StudyMed医師国家試験

背中から針は何を貫くか―腰椎穿刺を「背側から腹側へ」の解剖で解く

第111回医師国家試験 C問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第111回 C問題 第9問

腰椎穿刺において穿刺針がくも膜下腔に達するまでに通過する組織の順で正しいのはどれか。

  1. a.後縦靱帯 → 棘上靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜
  2. b.棘上靱帯 → 棘間靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜
  3. c.棘上靱帯 → 棘間靱帯 → 前縦靱帯 → 硬膜
  4. d.後縦靱帯 → 棘間靱帯 → 前縦靱帯 → 硬膜
  5. e.前縦靱帯 → 棘上靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腰椎穿刺で針がどの組織を通ってくも膜下腔に達するかという、解剖の問題だ。コツは、脊柱の靱帯を背中側からお腹側へ順番に並べてみること。針は背中から正中を進むから、その並びをなぞれば答えが出るんだ。まず、脊柱にはどんな靱帯があったかな。
医学生医学生
解剖学実習で、棘上靱帯、棘間靱帯、黄色靱帯、それと前縦靱帯と後縦靱帯を習いました。名前は覚えているんですが、位置関係があいまいです。
ドクタードクター
では順番に整理しよう。棘上靱帯は棘突起の先端どうしを結ぶ靱帯で、皮下のすぐ深くにある。棘間靱帯は上下の棘突起の間を埋める膜状の靱帯。黄色靱帯は隣り合う椎弓の間を結んでいて、脊柱管の後ろの壁になっている。
医学生医学生
ということは、背中から刺すと棘上靱帯、棘間靱帯、黄色靱帯の順に通るわけですね。
ドクタードクター
その通り。黄色靱帯の奥は脊柱管で、そこに硬膜囊が収まっている。では、前縦靱帯と後縦靱帯はどこにあると思う?
医学生医学生
縦靱帯というくらいなので、脊柱に沿って縦に走っているんですよね。後縦靱帯は「後」とつくので、針が途中で通りそうな気もします。
ドクタードクター
そこがひっかけポイントだね。「後」とついていても、後縦靱帯は椎体と椎間板の後面に張り付いていて、脊柱管の前の壁をつくっている。つまり、硬膜囊よりさらにお腹側なんだ。前縦靱帯は椎体の前面にあって、脊柱の最も腹側にある。
医学生医学生
なるほど、どちらも椎体にくっついている靱帯だから、くも膜下腔より奥にあって針は届かないんですね。
ドクタードクター
そう。背側から並べると、棘上靱帯、棘間靱帯、黄色靱帯、脊柱管、後縦靱帯、椎体、前縦靱帯となる。だから正解は、棘上靱帯から棘間靱帯、黄色靱帯を経て硬膜に至る順番だ。縦靱帯を含む選択肢は、くも膜下腔より手前に縦靱帯を置いている時点で誤りと判断できる。
医学生医学生
硬膜の手前に硬膜外腔があって、硬膜とくも膜を貫くとくも膜下腔、という流れでよいですか。
ドクタードクター
完璧だ。硬膜外腔には脂肪組織や静脈叢がある。そして実際の手技で大事なのが黄色靱帯の手応えだ。弾性線維に富んで厚いので抵抗が強く、抜けた瞬間にふっと抵抗が消える感覚がある。
医学生医学生
麻酔科の実習で硬膜外麻酔を見学したとき、先生が抵抗消失法と言っていたのはそれですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。硬膜外麻酔では黄色靱帯を抜けた直後の硬膜外腔で針を止める。一方、腰椎穿刺や脊髄くも膜下麻酔ではさらに硬膜とくも膜を貫き、脳脊髄液が流れてくるのを確認する。同じ経路でも、止める深さが違うんだ。
医学生医学生
穿刺する高さはL3/4かL4/5でしたよね。OSCEの練習で、左右の腸骨稜を結ぶJacoby線を目安にすると教わりました。
ドクタードクター
そう。成人の脊髄下端はおおむねL1〜L2の高さにあって、それより下は馬尾が脳脊髄液の中に浮かんでいるだけだから、脊髄を傷つける危険が少ない。Jacoby線はおおむねL4棘突起からL4/5椎間の高さを通る。体位は側臥位で膝を抱えて背中を丸め、棘突起の間を開くようにするんだ。
医学生医学生
穿刺の前に確認すべきことはありますか。
ドクタードクター
大切なのは頭蓋内圧亢進、特に占拠性病変の可能性だ。その状態で髄液を抜くと脳ヘルニアを起こす危険があるから、疑わしいときは事前に頭部CTなどで評価する。それから、今回出てきた靱帯は病気とも結びついている。黄色靱帯の肥厚は腰部脊柱管狭窄症の、後縦靱帯の骨化は脊髄を圧迫する後縦靱帯骨化症の原因になる。解剖の位置関係が分かっていれば、こうした病態も理解しやすくなるよ。

