StudyMed医師国家試験

「いつ、どこから感染るか」で決まる対策―母子感染の病原体と正しい予防法

第104回医師国家試験 E問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第5問

母体感染の病原体と対応の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.B型肝炎ウイルス ―― 児へのワクチン投与
  2. b.パルボウイルスB19 ―― 人工妊娠中絶
  3. c.B群レンサ球菌〈GBS〉 ―― 母体へのセフェム系抗菌薬投与
  4. d.サイトメガロウイルス ―― 胎児輸血
  5. e.ヒトT細胞白血病ウイルス〈HTLV-1〉 ―― 帝王切開

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、母体が感染している病原体ごとに、児を守るためにどんな対応をとるかを問う問題だ。カギは感染経路。母子感染は、胎盤を通る経胎盤感染、分娩時の産道感染、母乳を介する経母乳感染の3つに分けて考えると、対応が自然に見えてくるよ。
医学生医学生
産婦人科の講義でTORCH症候群を習いましたが、経路ごとに整理したことはあまりなかったです。
ドクタードクター
TORCHは主に経胎盤感染のグループだね。今回はそこに産道感染や母乳感染も混ざっている。まずB型肝炎ウイルスから考えよう。主な感染経路はどれかな。
医学生医学生
分娩時の産道感染だと思います。だから生まれた直後に対処すれば間に合う、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。HBs抗原陽性の母親から生まれた児には、出生後できるだけ早く、12時間以内を目安に抗HBsヒト免疫グロブリンとHBワクチンを同時に投与する。グロブリンですぐに守り、ワクチンで自分の抗体を作らせる、受動免疫と能動免疫の組合せだ。その後、生後1か月と6か月にワクチンを追加する。だから児へのワクチン投与という組合せが正解になる。
医学生医学生
新生児科の実習で、生後すぐの赤ちゃんに注射しているのを見ました。あれがそうだったんですね。予防がうまくいったかはどう確認するんですか。
ドクタードクター
生後9〜12か月頃にHBs抗原とHBs抗体を調べて確認する。ただし、すでに子宮内で感染していた例は防げない点も知っておこう。次はパルボウイルスB19だ。
医学生医学生
伝染性紅斑の原因ですよね。胎児水腫を起こすと聞いたので、人工妊娠中絶も選択肢になるのかと思いました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。パルボウイルスB19は赤芽球系前駆細胞を傷害するので、胎児に感染すると高度の貧血から心不全、胎児水腫に至ることがある。でも多くの胎児は異常なく経過し、先天奇形の原因にもならない。だから中絶の根拠にはならない。超音波で胎児水腫や中大脳動脈血流速度の上昇をチェックし、高度の胎児貧血があれば子宮内胎児輸血を検討するんだ。
医学生医学生
胎児輸血はパルボウイルスB19の対応なんですね。じゃあサイトメガロウイルスと胎児輸血の組合せは違うということですか。
ドクタードクター
そう。先天性サイトメガロウイルス感染症の中心は、小頭症や脳室周囲石灰化、感音難聴、発達遅滞といった中枢神経や聴覚の障害だ。貧血を補正しても治療にならない。胎内での確立した治療は現時点ではなく、出生後の症候性児に抗ウイルス薬のバルガンシクロビルを使う。予防としては、上の子の唾液やおむつに触れた後の手洗いなど、妊婦への衛生指導が大切だ。
医学生医学生
B群レンサ球菌は母体に抗菌薬を投与するので、これも正しいように見えます。
ドクタードクター
母体に分娩時抗菌薬を投与するという方向性は正しい。妊娠後期におおむね35〜37週で腟入口部と肛門周囲の培養を行い、陽性なら陣痛開始や破水の時点からペニシリンGやアンピシリンを点滴静注する。ただ、第一選択はペニシリン系で、セフェム系のセファゾリンはペニシリンアレルギーがありアナフィラキシーのリスクが低い妊婦に使う代替薬という位置づけだ。標準的な対応として疑問の余地がないのは、B型肝炎ウイルスのほうになる。
医学生医学生
なるほど、薬の系統まで見ないといけないんですね。HTLV-1は帝王切開で防げそうな気もしますが。
ドクタードクター
HTLV-1は感染したリンパ球の中にいて、母子感染の大部分は母乳を介して起こる。産道感染の関与は小さいので、帝王切開では予防できない。予防の基本は授乳方法の選択で、完全人工栄養が最も確実だ。母乳を希望する場合は、生後90日未満に限った短期母乳や、凍結して感染リンパ球を壊した凍結解凍母乳という選択肢もある。
医学生医学生
経路が母乳なら授乳を工夫し、産道ならその場で防ぎ、胎盤なら胎児の病態に合わせて対応する。経路と対策がきれいに対応していますね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、帝王切開が予防として意味をもつのは、分娩時に性器ヘルペスの活動性病変がある場合や、ウイルス量が十分に抑えられていないHIV感染などだ。風疹は妊婦に生ワクチンが打てないので、妊娠前の接種が重要になる。妊婦健診で感染症のスクリーニング結果を見たら、どの経路が問題でいつ何をすべきかを即座に結び付けられるようにしておこう。

