胸に並ぶ痛い水疱―「帯」の形が教えるウイルスの再燃と治療薬の選び方
第111回医師国家試験 A問題 第44問
国試問題にチャレンジ
80歳の男性。右胸部の疼痛を伴う皮疹を主訴に来院した。2日前から症状を自覚していた。昨日から次第に悪化し,今朝衣服に浸出液が付着していることに気付いたため受診した。右胸部の写真を別に示す。 適切な治療薬はどれか。

- a.メロペネム
- b.バラシクロビル
- c.オセルタミビル
- d.フルコナゾール
- e.レボフロキサシン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
片側性でデルマトームに沿った帯状の分布、紅斑上の小水疱の集簇、神経痛様の疼痛がそろえば帯状疱疹を考えます。原因は感覚神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化であり、治療はバラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬を皮疹出現後できるだけ早く(72時間以内が目安)開始することが基本です。抗菌薬や抗真菌薬、ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルは無効で、「どの病原体のどの酵素を標的にする薬か」を意識すると迷いません。バラシクロビルは腎排泄のため高齢者では腎機能に応じた減量が必要で、眼部帯状疱疹やRamsay Hunt症候群、帯状疱疹後神経痛といった合併症への目配りも欠かせません。日常診療で頻繁に出会う疾患だからこそ、診断から薬剤選択、安全な投与までを一連の流れで理解しておくことが重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・80歳の高齢男性。 ・右胸部に痛みを伴う皮疹が出現し、2日の経過で悪化している。 ・衣服に浸出液が付着していた:水疱が破れて内容液が漏れ出たものと考えられる。 ・写真:右前胸部に、肋間神経の支配領域(皮膚分節、デルマトーム)に沿って、紅斑の上に小水疱が集まって帯状に並んでいる。病変は体の正中を越えず、片側に限られている。
診断
片側性・神経支配領域に一致した帯状の分布、紅斑を伴う小水疱の集簇、皮疹に先行または伴って出現する神経痛様の疼痛という三つの特徴から、帯状疱疹と診断できる。帯状疱疹は、小児期の水痘(みずぼうそう)の初感染後に脊髄後根神経節などの感覚神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV、ヒトヘルペスウイルス3型)が、加齢・ストレス・免疫抑制などで細胞性免疫が低下したときに再活性化して起こる。鑑別として、蜂窩織炎(境界不明瞭な紅斑・腫脹・熱感で、水疱が神経支配領域に並ぶことはない)や単純ヘルペス(口唇・陰部などに小範囲で繰り返す)などが挙がるが、本症例の分布と性状は典型的な帯状疱疹である。必要に応じて、水疱内容を用いたウイルス抗原の迅速検査やTzanck試験(多核巨細胞の確認)で裏付ける。
設問の考え方
帯状疱疹はウイルス感染症であり、治療の中心はウイルスDNAの複製を抑える抗ヘルペスウイルス薬である。皮疹の出現からできるだけ早く(目安として72時間以内に)投与を開始すると、皮疹の治癒が早まり、急性期の痛みや帯状疱疹後神経痛のリスクの軽減が期待できる。本症例は発症2日目で、高齢であることから合併症(帯状疱疹後神経痛)のリスクも高く、すみやかな抗ウイルス薬投与の適応である。選択肢のうち抗ヘルペスウイルス薬はバラシクロビルのみである。
選択肢考察
- ×a. メロペネム
誤り。メロペネムはカルバペネム系の広域β-ラクタム系抗菌薬で、細菌の細胞壁合成を阻害する。耐性菌を含む重症細菌感染症(敗血症、院内肺炎など)に点滴で用いる。ウイルスには効果がなく、帯状疱疹の治療薬ではない。水疱やびらんに二次的な細菌感染を起こした場合でも、通常は局所処置や狭域の抗菌薬で対応し、カルバペネムを用いる場面ではない。
- ○b. バラシクロビル
正しい。バラシクロビルはアシクロビルのプロドラッグで、内服後に吸収されて体内でアシクロビルに変換される。アシクロビルを内服するより生体利用率が高く、服用回数も少なくて済む(帯状疱疹では1日3回、7日間が標準)。アシクロビルは、ウイルス由来のチミジンキナーゼによってリン酸化されたのち、ウイルスのDNAポリメラーゼを阻害する。ウイルス感染細胞で選択的に活性化されるため、正常細胞への影響が少ない。主に腎臓から排泄されるため、高齢者や腎機能低下例ではクレアチニンクリアランスに応じて減量する必要がある。過量になると、意識障害などの精神神経症状(アシクロビル脳症)や急性腎障害を起こしやすいので注意する。