まとめ

腰椎穿刺では、針は背側から正中を進み、皮膚・皮下組織、棘上靱帯、棘間靱帯、黄色靱帯、硬膜外腔、硬膜、くも膜を順に貫いてくも膜下腔に達します。前縦靱帯は椎体前面、後縦靱帯は椎体後面(脊柱管の前壁)にあり、いずれもくも膜下腔より腹側に位置するため、穿刺経路には含まれません。黄色靱帯を抜けると抵抗が消失し、そこで止めれば硬膜外麻酔、さらに進めて髄液流出を確認すれば腰椎穿刺や脊髄くも膜下麻酔となります。穿刺は脊髄円錐より尾側のL3/4またはL4/5でJacoby線を目安に行い、頭蓋内圧亢進が疑われる場合は事前の画像評価が欠かせません。脊柱の靱帯を背側から腹側へ並べる考え方は、穿刺手技だけでなく脊柱管狭窄症や後縦靱帯骨化症の理解にもつながります。

解答・解説

正解はbです

腰椎穿刺は、背側(皮膚側)から正中を通って脊柱管内のくも膜下腔に針を進める手技である。したがって針が通るのは、椎骨の後方要素(棘突起や椎弓)の間をつなぐ靱帯群であり、椎体の前面・後面に張り付いている縦靱帯は通過しない。

針の通過順序

皮膚 → 皮下組織 → 棘上靱帯(棘突起の先端どうしを結ぶ)→ 棘間靱帯(隣り合う棘突起の間を埋める)→ 黄色靱帯(隣接する椎弓の間を結ぶ)→ 硬膜外腔 → 硬膜 → くも膜 → くも膜下腔(脳脊髄液が存在)

考え方

選択肢を見るときは、各靱帯が椎骨のどこに位置するかを背側から腹側へ並べて考えるとよい。背側から順に「棘上靱帯 → 棘間靱帯 → 黄色靱帯 → 脊柱管(硬膜囊)→ 後縦靱帯 → 椎体 → 前縦靱帯」となる。後縦靱帯は脊柱管の前壁(椎体の後面)、前縦靱帯は椎体の前面にあるため、くも膜下腔より手前で針が触れることはない。この並びに一致するのはbだけである。

選択肢考察

  1. ×a.  後縦靱帯 → 棘上靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜

    後縦靱帯は椎体と椎間板の後面に沿って縦走し、脊柱管の前壁をなす靱帯である。背側から刺入する腰椎穿刺では、硬膜囊(くも膜下腔)よりもさらに腹側にあるため、くも膜下腔に達する前に通過することはない。また最初に通るのは棘上靱帯であり、順序の点でも誤りである。

  2. ○b.  棘上靱帯 → 棘間靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜

    皮膚・皮下組織を貫いた針は、まず棘突起の先端を結ぶ棘上靱帯、次に上下の棘突起の間にある棘間靱帯、さらに椎弓間を結ぶ黄色靱帯を通る。黄色靱帯は弾性線維に富み厚いため、通過時に抵抗が強く、抜けた瞬間に抵抗が消失する感覚がある。その先の硬膜外腔を経て硬膜・くも膜を貫くと、くも膜下腔に達する。背側から腹側への解剖学的な並びと一致しており正しい。

