StudyMed医師国家試験

喫煙者の喉頭癌、犯人はニコチンか?―「たばこ」と「ニコチン」を分けて考える発癌の危険因子

第104回医師国家試験 E問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第4問

癌と危険因子の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.皮膚癌 ―― 紫外線
  2. b.喉頭癌 ―― ニコチン
  3. c.肺癌 ―― 六価クロム
  4. d.肝癌 ―― C型肝炎ウイルス
  5. e.子宮頸癌 ―― ヒトパピローマウイルス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代表的な癌とその危険因子の組合せから、誤っているものを一つ選ぶ問題だ。どれも一見もっともらしく見えるけれど、組合せの言葉を一語ずつ正確に読めるかが勝負になる。危険因子は、物理的因子、化学的因子、生物学的因子の3つに分けて整理すると見通しがよくなるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義でその分類を習いました。紫外線や放射線が物理的因子、ウイルスや細菌が生物学的因子ですね。
ドクタードクター
その通り。化学的因子には、たばこ煙の発癌物質や職業上ばく露する化学物質、カビ毒のアフラトキシンなどが入る。では、まず皮膚癌と紫外線から考えてみよう。
医学生医学生
これは正しいと思います。皮膚科の実習で、屋外作業の多い高齢の方の顔に日光角化症があって、有棘細胞癌の前癌病変だと教わりました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。紫外線、特にUVBは皮膚の細胞のDNAにピリミジン二量体などの損傷を起こし、p53などの遺伝子に変異を残す。基底細胞癌や有棘細胞癌、悪性黒色腫にも関わる。DNA修復ができない色素性乾皮症で若いうちから皮膚癌が多発するのも、この仕組みの裏返しなんだ。
医学生医学生
次の喉頭癌は喫煙が最大の危険因子ですよね。耳鼻咽喉科を回ったとき、喉頭癌の患者さんはほぼ全員ヘビースモーカーでした。だからニコチンとの組合せも正しいように見えます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。喫煙が喉頭癌の最大の危険因子であることは間違いない。でも、発癌の本体はたばこ煙に含まれるベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素、たばこ特異的ニトロソアミン、ホルムアルデヒドといった発癌物質なんだ。ニコチンは主に依存性をもたらす物質で、それ自体が発癌物質であるとは確立されていない。
医学生医学生
あ、そういえば禁煙外来でニコチンパッチを使っていました。もしニコチンが発癌物質なら、治療に使えないですね。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。ニコチン置換療法が成り立つのは、ニコチンと発癌物質を切り分けて考えているからだ。つまり「喉頭癌―喫煙」なら正しいが、「喉頭癌―ニコチン」は誤り。これが今回の答えになる。
医学生医学生
なるほど。では肺癌と六価クロムはどうでしょう。職業がんの一つだったと思いますが、自信がありません。
ドクタードクター
正しい組合せだよ。六価クロムはクロムめっきやクロム酸塩の製造などでばく露し、国際がん研究機関がヒトへの発癌性ありと分類している。職業性の肺癌や鼻腔・副鼻腔の癌の原因になり、刺激性が強いので鼻中隔穿孔やクロム潰瘍も起こす。肺癌の職業性因子としては、アスベスト、ヒ素、ニッケル、ビス(クロロメチル)エーテル、ラドンなどもセットで覚えておこう。
医学生医学生
肝癌とC型肝炎ウイルス、子宮頸癌とヒトパピローマウイルスは、生物学的因子の代表ですね。
ドクタードクター
そう、どちらも正しい。C型肝炎ウイルスの持続感染は慢性肝炎から肝硬変を経て肝細胞癌に至る。日本の肝細胞癌はかつて大半がB型・C型肝炎ウイルス関連だったが、直接作用型抗ウイルス薬でウイルスを高率に排除できるようになり、近年は脂肪性肝疾患やアルコールに関連する非B非C型が増えている。子宮頸癌は高リスク型HPV、特に16型と18型の持続感染が原因で、E6がp53を、E7がRBを抑えることで細胞増殖が進む。
医学生医学生
病理学の講義で、HPVのE6・E7が癌抑制遺伝子を狙い撃ちすると習ったのを思い出しました。予防はワクチンと検診でしたね。
ドクタードクター
その通り。ワクチンが一次予防、子宮頸がん検診が二次予防だ。最後に発展として、ほかの組合せも押さえておこう。膀胱癌は喫煙とベンジジンなどの芳香族アミン、悪性中皮腫はアスベスト、肝血管肉腫は塩化ビニル、上咽頭癌やBurkittリンパ腫はEBウイルス、成人T細胞白血病・リンパ腫はHTLV-1、胃癌はHelicobacter pyloriだ。
医学生医学生
喫煙については、ニコチンは依存、一酸化炭素は酸素運搬能の低下、発癌は煙に含まれる別の物質、と役割を分けて覚えればいいんですね。
ドクタードクター
完璧だね。臨床では、癌の患者さんに職業歴や喫煙歴、飲酒歴、感染歴を丁寧に聞くことが、診断の手がかりにも予防の指導にもつながる。特に職業がんは労災認定に関わることもあるから、問診での聞き取りがとても大切なんだ。

