若い女性の病気ではない―中高年に忍び寄るIgG4関連疾患の素顔
第111回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
IgG4関連疾患について誤っているのはどれか。
- a.20歳台に好発する。
- b.病変に線維化を認める。
- c.自己免疫性膵炎は本疾患に含まれる。
- d.病変にIgG4陽性細胞の浸潤を認める。
- e.治療は副腎皮質ステロイドが第一選択である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
IgG4関連疾患は、血清IgG4高値と病変部へのIgG4陽性形質細胞浸潤・花むしろ状線維化・閉塞性静脈炎を特徴とする慢性炎症性疾患で、中高年から高齢者、やや男性に多く、20歳台に好発するという記述は誤りです。自己免疫性膵炎1型、硬化性胆管炎、Mikulicz病、後腹膜線維症、間質性腎炎など多臓器に同時性・異時性の病変をつくるため、一つの病変を見たら全身検索が必要です。治療は副腎皮質ステロイドが第一選択で反応は良好ですが、再燃しやすく、線維化が完成すると効果は乏しくなります。膵癌・胆管癌・悪性リンパ腫との鑑別や、Sjögren症候群との違いを押さえることが、誤診を避ける臨床判断の土台になります。
解答・解説
正解はaです
IgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)は、日本から提唱された比較的新しい疾患概念で、血清IgG4高値と、病変部へのIgG4陽性形質細胞の浸潤・線維化によって、全身のさまざまな臓器が腫大したり結節・肥厚性病変を形成したりする慢性炎症性疾患である。 本問は疾患の基本的特徴を問うものであり、次の要点を押さえていれば解ける。 ・疫学:中高年〜高齢者(診断時の平均年齢はおよそ60歳代)に多く、男性にやや多い ・病理:IgG4陽性形質細胞を主体とするリンパ球・形質細胞浸潤、花むしろ状(storiform)線維化、閉塞性静脈炎 ・検査:血清IgG4高値(135 mg/dL以上が診断基準の目安) ・罹患臓器:膵臓(自己免疫性膵炎1型)、胆管、涙腺・唾液腺(Mikulicz病)、後腹膜、腎臓、肺など多臓器 ・治療:副腎皮質ステロイドがよく効く(第一選択)が、減量・中止で再燃しやすい 「誤っているもの」を選ぶ問題であり、好発年齢を若年(20歳台)とする記述が誤りとなる。
選択肢考察
- ○a. 20歳台に好発する。
誤った記述であり、これが正解である。IgG4関連疾患は中高年から高齢者に好発し、若年者の発症はまれである。性別では男性にやや多い(自己免疫性膵炎などでは男性優位が目立つ一方、涙腺・唾液腺炎では男女差が小さい)。若年女性に多い自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスやSjögren症候群など)とは疫学的な特徴が異なる点に注意する。
- ×b. 病変に線維化を認める。
正しい記述である。IgG4関連疾患の病変では、炎症細胞浸潤とともに著明な線維化がみられ、特に線維が渦巻き状・花むしろ状に配列する花むしろ状線維化(storiform fibrosis)が特徴的である。線維化が臓器腫大や腫瘤形成の原因となり、後腹膜線維症による水腎症、硬化性胆管炎による胆管狭窄などをひき起こす。線維化が完成した病変ではステロイドの反応が乏しくなる。
- ×c. 自己免疫性膵炎は本疾患に含まれる。
