その妄想、どこから来た?―気分と心理から読み解く疾患別の妄想
第104回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
妄想について正しいのはどれか。
- a.躁病では心気妄想が多い。
- b.認知症では誇大妄想が多い。
- c.うつ病では敏感関係妄想が多い。
- d.統合失調症では物盗られ妄想が多い。
- e.アルコール精神病では嫉妬妄想が多い。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
妄想は統合失調症に限らずさまざまな疾患で出現し、その内容は背景にある気分や心理状態と結びついています。うつ病では罪業・貧困・心気の微小妄想、躁病では誇大妄想、統合失調症では被害妄想・関係妄想・注察妄想、Alzheimer型認知症では記憶障害を背景とした物盗られ妄想、アルコール精神病では配偶者の不貞を確信する嫉妬妄想が特徴的です。敏感関係妄想はKretschmerが記載した、敏感性格の人が屈辱的体験を契機に抱く関係妄想で、うつ病とは関係しません。また、了解不能な一次妄想は統合失調症に特徴的で、気分や記憶障害から了解できる二次妄想と区別されます。妄想の内容から背景疾患を推定する視点は、診断の手がかりとなるだけでなく、身体的要因の見落としや家族への暴力といった臨床上のリスクに気づくためにも重要です。
解答・解説
正解はeです
妄想とは、根拠のない誤った内容を強く確信し、周りが反証を示しても訂正できない思考内容の異常である。妄想があるからといって統合失調症とは限らず、気分障害、認知症、物質関連障害などさまざまな疾患で出現する。どの疾患でどんな内容の妄想が目立つかには一定の傾向がある。本問はその組み合わせを問う一般問題である。 考え方の軸は、妄想の内容がその疾患の基盤にある気分や心理状態と結びついていることである。 ・うつ病: 気分が落ち込み、自分を過小に評価するので、微小妄想(罪業妄想・貧困妄想・心気妄想)が生じる。 ・躁病: 気分が高揚し、自分を過大に評価するので、誇大妄想が生じる。 ・統合失調症: 他者から害を加えられる、注目されているという方向の妄想(被害妄想、関係妄想、注察妄想など)が中心である。 ・認知症(とくにAlzheimer型認知症): 自分がしまい忘れたことを他人のせいにする形で、物盗られ妄想が生じる。 ・慢性アルコール中毒(アルコール依存症): 配偶者の不貞を確信する嫉妬妄想が特徴的である。 この対応に当てはめると、正しい組み合わせは一つだけである。
選択肢考察
- ×a. 躁病では心気妄想が多い。
誤り。躁病では気分が高揚し、自分を過大に評価するので、誇大妄想がみられやすい。誇大妄想には、自分は特別な能力や地位を持っているという妄想や、高貴な血筋の生まれだという血統妄想、莫大な財産があるという妄想などがある。心気妄想(重い病気にかかっている、体が腐っている、などと確信する妄想)は、うつ病でみられる微小妄想の一つである。
- ×b. 認知症では誇大妄想が多い。
誤り。認知症、とくにAlzheimer型認知症で典型的なのは物盗られ妄想である。記憶障害のために財布や通帳をしまった場所を忘れ、それを身近な介護者(嫁や配偶者など)が盗んだと確信する。そのほか、配偶者の浮気を疑う嫉妬妄想や、見捨てられ妄想などもみられる。誇大妄想が目立つのは躁病である。なお、梅毒による進行麻痺(麻痺性認知症)では誇大妄想が古典的に知られているが、認知症全般に多い妄想ではない。
- ×c. うつ病では敏感関係妄想が多い。