まとめ

母子感染は、経胎盤感染・産道感染・経母乳感染の3経路に分けると、病原体ごとの対応が整理できます。B型肝炎ウイルスは主に産道感染のため、出生後できるだけ早く児に抗HBsヒト免疫グロブリンとHBワクチンを投与し、生後1か月と6か月にワクチンを追加することで多くの感染を防げます。パルボウイルスB19は胎児貧血・胎児水腫に対して胎児輸血を検討する病原体で中絶の適応ではなく、サイトメガロウイルスには胎児輸血の有効性はなく、HTLV-1は母乳感染が主体のため帝王切開ではなく授乳方法の選択で予防します。B群レンサ球菌では分娩時に母体へペニシリン系抗菌薬を投与するのが第一選択で、セフェム系は代替薬です。感染経路と予防策を結び付けて理解することは、妊婦健診の結果を実際の周産期管理に生かすための基本になります。

解答・解説

正解はaです

母子感染(垂直感染)は、病原体ごとに「いつ・どの経路で」児へ移るかが異なり、それに応じて予防・治療の手段も異なる。本問は、病原体と実際に行われる対応を正しく結び付けられるかを問うている。 感染経路は大きく3つに分けて考えると整理しやすい。 ・経胎盤感染(子宮内感染): パルボウイルスB19、サイトメガロウイルス(CMV)、風疹ウイルス、トキソプラズマ、梅毒など ・産道感染(分娩時感染): B型肝炎ウイルス(HBV)、B群レンサ球菌(GBS)、単純ヘルペスウイルス、クラミジアなど ・経母乳感染: ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)など 経路が分かれば対応も見えてくる。分娩時に感染が成立するHBVでは、出生直後の児に抗体とワクチンを与えることで感染の成立を防げる。GBSは分娩中の母体に抗菌薬を投与して児への移行を抑える。母乳が主経路のHTLV-1では授乳方法の工夫が中心となり、分娩様式を変えても意味がない。経胎盤感染では胎児の病態に合わせた対応となり、胎児貧血を来すパルボウイルスB19では胎児輸血が選択肢になる。 この枠組みで各組合せを検討すると、HBVと児へのワクチン投与の組合せだけが標準的な対応として成り立つ。

選択肢考察

  1. ○a.  B型肝炎ウイルス ―― 児へのワクチン投与

    HBVの母子感染は主に分娩時の産道感染で起こるため、出生直後からの免疫学的予防が非常に有効である。HBs抗原陽性の母親から生まれた児には、受動免疫として抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を、能動免疫としてHBワクチン(不活化ワクチン)を投与する。現在の国内の方式では、出生後できるだけ早く(12時間以内が目安)HBIGとHBワクチンを同時に投与し、さらに生後1か月と6か月にワクチンを追加する。生後9〜12か月頃にHBs抗原とHBs抗体を調べ、予防の成否を確認する。母体がHBe抗原陽性(ウイルス量が多い)の場合、予防しなければ児の大半がキャリアとなるが、この処置により感染の多くを防げる。ただし、すでに子宮内で感染していた場合は防げない。

  2. ×b.  パルボウイルスB19 ―― 人工妊娠中絶

    パルボウイルスB19は、伝染性紅斑(りんご病)の原因ウイルスである。赤血球のもとになる赤芽球系前駆細胞に感染してこれを傷害する。妊婦が初めて感染すると経胎盤的に胎児へ移ることがあり、胎児では高度の貧血から心不全となり、非免疫性胎児水腫や胎児死亡を来しうる。ただし、胎児感染が起きても多くの胎児は異常なく経過し、先天奇形の原因にもならない。そのため、感染を理由に人工妊娠中絶を行う根拠はない。超音波検査で胎児水腫の出現や中大脳動脈血流速度の上昇(胎児貧血の指標)がないかを経過観察し、高度の胎児貧血があれば子宮内胎児輸血を検討する。

  3. ×c.  B群レンサ球菌〈GBS〉 ―― 母体へのセフェム系抗菌薬投与

    GBS(Streptococcus agalactiae)は腟や直腸に常在していることがあり、分娩時に児へ移ると新生児敗血症や髄膜炎、肺炎を起こし、死亡や神経学的後遺症の原因となる。妊娠後期(おおむね35〜37週)に腟入口部と肛門周囲の培養でスクリーニングを行う。陽性の妊婦や、前の子がGBS感染症であった妊婦には、分娩(陣痛開始または破水)の時点から母体にペニシリン系抗菌薬(ペニシリンGまたはアンピシリン)を点滴静注する。第一選択はペニシリン系であり、セフェム系のセファゾリンはペニシリンアレルギーがある妊婦のうち、アナフィラキシーの危険が低い場合の代替薬という位置付けである。したがって、GBSへの標準的な対応を示す組合せとしてはaに劣り、本問の正解とはならない。