  3. ×c.  棘上靱帯 → 棘間靱帯 → 前縦靱帯 → 硬膜

    棘上靱帯から棘間靱帯までの順は正しいが、その次に通るのは黄色靱帯である。前縦靱帯は椎体と椎間板の前面(腹側)を縦走する靱帯で、脊柱の最も前方に位置する。硬膜より手前で針が通過することはあり得ない。

  4. ×d.  後縦靱帯 → 棘間靱帯 → 前縦靱帯 → 硬膜

    後縦靱帯(椎体後面)も前縦靱帯(椎体前面)も、いずれも脊柱管より腹側に位置する。背側から刺入してくも膜下腔に至る経路上には存在しない。また、棘間靱帯の前に通るべき棘上靱帯や、硬膜の直前にある黄色靱帯が抜けている。

  5. ×e.  前縦靱帯 → 棘上靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜

    前縦靱帯は椎体の前面を走る、脊柱で最も腹側にある靱帯であり、背側からの穿刺で最初に通過することはない。また棘上靱帯と黄色靱帯の間にある棘間靱帯も含まれておらず誤りである。

脊柱の主な靱帯(背側から腹側へ)

・棘上靱帯:各棘突起の先端を連結する。腰部ではよく発達している。 ・棘間靱帯:隣り合う棘突起の間をつなぐ薄い膜状の靱帯。 ・黄色靱帯:隣接する椎弓の間を結ぶ。弾性線維を多く含み黄色に見えることからこの名がある。脊柱管の後壁を形成し、肥厚すると腰部脊柱管狭窄症の原因となる。 ・後縦靱帯:椎体・椎間板の後面を縦走し、脊柱管の前壁となる。骨化すると後縦靱帯骨化症(OPLL)として脊髄を圧迫する。 ・前縦靱帯:椎体・椎間板の前面を縦走する。

脊髄の被膜と腔

外側から硬膜外腔(脂肪組織と静脈叢を含む)→ 硬膜 → 硬膜下腔(潜在腔)→ くも膜 → くも膜下腔(脳脊髄液)→ 軟膜 → 脊髄。

腰椎穿刺の実際

・成人の脊髄下端(脊髄円錐)はおおむね第1〜第2腰椎の高さにあり、それより下のくも膜下腔には馬尾神経が浮遊しているのみである。そのため穿刺は脊髄損傷の危険が少ないL3/4またはL4/5椎間で行う。 ・左右の腸骨稜最高点を結ぶ線(Jacoby線)はおおむねL4棘突起〜L4/5椎間の高さを通り、穿刺部位の目安となる。 ・体位は側臥位で膝を抱え、背中を丸めて棘突起間を開くようにする。 ・頭蓋内圧亢進(特に占拠性病変)が疑われる場合は脳ヘルニアの危険があるため、事前に頭部CTなどで評価する。

硬膜外麻酔との違い

硬膜外麻酔では黄色靱帯を貫いた直後の硬膜外腔で針を止め、抵抗消失法(loss of resistance法)でその位置を確認する。腰椎穿刺や脊髄くも膜下麻酔ではさらに硬膜・くも膜を貫いてくも膜下腔に達し、脳脊髄液の流出を確認する。

POINT

・腰椎穿刺の針の通過順:皮膚 → 皮下組織 → 棘上靱帯 → 棘間靱帯 → 黄色靱帯 → 硬膜外腔 → 硬膜 → くも膜 → くも膜下腔。 ・前縦靱帯・後縦靱帯は椎体の前面・後面にあり、くも膜下腔より腹側なので穿刺経路に含まれない。 ・穿刺部位はL3/4またはL4/5(脊髄円錐より尾側)、目安はJacoby線。 ・黄色靱帯を抜けると抵抗が消失し、その先が硬膜外腔である(硬膜外麻酔の指標)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。