正しい記述である。自己免疫性膵炎のうち1型(リンパ形質細胞性硬化性膵炎)はIgG4関連疾患の膵病変と位置づけられており、本疾患の代表的な病型である。膵のびまん性腫大(ソーセージ様腫大)や主膵管のびまん性・限局性狭細化を示し、膵癌との鑑別が臨床上重要となる。なお、好中球が膵管上皮を破壊する2型自己免疫性膵炎(炎症性腸疾患との合併が多い)は、IgG4関連疾患には含まれない。
- ×d. 病変にIgG4陽性細胞の浸潤を認める。
正しい記述である。病変部には多数のIgG4陽性形質細胞が浸潤しており、これは診断の柱となる病理所見である。診断基準では、IgG4陽性形質細胞が強拡大1視野あたり10個を超え、かつIgG陽性細胞に対するIgG4陽性細胞の比が40%を超えることが目安とされる。ただし、IgG4陽性細胞の浸潤は悪性リンパ腫、癌の周囲、多中心性Castleman病などでもみられうるため、これらの除外が必要である。
- ×e. 治療は副腎皮質ステロイドが第一選択である。
正しい記述である。治療の第一選択は副腎皮質ステロイドで、プレドニゾロン0.6 mg/kg/日(成人でおおむね30〜40 mg/日)程度の中等量から開始し、効果を確認しながら漸減する。ステロイドへの反応はきわめて良好で、反応性そのものが診断の参考にもなる。一方で再燃しやすいため少量で維持療法を行うことが多い。症状が乏しく臓器障害のおそれがない場合は経過観察とすることもある。再燃・ステロイド抵抗例では免疫抑制薬や、B細胞を標的とする生物学的製剤が検討される。
IgG4関連疾患の主な臓器病変
・膵臓:自己免疫性膵炎1型(最も頻度の高い病変の一つ) ・胆管:IgG4関連硬化性胆管炎(原発性硬化性胆管炎や胆管癌との鑑別が問題となる) ・涙腺・唾液腺:IgG4関連涙腺・唾液腺炎(Mikulicz病)、顎下腺の硬化性唾液腺炎(Küttner腫瘍) ・後腹膜:後腹膜線維症(尿管閉塞による水腎症) ・腎臓:尿細管間質性腎炎 ・肺:間質性肺炎、炎症性偽腫瘍 ・その他:下垂体炎、甲状腺(Riedel甲状腺炎、橋本病の一部)、大動脈周囲炎、前立腺炎、眼窩病変、リンパ節腫脹など 複数の臓器に同時性・異時性に病変が出現することが多く、一つの病変をみたら他臓器を検索する。
診断
2020年改訂のIgG4関連疾患包括診断基準では、(1)臓器のびまん性・限局性腫大、腫瘤、結節、肥厚性病変、(2)血清IgG4 135 mg/dL以上、(3)病理所見(著明なリンパ球・形質細胞浸潤と線維化、IgG4陽性形質細胞の浸潤〈IgG4/IgG陽性細胞比40%超かつ強拡大1視野あたり10個超〉、花むしろ状線維化または閉塞性静脈炎)の組み合わせで確診・準確診・疑診とする。悪性腫瘍(癌、悪性リンパ腫)や類似疾患(Sjögren症候群、原発性硬化性胆管炎、多中心性Castleman病、多発血管炎性肉芽腫症、サルコイドーシスなど)の除外が重要である。
Sjögren症候群との違い
Mikulicz病は以前Sjögren症候群の一亜型と考えられていたが、現在はIgG4関連疾患とされる。Mikulicz病は中高年に多く、涙腺・唾液腺の左右対称性の腫脹が持続し、抗SS-A/SS-B抗体は通常陰性で、乾燥症状は軽度、ステロイドで腺機能が回復しやすい。一方、Sjögren症候群は中年女性に多く、抗SS-A/SS-B抗体陽性で、乾燥症状が強い。
POINT
・IgG4関連疾患は中高年の男性にやや多い(若年発症はまれ)。 ・血清IgG4高値(135 mg/dL以上)、IgG4陽性形質細胞浸潤、花むしろ状線維化、閉塞性静脈炎が特徴。 ・自己免疫性膵炎1型、硬化性胆管炎、Mikulicz病、後腹膜線維症、間質性腎炎など多臓器に病変をつくる。 ・治療の第一選択は副腎皮質ステロイドで反応は良好だが、再燃しやすい。 ・悪性腫瘍(膵癌、胆管癌、悪性リンパ腫)との鑑別が重要。