- ×c. オセルタミビル
誤り。オセルタミビルはノイラミニダーゼ阻害薬で、インフルエンザウイルスが感染細胞から遊離して広がるのを妨げる。インフルエンザA型・B型の治療と予防に用いる。ヘルペスウイルスにはノイラミニダーゼがないため、帯状疱疹には無効である。
- ×d. フルコナゾール
誤り。フルコナゾールはアゾール系抗真菌薬で、真菌の細胞膜の成分であるエルゴステロールの合成を阻害する。カンジダ症やクリプトコックス症などに用いる。ウイルスには作用しないため、帯状疱疹の治療には用いない。
- ×e. レボフロキサシン
誤り。レボフロキサシンはニューキノロン系抗菌薬で、細菌のDNAジャイレースとトポイソメラーゼⅣを阻害する。呼吸器感染症や尿路感染症など、さまざまな細菌感染症に用いる。ウイルス感染症である帯状疱疹には効果がない。
帯状疱疹の臨床像
・好発:高齢者(50歳以上で増加)、免疫抑制状態(悪性腫瘍、HIV感染症、ステロイドや免疫抑制薬の使用など)。 ・好発部位:胸髄領域(肋間神経)が最も多く、次いで三叉神経第1枝(眼神経)領域など。 ・経過:皮疹に数日先行してピリピリした神経痛様の痛みが出ることが多い。紅斑→水疱→膿疱→びらん・痂皮と変化し、2〜3週間で治癒する。 ・水疱内容液には感染性のウイルスが含まれる。水痘に罹患したことのない人(ワクチン未接種の乳幼児など)には水痘として感染しうるため、痂皮化するまで接触に注意する。
主な合併症
・帯状疱疹後神経痛:皮疹の治癒後も3か月以上痛みが続く状態。高齢者や急性期の痛みが強い例で起こりやすい。プレガバリンやミロガバリン、三環系抗うつ薬などで治療する。 ・眼部帯状疱疹:三叉神経第1枝領域の病変で、鼻背・鼻尖に皮疹がある場合(Hutchinson徴候)は角膜炎・ぶどう膜炎などの眼合併症に注意し、眼科診察を行う。 ・Ramsay Hunt症候群:膝神経節での再活性化により、耳介・外耳道の水疱、末梢性顔面神経麻痺、難聴・めまいなどの内耳症状をきたす。 ・汎発性帯状疱疹:免疫不全患者で、皮疹が全身に散布する。内臓播種を伴うことがある。 ・運動神経障害(腹壁の膨隆、膀胱直腸障害など)、髄膜炎・脳炎も起こりうる。
抗ウイルス薬の使い分け
・内服薬:バラシクロビル、ファムシクロビル(ペンシクロビルのプロドラッグ)、アメナメビル。バラシクロビルとファムシクロビルは腎排泄のため、腎機能に応じた減量が必要である。アメナメビルはヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬で、作用機序が異なり、主に便中に排泄されるため腎機能による用量調節が不要である。 ・点滴:アシクロビルの点滴静注(ビダラビン点滴が用いられることもある)。重症例、汎発性帯状疱疹、免疫不全患者、眼部帯状疱疹やRamsay Hunt症候群などの合併症例で選択する。 ・急性期の痛みには、アセトアミノフェンなどの鎮痛薬を併用する。高齢者では非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による腎機能低下に注意する。
予防
50歳以上を対象に帯状疱疹ワクチンがある。乾燥弱毒生水痘ワクチン(生ワクチンのため免疫不全者には接種できない)と、乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(不活化ワクチン、2回接種、発症予防効果が高い)がある。
POINT
・片側・デルマトームに沿った帯状の分布、紅斑上の小水疱の集簇、神経痛様の疼痛 → 帯状疱疹。 ・原因は感覚神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化。 ・治療は抗ヘルペスウイルス薬(バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルの内服、重症例ではアシクロビル点滴静注)で、皮疹出現後できるだけ早く(72時間以内が目安)開始する。 ・バラシクロビル・アシクロビルは腎排泄なので、高齢者・腎機能低下例では減量し、アシクロビル脳症や急性腎障害に注意する。 ・抗菌薬(メロペネム、レボフロキサシン)、抗インフルエンザ薬(オセルタミビル)、抗真菌薬(フルコナゾール)はVZVに無効。 ・高齢者は帯状疱疹後神経痛を起こしやすい。