まとめ

癌の危険因子は、紫外線などの物理的因子、たばこ煙の発癌物質や六価クロムなどの化学的因子、HCVやHPVなどの生物学的因子に分けて整理すると覚えやすくなります。喫煙は喉頭癌の最大の危険因子ですが、発癌の本体はベンゾ[a]ピレンやたばこ特異的ニトロソアミンなどの発癌物質であり、ニコチンは依存性の原因物質です。そのため「喉頭癌―ニコチン」は誤りで、禁煙治療にニコチン置換療法が使えるのもこの区別に基づいています。六価クロムは職業性の肺癌や鼻腔・副鼻腔癌、鼻中隔穿孔の原因となり、HCVは肝細胞癌、高リスク型HPVは子宮頸癌の主要な原因です。危険因子を正確に理解することは、問診での職業歴・生活歴の聴取や、ワクチン・禁煙指導といった予防医学の実践に直結します。

解答・解説

正解はbです

代表的な癌と、その発生にかかわる危険因子(リスクファクター)の組み合わせを問う一般問題である。「誤っているのはどれか」を選ぶ形式なので、組み合わせとして成り立たないものを一つ選ぶ。 癌の危険因子は、大きく次のように分けて整理するとよい。 ・物理的因子: 紫外線、電離放射線など ・化学的因子: たばこ煙に含まれる発癌物質、職業上ばく露する化学物質(六価クロム、アスベスト、ベンジジンなど)、カビ毒のアフラトキシンなど ・生物学的因子: ウイルス(B型肝炎ウイルス〈HBV〉、C型肝炎ウイルス〈HCV〉、ヒトパピローマウイルス〈HPV〉、Epstein-Barrウイルス〈EBV〉、ヒトT細胞白血病ウイルス1型〈HTLV-1〉)、細菌(Helicobacter pylori)、寄生虫など 本問で注意すべきなのは「喫煙」と「ニコチン」の違いである。喫煙が多くの癌の危険因子であることは確かである。しかし、発癌の主体はたばこ煙に含まれる多数の発癌物質であり、依存性をもたらす物質であるニコチン自体ではない。組み合わせの細部まで正確に読むことが求められる。

選択肢考察

  1. ×a.  皮膚癌 ―― 紫外線

    正しい組み合わせである。紫外線(とくに中波長紫外線のUVB)は、皮膚の細胞のDNAにピリミジン二量体などの損傷を生じさせ、癌抑制遺伝子p53などに変異を起こす。長年にわたって日光を浴び続けることは、基底細胞癌、有棘細胞癌、日光角化症(有棘細胞癌の前癌病変)の危険因子であり、悪性黒色腫の発生にも関係する。紫外線によるDNA損傷を修復できない色素性乾皮症では、若いうちから皮膚癌が多発する。

  2. ○b.  喉頭癌 ―― ニコチン

    誤った組み合わせである。喫煙は喉頭癌の最大の危険因子であり、喉頭癌の患者の大多数に喫煙歴がある。しかし、発癌の原因となるのは、たばこ煙に含まれるベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素、たばこ特異的ニトロソアミン、ホルムアルデヒドなどの発癌物質である。ニコチンは依存(ニコチン依存症)をもたらす主な物質であり、血管を収縮させる作用もあるが、それ自体が発癌物質であるとは確立されていない。ニコチンパッチなどのニコチン置換療法が禁煙治療に使われているのも、この違いに基づいている。したがって、危険因子として「ニコチン」を挙げたこの組み合わせは誤りである。

