StudyMed医師国家試験

右足だけが動かない―運動ホムンクルスと前大脳動脈で読む3D-CTA

第111回医師国家試験 E問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第111回 E問題 第24問

頭部の三次元CT血管撮影像〈3D-CTA〉を別に示す。  血流障害が生じると右下肢に限局する運動麻痺が生じる可能性が最も高いのはどれか。

第111回 E問題 第24問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳血管の立体画像を見て「どの血管が詰まると右下肢だけが麻痺するか」を答える問題だ。考えるべきことは2つ。麻痺の側と、運動野のどこに下肢の領域があるか。この2つがわかれば、血管の名前を当てるだけになるよ。
医学生医学生
まず血管の見分けからですね。正直、3D-CTAは見慣れなくて、どれがどれだか迷います。
ドクタードクター
最初はみんなそうだね。画像では左右の内頸動脈が頭蓋内で終わる部分から、内側つまり正中寄りへ伸びる枝と、外側へ大きく広がる枝に分かれている。内側へ向かうのが前大脳動脈、外側へ向かうのが中大脳動脈。そして後方の正中を縦に上がってくる1本が、左右の椎骨動脈が合流した脳底動脈だ。
医学生医学生
Willis動脈輪の図を解剖学の講義で何度も描かされましたが、立体だと印象が違いますね。では右下肢の麻痺だから、右側の血管を探せばいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこがひとつめの落とし穴だ。錐体路はどこで交叉するんだったかな。
医学生医学生
あ、延髄下端の錐体交叉です。大脳の病変なら反対側に麻痺が出るので、右下肢の麻痺なら左半球が責任病変ですね。
ドクタードクター
その通り。これで左の前大脳動脈か左の中大脳動脈に絞れる。次に、運動野のどこに下肢の領域があるかだ。Penfieldの運動ホムンクルスを思い出してごらん。
医学生医学生
中心前回で、大脳縦裂に面した内側に足があって、外側へ行くほど体幹、上肢、手、顔と並んでいた気がします。
ドクタードクター
完璧だね。下肢の領域は半球の内側面、中心傍小葉にある。そして内側面を灌流するのが、大脳縦裂に沿って走る前大脳動脈なんだ。だから答えは左前大脳動脈。左前大脳動脈の血流障害なら、右下肢優位、場合によっては右下肢に限局した麻痺が生じうる。
医学生医学生
なるほど。でも中大脳動脈は灌流域が広いので、下肢も含まれそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
よくある誤解だね。中大脳動脈の皮質枝が担うのは半球外側面で、運動野でいえば顔面や手・上肢の領域だ。だから皮質枝の障害では顔面・上肢優位の麻痺になる。一方、根元から出る穿通枝のレンズ核線条体動脈が詰まると、内包で錐体路がまとまって傷むので上下肢の片麻痺になる。どちらにしても下肢だけ、とはなりにくい。左側なら失語を伴うことも多いね。
医学生医学生
右の前大脳動脈は、パターンは同じでも麻痺が左下肢に出るから違う、ということですね。
ドクタードクター
そう。右の中大脳動脈も、側も分布も合わない。劣位半球なら左半側空間無視や病態失認が目立つことがある。では脳底動脈はどうだろう。
医学生医学生
脳幹梗塞だと、脳神経麻痺と反対側の片麻痺が組み合わさる交代性片麻痺になると習いました。
ドクタードクター
いいね。Weber症候群やMillard-Gubler症候群がその代表だ。脳幹では錐体路が狭い範囲に密集しているから、片側の下肢だけが麻痺するのは考えにくい。広範に詰まれば四肢麻痺や閉じ込め症候群にもなりうる。
医学生医学生
側性は錐体交叉で決めて、分布はホムンクルスと灌流域で決める、という2段階ですね。
ドクタードクター
その通り。臨床的なポイントも押さえておこう。前大脳動脈領域の梗塞では、下肢の麻痺に加えて尿失禁、意欲低下、把握反射、さらに脳梁障害による左手の失行のような離断症状を伴うことがある。
医学生医学生
脳神経内科の実習で、足が動きにくいという訴えだけで来た患者さんに、最初は腰椎疾患を疑われていたケースがありました。
ドクタードクター
まさに臨床でありがちな落とし穴だ。下肢だけの麻痺だと脊髄や末梢神経の病気と思われやすいけれど、急に起きた片側下肢の麻痺で、尿失禁や自発性の低下を伴うなら前大脳動脈領域の梗塞を必ず鑑別に挙げたい。感覚野の中心後回にも同じ配列があるから、下肢の感覚障害も伴いやすいよ。