誤り。うつ病で多いのは微小妄想で、代表的なものは次の3つである。罪業妄想(取り返しのつかない罪を犯した)、貧困妄想(お金がなくなり生活できなくなる)、心気妄想(不治の病にかかっている)。敏感関係妄想はKretschmerが記載した概念である。内気で傷つきやすい一方で自尊心や名誉心の強い「敏感性格」の人が、恥や屈辱を感じる対人的な葛藤を経験したことをきっかけに、周りの人の言動が自分に関係していると思い込む関係妄想を抱くものをいう。性格・状況・体験から心理的に了解できる妄想であり、うつ病に特徴的な妄想ではない。
- ×d. 統合失調症では物盗られ妄想が多い。
誤り。統合失調症では、被害妄想(誰かに狙われている、迫害されている)が最も多い。そのほか、関係妄想(周りの出来事や他人の言動が自分に向けられている)、注察妄想(常に見張られている)、追跡妄想、被毒妄想などもみられる。また、させられ体験(作為体験)や思考伝播などの自我障害を伴いやすい。物盗られ妄想は、記憶障害が背景にあるAlzheimer型認知症に特徴的な妄想である。
- ○e. アルコール精神病では嫉妬妄想が多い。
正しい。長期にわたる大量飲酒によるアルコール精神病(アルコール依存症に伴う精神病性障害)では、配偶者が浮気をしていると確信する嫉妬妄想がよく知られている。「アルコール性嫉妬妄想」とも呼ばれる。背景には、飲酒による性機能の低下、夫婦関係の悪化、アルコールによる脳障害、依存症者の猜疑的な性格傾向などが関係すると考えられている。配偶者への暴力や、ときに殺傷事件につながることもあるので、臨床上重要である。
妄想の分類
成り立ちによる分類: ・一次妄想(真性妄想): 心理的に了解できない形で突然生じる妄想。妄想気分(周りが何となく不気味で、何かが起こりそうだと感じる)、妄想知覚(実際の知覚に特別な意味づけが加わる。例: 犬が片足を上げたのを見て、自分が選ばれたと確信する)、妄想着想(突然ひらめく)がある。統合失調症に特徴的である。 ・二次妄想: 気分、性格、状況、ほかの症状(幻覚や記憶障害など)から心理的に了解できる妄想。うつ病の微小妄想、躁病の誇大妄想、認知症の物盗られ妄想、敏感関係妄想などがこれにあたる。 内容による分類: ・被害的な内容の妄想: 被害妄想、関係妄想、注察妄想、追跡妄想、被毒妄想、嫉妬妄想など ・微小妄想: 罪業妄想、貧困妄想、心気妄想 ・誇大妄想: 血統妄想、発明妄想、宗教妄想、恋愛妄想など
疾患と特徴的な妄想
・統合失調症: 被害妄想、関係妄想、注察妄想。一次妄想もみられる。 ・うつ病: 微小妄想(罪業・貧困・心気)。重症になると、自分の内臓がない、自分はもう死んでいるなどと訴えるCotard症候群(否定妄想)もみられる。 ・躁病: 誇大妄想 ・Alzheimer型認知症: 物盗られ妄想 ・Lewy小体型認知症: 具体的で生々しい幻視(人や小動物)と、それに基づく妄想。誤認妄想もみられる。 ・アルコール依存症: 嫉妬妄想。アルコール幻覚症では、幻聴(悪口など)とそれに伴う被害妄想がみられる。 ・覚醒剤精神病: 被害妄想・追跡妄想と幻聴。統合失調症によく似た症状を示す。 ・敏感関係妄想(Kretschmer): 敏感性格の人が屈辱的な体験をきっかけに関係妄想を抱く。
POINT
・「妄想がある=統合失調症」ではない。妄想の内容から背景の疾患を推定する。 ・うつ病は微小妄想(罪業・貧困・心気)、躁病は誇大妄想である。 ・統合失調症は被害妄想・関係妄想・注察妄想が中心である。 ・Alzheimer型認知症は物盗られ妄想である。 ・アルコール依存症(アルコール精神病)は嫉妬妄想である。 ・敏感関係妄想は、敏感性格と屈辱的な体験から生じる関係妄想であり、うつ病とは関係しない。
