来ない初経と低い背丈―Turner症候群のホルモン補充はなぜ「併用」なのか
第111回医師国家試験 D問題 第24問
国試問題にチャレンジ
18歳の女子。これまでに一度も月経がないことを主訴に来院した。身長144cm,体重48kg。脈拍84/分,整。血圧110/76mmHg。首の両側の皮膚が広く,余っているように見える。上肢は肘から遠位が外反している。外陰は女性型。腹部超音波検査で子宮は小さく卵巣は確認できない。乳房はTannerⅠ度。陰毛はTannerⅡ度。血液生化学所見:LH 34mIU/mL(基準1.8~7.6),FSH 39mIU/mL(基準5.2~14.4),エストラジオール10pg/mL(基準25~75)。心エコー検査で大動脈基部に拡大を認めない。 適切な治療はどれか。
- a.エストロゲン・プロゲスチン療法
- b.ゴナドトロピン療法
- c.プロゲスチン療法
- d.クロミフェン療法
- e.エストロゲン療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
低身長・翼状頸・外反肘を伴う原発性無月経で、LH・FSH高値かつエストラジオール低値を示す場合は、索状性腺による高ゴナドトロピン性性腺機能低下症としてTurner症候群を考え、染色体検査で確定します。卵巣が機能しないため、ゴナドトロピン療法やクロミフェンなど卵巣の反応を前提とする治療は無効で、内膜が育っていないためプロゲスチン単独でも消退出血は起こりません。治療の中心はエストロゲン補充ですが、子宮がある場合は単独投与を続けると子宮内膜増殖症・子宮内膜癌のリスクが高まるため、プロゲスチンを周期的に併用するKaufmann療法が適切です。実際には少量のエストロゲン単独から始め、乳房発育が進んだ段階でプロゲスチンを追加し、閉経年齢ごろまで継続して骨や心血管を守ります。大動脈二尖弁や大動脈基部拡大など合併症の長期管理も含め、ホルモンのフィードバックと補充の原則を理解することは、無月経診療全体の土台になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・18歳になっても一度も月経がない:原発性無月経(満18歳を過ぎても初経が来ないもの)。 ・身長144cm:成人女性として明らかな低身長。 ・首の両側の皮膚が広く余っている:翼状頸。 ・肘から遠位が外反している:外反肘。 ・乳房Tanner I度(乳房発育なし):エストロゲン作用の欠如。陰毛はTanner II度で、副腎由来のアンドロゲンによるわずかな発育はみられる。 ・外陰は女性型、子宮は小さく卵巣は確認できない:卵巣が索状性腺(線維組織に置き換わった痕跡的な性腺)になっている可能性が高い。 ・LH 34mIU/mL、FSH 39mIU/mLと高値、エストラジオール10pg/mLと低値:卵巣自体が働かないため、下垂体からのゴナドトロピン分泌が負のフィードバックを受けずに増加している(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症、原発性卵巣機能不全)。 ・心エコーで大動脈基部の拡大はない。
診断
低身長、翼状頸、外反肘という特徴的な身体所見と、索状性腺による高ゴナドトロピン性性腺機能低下症を伴う原発性無月経から、Turner症候群が最も考えられる。確定診断には染色体検査(Gバンド法による核型分析)を行い、45,Xやモザイク(45,X/46,XXなど)、X染色体の構造異常を確認する。Turner症候群では大動脈二尖弁、大動脈縮窄症、大動脈基部拡大などの心血管異常が多く、大動脈解離の危険があるため心エコーで評価する。本例ではその拡大がないことが確認されている。
治療の考え方
卵巣が機能していないため、エストロゲンを外から補充する必要がある。目的は、乳房などの二次性徴の発現、子宮の発育、骨量の獲得(骨粗鬆症予防)、そして脂質代謝や心血管系の保護である。ただし子宮があるのでエストロゲンだけを長期に投与し続けると、子宮内膜が増殖し続けて子宮内膜増殖症・子宮内膜癌のリスクが上がる。そこでプロゲスチン(黄体ホルモン製剤)を周期的に併用し、内膜を分泌期に変化させて消退出血(月経様出血)を起こさせる。これがエストロゲン・プロゲスチン療法(Kaufmann療法)であり、本例に適切な治療となる。 なお実際には、乳房発育が未熟な患者では、まず少量のエストロゲン単独から開始して数年かけて増量し、乳房発育が進んだ段階や破綻出血が起こった時点でプロゲスチンを追加して周期的投与(Kaufmann療法)へ移行するのが一般的である。最終的に維持すべき治療としてはエストロゲンとプロゲスチンの併用が必要である。
選択肢考察
- ○a. エストロゲン・プロゲスチン療法
Kaufmann療法とも呼ばれ、エストロゲンを投与しつつ周期の後半にプロゲスチンを加え、休薬で消退出血を起こさせる方法である。卵巣機能のないTurner症候群では、エストロゲン補充によって乳房発育などの二次性徴、子宮の発育、骨量の維持を図り、プロゲスチンの併用によって子宮内膜の過剰な増殖(子宮内膜増殖症・子宮内膜癌)を防ぐ。子宮をもつ本例では、長期的に続けるホルモン補充療法としてこの併用療法が適切である。