  4. ×d.  サイトメガロウイルス ―― 胎児輸血

    CMVの胎内感染(先天性CMV感染症)では、胎児発育不全・低出生体重、小頭症、脳室周囲石灰化、脳室拡大、肝脾腫、黄疸、血小板減少による点状出血、網脈絡膜炎などを来す。後遺症として感音難聴や発達遅滞が問題となる。胎児水腫を伴うこともあるが、病態の中心は中枢神経や聴覚の障害であり、胎児貧血を補正する胎児輸血は治療として確立していない。胎内治療として有効性が確立した方法は現時点でなく、出生後の症候性児では抗ウイルス薬(バルガンシクロビル)による治療が行われ、聴力や発達の予後改善が期待される。予防としては、妊婦が乳幼児の唾液や尿に接触した後の手洗いなど、衛生指導が重要である。

  5. ×e.  ヒトT細胞白血病ウイルス〈HTLV-1〉 ―― 帝王切開

    HTLV-1は、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)の原因ウイルスである。ウイルスは感染したリンパ球の中に存在し、母子感染の大部分は母乳に含まれる感染リンパ球を介して起こる。産道感染の関与は小さいため、帝王切開を行っても母子感染は予防できない。予防の基本は授乳方法の選択であり、完全人工栄養が最も確実とされる。母乳を希望する場合の選択肢として、短期間(生後90日未満)に限った母乳栄養や、凍結して解凍した母乳(凍結によって感染リンパ球が壊れる)の利用がある。なお、予防的帝王切開が母子感染予防として意味をもつのは、分娩時に性器ヘルペスの活動性病変がある場合や、HIV感染症などである。

主な母子感染と対応の整理

・HBV: 主に産道感染。出生直後にHBIGとHBワクチン、以後HBワクチンを追加する。予防処置を行えば母乳栄養は可能である。 ・C型肝炎ウイルス(HCV): 感染率は数%で、確立した予防法はない。母乳栄養は原則として可能である。 ・HIV: 経胎盤・産道・母乳のすべてで感染しうる。妊娠中からの抗HIV薬投与、予定帝王切開(ウイルス量が十分に抑えられていない場合など)、新生児への抗HIV薬投与、人工栄養を組み合わせる。 ・HTLV-1: 主に母乳感染。完全人工栄養、短期母乳、凍結解凍母乳から選ぶ。 ・GBS: 産道感染。妊娠後期に培養でスクリーニングし、陽性なら分娩時に母体へペニシリン系抗菌薬を静注する。 ・単純ヘルペスウイルス: 産道感染。分娩時に性器に活動性の病変があれば帝王切開とする。 ・パルボウイルスB19: 経胎盤感染。胎児貧血から胎児水腫を来しうる。超音波で経過観察し、必要に応じて胎児輸血を行う。 ・CMV: 経胎盤感染が問題となる。先天性CMV感染症の症候性児に抗ウイルス薬を用いる。妊婦への衛生指導で予防する。 ・風疹: 経胎盤感染(妊娠初期ほど危険が高い)で先天性風疹症候群(白内障、心疾患、難聴)を来す。妊婦には生ワクチンを接種できないため、妊娠前に接種しておく。

HBV母子感染予防の変遷

かつて国内では、HBe抗原陽性の母から生まれた児を中心に、出生時と生後2か月にHBIG、生後2・3・5か月にHBワクチンという方式がとられていた。この方式は手順が煩雑で接種漏れが多かったため、2013年に国際的な方式に準じた現在のスケジュールへ変更された。現在は、出生直後のHBIGとワクチン、生後1か月と6か月のワクチン追加である。また2016年からは、すべての乳児がHBワクチンの定期接種の対象となっている。

POINT

・母子感染は経路(経胎盤・産道・経母乳)で分類し、経路に合った予防法を選ぶ。 ・HBV: 出生直後に児へHBIGとHBワクチンを投与し、生後1か月と6か月にワクチンを追加する。 ・GBS: 分娩時に母体へペニシリン系抗菌薬を静注する(第一選択はセフェム系ではない)。 ・パルボウイルスB19: 胎児貧血や胎児水腫には胎児輸血で対応し、人工妊娠中絶の適応ではない。 ・CMV: 胎児輸血は治療にならない。症候性の先天性感染児に抗ウイルス薬を用いる。 ・HTLV-1: 母乳が主な感染経路であり、授乳方法の選択で予防する。帝王切開は無効である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。