まとめ

錐体路は延髄の錐体交叉で反対側へ移るため、右下肢の麻痺は左大脳半球の病変を示唆します。一次運動野では下肢の領域が大脳縦裂に面した半球内側面にあり、この部位を灌流するのは前大脳動脈なので、右下肢に限局する麻痺の責任血管は左前大脳動脈と考えられます。中大脳動脈の皮質枝の障害では反対側の顔面・上肢優位の麻痺、穿通枝の障害では片麻痺となり、脳底動脈の障害では交代性片麻痺や小脳症状など多彩な症状を呈します。前大脳動脈領域の梗塞では尿失禁、無為、把握反射、脳梁離断症状を伴うこともあり、下肢単麻痺を脊椎疾患と誤らないための知識として重要です。「側性は交叉、分布は体部位局在と灌流域」という考え方は、脳卒中の局在診断全般の基本になります。

解答・解説

正解はbです

画像の読み取り

提示された3D-CTA(造影CTで得た血管像を立体的に再構成したもの)では、内頸動脈の終末部から内側へ向かう前大脳動脈と、外側へ向かう中大脳動脈、さらに後方正中を上行する脳底動脈が描出されている。番号と血管を対応させると、正中後方を縦に上行する⑤が脳底動脈、左右の内頸動脈終末から内側(正中寄り)へ伸びる②と③がそれぞれ左・右の前大脳動脈、外側へ伸びる①と④がそれぞれ左・右の中大脳動脈となる。

考え方

本問は「右下肢に限局する運動麻痺」をきたす責任血管を問うている。ポイントは次の2つである。 1. 側性:錐体路(皮質脊髄路)は延髄下端の錐体交叉で反対側へ移るため、大脳半球の病変では反対側の運動麻痺が生じる。右下肢の麻痺であれば、責任病変は左大脳半球にある。 2. 体部位局在:一次運動野(前頭葉の中心前回、Brodmannの4野)には体の部位ごとの支配領域が規則正しく並んでいる(Penfieldの運動ホムンクルス)。大脳縦裂に面した半球内側面には下肢(足・下腿・大腿)や会陰部が、そこから外側へ向かって体幹、上肢、手指、顔面、舌・咽頭の順に配列している。 半球内側面を灌流するのは前大脳動脈であり、前大脳動脈領域の梗塞では反対側の下肢優位(ときに下肢に限局)の運動麻痺・感覚障害が生じる。一方、半球外側面を灌流する中大脳動脈の障害では、反対側の顔面・上肢優位の麻痺となる。 したがって、右下肢に限局する運動麻痺の原因として最も考えやすいのは、左前大脳動脈(②)の血流障害である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①は左中大脳動脈である。中大脳動脈は内頸動脈から外側へ向かい、シルビウス裂内を走行して島、前頭葉・頭頂葉・側頭葉の外側面など大脳半球外側面の広い範囲を灌流する。一次運動野のうち顔面・手・上肢を支配する部位は中大脳動脈の灌流域にあるため、左中大脳動脈の皮質枝の障害では右の顔面・上肢優位の麻痺が生じる。また、水平部(M1)から分岐する穿通枝のレンズ核線条体動脈は内包などを灌流し、ここが障害されると錐体路がまとまって障害されるため右上下肢の片麻痺となる。いずれにしても下肢に限局する麻痺にはなりにくい。優位半球(通常は左)であれば失語を伴うことも多い。

  2. ○b.  ②

    ②は左前大脳動脈である。前大脳動脈は内頸動脈から内側へ向かい、大脳縦裂に沿って走行し、前頭葉・頭頂葉の内側面、脳梁、帯状回などを灌流する。一次運動野のうち下肢・足を支配する部位は半球内側面(中心傍小葉)にあり、前大脳動脈の灌流域に含まれる。そのため左前大脳動脈の血流障害では、反対側である右下肢に優位な、あるいは右下肢に限局する運動麻痺が生じうる。前大脳動脈領域の梗塞ではこのほか、尿失禁、意欲低下(無為)、把握反射、脳梁障害による離断症状などを伴うことがある。

