血清K値は大きく上昇し、実際には体内に高K血症がないのに高値を示す「偽性高カリウム血症」の原因となる。したがって正解はKである。
選択肢考察
- ×a. Ca
Caは細胞内濃度が細胞外に比べて極めて低く保たれている(細胞質の遊離Ca2+は細胞外の約1万分の1)。このため、ポンプが停止しても溶血が起きても、赤血球からCaが血清中に放出されて値が上がることはない。なお、Caの測定値に影響する検査前要因としては、EDTA・クエン酸・シュウ酸などの抗凝固薬がCa2+をキレート(結合)して見かけ上の低値を生じることが重要である。抗凝固薬を用いない血清検体ではこの影響はない。
- ×b. Cl
赤血球内のCl-濃度は血漿よりも低い。したがって溶血によって血清Cl値が上がることはなく、むしろ溶血の程度が強ければわずかに希釈される方向に働く。また、Clは能動輸送で大きな濃度差が維持されているイオンではないため、ポンプ停止の影響も小さく、全血放置による変化は臨床的に問題となりにくい。
- ○c. K
Kは細胞内液の主要な陽イオンであり、赤血球内濃度は血漿濃度の20倍以上ある。遠心分離せずに放置すると、ATP枯渇や低温によってNa+/K+-ATPaseが働かなくなり、K+が赤血球から血清中へ漏れ出す。さらに時間経過に伴う溶血で赤血球内のKが直接放出される。その結果、血清K値は本来より高値となる(偽性高カリウム血症)。冷蔵保存ではポンプがより強く抑制されるため上昇が目立つ。血清K値が予想外に高い場合は、検体の溶血や放置時間、採血手技(細い針での強い吸引、駆血帯の長時間使用、採血時の手指の握り運動など)を確認し、必要なら再採血する。
- ×d. Na
Naは細胞外液の主要な陽イオンで、赤血球内濃度は血漿よりはるかに低い。ポンプが停止するとNa+は濃度勾配に従って血清から赤血球内へ移動するため、血清Na値はむしろ本来の値より低下する方向に変化する。冷所保存ではポンプ抑制が強く、この変化が起こりやすい。溶血しても赤血球内のNaが少ないため、上昇の原因にはならない。
- ×e. P
無機リン(P)は、赤血球内と血漿でその濃度に大きな差がないため、溶血やポンプ停止によってKのように大きく変動することはない。全血を長時間放置すると、赤血球内の有機リン酸エステルの分解などにより軽度上昇することはあるものの、本問の選択肢の中で「本来より高値を示す」代表的項目としてはKが最も明確であり、Pは正解とはならない。
全血放置・溶血で変動する主な検査項目
・上昇するもの:K、LD(乳酸脱水素酵素)、AST、酸性ホスファターゼ、遊離ヘモグロビンなど(いずれも赤血球内に多い成分) ・低下するもの:血糖(血球が解糖でブドウ糖を消費するため、1時間あたり数%〜10%程度低下する。血糖測定にはフッ化ナトリウム入りの採血管を用いて解糖を止める)、Na(細胞内への移動)
Na+/K+-ATPaseの働き
細胞膜にあるNa+/K+-ATPaseは、ATP 1分子の加水分解につきNa+を3個細胞外へ汲み出し、K+を2個細胞内へ取り込む対向輸送を行う。これにより細胞内はK+が多くNa+が少ない状態に保たれ、静止膜電位の形成にも寄与している。
偽性高カリウム血症の主な原因
・溶血(採血時の強い陰圧、細い針、検体の振とう、全血放置) ・遠心分離の遅れ、検体の冷蔵保存 ・採血時の手指の握り運動、長時間の駆血 ・著明な白血球増加・血小板増加(凝固過程で血球からKが放出される。血漿で測定すると正常) 真の高K血症との区別には、心電図変化(テント状T波など)の有無の確認や、適切な条件での再採血が有用である。
POINT
・赤血球内に高濃度で存在する成分(K、LD、AST)は、溶血や全血放置で高値となる ・全血放置ではNa+/K+-ATPase停止と溶血によりKが上昇し、Naは低下する ・血糖は解糖により低下する(フッ化ナトリウム採血管で防ぐ) ・EDTAなどのキレート作用をもつ抗凝固薬でCaは見かけ上低値となる