- ×b. ゴナドトロピン療法
ゴナドトロピン療法(hMG-hCG療法、FSH製剤など)は、卵巣は正常だが視床下部・下垂体からのゴナドトロピン分泌が不足している低ゴナドトロピン性性腺機能低下症で、卵胞発育・排卵を促すために用いる。本例は卵巣が索状性腺で卵胞がほぼ存在せず、内因性のLH・FSHがすでに高値であるにもかかわらずエストロゲンが出ていない。ゴナドトロピンをさらに投与しても卵巣は反応しないため無効である。
- ×c. プロゲスチン療法
プロゲスチン単独投与は、ある程度エストロゲンが分泌されていて子宮内膜が増殖している第1度無月経で、消退出血を起こさせる目的に用いられる。また、プロゲスチン投与で出血が起こるかどうかを見るプロゲステロン(ゲスターゲン)テストは、第1度無月経と第2度無月経を区別する検査である。本例はエストラジオールが低値で内膜が増殖していないため、プロゲスチンだけを投与しても消退出血は起こらず、二次性徴の発現や骨量の維持にも役立たない。
- ×d. クロミフェン療法
クロミフェンは視床下部のエストロゲン受容体に結合して、エストロゲンによる負のフィードバックを遮断し、GnRH・ゴナドトロピンの分泌を増やして排卵を促す排卵誘発薬である。視床下部-下垂体-卵巣系が働いており、ある程度エストロゲンが分泌されている第1度無月経や多嚢胞性卵巣症候群などの排卵障害に有効である。本例は卵巣自体が機能しておらず、ゴナドトロピンもすでに高値であるため効果はない。
- ×e. エストロゲン療法
エストロゲン補充は本例の治療の中心であり、乳房発育が乏しい段階では少量のエストロゲン単独から開始することもある。しかし子宮のある女性にエストロゲンだけを長期間投与し続けると、子宮内膜が増殖し続けて不正出血や子宮内膜増殖症・子宮内膜癌のリスクが高まる。また周期的な消退出血も得られない。したがって継続的な治療としては、プロゲスチンを併用する方法が適切であり、エストロゲン単独療法は選ぶべき答えにならない。
Turner症候群の概要
・X染色体の一本の全部または一部の欠失による疾患で、核型は45,Xが約半数、残りは45,X/46,XXなどのモザイクやX染色体の構造異常(同腕染色体など)である。女児出生約2,000〜2,500人に1人の頻度。 ・主な症状:低身長(ほぼ必発)、性腺形成不全(索状性腺)による原発性無月経・二次性徴欠如・不妊、翼状頸、外反肘、楯状胸、後頭部毛髪線低位、第4中手骨短縮、多発性色素性母斑、新生児期の手足のリンパ浮腫。 ・合併症:大動脈二尖弁、大動脈縮窄症、大動脈基部拡大・大動脈解離、馬蹄腎などの腎奇形、甲状腺機能低下症(橋本病)、耐糖能異常、難聴(中耳炎反復)、骨粗鬆症。 ・知能は通常正常範囲である。 ・Y染色体成分を含むモザイクでは性腺芽腫の発生リスクがあり、予防的性腺摘出が勧められる。
治療
・低身長:骨端線閉鎖前であれば成長ホルモン療法を行う。 ・性腺機能低下:思春期年齢(おおむね12歳前後)から少量のエストロゲンで開始して徐々に増量し、乳房発育や破綻出血がみられた段階でプロゲスチンを追加しKaufmann療法へ移行する。成人後も閉経年齢まで継続して骨粗鬆症や心血管疾患を予防する。 ・妊娠を希望する場合は、提供卵子を用いた体外受精などが選択肢となるが、妊娠中の大動脈解離のリスクが高いため心血管評価が重要である。
無月経の分類と治療
・第1度無月経:プロゲスチン投与で消退出血が起こる(エストロゲンはある程度分泌されている)。排卵誘発にはクロミフェン、月経周期の回復にはプロゲスチン療法(Holmstrom療法)。 ・第2度無月経:プロゲスチン単独では出血せず、エストロゲン・プロゲスチン併用で初めて出血する。Kaufmann療法の適応。 ・高ゴナドトロピン性(卵巣性):Turner症候群、早発卵巣不全など。ゴナドトロピン療法やクロミフェンは無効。 ・低ゴナドトロピン性(視床下部性・下垂体性):Kallmann症候群、Sheehan症候群など。挙児希望時にはゴナドトロピン療法が適応となる。
Noonan症候群との鑑別
Noonan症候群は翼状頸、低身長などTurner症候群に似た外見を示すが、染色体核型は正常(RAS/MAPK経路の遺伝子変異による)で、男女ともに発症する。心疾患としては肺動脈弁狭窄や肥大型心筋症が多い。女性では卵巣機能は通常保たれる。
POINT
・低身長+翼状頸+外反肘+原発性無月経+高ゴナドトロピン・低エストロゲン → Turner症候群。確定は染色体検査。 ・索状性腺のため、ゴナドトロピン療法やクロミフェンは無効。 ・子宮がある女性へのエストロゲン補充はプロゲスチン併用(Kaufmann療法)とし、子宮内膜増殖症・子宮内膜癌を防ぐ。 ・乳房発育前は少量エストロゲン単独で開始し、のちにプロゲスチンを追加するのが実際の手順。 ・心血管合併症(大動脈二尖弁、大動脈縮窄、大動脈基部拡大・解離)の評価を行う。
