話が突然止まる―思考途絶から読み解く精神症状と疾患の対応
第111回医師国家試験 G問題 第12問
国試問題にチャレンジ
症状と疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.解離 ―― パニック障害
- b.感情失禁 ―― パーソナリティ障害
- c.観念奔逸 ―― 注意欠陥多動性障害〈ADHD〉
- d.思考途絶 ―― 統合失調症
- e.体感幻覚 ―― 神経性食思〈欲〉不振症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
精神症状は意識・記憶、知覚、思考過程、思考内容、感情、自我意識などの領域に分けて整理すると、疾患との対応が理解しやすくなります。思考途絶は思考の流れが突然止まる思考過程の障害で、連合弛緩や滅裂思考とともに統合失調症に特徴的であり、本人には思考奪取として体験されることもあります。観念奔逸は躁状態、思考制止はうつ状態、解離は解離性障害、感情失禁は血管性認知症などの器質性疾患、体感幻覚は統合失調症やセネストパチーに対応し、神経性やせ症のボディイメージの障害は幻覚ではなく認知の歪みです。症状名を正確に理解して使い分けることは、国家試験だけでなく、精神科面接での観察やカルテ記載、診断推論の基盤となります。
解答・解説
正解はdです
精神症状の名称と、その症状が典型的にみられる疾患を対応づけられるかを問う問題である。 精神症状は大きく、意識、知覚(幻覚など)、思考(思考の流れ=思考過程の障害と、思考の内容=妄想など)、感情、意欲・行動、自我意識、記憶などの領域に分けて整理すると覚えやすい。本問の選択肢に並ぶ症状をこの枠組みに当てはめると次のようになる。 ・解離:意識・記憶・同一性などの統合が一時的に失われる状態(意識・記憶の領域) ・感情失禁:感情の制御障害(感情の領域) ・観念奔逸:思考過程(思考の流れ)の障害で、思考が加速するもの ・思考途絶:思考過程の障害で、思考が突然止まるもの ・体感幻覚:知覚の障害(幻覚)の一種 そのうえで、それぞれの症状が「どの疾患の代表的症状か」を思い浮かべる。思考過程の障害は疾患との対応がはっきりしており、観念奔逸は躁状態、思考制止はうつ状態、思考途絶や連合弛緩(滅裂思考)は統合失調症の特徴とされる。したがって「思考途絶 ―― 統合失調症」の組合せが正しい。
選択肢考察
- ×a. 解離 ―― パニック障害
解離とは、通常はひとまとまりになっている意識・記憶・自己同一性・知覚などの精神機能の統合が失われる状態であり、解離性障害(解離症)でみられる。具体的には解離性健忘、解離性遁走(家庭や職場から突然離れ、その間の記憶を失う)、解離性同一性障害(いわゆる多重人格)、離人感・現実感消失などがある。かつて「ヒステリー」と呼ばれた病態のうち精神機能面に症状が現れるものに相当する。パニック障害は、予期しないパニック発作(動悸、呼吸困難、発汗、死の恐怖などが突然出現し数分でピークに達する)を繰り返し、また発作が起こるのではないかという予期不安を伴う不安障害であり、解離はその代表的症状ではない。なお、パニック発作の症状項目に「現実感消失・離人感」が含まれることはあるが、疾患と症状の組合せとして解離をパニック障害に対応させるのは適切でない。
- ×b. 感情失禁 ―― パーソナリティ障害
感情失禁(情動失禁)とは、ごく些細なきっかけで泣く・笑う・怒るといった感情反応が誘発され、本人もそれを抑えられない状態をいう。脳血管障害などの器質的な脳損傷の後に出現することが多く、特に脳血管性認知症(血管性認知症)の特徴的症状として知られる。限局した病巣というより脳全体の機能低下を背景とすることが多い。パーソナリティ障害は、認知・感情・対人関係・衝動制御などの持続的な偏りが青年期〜成人期早期から続くものであり、境界性パーソナリティ障害などで感情の不安定さはみられるが、器質的背景をもつ「感情失禁」とは区別される。
- ×c. 観念奔逸 ―― 注意欠陥多動性障害〈ADHD〉
観念奔逸(思考奔逸)は、連想が過剰に活発になり、考えや言葉が次々と湧き出す一方、目的に沿わない余計な観念を抑えられないため、話題がどんどん横へそれていく思考過程の障害である。個々の連想のつながり自体は周囲にも追える点で、統合失調症の連合弛緩とは異なる。双極性障害の躁状態に特徴的な症状であり、うつ状態でみられる思考制止(考えが進まない)と対になる。ADHD(注意欠陥多動性障害、現在は注意欠如・多動症とも呼ぶ)は不注意・多動性・衝動性を主徴とする神経発達症であり、注意がそれやすいことはあっても観念奔逸は代表的症状ではない。
- ○d. 思考途絶 ―― 統合失調症
思考途絶とは、思考の流れが何の前触れもなく突然止まってしまう状態である。外から見ると、話している途中で急に言葉が途切れて沈黙し、しばらくして話し始めると、それまでの話題とほとんど関係のない内容になっていることが多い。統合失調症に特徴的な思考過程の障害であり、連合弛緩(考えのつながりが緩み、話のまとまりがなくなる)や、それが高度になった滅裂思考とともに代表的である。本人は「考えが抜き取られた」と体験することがあり、この場合は自我障害の一つである思考奪取として表現される。以上より、この組合せは正しい。
- ×e. 体感幻覚 ―― 神経性食思〈欲〉不振症
体感幻覚とは、身体内部の感覚(内臓感覚、平衡感覚、運動感覚など、健常者では普段意識に上らない体感)に関する幻覚であり、「脳が溶けている」「体の中を何かが流れている」「内臓が腐っている」「性器を操作されている」といった奇異な訴えとなる。統合失調症で多くみられ、体感異常を主症状とするセネストパチー(体感症)でもみられる。神経性食思(欲)不振症(神経性やせ症)の中核は、やせ願望・肥満恐怖と、やせているのに自分は太っていると感じるボディイメージの障害であり、これは知覚の誤りではなく認知の歪みであって体感幻覚ではない。
思考過程(思考の流れ)の障害の整理
・観念奔逸:思考が加速し、話題が次々にそれる → 躁状態 ・思考制止:思考が進まず、考えが浮かばない → うつ状態 ・思考途絶:思考が突然止まる → 統合失調症 ・連合弛緩・滅裂思考:観念同士のつながりが緩む・失われる → 統合失調症 ・迂遠:細部にこだわり回りくどいが最終的に目的に達する → てんかん、認知症、知的障害など ・保続:同じ観念や言葉を繰り返す → 器質性疾患(認知症など)
ヒステリー概念の現在の位置づけ
かつての「ヒステリー」は、現在では、意識・記憶・同一性など精神機能に症状が現れる解離性障害と、運動麻痺・失声・けいれん様発作など身体症状として現れる転換性障害(DSM-5では変換症/転換性障害〈機能性神経症状症〉)に分けて扱われている。
その他の症状と代表的疾患
・感情失禁:血管性認知症など脳器質性疾患 ・体感幻覚:統合失調症、セネストパチー ・ボディイメージの障害:神経性やせ症 ・予期不安・広場恐怖:パニック障害
POINT
・思考途絶、連合弛緩(滅裂思考)は統合失調症の思考過程の障害 ・観念奔逸は躁状態、思考制止はうつ状態 ・感情失禁は血管性認知症に特徴的 ・解離は解離性障害(旧来のヒステリーの一部) ・体感幻覚は統合失調症で多い