  3. ×c.  肺癌 ―― 六価クロム

    正しい組み合わせである。六価クロム化合物は、クロムめっき、クロム酸塩の製造、顔料などを扱う作業でばく露する。国際がん研究機関(IARC)はヒトに対する発癌性がある物質(グループ1)に分類しており、職業がんとしての肺癌や、鼻腔・副鼻腔の癌の原因となる。また、強い刺激性と腐食性があるため、鼻中隔穿孔、皮膚の潰瘍(クロム潰瘍)、接触皮膚炎なども起こす。そのほかに肺癌の原因となる職業性の物質としては、アスベスト(石綿)、ヒ素、ニッケル、ビス(クロロメチル)エーテル、コールタール、ラドンなどが知られている。

  4. ×d.  肝癌 ―― C型肝炎ウイルス

    正しい組み合わせである。HCVに持続感染すると、慢性肝炎から肝硬変へと進み、肝細胞癌が発生しやすくなる。我が国の肝細胞癌は、かつてはその約9割がHBVまたはHCVの持続感染に関連し、とくにHCV関連が最も多かった。近年は、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によってHCVを高い確率で排除できるようになったこともあり、ウイルスに関連する肝癌の割合は減っている。その一方で、代謝異常(脂肪性肝疾患)やアルコールに関連する非B非C型の肝癌が増えている。そのほかの危険因子には、アルコール、アフラトキシン、糖尿病・肥満などがある。

  5. ×e.  子宮頸癌 ―― ヒトパピローマウイルス

    正しい組み合わせである。子宮頸癌のほとんどは、高リスク型HPV(とくに16型と18型)に持続感染することで生じる。HPVのE6蛋白はp53の分解を促し、E7蛋白はRB蛋白の働きを妨げる。その結果、細胞が異常に増殖し、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を経て浸潤癌へ進む。HPVは主に性交渉で感染する。予防策として、HPVワクチンの接種(一次予防)と子宮頸がん検診(二次予防)が行われている。

主な癌と危険因子

・肺癌: 喫煙(とくに扁平上皮癌と小細胞癌)、アスベスト(石綿)、六価クロム、ヒ素、ニッケル、ラドン、コールタールなど ・喉頭癌・口腔癌・咽頭癌: 喫煙、飲酒。中咽頭癌にはHPV(16型)が関与するものもある。 ・食道癌(扁平上皮癌): 喫煙、飲酒。アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の働きが弱い体質の人が飲酒するとリスクが高まる。熱い飲食物も危険因子である。 ・胃癌: Helicobacter pylori感染、塩分の多い食事、喫煙 ・肝細胞癌: HBV、HCV、アルコール、アフラトキシン、脂肪性肝疾患 ・膀胱癌: 喫煙、芳香族アミン(ベンジジン、β-ナフチルアミン)、ビルハルツ住血吸虫、シクロホスファミド ・悪性中皮腫: アスベスト ・子宮頸癌: 高リスク型HPV(16型、18型など) ・上咽頭癌、Burkitt リンパ腫: EBV ・成人T細胞白血病・リンパ腫: HTLV-1 ・皮膚癌: 紫外線、ヒ素、電離放射線 ・肝血管肉腫: 塩化ビニル(モノマー)、トロトラスト

たばこ煙に含まれる主な有害物質

・発癌物質: ベンゾ[a]ピレン、たばこ特異的ニトロソアミン(NNKなど)、ホルムアルデヒド、ベンゼンなど。これらは喫煙関連の癌の本体である。 ・ニコチン: 依存性の原因となる物質。交感神経を刺激し、血管を収縮させる。 ・一酸化炭素: ヘモグロビンと結合して、酸素を運ぶ能力を下げる。

POINT

・喫煙は喉頭癌の最大の危険因子であるが、発癌の本体はたばこ煙に含まれるベンゾ[a]ピレンなどの発癌物質である。ニコチンは依存性の原因物質である。 ・六価クロムは、職業がんとしての肺癌や鼻腔・副鼻腔の癌の原因となり、鼻中隔穿孔も起こす。 ・HCVとHBVは肝細胞癌、HPV(16・18型)は子宮頸癌、紫外線は皮膚癌の危険因子である。 ・危険因子は、物理的・化学的・生物学的因子に分けて整理するとよい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。