  3. ×c.  ③

    ③は右前大脳動脈である。前大脳動脈の障害で下肢優位の麻痺が生じる点は②と同じであるが、錐体路は延髄で交叉するため、右半球の病変で生じるのは反対側である左下肢の麻痺である。右下肢の麻痺の原因とはならない。

  4. ×d.  ④

    ④は右中大脳動脈である。右大脳半球の病変であるため麻痺は左側に生じ、しかも中大脳動脈の障害では顔面・上肢優位の麻痺、あるいは穿通枝障害による上下肢の片麻痺となる。右下肢に限局する麻痺とは側性・分布のいずれも合わない。右(通常は劣位)半球の中大脳動脈領域の梗塞では、左半側空間無視や病態失認を伴うことがある。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤は脳底動脈である。左右の椎骨動脈が合流してでき、橋の前面を上行して前下小脳動脈・上小脳動脈・後大脳動脈や多数の穿通枝を分岐し、脳幹・小脳・後頭葉・視床などを灌流する。その障害では、小脳症状(失調、眼振、構音障害)、後頭葉の障害による視野障害、脳幹の障害による脳神経麻痺と対側片麻痺の組み合わせ(交代性片麻痺。Weber症候群、Millard-Gubler症候群など)、脳底動脈先端部症候群(垂直注視麻痺、意識障害など)、さらに閉塞範囲が広ければ四肢麻痺や閉じ込め症候群など多彩な症状を呈する。脳幹では錐体路が密集して走行するため、片側の下肢だけに限局した麻痺は生じにくい。

大脳の主要動脈と灌流域・症状

・前大脳動脈(ACA):前頭葉・頭頂葉の内側面、脳梁の前方約4/5、帯状回。障害で対側の下肢優位の運動麻痺・感覚障害、尿失禁、無為、把握反射、脳梁離断症状(左手の失行など)。Heubner反回動脈(内側線条体動脈)という穿通枝を分岐し、尾状核頭部や内包前脚を灌流する。 ・中大脳動脈(MCA):前頭葉・頭頂葉・側頭葉の外側面、島。穿通枝のレンズ核線条体動脈が被殻・内包などを灌流する。障害で対側の顔面・上肢優位の片麻痺と感覚障害、同名半盲。優位半球では失語、劣位半球では半側空間無視・病態失認。 ・後大脳動脈(PCA):後頭葉、側頭葉内側下面、視床。障害で対側の同名半盲(黄斑回避を伴うことがある)、視床症状。 ・脳底動脈・椎骨動脈:脳幹、小脳。交代性片麻痺、小脳失調、眼球運動障害、意識障害など。

運動野の体部位局在(運動ホムンクルス)

中心前回では、半球内側面(大脳縦裂側)から外側(シルビウス裂側)へ向かって、会陰部・足・下肢、体幹、肩・上肢、手・手指、顔面、舌・咽頭の順に支配領域が並ぶ。手や顔面・舌の領域は細かな運動を担うため広い面積を占める。感覚野(中心後回)にも同様の配列がある。

錐体路と麻痺の側性

一次運動野から出た線維は放線冠、内包後脚、大脳脚、橋底部、延髄錐体を下行し、延髄下端の錐体交叉で大部分が反対側へ移って脊髄側索を下行する。そのため、交叉より上位(大脳・脳幹)の病変では反対側の麻痺が生じる。

POINT

・錐体路は延髄で交叉するため、大脳半球の病変は反対側の麻痺を起こす。 ・運動野の下肢領域は半球内側面にあり、前大脳動脈が灌流する。 ・前大脳動脈閉塞:対側の下肢優位の麻痺(尿失禁、無為なども)。 ・中大脳動脈閉塞:対側の顔面・上肢優位の麻痺(優位半球なら失語)。 ・3D-CTAでは、内頸動脈終末から内側に向かうのが前大脳動脈、外側に向かうのが中大脳動脈、正中を上行するのが脳底動脈である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。